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個性崩壊

これより第七章が始まります。

ブックマーク等が増え、皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。とても励みになります。

そして、一つの区切りであるこのページを開き、今後もお付き合いしてくださる皆様がいらっしゃること大変嬉しく思います。今後も少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 大道を一台の馬車がのんびりと走っている。ユリクス一行の馬車だ。マモンディーノ王国を出てすぐに自分たちの馬車に乗り込んだユリクスたちは、のびのびと過ごせる現状に幸せすら感じていた。もう二度とすし詰めになどなりたくない。


 凝り固まった体をほぐしてから、今では各々全力で寛いでいる。空気が美味しい。風が気持ちいい。体の自由が素晴らしい。あぁ、幸せ。


 けれど修行を怠ることはしない。体を休めつつもやるべきことはやる。現在荷台ではそれぞれが修行に励んでいた。先程寛いでいると言ったが、今行っている修行は寛ぎながらでもできるようになれとユリクスに言われているのだ。その修行内容はこうだ。ティア、リューズは白い光と鉄化の魔法を弱めに発動し、それを維持している。ライト、リアナ、イヴァン、レージェは、小さい炎、毒、風、水を自身の周囲にふよふよと浮かせている。これを呼吸するように自然とできるようになれと言われているのでなかなか難しい。ある程度集中が必要なのでまだまだ先は長いようだ。


 ユリクスはというと、珍しく御者台に座っている。ユリクスが御者台にいる理由など一つしかない。


 目の前で止まる一台の馬車。出てくる複数の人間。ユリクス、雷槍を展開。発射。ぐしゃり。揺れる馬車。終了。


 なに、ただの日常だ。


 ちょっとばかり見た目は暴走馬車のようになっているが気にすることはない。後でライトが掃除する。


 修行をしながら頑張って寛いでいると、ティアが口を開いた。


「ベルゼヴィスにはあとどれくらいで着くのかな」

「もう着くと思うっスよ」


 ライトの言葉に楽しみだなぁと反応するティアだが、御者台にいるユリクスは顰め面になる。座っているだけなら楽なのに着いたら面倒じゃないか。一生着かなきゃいいのに。しかしそんなユリクスの思いに反して、ライトの言うように遠くに関所が見えてきた。当然関所には行かない。六人は修行を中断。馬車を下り、遠回りして町に近づく。関所から見えないように注意しながら。関所から十分離れると全員で町のある方角を仰ぎ見る。検問もせずに入国する者が出ないようにと造られた高い防壁。どうしたって登ることはできそうにない。だがそんなことこの連中には関係ないことだ。


「さ、入りましょ」


 リアナが当たり前だというようにそう言うと、全員の体が宙に浮いた。イヴァンの風魔法である。安定して飛び、軽々と壁を乗り越えた。人がいないか確認し、誰もいない路地裏に着地する。


「がっはっはっ! 入国成功だな!」

「ありがとうございますイヴさん」

「ふんっ、容易いことだ。で、これからどこに行くんだ?」

「そうねぇ、まずはギルド支部長に会いたいところだけど……」


 さて、どうやって会うか。そのことばかりで罪を犯したとは思えないほど平然としている犯罪者たちである。指名手配した奴が悪いのだ。そいつのせいで関所を通れなくなったのだから。


「とりあえず路地裏から町の様子を窺うのがいいんじゃないっスか? もしかしたらギルドが見つかるかもしれないし」

「……支部長には会いたくない」

「いやそれは無理っスよ」

「そうだよ兄さん。会えなかったら路地裏で野営だよ」

「それは野営と言うのか?」

「浮浪じゃないですか?」

「がっはっはっ! ちげぇねぇ!」

「早く行きましょうよ。ここにいたって仕方ないわ」


 さんせーい、とあてもなく歩き出す。ここの路地裏は複雑な作りではなく、ただ真っ直ぐに続いている。もしかしたら町道は整然としているのかもしれない。とはいえそれは実際に歩いてみないとわからないが。


 暫く歩いていたが、幸い人に見つかることはなかった。道は真っ直ぐで見通しがいいので人がいないのは有り難い。万が一見つかったら対処が面倒だ。口封じのために何をするかわからないユリクスの。


「店舗じゃなくて露店の多い町みたいっスね」


 路地裏から町道へ出るための細い道からちらちらと町の様子が窺える。町道を何度か確認すると町の特徴がなんとなくわかった。ライトの言う通り露店が主流の町らしい。立ち並ぶ民家の前に点々と設置された露店。少しごちゃごちゃした印象だ。露店には店舗にあるような看板がないため、一見しただけでは何の店なのか判断しづらい。まぁ、近づいて並べられた商品を見ればなんとなくわかるのでそこまで困らないだろうが。


「……で、結局どうするんだ?」

「「「……」」」


 ユリクスの問いに答えられる者はいない。全員で渋い顔をしながら歩き続けることしかできなかった。だが歩き続けているとその状況に変化が訪れる。


「……待て」


 ユリクスの言葉に皆足を止める。


「どうしたの、兄さん?」

「……人が来る」


 仲間たちは警戒を強めた。足を止めて気配を探ることに集中する。ティア以外の者が全員人の気配を感知すると、次に通り過ぎるはずだった曲がり角からひょっこりと少女が顔を出した。十五歳くらいだろうか。白衣を着て、モノクルを付けている。敵意は感じないのでそこまで警戒しなくても大丈夫だろうと一同は判断した。


「やっと見つけた!」


 少女がぱぁっと表情を輝かせると、路地裏へと入ってきて目の前に立った。


「……俺たちを探していたのか?」

「当然じゃ!」

「「「……『じゃ』?」」」


 年齢にそぐわない語尾に違和感を感じた一同。しかしそんなことは大した問題ではない。少女の目的が不明だ。


「……何の用だ?」

「オマエたちを迎えにきたのじゃよ!」

「……迎え?」

「そうじゃ! ワシはギルド支部長じゃからな!」

「「「……ギルド支部長……?」」」


 信じ難い言葉に訝しむユリクスたち。自称ギルド支部長はむっとした表情をして手招きした。


「信じておらんな? じゃがこのまま路地裏を歩き続けても仕方ないじゃろう。ギルドに着けば嘘ではないとわかるはずじゃ。ついてくるのじゃ」


 六人と一匹はユリクスへと視線を向けた。どうやらいつも通りユリクスに判断が託されたらしい。ふむ、まぁ害するならば斬り伏せればいいし、ついていってもいいだろう。


「……行くぞ」


 半信半疑ながらもついていくユリクスたち。そこまで歩くことなく路地裏に面した扉の前に辿り着いた。


「ここが裏口じゃ。入るがよい」


 自称ギルド支部長に続いて入っていく。入った先に更にあった扉を開けて入ると、固い印象のある部屋に入室することになった。部屋の中心にはローテーブルとその長辺側に二つのロングソファー、短辺側には一人がけのソファーが二つ設置されている。デザインなど若干の違いはあれど、何度も見た部屋の作りをしていた。自称ギルド支部長が机の引き出しを開けて一風変わった水晶玉を取り出した。連絡用の魔道具と同じものだ。


「ほれ、これでワシがギルド支部長だと信じられるじゃろう?」

「……そうだな」


 その魔道具の存在を知っているのはゲオルグと支部長、そしてユリクスたちだけだ。ならば信じるしかないだろう。ユリクスは少女の力量も感じ取っているためその点でも信じられる。


 魔道具を仕舞った支部長に勧められてユリクスたちはソファーに座った。一人がけのソファーには支部長とユリクスがそれぞれ座る。


「私たちを匿ってくれるの?」

「当然じゃ!」


 ティアが窺うように尋ねると、支部長はふふんっと胸を張って答えた。そして、「さて」と少しだけ雰囲気を引き締める。


「ワシはリルク・チタール。ここベングルのギルド支部長じゃ」

「この町はベングルっていうんですね」

「そうじゃ。この町には必ず来るじゃろうし、チベトーナから出発した日を考えれば今日くらいに着くと思ってたんじゃ」

「……何故出発した日を知っている」

「総長から聞いたからの」

「……」


 本当にストーカーだな。ユリクスの内でゲオルグに対して殺意が生まれるのは何度目だろうか。殺さずともせめて思い切りぶん殴ってやりたい。


 そんな思考を遮るようにイヴァンが口を開く。


「それより何故貴様はそんなおかしな口調をしている?」

「ちょっとイヴ、その辺は人の自由でしょうが」

「よいよい。まぁ受け入れろとしか言えんがな」


 リルクは全く気にした様子はなく嬉しそうに笑っている。何故そこまで嬉しそうなのかよくわからないが、その疑問はすぐに解消されることになった。


「いやー、ほんと、オマエたちに会えて嬉しいぞ!」

「ボクらが神人族の生き残りだからっスか?」

「やっぱり信じてくれてるんだね」

「信じているどころではないぞ?」


 リルクの言葉に一同は首を傾げる。リルクは続けた。


「オマエたちのことは総長や他の支部長たちから聞いて信用しておる。だから打ち明けるが、ワシはかれこれもう八十年ほど生きているのじゃ」

「……なに?」

「ワシの本当の名前はリルク・フェ二シス。不死鳥の一族じゃ」


 驚愕で目を見張るユリクスたち。まさか神人族だったとは。


「なるほど、道理でその口調なわけだ」

「あんたはいつまでそこ気にしてんのよ」


 イヴァンとリアナのやり取りは放っておいて、ユリクスは問う。


「……神人族であることは隠せるとして、その姿ではお前が支部長だと冒険者たちは納得しないんじゃないか?」

「まぁそうじゃな。じゃから職員たちに任せてワシ自身は表に出ることはせん。というより、そもそもオマエたちが会いすぎているだけで本来支部長は表に出ないものなのじゃぞ? まぁ〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟だから会ってるんじゃが」

「……ゲオルグ……面倒な地位を押し付けやがって……」

「兄貴、落ち着くっスよ」


 ユリクスの呟きには構わず、リルクは俯き気味になって心做しか表情を翳らせた。


「本当ならばもう少し大人の姿で総長の力になりたかったのじゃがな。けれどワシは元奴隷で、総長に助けられるまでは何度も死んだ。じゃからこの姿なのじゃ」


 元奴隷。その言葉はこの場の空気を重いものにさせた。しかしその空気はすぐに払拭される。落ち込んでいるかと思えば、リルクはすぐに顔を上げてにこっと笑ったからだ。


「じゃが、総長に助けてもらったからにはこの姿で上手く力になるつもりなのじゃ! 伊達に長年支部長をしておらん!」


 頼もしい言葉だ。一同はこの支部長も信頼できると判断した。


「ま、〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟を上手く使えばいいだけじゃからな!」


 ユリクスの額に青筋が立った。こいつまじで斬り伏せてやろうか。


 しかしその思考を読んだらしいティアとライトが素早く移動してきて両側から腕を拘束された。この状態では神器を顕現できない。ユリクスは舌打ちするだけに留めた。


 支部長相手はいろんな意味で疲れる。早く帰りたい。……が、どこで過ごせばいいんだ? 一刻も早く解放されるためにはそこをはっきりさせなければ。


「……おい、俺たちはどこの宿で過ごせばいいんだ?」

「ん? ギルドの地下に部屋があるからそこを使ってよいぞ」

「……お前から解放されたい」

「はっはっはっ! 初対面でこの態度か! 聞いていた通りじゃな! いっそワシの部屋で一緒に過ごすか!」

「……斬り伏せてやる……」

「兄さん、落ち着いて」

「ほんと、ユリィを気に入るあたり、ゲオルグさんも支部長たちも物好きよね」


 ユリクスを除いてうんうんと頷く一同。おいどういうことだ。俺は普通だろうが。と思っているのは恐らくこの世でユリクス本人だけである。


 不意にライトがうーんと唸った。


「ギルドで過ごしていいのは有り難いっスけど、ずっとここにいたら窮屈には感じちゃうっス」

「確かにそうだなぁ。折角だし町を散策したいぜ」

「私もしたい」

「買い物もありますしね」


 どうしたものか、と考えていると、リルクが首を傾げた。


「外出すればいいではないか」

「む、俺たちは指名手配されているのだぞ?」

「確かにそうじゃが、特徴を知られているのはリューオーだけではないか」

「じゃあユリィは置いていきましょうか」

「……ふざけるな」


 不機嫌なユリクスを見て呵々と笑ったリルク。笑いが小さくなると手を顔の前で横に振って否定した。


「違う違う。特徴を知られているのなら変えてしまえばいいのじゃ」

「……変える?」

「ほれ、部屋を移動するからこっちに来い。オマエたちは少し待っておれ」


 訝しんでいるユリクスは無理矢理引っ張られて連れていかれる。ただ一人連れてこられた部屋で、ユリクスはとある物を見せられた。あ、そういうことか。逃げよ。と思ったのも束の間、リルクの速すぎる手捌きで気づいたら終わっていた。地に倒れ伏したい衝動に駆られたのだが、虚脱している間に仲間たちのいる元の部屋へと連れていかれる。……もうどこでもいいから帰らせてくれ……。


「ほれ、終わったぞい!」

「……」

「「「……おー」」」


 ユリクスを見た六人は大きく目を見張り、それから感嘆の声を漏らした。


「兄さんかっこいい」

「流石兄貴っス!」


 そんなことを言われても何の慰めにもならない。というよりこの状況を受け入れるな。ユリクスの瞳は空虚なものになる。


 現在、ユリクスはいつもの黒ずくめではなくなっていた。下の黒パンツはそのままだが、コートを脱ぎ、上は白い長袖Tシャツ。ついでにシルバーネックレスを付けている。つまりイメージチェンジをさせられていた。


「わかってはいましたが、ユリィさんとってもスタイル良いですね」

「シンプルな恰好なのにめちゃくちゃ似合ってるのが腹立たしいわね」


 褒められているのだが、ユリクスには全くもって意味がわからない。体中がぞわぞわしてくる。


「……落ち着かない……」

「似合ってんだからいいじゃねぇか!」

「この国にいる間くらい我慢しろ」

「……コート」

「だめに決まってるでしょ」

「……嫌だ、コート」

「子どもか」


 コートくらいいいじゃないか……。と思うユリクスであるが、その黒いコートが一番目立つのだから着られるわけがない。誰も味方になってくれないので、ずーんという音がよく似合いそうな暗い雲をユリクスは背負うのであった。


「かっこいいから大丈夫だよ。とにかく座ろう?」

「……着替えたい」

「観念するっスよ」

「……斬られたい」

「それは初めて聞いたわね」

「服装といい思考といい、個性完全崩壊ですね。面白いです」

「鬼畜だな貴様は」

「俺ぁ良いと思うんだけどなぁ」


 暗すぎるユリクスと楽しんでいる周囲。温度差の激しい空間である。


 ティアに促され、渋々ユリクスは座った。リルクもそれに続く。そしてぱんっと手を打ち鳴らされたことで全員の意識はリルクへと向いた。


「ほれほれ、そろそろ話に戻るぞ」

「……何を話すことがある」

「そんなの一つしかないじゃろう」


 一同は首を傾げる。リルクはにこりといい笑顔を作って言った。


「指名依頼じゃ!」

「……チッ」

「まぁいつものことだよね」


 いつも通りの展開に一同はなんの驚きもなく受け入れるのであった。もちろんユリクスの機嫌はどん底まで落ちた。






お読みいただきありがとうございます。


三章同様、主人公にいろんな格好をさせたい私の趣味が出ました。

主人公の特徴をぽんぽん変えるなと自身にツッコみつつ欲望には逆らえませんでした。

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