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【週刊】目が覚めるとそこは…異世界だった!【第6章、連載中。長編にも拘わらず読んでくれてありがとう】】  作者: 鷹茄子おうぎ
第1章 魔剣の使い手

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赤い髪の女

「裏取引というか…この件が表に出ないようにすることはできなかったのか?」

情報が漏れてしまったのはまずかったが、その後に何とかすることはできたはずだ。


「これまでにもね、王室にとって表に出したくない情報が漏れそうになったことはあるのよ。でも、一切漏れなかったわ。それは新聞社の中に、一見すると分からないけど、レガルディアの魔法戦士がいるからよ」

レガルディアの魔法戦士もなかなかやりますね。


「場合によっては強権的に記事の掲載を差し止めるようなこともするんだけど、そういうことは稀ね。むしろマズい情報を差し止める代わりに、それとは別の取材をさせてあげることの方が多いわ」

やはり裏取引は行われていたのだ。


「例えば、普段は一般に公開されていない王室所有のお城や別荘、宝物庫を特別に公開するとか…そうやって王室と新聞社は持ちつ持たれつの関係を築いてきたの」

王室と新聞社の関係は分かったが、新たな疑問が生じてくる。


「それだと新聞社のメリットの方が少なくないか?」

苦労して取材をしても、損しているような気がするのだが。


「新聞社はいろんなネタを掴んで記事を書くわ。例えば…違法な行為を黙認する代わりに対価を受け取って私腹を肥やす悪徳な貴族や文官、そして彼らの黙認の下であこぎな商売をする商会とかね。そういう人達から見ると新聞社は疎ましい存在なのよ」

確かにそうかもしれないけどね。


「それは自業自得だろ…」

これには誰もが呆れてしまうはずだ。


「そうね。一方で一部の新聞社はほんのちょっとの事実を大げさに誇張し、脚色して伝える…なんてことをしているの」

伝えられる方はいい迷惑だ。


「だからかしらね…新聞社のことをよく思っていない人は少なからずいるし、ちょっとした嫌がらせを受けることもあるの」

「ちょっとした嫌がらせって?」

何をされるのか…俺は興味津々でリアルナさんに尋ねた。


「ならず者を雇って新聞社を襲わせる、なんてことはこれまでに何回もあったわねぇ…」

「そうか…」

新聞社も大変だな、これは。


「そんな訳で新聞社ってきな臭いのよね。だからといって、それを放っておく訳にもいかないでしょ?そこで魔法戦士の出番なのよ」

新聞社にとっては魔法戦士がいることである程度の安全が担保され、新聞社の動きを注視している王室にとっては魔法戦士を通じて内情がよく分かるってことか…上手くできているね。


「持ちつ持たれつなのは分かったが…じゃあ何でユリーシャの件は抑えられなかったんだ?」

ここまで饒舌だったリアルナさんが、急に黙り込んでしまった。しばらく沈黙が続き、おもむろに紅茶を飲んだリアルナさんが再び口を開いた。


「もしも…漏れた情報が断片的で漏れた先が一社だけなら、なんとでもなったでしょうね。でも、そうじゃなかった。あの時、ユリーシャ様の将来について文官が検討していたすべての情報が漏れてしまったのよ。すべての新聞社にね…」

いやいや、普通に考えてあり得ないだろう…。


「何でそんなことに?」

「分かっているとは思うけど…この件は機密だから他言は無用よ?」

リアルナさんの静かな圧力に押され、俺はこくこくと頷いた。


「漏らしたのはこの女よ」

リアルナさんが1枚の写実画を見せてくれた。


真っ先に目を引くのが燃え盛る炎のような赤い髪だ。レガルディアの人々の髪の色は実にカラフルなので、赤い髪もそれほど珍しくはないが、これまでに見てきた赤い髪とは何かが違う。上手く表現できないが…どことなく不吉なものを感じさせる赤い髪だ。


一方で、その顔立ちは奇妙なほど印象に残らない。綺麗な女性であることは間違いないが、特徴がないというか…たぶん街中ですれ違っても気付かないだろう、そんな顔立ちだ。


「この赤い髪の女はほぼ同じ時間にすべての新聞社に現れたわ。たぶん変装したんでしょうね」

用意周到だな。


「こいつの名前は?」

「分からないわ。新聞社ごとに違う名前を名乗っているから…全部、偽名なんじゃないかしら?だから私達は赤い髪の女とかこの女とか…そんなふうに呼んでいるの」

千の名前を持つ女ってヤツだ。


「どうにかして正体を掴めなかったのか?例えば尾行するとかさ」

「したわよ。すぐに撒かれちゃったけど」

敵ながらやるじゃないか…。


「すぐに軍を動かし、すべての城門を閉ざしてライラリッジから出る人達に徹底的な検査が行われたわ。でも、赤い髪の女は見つからなかった。それ以降も軍が総力を挙げて捜索したけど、結局何の手がかりも掴めずじまいよ。あの女はあの日、突然現れ、そして消え失せた」

まさに神出鬼没だな。いやはや…凄い女がいたもんだ。


「今でもその行方は捜索中よ。もちろん、その頃と同じように手を掛けている訳ではないけどね…」

贔屓目に見ても、見つかる見込みは薄そうだ。


「赤い髪の女のことは分かったが…それでもこの件を差し止めることはできたんじゃないのか?」

持ちつ持たれつの関係なんだからさ。


「新聞社の間で疑心暗鬼になっていたのよ。代わりの取材の質をめぐってね」

確かに…同じ情報の対価が同じなのかどうかは気になるところだ。


「それにこれは醜聞の類いではなく、むしろ好事なのでは?という意見もあったの。そして、何よりも大きかったのは当時のユリーシャ様がユリーシャ・レガルディア…王室の一員ではなく、ただの貴族だったってことでしょうね」

つまり、この一件は王室の不祥事ではないという解釈か…それはありっちゃありだな。


「それでゴシップ紙が報じたって訳か…」

「そういうこと。それから、同じような考え方をする文官も一部にいたの。だから対応が後手後手に回り、あんなことになってしまったのよ」

杓子定規な対応が招いた悲劇だったって訳だ。


「想像力が欠けてるにも程があるだろう…」

「そうね…最終的にはかなりの文官が処分を受けることになったわ」

そりゃそうでしょうね。


「その中に赤い髪の女と繋がりがあるヤツは?」

「いないわよ。王室庁の文官は徹底的に調べられたけど、誰も赤い髪の女とは繋がっていなかったわ」

王室を支える文官が所属しているのが王室庁ということなんだろう…それはともかく。


「それで…どうして今回、こんな話になったんだ?」

前置きはもう十分だろう?

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