”いざ”
昨日のおひねりの中に、コーラの瓶があったらしい。割れてはいないが、結構汚れの酷い瓶だった。だからイチゾーからしたらゴミでしかない。それでもニゾーにとってはそうではなかった様だ。
「ぐあ!」
ニゾーが器用にフリッパーでボロ布を掴んでソレを磨いていた。「な?」出来栄を確認する様に瓶を掲げると、入り込んだ太陽がぼんやりとぼやけた。朝からずっと磨いているだけあって、随分と奇麗になったなー。イチゾーはそんなことを思うが――
「……ぐな」
どうやらニゾー的にはまだ納得がいかないらしい。お気に入りのワンショルダーバッグから取り出した瓶磨き用のクリームをボロ布に付けて再び磨き始めた。
そんな感じに輸送中隊での移動は“ぬるい”。トラックの荷台、イチゾーの足を枕にして「――ぁたまぃたぃー」と奇妙な鳴き声を上げている幼馴染の様に自分で難易度を上げなければこの時代にしては珍しく安全だ「なのに……」。何故、この幼馴染はそんな安全地帯で苦しんでいるのだろうか? そんな疑問が浮かんだ。
「……」
無言で手をカエデの額に当ててやる。右手だ。“中”に入っている蟲――百頭百足の百頭丸。奴の住みやすい環境に作り替えられているのだろうか? 百頭丸が食い荒らし、住処と定めて“憑いて”いるイチゾーの右手の体温は明らかに他の場所よりも体温が低くなっている。冷たい。
「――」
その冷たさが心地良かったのだろう。カエデの口から柔らかい吐息が漏れた。
「……寝てろ」
「――そう、しますね――」
消える様に溶けて、耳に届かず、口に形だけが残った『おやすみなさい』。それを見て、そっ、とカエデの髪に触れて、目を隠してやる。
冷たさが心地よかったのか、暗くなって多少は寝やすくなったのか、カエデの呼吸が規則正しいモノになっていくなか――
「ぐあ!」
ガラス磨き職ペンの方も満足行く仕上がりになったらしい。
ニゾーは、その日の夜に露店を開いて磨いた瓶を売っていた。「良いンか?」。折角磨いたのに? と聞いてみれば「ぐあ! ぐぐあ!」。売るために磨いたので良い! と言う回答。
「あァそう言う……」
コーラのキャップを通貨に無事に売られていく磨かれた瓶。その後一羽のペンギン――カエデよりもデカいジャイアントペンギンが桐の箱に入ったコーラの瓶を持って来た所で、イチゾーはニゾーの狙いに気が付いた。
フリーの傭兵なのだろう。腕章の無い迷彩服と同じ色のリュックを背負い、ヘルメットを被ったジャイアントペンギンは「ぐー、んぐ、ぐあああー、なっ?」と言いながら幾つかのコーラのキャップ。それと輪ゴムで一纏めにした紙煙草をニゾーに差し出した。どうやら瓶を磨いて欲しいらしい。依頼されたニゾーがキャップの中から三つを選んで「な?」と確認。
ペンギンの言葉は分かっても、ペンギンが集めるキャップの価値は分からない。そんなイチゾーには分からないが、結構なレアものをニゾーは支払いに求めたらしい。
「……ぐ、ぐなぐ」
ジャイアントペンギンは無駄にバリトンの効いた良い声で『ちょっと待て』と言うと長考に入ってしまった。「安くしてやったらどうよ?」。言いながらニゾーの横に座り、ジャイアントペンギンが差し出した煙草の束から一本抜いて火を点ける。吸いなれた味だった。どうやらペンギンシリーズのチックを引き当てたらしい。ラッキーだ。
「なっ! ぐあー、なっ、んぐ!」
「へー『技術を安売りするきはない』ねぇ……テメェがそんな職ペン肌だとは知らンかったわ」
寧ろ比較的適当な生物だと思ってたわー。
「な?」
「……どや顔ウザいでーす」
ふぅー、と煙を吹きかけると「――ぐが」。っすぞ、と言われてしまったので、万歳一つ。降参をアピールしておいた。
二日目は昼も夜もそんな風に過ぎて行った。
幼馴染はほぼ一日を寝たきりで無駄にして、何故か誕生したガラス磨き職ペンはジャイアントペンギンからの大口注文の受注に成功した。
平和だった。
「は?」
不意に、誰かの声は響いた。
車での移動中だ。エンジンは唸り、悪路を行くのでがたがたと揺れている。それなのにその声は――不思議と誰の耳にも届いた。
大きな声ではない。
響く声でもない。
だから本来なら聞こえるはずはない声だ。それでも聞こえたのは――
「拙い! 穴が開くぞ!!」
生存本能によるモノだったのかもしれない。
異常に気が付いた別の誰かの悲鳴に近い絶叫。見れば周囲の景色が歪み、周り、一点に集中する様に伸びていた。
空間に起こる異常。穴。それは迷宮の入り口。だが入り口とは呼ばれない。安定していないのだ。
迷宮は魔力が溜まった場所に出来上がる。それは龍脈の上だったり、無念を残して死んだ者や呪われた物のある場所だったり、様々だ。
それでも――溜まって出来る。
だからゆっくりと入り口が開き、口を開く。
だが、穴。
それは突然開き、そして突然閉じる。つまり、入ったら閉じ込められる。
滅多にあることではない。それでもあることであるし、今起こったことだ。だから――
「ハンターっ!」
アクセルベタ踏み。エンジンに苦悶の叫びを上げさせての全開。トラックを急加速させるゴーマの言葉に返すのは力強い「応っ!」。吐き出したイチゾーがカエデとニゾーの無事だけ確認して、荷台から飛び降り、腰の二本のウォーハンマーを抜く。
壱足・槍天。
踏んだのは八咫烏衆に旧時代より伝わる歩法の一歩目。文字通りに槍の様に一直線に繰り出した蹴り足がイチゾーを一気に加速させる。
そうして放たれた弾丸が突き刺さったのは――
「っ! テメェ! このっ! やりやがったなクソガキ!」
「ウルセェ!」
ゴーマの進行方向にあった別のトラック。殺すぞガキ! と言う罵声に元気に中指立てて『テメェが死ね』。
蟲憑きの膂力で以って側面に全力でウォーハンマーを叩きつけ、進路をずらし、ゴーマのトラックの為の道を造る。ドアがひしゃげて内側に折れ曲がっている。助手席にいた同業の肉に突き刺さったらしく、血。相手も蟲憑きだ。この程度で死ぬことは無い。死ぬことは無いが、対応は遅れた。それでいい。別に恨みはないのだ。ただ自分達の邪魔だったのだ。
「百頭丸っ!」
まぁ、恨みは無いが、もう少し役に立ってもらう。
突き出した右手を突き破り、無数の百足が飛び出す。
百頭百足。無数の頭を持つ異形の蟲。イチゾーの右腕を喰ったそいつはイチゾーの言葉に『おうさー!』と元気よく応じるとひしゃげトラックに巻き付き、窓を突き破って運転席のハンドルに巻き付いた。
運転しているのは豚人種だった。
人類としては鱗種と並んでの戦闘種族だ。
種として強い。それでも人類ではあるので――蟲憑きに敵う訳が無い。
ハンドルを奪い、大きく切って――モーニングスター。
トラックを鉄球に、百足を鎖に、振り回されたソレが殊更デカく、進行方向にある車両、今回の輸送中隊の中核であるビートルワークスの車に突き刺さる。
カブトムシだけあって硬い。
それでも速度が乗っているだけあってイチゾーが振り回したトラックの方が重い。重いって言うか、強い。だから車両を弾いて、道を造ることに成功した。
「ひゅー。やるねぇ、ハンター」
一仕事完了。百頭丸を回収しながら、軽く跳躍。追い付いてきたゴーマのトラックに戻れば、ぽい、とガムが投げて寄越された。
「あ? 人聞きがわりぃじゃねぇか。ンな言い方だと俺がわざとやったみてぇに聞こえるぜ?」
受け取り、口に入れながら「事故だよ事故」とイチゾー。ビートルワークスの様なデカい企業に喧嘩を売る気はない。今のはあのトラックがぶつかったのだ。イチゾーは寧ろ百頭丸でソレを止めようとしたのだ。そう言うことにしておいた。
正直、危ない橋を渡った。
それでもゴーマの操るトラックの前に障害物は無い。イチゾーと同じ対応をした奴が他にも居たのだろう。車列の乱れが大きくなっているが、穴の位置が良かったことから輸送中隊の大半は無事に抜けれるだろう。
ビートルワークスも無事だ。
見れば大型車両の天井に護衛と思われる顔の半分がやけどで爛れた女が昇っていた。目が合う。「――」。お仕事お疲れ様です、と言う気持ちを込めて敬礼をしてみたら、親指下に向けて『死ね』とやられた。「……」。誤魔化しきれていないらしい。次の休憩までに言い訳を考えておこう。
そんなことを思った。その時だった。
がくん、と揺れた。トラックが跳ねた。ハンドルを取らた。トラックが揺れた。揺れて――隣のトラックとぶつかった。
衝撃。
それでも補強されたトラックは双方ともに走行に影響はない。
運転席のゴーマは元気に舌打ちをしてるし、軽いニゾーもベルトで固定されたカエデが抱きしめているので無事だ。そしてイチゾーはこの程度でブレる足をしていない。
だから特に犠牲は無かった。
こちら側は。
「――――――え?」
聞こえて来たのはそんな間の抜けた幼い声。見れば隣のトラックの荷台。そこに掴まる母親と思われる女の手から――
子供が一人、飛び出していた。
トラック追突の原因は一体誰なんだ(。´・ω・)?
それはそれとして
俺、今日は休みを取ったから都会の方に言って本屋さんを見るんだ……
そんな訳でジャンクバード、発 売 中 で す !
今日地元の本屋行ったら一冊だけあった。
他は全部売れたのか、入荷が少ないのか――後者やろなぁ(;´・ω・)
読んでくれた方、アマゾンレビューとかで感想くれると嬉しいです!
え? 見返りが欲しい? しょうがないですね――
Twitter(新:x)で『#ジャンクバード感想』つけて感想を呟くと色紙が貰えるらしいですよ!!
自分のサインは兎も角、しずま先生のイラストは素敵だよ!!




