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〝あの子〟

 ユリクスは無我夢中で荒野を走る。顔に当たる鬱陶しい風も、前へ進んでいるのかわからなくなる変わらない景色も、全て無視して走り続ける。


(……どうしてこの気配が……!)


 感じ取ったとある気配しかユリクスの頭にはなかった。とにかく今はこの気配の元へ。早く!


 どれだけの距離を駆けたのかはわからない。だが、ユリクスにとってはとても長い時間だった。やっと辿り着いた……やっと()()()()()()気配に、ユリクスの中で激情が渦巻く。


 求めていた気配の持ち主の元へ辿り着いてやっと足を止めた。目の前の()()()()()()に、呼び掛ける。


「……シオン……?」


 シオンと呼ばれた少女はじっとユリクスを見据えている。その瞳はユリクスによく似た、夜の湖に星を撒いたような瑠璃色。短い髪は、ユリクスと同じ黒。


 呆然と己を見つめてくるユリクスに、シオンは口を開いた。


「久しぶりだね」

「ッ!」


 ユリクスは震えた。衝撃に。歓喜に。


 あの頃と変わらない声。髪と瞳の色。顔は大人びたが、間違いない。十年間、ずっと探し続けた、求め続けた、〝あの子〟だった。


「……シオン、やっと見つけた……」


 ずっと無表情だったシオンが顔を歪めた。


「見つけた? 私を探してたっていうの?」

「……そうだ。ずっと……探していた」


 ユリクスの言葉に、シオンは小さく鼻を鳴らした。


「探してたなんて嘘よ。ずっと忘れていたんでしょう?」

「忘れていたことなんてないっ!」


 シオンの言葉をユリクスは間髪入れずに否定した。その態度を見て、シオンの歪んでいた表情が少しずつ凪いでいく。ユリクスには少しほっとしているように見えた。


「そっか……」

「……あぁ」


 向かい合う二人の間に沈黙が生まれる。


 ユリクスにはなんと声を掛けていいのかわからなかった。感情が溢れ出て、言葉にならない。ただ、何か言わなくてはという焦りが生まれる。何か言わなくては、この子が離れていってしまいそうな、そんな予感があった。


「……シオン――」

「兄さん!」


 ユリクスが声を掛けようとして、遮るように後ろから声がする。半身になって振り返ればティアがメラに乗って追いかけてきていた。その表情は不安げで、置いてきてしまったことに罪悪感が生まれる。だが、今のユリクスにはシオンをどうにかして自分の元に留めておかなくてはという思いが強かった。故にシオンに向き直る。再び視線を向けると、シオンは顔を俯かせていた。


「……兄さん……?」


 呟いたシオンの声音は暗かった。その声音に明確な怒りを感じ、ユリクスは動揺する。


「……シオ――」

「あなたは、私を探していたと言いながら、妹を作っていたというの……?」


 シオンの声音は怒りと悲しみに溢れていた。ユリクスにはなんと声を掛ければいいのかわからない。


「ずっとずっと……あなたを待っていたのに……助けに来てくれると信じていたのに……。あなたは、私のことなんて忘れて、()()()()なんて作っていたというの……? 幸せに暮らしてきたというの……!?」

「違う! シオン!」

「何が違うっていうの!? その子のことをあの人たちから聞いて、嘘だって思っていたのに……! 嘘じゃなかったんでしょう!? 私を……っ、見捨てたんでしょう……っ!?」

「見捨ててなんていないっ!」

「ならっ、私を選んでくれるって言うのならっ、見捨ててないと言うのならっ! その不死鳥の一族の子を見捨ててみせてよっ!! どうせ甦るんだからっ!」


 そう叫ぶと、シオンは雷魔法を発動する。怒りをそのまま魔力に変えたその圧力は、ユリクスですら圧倒されるほどだ。大きな怒りの乗った魔法は強力な雷の光線となってティアとメラに迫った。その速度は速い。今すぐにでも動かなくては間に合わない。だが、ユリクスは躊躇ってしまった。


 不死鳥の一族は死んでも甦る。ならここはシオンのためにティアを見捨てるべきか……? 


 ティアとの思い出が脳裏を一瞬で駆け巡った。初めて見るものに目を輝かせる様子。夢中で料理やお菓子を食べる姿。幸せそうに笑う顔。ユリクスにとってはもう、大切で、愛おしい存在。


 確かに、不死鳥の一族は死なない。でも、それでも……!


 ユリクスの足は動いた。ティアの元へ全力で移動する。なんとか魔法とティアたちの間に割り込めた。だが、迎撃する時間はなかった。


「あ、がっ、あああああああああああ!!」

「兄さんッ!!」

「ガウッ!!」


 怒りの一撃の威力はユリクスの全身を焼く。身体強化を施して耐えようとするが、耐え切れないと体が悲鳴を上げる。


 魔法が消え去った後、ユリクスは全身から煙を上げて、その場に崩れ落ちた。全身の大火傷。重症だった。


「兄さんッ!」

「ガウッ!」


 ティアとメラがユリクスに駆け寄るが、ユリクスに意識はなかった。


「へぇ……それでもその子を庇うんだ」


 ユリクスを俯瞰(ふかん)するシオンの瞳に光はなく、失望で染まりきっていた。声音も底冷えするようだ。


 ティアはシオンから発せられる尋常ではないプレッシャーに体を震わせながらも、ユリクスを庇うように抱き込んで()め付ける。


 シオンはそんなティアの様子を見て鼻で笑った。


「なに? その人の妹面するの?」

「妹面? あなたが何をそんなに怒っているのか知らないけど、兄さんは優しいの。だから私を守ってくれた。私だけじゃない。兄さんはたくさんの人を守ってる。優しいから」

「……」


 ティアの言葉にシオンは不快げに顔を顰めた。そしてティアに右腕を伸ばし、魔力を練る。


「本当にあなたたちは不快。消えて」

「ッ!」


 ティアがユリクスだけでも守ろうと全身で庇う。その様子にも顔を顰めたシオンは魔法を放とうとした。しかしそれは横から飛んできた炎弾に妨害される。シオンは魔法を中断してバックステップで回避した。


「よかった。間に合ったっスね」


 ライトとレージェが少し離れた位置にいた。シオンの意識が完全にティアたちに向いていたため、察せられないように横に回ったのだ。


 ライトとレージェがティアたちに駆け寄る。


「そんな、ユリィさんが……」

「兄さん、私を守ってくれたの……ごめんなさい……」

「ティアの姉御が謝ることじゃねぇっスよ。敵はあの子っスね」

「ティアさんはユリィさんをお願いします。ここは私たちが」

「うん。二人共気をつけてね」


 ティアはユリクスの腰についた魔導袋からティアの涙を取り出してユリクスの治療に入る。


 ライトとレージェが前に出た。


 一連の様子を窺っていたシオンが顔を歪める。震えるほど拳を握り閉めて言った。


「……なんなの……あなたたちはその人のなんだというの……」

「何って、仲間に決まってるじゃないっスか」

「……仲間? その人は(ことごと)く私のことなんて忘れて幸せに暮らしてきたのね……」

「何を言っているんです……?」

「うるさい……うるさいっ……うるさいっ!」


 シオンの魔力が急速に高まっていく。表情は憤怒に染まりきり、まるでその怒りがそのまま魔力に変換されたようだった。膨大な魔力とプレッシャーにライトとレージェは冷や汗を流す。


「まさかあの子……龍の一族……?」

「わかりませんが、相当気合を入れなければならないようですね……」


 神器を顕現(けんげん)させた二人に向かって、シオンが再び紫電光線(レーザー)を放つ。対面しただけで高威力なことがよくわかる。


「私の後ろにっ!」


 レージェが羽衣を硬化させてガードする。


「ぐ、うう!」


 強過ぎる威力に押され、レージェが徐々に後退していく。


「レージェの姉さん!」


 ライトが後ろからレージェの背を押して支える。二人が身体強化を目一杯施しても後退するのを止められない。だが、ティアたちの元へ吹き飛ばされる前に魔法は霧散した。


 その隙を無駄にせず、ライトがレージェの後ろから素早く出て銃を構える。


 ドバンッ! ドバンッ!


 《銃炎弾(フレイムバレット)》を放つが、身体強化と雷魔法を付与したことで迅雷の如き速さを得たシオンには避けられてしまう。


「チッ、一筋縄ではいかないようっスね」


 シオンがライトの方へ向いている間に、シオンの後ろに回ったレージェが水弾を放つ。


「どいつもこいつも腹が立つ……」


 シオンが憤然と呟いたと思うと、軽く紫電を放ってくる。動作は軽いが、その威力は全く軽くない。水弾は簡単に掻き消され、威力を衰えさせることなくレージェに迫る。


「ぐうっ!」


 羽衣でガードしたレージェだが、威力に押され、軽く吹き飛ばされる。


「このっ!」


 銃を構えたライトだが、シオンの一撃の方が早かった。紫電光線(レーザー)がライトに飛んでくる。ライトが足裏に炎を放出して回避しようと考えるが、間に合わない。咄嗟に銃を盾にしたが。


「う、ああああああああ!」


 高威力に腕を焼かれ、激痛が走る。


「ライト君っ! ぐぅっ!」


 レージェがライトを助けようと動くが、シオンがライトに魔法を放っている反対の手でレージェに紫電を放つ。レージェは羽衣による防御をせざるを得なくなる。


「ライト……レージェ……」


 ティアの悲痛な呟きが漏れるが、それは戦闘音に掻き消された。


「ッ、まだまだっスよ!」


 魔法を耐えきったライトが痛む腕に鞭打って銃を構える。


 ドバンッ! ドバンッ!


 《銃炎弾(フレイムバレット)》を放ち、シオンが回避した隙に足裏で炎を放出して急接近する。


「おらぁっ!」


 炎放出の爆発力でシオンに蹴撃する。だがそれはシオンの細腕にガードされる。


「なんつう力っスか!」


 シオンの怒りは雷魔法だけでなく身体強化にまで影響していた。炎の熱さにも顔色一つ変えない。


「はぁっ!」


 レージェが水で鞭を作ってシオンに攻撃する。横腹に命中するが、それにも顔色一つ変えない。


 シオンはライトの炎に纏われた足を躊躇わずに掴み、レージェに向かってライトを投げ飛ばした。身体強化と雷魔法によりかなり速い速度で飛ばされたため、レージェは回避できない。ライトの身を思って羽衣を硬化して防御することもできずにライトと衝突した。


「ぐぅっ」

「きゃっ」


 重なって倒れ込む二人に情け容赦なく紫電光線(レーザー)が放たれる。ユリクスが受けた時より怒りは小さいとはいえ、それでも大きな怒りの乗った一撃だ。それを二人は身体強化のみ施したまままともに受けた。


「がああああああああ!」

「いやあああああああ!」


 雷で体中が焼かれる激痛に二人から悲鳴が上がる。


 砂埃が舞い、二人の姿が隠れる。砂埃が収まった時に現れたのは、ぼろぼろになった二人の姿だった。


「そんな……」


 ティアが泣きの混じった声で小さく呟く。


「足りない……」


 シオンの呟きにティアは視線をシオンに転じる。シオンは虚ろな瞳でぼろぼろの二人を見ていた。


「こんなんじゃこの怒りを収めるのに全然足りないわ……」


 シオンが再び膨大な魔力を練って二人に腕を伸ばす。先程二人が受けたものの数十倍は魔力量が多い。ユリクスを一撃で沈めたのに勝るとも劣らないほどの威力が予想される。そんな魔法がぼろぼろの二人に放たれようとしている。それをもし受けた時、二人がどうなるのかは想像に難くなかった。


「いや……」


 ティアは小さく首を振る。思わず掴んでいたメラの足をより強く握る。


「死になさい」


 無情にもシオンの手から魔法が放たれようとしている。ティアは無我夢中で叫んだ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 叫びと同時に、ティアの全身を光が覆った。淡くとも眩い、白い光だ。その光は手を伝ってメラにも広がった。


「グルァァァァァァァアアアア!!」


 メラが大きく咆哮を上げる。すると、倒れているユリクス、ライト、レージェの三人も同じ光に包まれた。


「なにっ!?」


 シオンが動揺している間に、ライトとレージェがゆっくりと立ち上がった。


「これは……」

「力が……魔力がみなぎってきます……」


 二人がティアの方を見ると、()()()()()と目が合った。


 ティアが光を放っている理由も、瞳の色が変わっている理由もわからないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「レージェの姉さん」

「はい、いつでもいけます」


 二人がシオンに向かって駆け出した。


「ッ!」


 シオンが迎撃に入ろうとする。だが、その前にライトがいつもよりも格段に速いスピードで懐に入る。足の裏で放出された炎の色は()()()()


「でりゃぁぁぁぁ!」

「ぐぅっ!」


 青い炎を纏った足でシオンを蹴撃する。腕でガードしたが、先程よりもパワーのある一撃と熱さにシオンが苦悶の声を漏らす。バックステップで離れようとしたシオンだったが、動けないことに気がついた。足元を見れば、自身の両足が()()()()()


 レージェは自身の周囲に複数の氷の槍を展開。ライトが飛び退いた直後に氷槍をシオンに放つ。


 シオンは紫電をスパークすることで氷槍を破壊する。そのまま紫電を足元にも放ち、足に纏わりついた氷も破壊した。


 ドバンッ! ドバンッ!


 横から発砲音。先程の《銃炎弾(フレイムバレット)》よりも格段に速い青い炎の弾丸が飛んできて、シオンの腕を貫いた。


「あっ、つぅ……!」


 シオンが二人から距離を取る。


 ライトとレージェは同時に感じていた。油断はできないが、これで対等に戦える、と。だが、その思考に水を差された。唐突に現れた気配に二人は総毛立つ。


「あれぇ? シオンちゃん結構苦戦してるぅ?」

「戦闘慣れもしていないですし、二対一じゃ無理もないでしょう」


 ティアたちを庇うようにライトとレージェは素早く移動する。シオンの後ろから、まるでそこに瞬間移動してきたかのように二人の人間が腕を組んだ状態で現れたのだ。


 一人は桃色の髪をツインテールにした女。もう一人は眼鏡をかけた鼠色の長髪をした男だ。


「誰っスか……」


 警戒したままライトが問う。それに女の方がきゃぴきゃぴした態度で答えた。


「イリスはイリスだよー! こっちはロイドちゃん!」

「ちゃんはやめなさい」

「イリスって……まさか……」

「ライト! レージェ!」


 ライトが目を見張って呟いたのと同時に、背後から声が掛けられる。リアナたち三人が追いかけてきたのだ。


 ティアたちの元に辿り着いたリアナたちは三人共違うものを見て目を見張った。


「まさか、ユリクスがやられたというのか……」

「イリスっ!」

「ロイド……てめぇ……」


 イヴァンは意識を失ったぼろぼろのユリクスを見て驚愕するが、リアナとリューズはずっと探してきた二人を見つけたことで瞳に怒りの炎を灯す。


 そんな二人の怒りを意に介さず、イリスはきゃぴきゃぴと、ロイドは眼鏡を片手で押し上げて応対した。


「あれぇー? リアナちゃんだ! 元気してた?」

「久しぶりですね、リューズ」


 二人の何とも思っていないような態度に、リアナとリューズの額に青筋が立つ。


「イリス、あんたいい度胸してんじゃないの……」

「ロイドてめぇ……なんでリュゼを殺しやがった……」


 憤る二人を一瞬面白そうに見たイリスとロイドが口を開こうとするが、その前にシオンが魔力を迸らせた。


「こんなに仲間に囲まれて……まさか本当だったなんて……っ! 許さない……絶対に……!」

「あ、シオンちゃん魔法放っちゃう? じゃあイリスも加勢しちゃおー!」

「手加減もなくて可哀そうに。まぁここで殺しておいてもいいでしょう」


 再び強まったシオンの魔力にイリスとロイドが魔力を複合していく。三人の、主にシオンの多過ぎる魔力量にリアナたちも初めて総毛立った。


「なに、あの子の魔力……」

「たぶんっスけど、あの子龍の一族っスよ。じゃないとこの魔力量はおかしい……!」

「こんなに激怒している状態の魔法、私の羽衣で防げるかどうか……。いえ、防いでみせます!」


 レージェが先頭に立って皆を守るように羽衣を広げた。全員で固まって身体強化を己に施す。


「それじゃあ、死んじゃえー!」


 イリスの緊張感のない声を合図に魔法が放たれた。大地を抉り、空間を裂き、轟音を響かせて巨大な魔法が迫る。


 全員が激痛を覚悟した、その時だった。


「……」

「兄貴……?」


 ずっと意識を失っていたユリクスが立ち上がり、ゆらゆらと歩いて先頭に立つ。そして、()()()()()でしっかり前を見据えて魔法と向き合う。いつもの魔力とは比べものにならない魔力を練ってユリクスも魔法を放った。相手と同じ、紫電の光線がぶつかり合い、大地がひび割れていく。


 魔法のぶつかる轟音以外の全ての音が消え去り、視界も真っ白に染まる。


 寸秒の時間を経て、二つの魔法は爆散した。


 視界が戻った時には、見るも無残な荒野の光景が広がっていた。それを挟んで立っている互いに魔法を受けた者はいない。場を沈黙が支配し、世界から音がなくなったと錯覚する。


 暫くして、音のない世界を壊すようにイリスがわざとらしく溜め息をついた。


「あーあ、殺し損ねちゃった。二人共、今日はもう帰ろっ?」

「そうですね」

「……」


 シオンだけが鋭い視線をユリクスたちに向けてくる。そして口を開いた。


「……私はもう決めたわ。もう迷わない。私は〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟が一人、シオン・ドラグリア。もうあなたと共に生きることはない」


 そうユリクスに言い放って、シオンは踵を返した。


「わぁー! シオンちゃんがやっと正式に仲間になってくれた! ありがとね龍王ちゃん!」

「では、俺たちはこれで失礼します。このまま長居したらジークハルトに怒られてしまいます」

「ッ! ジークハルトっ!?」


 ライトがその名に反応するが気にせずイリスとロイドも踵を返す。


「待てロイド! ティアを撃ったのはテメェか!?」


 ロイドが半身で振り返り、口角を上げる。それが答えだった。


 イリスがシオンとロイドの二人と腕を組んだ瞬間、三人の姿と気配は消えた。


「なっ、どこに行ったっていうの!?」

「……ロイドの魔法は自身と触れているものの透明化だ。まさか気配まで消せるとは思わなかったがな。チッ、やっぱりティアを撃ったのはアイツだったか……!」

「なるほど……ス……ね……」

「っ、うっ」


 突然、ライトとレージェの二人が倒れる。


「ぅ、あ」

「ガ……ウ……」


 次いで、ティアとメラも倒れた。


「お前ぇさんたち大丈夫か!?」


 リューズたちが駆け寄ると三人と一匹の意識はなかった。


「ぅ……が、あ」

「ユリクス……?」


 急にユリクスも呻きだす。胸を抑えて前かがみになる。先程魔法を放ったその時から膨大な魔力が立ち昇り続けている。その魔力量は先程のシオンの比ではなかった。にもかかわらず、限界を知らぬように魔力は高まり続け、とうとう魔力が具現化される。可視化されるほどの魔力量に、リアナ、リューズ、イヴァンの三人は後退った。


「……こんなの、人間が宿せる魔力量じゃないわ……」


 リアナが呆然と呟くと、ユリクスの魔力が更に高まった。


「う、あ、ああああああああああ!!」


 ユリクスが叫ぶのと同時に、放出された魔力の塊が天に一直線に伸びていった。天を貫いたその魔力は、周囲に飛んでいた雲をも一切合切吹き飛ばし、空が青一色になる。


 魔力が放出されるとユリクスの魔力の高まりも収まり、ユリクスは倒れた。


「「ユリィ!!」」


 リアナとリューズが駆け寄るが、ユリクスの意識はなかった。


「……なんだったんだ……今のは……」


 イヴァンが呆然と零した言葉を拾う者は、誰もいなかった。






お読みいただきありがとうございます。


次回更新は15日です。

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