王室の目論み
「ユリーシャ様が王室に入る際に、いろいろとあったことは知っているわよね?」
「人並みには知ってますよ」
それはレガルディアに住む者にとっては、一般常識のようなものだ。
発端はゴシップ紙で報じられたことだった。そこから生じた騒動で、ユリーシャは両親と離ればなれになってしまった。そこまでして初めて人々は自らの過ちに気が付いた。多くの人が悔恨の念にかられ、そこからある種の教訓を得た…思い返しただけでも不愉快になる出来事だな。
「王室が早い段階からユリーシャ様に注目していたのは間違いないわ。それはユリーシャ様が若くして卓越した才能を発揮していたことはもちろんのこと、彼女がユリーシャ・レガルディアだったからよ」
リアルナさんの話の前半部分はすんなりと理解できるが、後半はいまいちよく分からない。ユリーシャ・レガルディアだったら何がいけないというのか?
「名前なんて、どうだっていいんじゃないですか?」
抑えきれない苛立ちに、俺は少しぶっきらぼうな言葉をリアルナさんにぶつけてしまった。リアルナさんは苦笑を浮かべながら俺を宥めた。
「その通りなんだけどね…そうもいかない事情があるのよ」
そんなことは分かっているさ。でも、納得できないものは納得できないんだ。
「レガルディアの姓を持つ者はね、ずっとレガルディアを名乗れる訳ではないのよ。陛下の養子になる前のユリーシャ様のように、セカンドネームを持っていないレガルディア姓の貴族が結婚をして…子供ができたとするでしょ?するとその子はレガルディアの姓を名乗ることはできないの」
そんな仕組みになっているのか。なんというか…独創的だな。
「だからユリーシャ様に限らずそういう人は、ロム以外のセカンドネームを持っている人の養子になることが多いの。と言ってもそれは大人になってからのことだし、そもそも形式的なものだから…たいしたことじゃないのよ。もちろん、別の姓を名乗るという選択をする人もいるわ」
選択権はユリーシャにあるものの、王室としては別の姓を名乗らせたくはないということか。
「その…セカンドネームの仕組み?ってヤツがよく分からないんだが…」
それが分からないと、リアルナさんがいくら説明してくれてもピンとこない。
「まずね、レガルディアの国王にだけラムの名が与えられるの。だから、今のレガルディアにラムの名を持つ者はラザルト様だけよ」
空に太陽が一つしかないように、レガルディアにも国王はただ一人。ラムの名はそれを象徴しているってことだな。
「そしてリムの名は国王の子供に与えられるものなの」
「…ってことは、リムの名を持つ者はラザルト国王の子供だけじゃあない?」
疑問をもった俺は、率直にリアルナさんに聞いてみた。
「察しがいいわね…前国王トルヴィルト様のお子様のうち、ラザルト様以外のご兄弟はリムのままよ。そして、リムの名を持つお方の子供はルムなの。そこから後は…分かるわよね?」
十分だ。レガルディアの姓を持つ者のセカンドネームの仕組みについてはよく理解できた。それにしても…だ。
「いくらなんでもリムにしたのはやりすぎじゃないか?」
「そうね…過去にも優秀な魔法使いが養子として迎えられたことは何度もあったわ。それでも、それはルムまでだった」
そりゃそうでしょうね。
「王室を支える文官の間では、ユリーシャ様の将来について意見が分かれていたの。一つは早期にセカンドネームを持ってもらい、形の上だけでもいいから養子になってもらうという考え方。もう一つは拙速にことを進めるのではなく、本人の希望を確認してからどのセカンドネームを持つのか話を進めるべきだという考え方よ」
最終的にユリーシャがセカンドネームを持つことは決まっているんだな。傲慢な考え方のような気もするが…それはともかく、そこには随分と違いがある。
「それとは別の対立軸として誰の養子になり、どのセカンドネームを名乗れるようにするのか?という問題もあったの。ユリーシャ様の能力を高く評価してリムのセカンドネームを名乗れるようにするべきだという主張がある一方で、これまで通り慣例に従いルムにしたほうが良いという主張があったの。つまり文官は4つの派閥に分かれていた訳よ」
早期派も慎重派も、それぞれの中にリム派とルム派を抱えていたということか…。
「こうなってくると意見の集約は難しそうだな…」
「そうね。実際に全然まとまらなかったわ。そして、情報が漏れてしまったの…その漏れ方が最悪だったのよ」
リアルナさんはゴシップ紙に漏れてしまったことを、忌々しげに吐き捨てるように言った。




