表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/97

第11話 辺境伯の検証

 翌日。




 訓練場の空気は、意図的に整えられていた。




「本日は二部構成とする」




 ソフィアの声は平坦だ。




「前半は通常訓練。後半は条件変更を加える」




 兵士たちにざわめきが走る。




 条件変更。




 その意味を察している者もいる。




 ノアは、昨日と同じ位置に立たされていた。




 本人はただの見学のつもりだ。




 だが、今日は違う。




 全員が意識している。




「始め」




 前半。




 ノアを訓練場から外した状態で模擬戦が行われる。




 刃引き訓練剣が交錯する。




 鋼の音。




 砂塵。




 動きは悪くない。




 だが昨日ほどの滑らかさはない。




 一瞬の迷い。 僅かな呼吸のズレ。




 拮抗。




 それが本来の姿だ。




 クラウディアが小声で報告する。




「普段通りです」




「そうだな」




 ソフィアは頷く。




「後半に入る。ノアを呼べ」





 ---




 数分後。




 ノアが訓練場の端に立つ。




 昨日と同じ距離。




 同じ立ち位置。




 ただ、そこにいるだけ。




「始め」




 踏み込み。




 交錯。




 鈍い金属音。




 そして。




 滑らかだ。




 迷いがない。




 呼吸が合う。




 攻守の切り替えが噛み合う。




「……」




 ソフィアの瞳が細められる。




 二組目。




 三組目。




 連携訓練。




 詠唱速度が僅かに速い。




 魔力の収束が安定している。




 防御の展開が正確だ。




 誰一人として怯まない。




 呼吸が乱れない。




 足の運びに無駄がない。




「……ふむ」




 ソフィアは腕を組む。




 決定的だったのは四組目。




 本来なら相性で劣る組み合わせ。




 だが今日は互角以上に渡り合う。




 実力差が、埋まっている。




 レベル差ではない。




 純粋な“精度”。




 ノアは首を傾げている。




 何も分かっていない顔だ。




 それが余計に厄介だった。




「止め」




 訓練が終わる。




 兵士たちの表情は明るい。




「今日は調子が良い」 「身体が軽い」




 昨日と同じ言葉。




 偶然ではない。




 ソフィアは静かに歩み寄る。




「ノア」




「はい?」




「何か意識したか」




「いえ。……僕、何かしました?」




 本気で分かっていない。




 その瞳に虚飾はない。




 ソフィアは一歩近づく。




 彼の周囲。




 空気が、僅かに柔らかい。




 緊張が削がれている。




 それでいて集中は落ちていない。




「寵愛領域」




 小さく呟く。




 説明は不要。




 昨日と今日で、条件は一つしか違わない。




 ノアの有無。




「クラウディア」




「はっ」




「範囲を測る」




 副官の眉が僅かに動く。




「……どの程度まで」




「まずは半径十歩」




 実験は続く。




 ノアを少しずつ遠ざける。




 効果は、薄まる。




 二十歩。




 顕著に低下。




 三十歩。




 平常値へ戻る。




 ソフィアは確信する。




「範囲型」




 小さく息を吐く。




「精神安定、集中補助、疲労軽減……微小だが確実」




 軍事的価値。




 国家的価値。




 一瞬で算出される。




 この男は。




 兵を強くする。




 直接ではない。




 だが、確実に。




 ソフィアはノアを見る。




「ノア」




「はい」




「しばらく屋敷外への単独行動を禁ずる」




「……禁ずる?」




 言葉の重みが違う。




 客人への配慮ではなく、命令。




 周囲の兵士が一瞬だけ緊張する。




「理由は後で説明する」




 蒼い瞳が揺らがない。




 これは保護だ。




 だが同時に――




 囲い込みでもある。




 もしこの力が外に知られれば。




 王家は動く。




 帝国も動く。




 聖国も黙ってはいない。




「まだ、知られるわけにはいかない」




 その呟きは、風に溶けた。




 訓練場に残ったのは、




 理の外に立つ存在。




 それを囲い込むと決めた辺境伯。




 均衡は、静かに崩れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ