源三郎・四月二日・三
源三郎は、長襦袢に着替えてベッドに寝そべっていた。眠っているのではない。ただ体を休めるため横たえている。
考えるのは金之助の娘、記憶の中とそっくりそのまま同じでいた少女のことだった。
明日から気が重い。このままどこかへ逃げ出してやろうかと考えた時、不意に月明りを遮るものがあったように思えた。
窓を開け放ち、夜を見やる。竜のような影が飛来し、大きくなってきている。近づくほどにその巨体は明瞭になり、その足先に人影がぶら下がっていることに気付いた。やがて影はこの建物の窓近くまで飛び、暴風を伴なって大きな鞄を携えたアルレインが窓の冊子に飛び降りてきた。
『お迎えご苦労様でっす! 季節外れのサンタさんですよぉ!』
眩暈がしそうだった。風のせいではなく、アルレインの快活さにだ。
『今のクソはなんだ?』
『ペットのようなものです』
ふぅん、とだけ言い、帝都へと視線を寄こす。もう影も形も見つけられない。
『便利そうだ』
『あげませんよ?』
アルレインは手際良く、紐で縛る形の足首まである安全靴と拳銃、弾丸と薬瓶などを並べている。
『サービスしておきました』
硬い板を立てかけている。
源三郎が薬瓶を手に取りラベルを読むと、Flunitrazepamと表記されていた。
『助かる』
『いいえ。……それだけですか?』
両腕を広げ、他にどうしろと、と表現していた。
『もうちょっとこう、ほら、言いたいこととか、聞きたいこととかありませんか?』
『ない』
無論、ないことなどなかった。
『もう。仕方がないですが、ちょっと飽きますねぇ』
『何の話だ?』
『いーえ、なんでも』
『この家の図書室を覗いてみると良いですよ。それではお休みなさい』
言って窓から飛び降りると、突風が源三郎に向けて巻き起こった。先ほどの竜がまた飛来したのだろう。
銃と弾丸など一式を棚に仕舞ってから窓とカーテンを締め、薬瓶からフルニトラゼパムを二錠取り出しそのまま唾液で飲み込むと、柔軟をしてから源三郎は再びベッドに横たわった。




