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戦いとは捕獲から始まる

「さむーい……さむーい……さむいっスー……」

「ちょっとライト、みんなそう思ってるんだから何度も言ってんじゃないわよ」

「流石に雪が降っていると寒さが増しますね」


 現在、ガルダを含めたユリクス一行は件の丘に来ていた。ここは隠れ里へ向かう際に通った丘よりもずっと広い。丘の頂上あたりを見上げるとその高さは山に近いだろう。周囲に木々は一切ないためより一層広大に感じられる。はらはらと雪が降っており、上質なコートを羽織っていても寒さを感じる。


「積雪も深いな。吹雪が多いせいか」

「それでも歩けてんだから、お前ぇさんたちも大分雪に慣れたな。この国に来た時はどうなることかと思ったぜ」

「私はメラに乗せてもらってないとだめかな……自分でちゃんと歩きたいんだけど……」

「アンタの身長じゃ危険だからね、そのままでいな」


 ティアは自分だけ楽をしているようで嫌らしく、表情を曇らせている。元々自分も戦えるようになりたいと願っているティアだ。それも仕方ないだろう。


 ユリクスはティアにかけるべき言葉がわからない。だからただ黙ってティアの頭を撫でた。ティアはユリクスの気遣いを察したらしく、曇らせていた表情を少しだけ晴れさせた。


 それを確認して撫でるのをやめたユリクスはガルダへ視線を移す。


「……ガルダ」

「うん?」

「……あの男が俺たちに解決しろと言ったのは、あいつが一度ここに来たことがあるからだな?」

「ま、そうだな」


 二人の会話に他の者は首を傾げる。


「どういうことっスか?」

「簡単に言えば、この丘はなんとなくだけど変な感じがするのさ」

「変な感じですか?」

「あぁ。情けないことにアタシも勘が働いただけでね、間違っている可能性も否めない。ハワードの爺さんはアタシと一緒に来ていたからそれを知っているのさ」


 ガルダが真剣な表情でユリクスを見遣る。ユリクスは自分が指名された理由を悟ってしまって渋い顔をした。


「そこで今回ユリクスに依頼が来たというわけさ。ゲオルグはユリクスの気配感知の能力を買っているからね。……で、アンタはここをどう思う、ユリクス?」


 視線が一点に集まった。視線を受けて、ユリクスは顔を少しだけ俯かせる。渋いものから険しいものに表情を変えたことで、全員ユリクスが何かを感じ取っていることを察したらしい。ユリクスの返答を待っている。ユリクスは自分が感知したことを正直に伝えた。


「……違和感がある。ここには何かがあるようだ」

「違和感、か。これでただの自然現象じゃないことは確定したようなものだが、アンタでも〝何か〟で精一杯か」

「……あぁ」

「こりゃ一筋縄じゃいかないね」


 ユリクスが感知しきれないことは初めてだ。仲間たちも自身の内で各々警戒レベルを上げる。


「ユリクス、貴様が感じた違和感とはどういうものだ?」

「……重い」

「重い?」

「……何か圧がかかっているように、空気が重い」


 一同はユリクスの言葉を反芻(はんすう)する。ユリクスの感じ取ったものを自分たちは感じることができない。仲間たちはそれを歯痒く思いながらも今はユリクスの言葉を胸に留めた。確実に手がかりだからだ。


「圧……。ということは上の可能性もあるか?」


 ガルダの言葉に全員が頂上を仰ぎ見た。そこはただ一色の白。そのバックに雪を降らす暗い雲があるだけで異常は感じられない。


「空気自体なのか、ガルダさんが言うように上に何かあるのか。それは調べてみないとわからないわね」

「でもどうやって調べんだ?」


 リューズの疑問は全員が抱いているものだ。思案しても誰も案は出せなかった。ユリクスが歩を進め始める。


「兄貴?」

「……ここに留まっていても何もわからないだろう」

「ユリクスの言う通りだね。とにかく進むとしよう」


 ガルダの言葉に頷いた一行は丘を登っていく。大きな手がかりがあるとしたら中心地である頂上だろう。一歩一歩、どこかに違和感がないか注意しながら歩いていく。


「それにしても広いね」

「そうっスね。飽きるくらい広いっス。何もないし、雪も降ってるせいか静かでなんかつまらな……静か……?」


 ライトの言葉にユリクスは顔を顰める。もっと早く気づくべき違和感があった。自分の言葉で気づいたらしいライト。そして同じようにガルダもそれに気づいたようだ。


「……ガルダ」

「あぁ。こんな環境でも魔獣はいるはずだ。何故一体も現れない?」


 魔獣がいない状況に他の者たちも初めて気づく。そして思い出されるのはアクアトラスでの一件だ。


「……まさか、魔獣を操ってる奴がいるってか……?」

「また一箇所に集めている可能性が出てきたわね」

「……いや」


 リアナの言った可能性をユリクスが否定した。全員がユリクスを見ると、ユリクスは顎に手を当てて何かが判然としないような表情をしている。その表情通り、ユリクス自身不可解な感覚に内心首を傾げていた。


「兄さん、何かわかったの?」

「……魔獣が集まっている気配はしない。ただ……」


 ユリクスは話している間も全力で気配を探知するが、感じ取ったものは変わらない。


「……頂上に向かえば向かうほど、一体の魔獣の気配が強くなってる……気がする」

「気がする? 貴様にしてははっきりしないではないか」

「……いや、いるのは確かだが……不快な靄がかかっているような、そんな気配だ。この感覚は……」


 ユリクスは感じ取ったものを整理するように話す。一つだけ同じような感覚を知っているが、まさか。


「……魔獣が自らの気配を消そうとしている……ということはあると思うか?」


 ユリクスの言葉に一同は絶句する。本能をむき出しにする魔獣が気配を消そうとするなど信じられることではない。だがユリクスは嘘をつかない。ならばそう思わせるものを感じ取ったということだ。ユリクスの言葉を咀嚼し、事の重大さを理解する。


「それって……魔獣に知性があるってことなんスかね……?」

「……そんなの聞いたことないわよ。でも……」


 初めて得た可能性に思考が混乱する中、ガルダの溜め息が響いた。


「とにかく頂上へ向かうよ。進めばもっとわかることがあるはずだ」


 全員が頷く。例え新たな特性を持つ魔獣がいたとして、それで怯む者はこの中にはいない。迷いのない足取りで先に進み始めた。


 魔獣が現れない以外の手がかりを何も得られないまま、頂上まで残り三分の一程度の場所まで来た。そこでふとガルダが足を止めたので他の者も止まる。


「……あー、なるほどね。確かに遠くに魔獣がいるな。ユリクスの言う靄がかかってるっていうこの中途半端な感覚は、気配を隠すのが下手なのか、それとも元々の存在感が強過ぎるかだな」

「……隠すのが下手なだけならお前の気配感知能力が低いということになるな」

「首を刎ねられたいのか? さっきの距離で魔獣の存在を断定できるアンタがおかしいだけだよ。まったく、その点に関しては師匠として嫌になるよ」


 他の者たちは全く感じ取れていないので、ガルダも余程規格外だとユリクス以外は思う。だがそんなことよりもガルダの言っている二つのどちらが正解なのか、それが問題だ。前者なら知性が高いだけのその程度の魔獣ということだ。しかしもしも後者だとしたら。


 まぁそれも登ればわかるか。そんな軽い考えを抱いた他の連中も規格外の域に入っている。自覚のある者は一人もいないが。


 再び歩を進める一同。だが数歩歩いただけで異変を感じ取った者がいた。


「ぎゃぁぁぁ!」

「ちょっ!? いきなり何よ!?」

「どうしたのライト?」

「ぐちょって! ぐちょっていったっスー!!」


 感じ取ったというより体感した者がいた。


 ライトは片足を上げてぶんぶん振っている。「気持ち悪いっ!」と連呼しているので恐らく何かを踏んだのだろう。ライトが踏んだ場所をリューズが足で払い、雪をどかした。


「おいこりゃあ……」

「魔獣……ですか……?」


 雪の下から魔獣が出てきた。亡骸だ。しかし不可解な亡骸だった。ただ息絶えたという姿ではなく……。


「……喰われたのか」


 亡骸は身体のほとんどが失われていた。元々部位がないという形ではなく、歪に切断されている。


 ユリクスの言葉に一同が思い出すのはスパイダリアでの一件。


「まさか、また魔獣を喰らう魔獣が現れたというわけか?」

「……その可能性が高いだろうな」

「アンタたちが遭遇した複合種のことか」

「……あぁ」


 あの巨大で凶悪な魔獣。他の魔獣とは一線を画する存在。またあれと同じ部類の魔獣だろうか。だとすると、今回行われるであろう戦闘も一筋縄ではいかないかもしれない。


「……ライト」


 かつての戦いを思い返していた一同の思考をユリクスが引き戻した。


「なんスか?」

「……この辺りの雪を溶かせ。まだ魔獣がでてくるかもしれない」


 あの魔獣はかなりの数の魔獣を喰らっていた。ならば今回も同じように丘に存在していた魔獣を片っ端から捕食したのかもしれない。それ故の指示だ。意を得たライトは頷き、手を前に突き出した。雪だけを溶かすように温度を調節して炎を放射する。腕を動かしてできるだけ広い範囲に効果を及ぼした。


「……これは……」


 ユリクスは呟き、他の者は息を呑んだ。辺り一面。それこそ地を埋め尽くすほどの数の死骸が姿を現した。できるだけ広い範囲の雪を溶かしたとはいえ、丘のほんの一部分でしかない。もしも同じ光景が他の場所にも広がっているとしたら。


「あーあ、一体何体の魔獣を喰らったのかねぇ」


 ガルダがやれやれと溜め息混じりに独り言ちた。ユリクスもその横で溜め息をつく。


「……魔獣を踏むのは避けられないか……」

「あんたね、気にするのそこじゃないでしょ」


 ユリクスは通常運転である。一気に緊張感を削がれる一同であった。ライトがじとりとユリクスを見遣る。


「兄貴、まさかそれを回避するためにボクを使ったんじゃないっスよね?」

「……それもあった」

「酷いっス!! ボクは踏んだのにっ!!」

「ライトはライトで気にするのそこなんだね」

「ユリクスに毒されているな」

「それを言ったらアンタたち全員もれなくそうだよ」


 いついかなる時も緊張感を維持できない連中である。


 不意に、ユリクスは未だに騒いでいるライトをじっと正視した。


「今度はなんスか?」

「……いっそ全てを燃やし尽くさないか?」

「無理に決まってるじゃないっスか!!」

「無理以前にここを火の海にしようとすんじゃないわよっ!!」


 往生際の悪いユリクスである。


「……なら直接踏むより雪の上からの方がマシか。ライト、絶対にもう雪を溶かすなよ」

「やらせたの兄貴っスよね!?」


 騒ぐライトを放置して、ユリクスは直接踏むのを回避するために遠回りしようと横に歩きだそうとした。しかし。


「……何をしている」

「「「進め」」」

「……」


 ユリクスの行動は全員に妨害され、あまつさえ先頭を歩かされる始末であった。


 ぐちょぐちょと嫌気が差す音を鳴らしながら先へと進んでいく。ある程度進めば雪の上から踏むことになったが、それでも大分不快だ。全員苦い表情で、それでも確実に頂上へと向かう。


 誰も何も喋らず、静かに、静かに登っていく一行。顔を土気色に染め、表情を歪め、精神的な苦痛に耐え続け、最早なんのために登っているのかわからなくなってきた頃、(ようや)く辿り着いたのだった。


「やっと着いたな! ……やっと着いたな……」

「雪道以上に困難な道のりだったな……」

「でもこれ、頂上も魔獣で埋め尽くされてますよね……」

「まだ解放されないのね……」

「ガウ……」

「こんなことなら兄貴の言うように火の海にした方がよかったんじゃないかって思えてきたっス……」

「火の海はだめだけど、私思ったことがあるの」

「……なんだ」


 ユリクスに問いかけられると、ティアは首を緩く傾げながら無邪気に言った。


「進む道だけ魔獣を燃やせばよかったんじゃない?」


 ……時が止まった。


 ティアの言葉を聞いた者たちは無表情で固まり、それを見たティアだけが戸惑った表情を浮かべている。自らの失言に気づいたのだろう。


 暫くの間誰一人として小揺るぎしない。無音の空間。停止した時間。実際の時間としては短いが、恐らくティアにとってはとても長い時間だっただろう。(ようや)く時が動き出したかと思うと、止まっていた者たちがティアに向かってふっと小さく笑んだ。ティアがびくりと肩を跳ねさせる。全員の口が一斉に開かれた。


「「「早く言え」」」

「ご、ごめんなさい……」


 普段穏やかな者すら怒りを湛えている状況にたじたじになったティア。助けを求めるようにメラを見遣ると、メラはティアに向けるいつも通りの優しい表情をしていた。グルルルル……と喉を低く鳴らすオプション付きで。


 ティアは初めて四面楚歌になった。


 辛酸を嘗めた者たちと涙目のティア。あまりにも悲愴感漂う空間が出来上がったのだった。


 しかし、そんな空間をぶち壊すように周囲の状況に変化が訪れる。降り続けている雪の勢いが強くなってきた。勢いは急速に増し、視界が白に染まっていく。同時に風も吹き始めたかと思うとすぐに暴風へと変わった。


「さっむ! コート着てても寒いっス!」

「吹雪なんて久しぶりだなぁ」

「暢気なこと言ってる場合じゃないわよ。これじゃあ調査どころじゃないわ」

「一旦戻ります?」

「その方がいいかもしれんな」

「……上だ」

「兄さん?」


 会話とかみ合わないユリクスの言葉に訝しむ一同。しかしガルダだけは険しい表情でユリクスを見ている。


「上って……ここが頂上っスよね?」


 一同を代表したライトの問い掛けに、ユリクスは無表情のまま視線を鋭くさせて()を見た。


「……違う。(うえ)だ」

「「「ッ!!」」」


 六人は一斉に空を見る。見た限りでは何かがあるようには見えない。だが、よくよく注意して観察すれば気づけた。頂上の丁度上空、そこだけが一層黒い雲に覆われていた。


「まさか、雲の上にいるというのか……?」

「……多少は隠しているようだが、間違いなく殺意は上からだ」

「殺意はあってもまだ出てくる気はないようだねぇ。アタシたちを凍死させるつもりなのか、それとも様子を窺っているのか。さて、どうしたもんかね」

「……帰るか」

「はぁ?」

「……出てこないならそれでよくないか? こんな不快な足場で戦いたくないんだが」

「バカ言ってんじゃないよ。それじゃ解決にならないだろ。……で、どうするかだが……」


 ガルダがユリクスを見てニヤリと笑った。嫌な予感がする。いや、確実によからぬことを考えている。ユリクスは逃亡を考えるが、それを見越したガルダに腕を掴まれたことで阻止された。


「なぁ、ユリクスぅ」

「……断る」

「アンタさぁ」

「……断る」

「〝神の宝玉〟の力起こしてたよなぁ」

「……断る」

「ならさぁ」

「……断る」

「アタシが()()してやるから、(アレ)、ぶち破れよ」

「……は?」


 言葉の意味がまったくわからずぽかんとするユリクスを無視して、目の前でガルダが魔力を練った。掌中で紫電がバチバチと踊り弾け始める。紫電で覆われた手がユリクスに向けられた。


「んじゃ、いくぞー」

「……おいちょっと待て」

「問答無用! 食らいな!」


 ガルダがパッと離れたかと思うと、そのタイミングに合わせてユリクスに容赦ない紫電が放たれる。超至近距離で放たれたそれはユリクスに直撃し、ダメージを負わせるかと思いきやユリクスの胸元、正確には神核に吸収されていった。一瞬の出来事を処理できずに他の者たちは呆然とし、場に静寂が訪れる。そんな空気の中、無事充電されたらしいユリクスの全身からは紫電が漏れ出るように放出されていた。怒気と共に。


「……おい」

「なんだい?」

「……余程斬られたいなら今すぐそうしてやる部位の希望があれば聞いてやるとっとと言え早く言え」

「すごい早口だな……。まぁ落ち着けやい。普段クールなアンタらしくないだろ?」

「……黙れ。頭上の敵より目の前の敵を斬る必要がある」

「増した分の力は上に使ってくれよ。じゃなきゃ意味ないだろ?」

「……知るか。勝手に行動したのはお前だ。意味も何もあったもんじゃない」

「そんなことないだろ。充電された分楽に魔法をぶっ放せるようになったんだからいいじゃないか。それとも楽を取りたくないのかい?」

「……楽云々じゃなくお前の行動に問題があると――」


 二人の口論は終わる気配を見せない。一連の出来事をぽかんと呆けて見ていた六人は思考が戻ってくるなりげんなりした。


「まさに水と油だな」

「混ざり合わないどころか爆発を起こしてますが」

「あんなにユリィがぶちぎれてんの初めて見んなぁ」

「ちょっとティア、ライト、あんたたちなら止められるでしょ。早く止めなさい」

「いや無理っスよ」

「流石に関わりたくないよね」


 はぁ、と溜め息をつきながら傍観に徹する。早く終わらないかなぁ。寒いし帰りたいなぁ。


 吹雪の中ただ立ち尽くして見守っていると、頭上からプレッシャーが降ってきた。どうやら無視され続けているあちら様もいい加減痺れを切らしたらしい。まぁそうなるよね、と思ったのは傍観者たちだけで当の二人は全く気にした様子はない。


 ライトがそれはもう深く溜め息をついて二人に呼びかけた。


「兄貴ー、ガルダさーん、上で待ってる方がいるっスよー」

「ちょっと待ちな」

「……黙ってろ」

「いやでも怒ってるみたいでプレッシャーが強くなってきてるんスけど……」

「……チッ、鬱陶しい」


 舌打ちしたユリクスが虫を払うように投げやりな動きで手を動かして魔法を発動した。手首の力だけ使って上に払う雑な動作で適当に放っただけのはずなのだが、ビシャァァァァァン!! と轟音を響かせて巨大な紫電の柱が立ち昇り、雲を貫いた。その威力に周辺の雲が消し飛ばされていく。吹雪が止み、視界が開ける。すると……。




 グルォォォォォン……。




 雲がなくなったことで露わになった天上。その中心地にそれはいた。


 全容は確認できる。しかしそれは天と地という距離があるから。近づいたならばどれだけ自分たち人間がちっぽけかわかるだろうその巨体。その巨体の姿は龍であった。青みがかった白い体躯。それが蛇のようにうねっている。姿はほとんど龍なのだが、まったく同じというわけではなかった。その体には本来ないはずの白い翼が生え、尾はひれになっている。姿で確認した限りでは恐らく龍、鷲獅子、人魚の複合種。


 間違いなく強い。今まで気配をある程度隠せていたことが不思議なくらいだ。相手の強さを六人が確信した時だった。


「……これでいいんだろう?」

「「「……」」」


 魔獣などどうでもいい。とりあえず求められた仕事は果たした。後は好きにしろ。


 つまりそういうことだと。


「……あ、あー、ありがとう……っス……?」

「……すげぇ強そうな奴が出てきた……な……?」

「……えっと……大きい魔獣ですね……?」

「……丘を覆うほどではないが、でかいな……?」

「……まぁ……過去最大ね……?」

「みんな、戻ってきて。目の前にいるから、敵」


 そうは言われても緊張感を削がれ過ぎてどんな顔で相対すればいいのかわからない。明らかに今までで一番強い魔獣であり油断はできないのだが、どうにも気が引き締まらない。とはいえユリクスは再びガルダと口論を始めてしまったので自分たちが相手にするしかないらしい。


 こんなことなら刺激しないほうがよかったな……。


 そう思っても後の祭りだ。


 こちらへ本気の殺意を向け臨戦態勢に入っている魔獣に対して、こちら側の戦闘員五名はすぐに逃亡しようとする緊張感を捕まえる戦いから始まったのだった。






お読みいただきありがとうございます。

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