遺跡発見
投稿時間が遅れて申し訳ありません。
湖畔で過ごすようになってから七日が経った。この七日間、特訓ばかりしていた一行の成果はというと……。
「ぬぉぉぉぉぉぉおおおお!!」
手元で両手を広げているライトが叫びながら魔力を練っている。両手の中心では蝋燭の火のような炎が発生している。その色は青い。しかし暫く状態を保っていた炎が赤に変わった。
「だぁぁぁぁぁ! 何秒っスか!?」
「五秒だよ」
「みじかっ!」
「……本気でやっているのか?」
「やってるっスよっ!」
ライトは最大五秒青い炎を維持できるようになった。まだまだ短い。
ちなみに他の者はというと、リアナは手元サイズに限るが触れずに毒を維持できるようになり、リューズは掌のみが完全に鉄化し、イヴァンは暴風を手元で弾かれることなく維持できるようになっている。そしてレージェはというと。
「えいっ」
湖に向かって両手を大きく広げて軽い掛け声を発すると、なかなかの大きさの水の柱が一本立ち昇った。
「すごいっス、レージェの姉さん!」
「まだまだ手を広げて集中しないとできませんけどね」
湖が近くにあることが幸いし、水を操作する力が格段に上がっていた。しかし、ユリクスはズバッと斬り込む。
「……氷魔法はどうした」
「…………すみません、まだまだです……」
氷魔法はライト同様数秒しか維持できないでいた。
ユリクスは椅子に座って腕と足を組みながら、魔力を練っている五人を眺める。
初日に比べれば進歩している五人。だが、ユリクスには腑に落ちないことが一つあった。
七日間毎日全力で魔力を練っているため、五人の秘められていた才能が開花し始めているのか、基礎魔力量は段違いに上がっている。魔力操作の精度もだ。にもかかわらず魔法の成長速度が余りにも遅い。その理由がわからなかった。
(……何か成長を妨げる要因があるのか……? あるいは、成長に必要な何かが足りないか……)
考えても答えは出なかった。
ふと、自分の横で魔力を練っているティアに視線を転じる。相変わらず、ティアの手の中では白くて淡い光が発生している。ティアにも才能はあったようで、随分長い時間魔法を維持できるようになった。魔法の効果は全くわからないが。しかし、魔力量はもちろん、魔力操作の精度も申し分なくなった。
ティアが魔法を霧散させてライトを見た。
「兄さん、そういえばライトの炎ってなんで青くなったんだろうね?」
「……魔力量から普段の赤い炎よりは強力なんだろうが、どうなんだろうな」
ユリクスは試してみることにした。立ち上がり、その辺に転がっていた少し大きめの石を持ってライトに歩み寄る。ティアもその後に続く。それに気づいた他の者たちも興味本位でライトに集まった。
「ん? どうしたんスか?」
「……赤い炎と青い炎の違いは理解しているか?」
「……全然してないっス」
ユリクスは持っていた石をライトの足元に置く。
「……赤い炎と青い炎をこの石に当ててみろ」
「了解っス」
まずは赤い炎を石に当ててみる。
「ちょっと黒ずんだっスかね」
「……次」
「はいっス」
魔力を練り、青い炎を石に当ててみる。
「と、溶けてるっス!」
「……なるほどな」
周りから「お~」という感嘆の声が上がる。
「つまり青い炎の方が熱ぃってことか?」
「そういうことになるわね」
「随分温度に差があるようだな」
「使いこなせたら魔獣ももっと楽に倒せそうですね」
「頑張れ、ライト」
「ボク頑張っちゃうっスよー!」
ライトがやる気満々で再び魔力を練る練習に入る。ユリクス的には少しの好奇心が働いただけだったのだが、ライトのやる気が出たのでまぁいいかと再び椅子に戻った。
魔力を練り続けている六人を眺めるユリクス。魔法の上達が遅い理由はわからないが、基礎魔力量と魔力操作精度は上がっているので、とりあえずは黙って見守ることにした。
まぁ、ただ見守っているのも暇なのでユリクスも魔法で遊んでみる。紫電の玉を複数発生させ、玉から紫電を伸ばして星座のように繋ぐ。メラ座の出来上がりだ。それにメラが喜んでぴょんぴょん飛び跳ねている。その光景を特訓を止めたティアが温かい目で見守っていることには気づかなかった。
暫くメラと遊んでやっていると、ユリクスのお腹が控えめに鳴った。どうやらお昼の時間のようだ。
集中している五人よりも自分のお腹を満たすのが優先。と、いうわけでユリクスはライトに声をかけた。
「……ライト、昼の時間だ」
「あ、もうそんな時間っスか」
六人が各々凝り固まった体をほぐすような仕草をしながら近づいてくる。ユリクスはライトに魔道袋を渡した。ライトが魔道袋から調理器具とテーブル、食材を取り出しながら「あ」と目を見張った。
「……どうした」
「そろそろ出発しないとやばいかもしれないっス」
「やばいって?」
「食材が切れそうっス」
「もう少し特訓したいところだけど、それなら出発するしかないわね」
一先ず昼食を取り、それから出発することに決めた一行。
片付けを終えると名残惜しげに出発した。
「結構キャンプに良かったんスけどねあの湖畔」
「人も来ないし居心地よかったね」
ティアとライトが見えなくなるまで湖畔を見ていようと御者台に座っている。他の者は荷台で寛いでいた。
「七日じゃ大して上達しなかったわねぇ」
リアナの呟きにイヴァンが悔しげに「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「……そんなことはないだろう。自分たちの状態の変化をよく感じ取ってみろ」
ユリクスの指摘に、御者台の二人も含め六人が、目を瞑って己の状態に意識を向けてみる。リューズが最初に首を傾げた。
「なんか体が軽くなったか?」
「それと体の芯があったかくなった気がするっス」
「どういうことかしら?」
「魔力量か……?」
「……あぁ」
イヴァンの呟きにユリクスが肯定したことで各々自分の中の基礎魔力量が上がったことを感じ取る。
「もしかして結構上がりました?」
「……大分な」
「お~」と感嘆の声が上がる。
「なら後は魔力操作ね」
「……あぁ。魔法のイメージに合った魔力を適切に練ることができるかが重要だ。それができなければ魔力があっても話にならない」
「正論ですね……」
ユリクスの言葉に表情を険しくする。出発してからも特訓を続けながら、一行はベルファリナに向けて馬車を走らせた。
◇◇◇
湖畔を出てから三日が経った。ベルファリナへと大分近づいた今でも、相変わらず特訓をしては休憩を繰り返す日々を送っている。この日も早朝特訓をして、その後に休憩している時だった。突然、メラが馬車を止めた。
「どうしたんスかメラ?」
「……」
メラはじっと、大道の横にある森の奥を見つめている。だが、不意に興奮したように見つめていた方向へ走り出そうとした。馬車が大きく揺れる。
「ガウガウガウッ!」
「うわっ、メラ落ち着くっス!」
「メラどうしたの!?」
荷台にいた面々が俊敏に馬車を降り、ユリクスも身を乗り出しているティアを抱えて降りた。一番最後に御者台にいたライトも降りる。
ライトが急いでメラを馬車から解放し、バランスを崩して横転しそうになった馬車をユリクスが魔道袋に納めて事なきを得た。
「落ち着いてメラ!」
「ガウガウッ! ガウッ!」
ティアが懸命にメラを宥めようとしているが、メラの興奮は収まらない。そして、首元に抱き着いていたティアを振り切って森に向かって走り出した。
「メラっ!」
「……追うぞ」
ユリクスがティアを抱え上げて、全員でメラを追う。
走っているのは全く人の手が入っていない獣道だが、構わず走り続ける。奥へ進む毎に木々が高く太くなっていき、進むのが困難になるが構わず走る。途中で魔獣とも遭遇したが、メラが構わず走っていってしまうのでユリクスが素早く始末してメラを追った。
暫く走り続けて、全員の息が少しだけ上がってきた頃、ようやくメラは足を止めた。
辿り着いた場所にあったのは、岩壁。いや、岩塊と言ってもいいかもしれない。だがどちらにせよ不自然なものであることに変わりなかった。
高さは十メートルほどで横幅は二十メートルほどか。長方形の岩の塊がそこにはあった。
メラがじっとその岩を見ているので、注意深く全員で一周回って観察してみるが、のっぺりしていて特に何もない。ただ、蔦がほぼ全面に張られ、岩もひび割れているので年月を感じさせる。
「なんなんだこりゃ?」
「特に何かあるわけじゃなさそうですけど……」
「みんなこっち来るっスー!」
ライトの呼びかけに応じて観察を中止して集まる。ライトが地面を指さしていた。
「何かしらこれ?」
メラの下、岩の塊に垂直にくっつくように石畳があった。大きさは四畳半ほど。不自然に横幅の一部だけにそれはあった。位置は横幅の真ん中とはずれているため余計に不自然だ。
「こういうところになんかありそうっスよね」
ライトがわくわくしながら石畳に乗る。それにつられて全員が石畳に乗った。特に何も起こらない。
「特に何も起こらないではないか」
「……そうだな」
「おかしいっスねぇ」
「メラ、戻ろうよ」
未だじっと岩の塊を見ているメラにティアが呼び掛けるが、メラは反応しなかった。だが、暫くするとやっとメラが一歩を踏み出し、岩の塊に近づく。そして。
ゴンッ
「メラ!?」
メラが岩の塊に自ら頭をぶつけた。大分痛そうな音が響いたが、メラはそのまま動かない。すると、ガコンッという音を立ててメラが頭で押している部分が奥に押し込まれた。その瞬間全員が――落ちた。
「えぇぇぇぇぇなんスかぁぁぁぁぁ!」
「……下向きの仕掛け扉だったみたいだな」
「冷静な回答いらねぇっスよぉぉぉ!!」
「ちょっとこれどこまで落ちるのよ!?」
「内臓がひゅっとして気持ち悪いです……」
「メラ、頭大丈夫?」
「ガウッ」
「がっはっはっ! どうすんだこれ!」
「おい、下が見えてきたぞ」
イヴァンの言葉に全員が下を確認する。すると、そこにあったのはキラリと光りながら待ち構える針山。上から見て一本一本の長さはわからないが、恐らくこのまま落下したら串刺しだろう。
「おいおい流石にやべぇんじゃねぇか?」
「やばいどころか死ぬわよ!」
「イヴの兄ちゃん! 風でボクらを浮かせてほしいっスー!」
「チッ」
イヴァンが風を全員の下に発生させる。できる限りの魔力を練って発生させた風だが、その効果は一瞬だった。ふわりと一度だけ全員を上に持ち上げただけですぐに落下が再開する。
「ぎゃぁぁぁもうダメっスぅぅぅ!!」
「……」
一瞬体が浮いていた間にユリクスが体勢を立て直し、右手を下に伸ばす。そして、強力な紫電を真下に放った。破壊音が響き渡る。
「……イヴァン、着地のタイミングでもう一度魔法を使え」
「わかっている!」
徐々に床が迫り、体が叩きつけられる直前にもう一度体が浮く。勢いが殺されたため、全員が無事に着地に成功した。着地した地面はユリクスの魔法により針が破壊されていたため刺さることはなかった。
一行はほっと胸を撫で下ろした。
「マジ死ぬかと思ったっス」
「寿命が縮まったわ」
「まだ浮いてる感じがします」
「ユリィとイヴに感謝だな!」
リューズの言葉にイヴァンは誇るではなく悔しげに舌打ちした。
「俺がもっと魔法を使いこなせていたらこうも危険な状況にはならなかっただろう」
床への激突が避けられただけよかったのだが、イヴァンは納得できていないらしい。
「……お前がいなければこいつらは無傷では済まなかった。今はそれを誇ればいいだろう」
「……ふんっ」
ユリクスのフォローにイヴァンは鼻を鳴らすことで応えた。それでイヴァンが納得したことにして、ユリクスは一方へと視線を転じる。四角形の空間の一辺が通路になっていた。松明の明かりが並び、道も整備されている。
「ここ、なんだろう?」
「……さぁな」
訝しげに通路を見ていると、ライトが瞳をキラキラさせて通路を指さす。
「ここもしかして地下遺跡ってやつじゃないっスか!?」
地下遺跡。その単語に首を捻るユリクスたち。
「まぁ確かに、トラップもあったし考えられなくはないかしらね」
「地下遺跡か! わくわくするな!」
「お宝とかあるんでしょうか?」
「……なんにせよ、上に戻る手立てがない以上、進むしかないだろう」
「そうだね」
「それにしても、何故メラはここを知っていた?」
確かに、と全員の視線がメラへと移る。メラは耳と尻尾を下げて首を傾げていた。
「メラもわからない?」
「ガウ……」
「そっか」
「……何か自分の中で呼び掛けてくるものがあったのかもしれないな」
「呼び掛けてくるもの?」
ティアからの返しにユリクスは頷いた。ユリクス自身、己の中に何かがあることには気づいている。存在に謎の多いメラも、同じように何かがあるのかもしれないと思ったのだ。それが何かは見当もつかないが。
皆を危険にさらした責任を感じているのか、未だ耳と尻尾を下げているメラをティアが慰めている。その光景から通路へと視線を戻すユリクス。通路を見ていると、胸の奥が騒めいてくる。ユリクスの中の何かも反応しているのかもしれないと、ユリクスは目を細めた。
「……先に進むぞ」
ユリクスの号令に頷き、一行は通路へ足を踏み入れた。通路の幅は横に三人並べる程度だ。先頭をユリクス、ライトが歩く。
石造りの通路が松明によって仄かにオレンジに染められて、どこか不気味に感じられる。
「一体何のための遺跡なんスかねぇ」
「……さぁな。遺跡かもわからないが、だが、ただの建造物ではないだろう」
「どうしてっスか?」
「……確実に殺しにきているトラップが用意されているのも、松明が火を灯し続けているのも、不可解だろう」
「あー、確かに」
わからないことは多いが、とりあえず一本道の通路を進む。なかなか長い。
「これだけの長さだと、上にある岩より広さありそうっスよね」
「……そうだな」
歩き続けていると、ようやく通路の終わりが見えてきた。ずっと暗がりだった先に、景色が見えてくる。とはいえその景色も代わり映えのない石造りのものだったが。
ユリクスとライトが先に通路を出る。そこは広い空間になっていた。何もないただの空間だ。松明はあるが、広さのせいで通路よりも視界が悪い。
「……ライト、そこで止まっていろ」
「え?」
ユリクスが足を止め、言われてライトも止まる。それによって広い空間に出たのは二人だけだ。
ヒュンヒュンヒュン!
四方八方から風切り音が聞こえてきた。
「……」
「っ……!」
二人は咄嗟に黒刀と二丁拳銃を顕現する。薄暗いせいで見づらいが、よく見ればわかった。矢だ。至る方向から複数の矢が飛んできている。
ユリクスは黒刀を、ライトは銃を使って一つ一つ正確に叩き落としていく。自分たちにも、後ろにいる者たちにも一本たりとも届かせない。
二人の足元が叩き落とされた矢で埋め尽くされて、ようやく飛んでくる矢が止んだ。
「二人共大丈夫?」
二人の後ろにいたメラに乗っているティアが心配そうに聞いてくるので、二人で振り返って頷いた。そしてライトがジトッとユリクスを見遣る。
「兄貴、せめて何か言ってほしかったっス。驚いてそのまま手元が狂ったらどうしてくれるんスか」
唇を尖らせたライトに向かって、ユリクスは無表情で至極真面目に言う。
「……お前なら大丈夫だろうと思った」
「もぉぉぉそうやってすぐ嬉しいこと言う! そんなこと言っても絆されないっスからねっ!」
そう言いつつライトの表情はにやけている。憧れている兄貴からの信頼はどうしたって嬉しいのだ。
「ほらそこ、じゃれてないで早く先進んでちょうだい。詰まってるわよ」
「リアナの姐さんはもうちょっとボクらの頑張りを褒めてくれてもいいと思うっス!」
「何言ってんのよ。あんたたち二人がしくじるわけないじゃない」
「もぉぉぉ嬉しい!」
「ライト、単純」
「がっはっはっ! 可愛いじゃねぇの!」
「そうですねぇ」
「いいから早く進め」
くねくねしているライトを押しのけて全員で広い空間に出る。きょろきょろと辺りを見渡すが、どうやらもう仕掛けはないようだ。あるものといえば、空間を突っ切った先にある正面の通路の入り口だけ。
「それにしても、確実に殺しに来てますよね」
「まだまだトラップはありそうだな」
「無事に外に出られることを願うっス」
「……この先も油断せずに行くぞ」
ユリクスの号令に一同は頷き、正面にある通路に向かって歩き出した。
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