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自分らしくある強さ

「まったくお前という奴は! 情けというものがないのか!」

「……一度殺意を向けてきた相手にかける情けはない」

「清々しい程にはっきりしているなお前は!」

「……それは……ありがとう……?」

「褒めてないわっ!!」


 ゼェ、ハァと肩で息をしながらモテナが怒号を飛ばす。それに対してユリクスは首を軽く傾げつつ、あっけらかんと腕を組んで立っている。一体何に怒っているんだ? と。そんなユリクスの態度に、モテナの額で更に青筋が立つ。その様子を見て放っておけなくなったライトと、ユリクス同様敵に情けは無用としているイヴァンが介入した。


「ま、まぁまぁモテナさん、兄貴が相手を殺さなかっただけ情けはかけた方っスから……その辺にしてあげてほしいなぁ……なんて……」

「そもそも、容赦なくぽんぽんぽんぽん人を殺すことが問題だっ!」

「……殺意には殺意を返す。それの何が悪い」

「まったくだな。俺にとっては敵を庇う貴様の方が余程おかしなことを言っている」

「庇ってなどいない! 私は、罪人には相応の処罰を与えるべきだと言っているんだ!」

「「……処罰……」」

「神器を顕現(けんげん)させるなぁぁぁ!!」


 処罰と聞いて黒刀とチャクラムを顕現させた二人に盛大な怒号を飛ばすモテナ。その声は鉱山内によく響き、周りの者たちは耳を塞ぐ。飛ばされた当人たちは耳がキーンとなった。


「……耳が痛い」

「怒鳴るな。禿げるぞ」

「誰のせいだと思っている! 誰のっ!」


 激しいツッコミと怒声でモテナのご尊顔とやらが崩れ切ってしまい、周りの者たちは同情する。同情するだけで、こんな面倒なやり取りに介入しようと思うのはライトだけだが。


「も、モテナさん、今は捕まえた解放者(リベレイター)たちから話を聞くのが先じゃ……」

「チッ、それもそうだな」


 ユリクスが戦闘不能にした男たちは、モテナがユリクスに怒鳴り散らしている間に他の者で捕縛済みだ。今は意識を失い、縛られた状態で三人並んで横になっている。


 その三人にユリクスとモテナが近づき、屈んで男たちの首や腕を探り始めた。


「……あったな」

「あぁ。魔獣たちがこの者たちに襲い掛かる前に聞こえた音は、これらが砕けた音だったか」


 男たちの袖や服の中から出てきたのは鈍色の神核だ。粉々に砕けている。


 モテナは自身の魔道袋に砕けた神核をかき集めて収納した。


「支部長からある程度話は聞いていたが、まさか本当に砕けるとは……」

「……今回の件で、意識を失わずとも戦意を喪失しただけで砕けることがわかったな」

「すぐにでも支部長に報告しなければ……。後は、この者たちが何故この鉱山を根城にしたかだ」

「……あぁ」

「……待て、お前は何をしようとしている」


 立ち上がって足を軽く上げたユリクスにモテナが待ったをかける。ユリクスは緩く首を傾げて答えた。


「……蹴り起こす」

「この者たちは骨が折れているんだぞ。力尽くで起こすな」

「つくづく貴様はこいつらの肩を持つな。解放者(リベレイター)を擁護するなど、〝決別の日〟賛同派じゃないだろうな?」

「まさか」


 モテナは立ち上がり、イヴァンの言葉を嫌忌(けんき)の念に満ちた表情で否定した。その表情を見てユリクスは見定めるように目を細め、ユリクス以外の神人族たちは目を見張った。


「モテナさんは……神人族を信じているの……?」


 ティアがおずおずと尋ねる。それにモテナは頷いた。


「当然だ。神人族たちを(そし)る者たちの気が知れん。……こちらからも聞くが、お前たちこそ、神人族を蔑んだりしていないだろうな?」

「蔑むもなにも……」


 ライトの言葉と共に、ライト、ティア、リアナ、リューズ、メラは顔を見合わせる。そして四人と一匹はユリクスとイヴァンに視線を転じた。


「兄さん、イヴ、言っていい?」

「……好きにしろ」

「俺も別に構わんぞ」


 二人の返答を聞いて、ティアはモテナに歩み寄り、じっと見上げた。大事な事を打ち明けようとしていることを察したのか、モテナは紳士然とした所作で屈み、ティアと目線を合わせた。


 ティアはモテナを正視して、はっきりと告げた。


「私たち、みんな神人族なの」

「なに……?」

「そう……なんですか……?」


 モテナとレージェが驚愕を露わに瞠目する。離れて聞いていた取り巻きたちも同様だ。


「うん。だから兄さんやイヴは解放者(リベレイター)たちに優しくできないの。ライトやリアナ、リューズも解放者(リベレイター)たちを許せない気持ちを持ってる」

「君は?」

「私は……〝決別の日〟のこと、よく覚えてないし……その前の記憶もないから……」

「そうか……」


 ティアが〝決別の日〟のショックで記憶が曖昧なったと思ったのか、モテナは傷ましげに表情を歪めてティアの頭を撫でた。


 モテナは(おもむろ)に立ち上がると、取り巻きたちに視線を転じた。


「このことは決して漏らすなよ」

「「「はっ」」」


 モテナの対応を見て、話して良かったとティアの表情がほころぶ。


「ありがとう。モテナさん」

「ふっ、気にするな」


 モテナは長い前髪をかき上げた。


「私は神人族を信じる正義の騎士、モテナ・イデスバーンなのだからっ!」

「「「流石モテナ様です!」」」


 一同のモテナへの好感度が一気に冷めた。自分で正義の騎士とか言っちゃうの痛すぎる。


 冷めた視線をモテナへと送っていると、モテナがビシッとユリクスを指さした。


「だが! 例え神人族だとしても、むやみやたらに人を殺すことは容認できん!」

「……殺意を向けてきた奴だけだ」

「相手が殺意を向けてきたとしても、お前は強者なのだ。ならば弱者に多少の情けはかけるべきだろう。〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟ならば尚更だ」

「……」

「弱者を救うことは強者の務め。お前も男ならば譲れない矜持の一つでも持て」


 譲れない矜持。ユリクスは考えた。自分の譲れないものは何かを。自分には何もないか? ……いいや、()()()()には、ある。


「……何と言われようと、俺は万人を救おうなどとは思わない。俺が身命を()して守りたいのは、自分と……仲間だけだ」

「兄さん……」


 ユリクスが仲間を守りたいと言い切ったのは初めてだった。故にティアたちは驚き、そして笑んだ。


 ユリクスにも確たる意志があることを汲み取ったのか、モテナはユリクスの言葉を真摯な瞳で受け取った。


「……そうか。そこまで言うのならばもう何も言うまい。お前は騎士ではないからな、これ以上私の考えを押し付けるのも野暮だろう。……だが、総長たちの顔に泥を塗るような真似はするなよ」

「……」

「返事をしろっ!」


 意地でも返事をしないユリクスと、その態度に噛みつくモテナに周囲は忍び笑いを漏らした。もうこの二人はこのスタイルでかみ合っているのだろうな、と思いながら。


 そんなことを周りが思っているなどとは露ほども思わず、モテナはユリクスに目角(めかど)を立てる。


「まったく、本当にどこまでも癪に障る男だな」


 それはお前も同じだと、ユリクスパーティーの面々は内心ツッコんだ。出会った時といい、ナルシストな発言といい、もう少し自分を省みてほしいものである。


 ジトっとした周囲からの視線に気づかず、モテナは倒れている男三人を俯瞰(ふかん)した。


「さて、ではこの者たちを起こすとしよう。エーレ、ビード、シーダ」

「「「はっ」」」


 あれだけユリクスに言っておいて自分でやらないんかいっ、と再びユリクスパーティーの面々は内心でツッコんだ。


 そんな周囲の呆れた空気に気づかぬまま、取り巻きたちが倒れている三人に駆け寄った。その時。


 ……ドゴォォ……ドゴォォォォ……ドゴォォォォォォ……


 自分たちが歩いてきた道から、何かが崩れる音と振動が響いてきた。音と振動は徐々に大きくなったが、暫くするとピタリと止んだ。


「なんだったのかしら」

「……これは……」


 全員が音のした方向を警戒し、ユリクスが鋭い視線を向けると。


「……うっ、ここは……」

「……俺たちは一体……」

「……っ、いてぇ……」


 響いてきた振動によって男たちが目を覚ました。ユリクスたちの姿を見て一瞬怯えたような表情をしたが、体の痛みと、縛られていることに気づいて大人しく横たわったままでいる。


「……おい」

「待て、話を聞くのが先だ」


 音のした方角を鋭く見据えたまま声を掛けたユリクスの言葉をモテナが遮る。モテナは男たちの側に屈みこんで、少し圧を孕んだ声音で問い掛けた。


「お前たちはどうしてこの鉱山に現れた。何が目的だ」


 モテナからの問いに、男たちは揃って表情を恐怖に歪めた。そして震える声で答える。


「……こんなはずじゃなかったんだ……」

「……これだけの数の魔獣を従えられたんだ……アイツだってきっと上手くいくはずだったのに……」

「……逃げないと……アイツから逃げるために俺たちはここに来たんだ……ずっとここにいたら見つかっちまう……」


 男たちは揃って早く逃げなければと続ける。その切迫した様子はただ事ではなかった。


「お前たちは何から逃げている?」

「……魔獣だ……」

「……かなりでかくて……強い……」

「……俺たちの従えてる魔獣たちじゃ歯が立たなかった……」

「……」


 この世の終わりのような表情で体を大きく震わせている様は、敵とはいえ同情を誘う。


 これ以上の話を聞くことはできないと判断したモテナは暫し黙考した後、目を細めて立ち上がった。


「どんな魔獣かは知らんが、相当強いのだろうな。その魔獣が本当にこの者たちを追ってくるというのならば一刻も早くここを出る必要がある」

「ならコイツらを運ぶのは俺に任せな!」

「あぁ、よろしく頼む。ではすぐにでもここを出るぞ」

「……待て」


 モテナの号令で出発しようとした全員の行動をユリクスが制する。一刻も早く鉱山を出なければならないというのに、その行動を止められてモテナが一言文句を言おうと一歩を踏み出そうとした。だが、それは男たちを運ぶために近くにいたリューズに手で制された。見上げたリューズの表情が険しいことに気づき、モテナも黙ってユリクスを見遣る。


 ユリクスはいつも通りの無表情で告げた。


「……恐らくだが、その魔獣なら手前の採掘場にいるぞ」

「なっ!? 何故それを早く言わん!」

「……お前が待てと言ったから」

「優先順位というものがあるだろうがっ! 私の言葉を遮ってでも伝えるべきことだろうそれは!」

「……そうなのか?」

「お前は危機感というものがないのか!?」


 モテナの叫びにユリクスをよく知る者たちはうんうんと頷く。それを見てモテナは口を開けて唖然とした。そしてティアたちに向かって言う。


「お前たちはよくこの男と一緒にいて無事だったな……」

「まぁ兄貴強いから」

「大抵ユリィが倒しちゃうし」

「俺たちゃそこまで危地に陥ったことはねぇな!」

「悔しいが、四万を相手取った際もユリクスの探知と殲滅能力で乗り切ったようなものだしな。殲滅は勝手にやられたことだが」

「兄さん、最強」

「あらあら、頼もしいですね」

「チッ」


 改めてユリクスの実力を聞いてモテナが舌打ちする。いや、レージェがユリクスを褒めた際に纏う怒気がより増したので、主に恋敵としての敵愾心(てきがいしん)を煽ったのかもしれない。ユリクスはすっかり婚約者の設定など忘れているので気づかなかったが。


 モテナは乱雑に長い前髪をかき上げて眉を顰めた。


「だがどうするか……。ここは行き止まり、脱出するには手前の採掘場に戻らねばならん」


 歯噛みするモテナにユリクスは腕を組んで答える。


「……倒すしかないだろう」

「どんな魔獣かもわからないでか?」

「……戦闘前にどんな相手かわかっていることの方が珍しい」

「それもそうか」


 珍しく意見が一致した二人である。


 元来た道に向かってユリクスは誰よりも早く一歩を踏み出す。


 まだどんな敵かはわからない。向かい合った時にどんな行動を取ってくるかもわからない。まぁ恐らく殺意のままに向かってくるのだろうが。だが、ならば斬り伏せるのみ。自分を……自分たちを害する者は全て斬り伏せる。ユリクスの行動原理は何も変わらない。


(……どんな相手だろうと、害なすものは斬り伏せる。それだけだ)


 ユリクスは手前の採掘場に向かって進む。


「兄貴待って、ボクも行くっス!」

「どんな魔獣なのかしらね」

「がっはっはっ! まぁなんとかなんだろ!」

「ふんっ、貴様らだけでは心許ないからな。俺もついていってやろう」

「お、おいお前たち!」


 事も無げに続々とユリクスを追いかけるライトたち。モテナが引き留めるように呼び止めるがその足は止まらない。


 モテナは頭を抱えてため息をつくと、取り巻きたちとティア、メラ、レージェを(かえり)みた。


「私も龍王たちと共に行く。君たちはここで待っていろ」

「我々も共に行きます!」

「いいや、お前たちにはその男たちを見ていてもらう必要があるからな。その三人をしっかり監視していろ」

「「「……かしこまりました」」」


 取り巻きたちが(こうべ)を垂れた後、不安げなレージェがモテナに歩み寄る。


「私も行かなくていいんでしょうか?」

「あぁ、危ないからここにいなさい」

「……はい」


 レージェの表情にはありありと自信の無さが表れていた。胸元で手を握り、顔を俯かせる。


 そんなレージェを気遣うようにティアが寄り添い、モテナを見上げる。


「モテナさん、気をつけてね」

「あぁ、ありがとう。君たちは安心して待っていなさい」

「うん」

「ガウゥ」


 モテナは一つ頷き、ユリクスたちの後を速足で追った。


 暫く歩けばすぐにユリクスたちには追いついた。ユリクスたちは足を止め、鋭い視線で前を見据えていた。その理由を、モテナも悟る。


「なんだ、この禍々しい気配は……」

「……魔獣の放つものだろうな」


 ユリクスたちが感じているのは、鉱山内の薄暗い空間に広がる禍々しい気配。魔獣は禍々しい存在ではあるが、並の魔獣たちとは比べるまでもない。息が詰まるような重圧。肌を刺すプレッシャー。今までの魔獣とは違う〝異端〟がこの先にはいる。


 これほどまでの圧を感じさせる存在をユリクスたちは一度経験している。アクアトラスでの、龍種の混ざった複合種の魔獣だ。奴も相当だったが、その魔獣に勝るとも劣らない。普通の冒険者たちならば恐怖で足が竦み、これ以上先には進めないだろう。


 〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟であるモテナも、流石に蟀谷(こめかみ)を冷や汗が伝った。


 ライトたちは少々緩んでいた気を引き締めて、前を鋭く見据える。このプレッシャーを受けて、油断をすれば死ぬ可能性があることも分からない程愚かではない。だがそれだけじゃない。正直なところ、ユリクスがいて負けるとは思っていない。しかしだからといってユリクスにおんぶに抱っこなど御免だった。実力差があることなどわかっている。それでもユリクスとは対等でいたい。仲間だから。そんな思いがライトたちの胆力を後押しする。


 そしてユリクスは、息を深く吸い、吐きだし――体の力を抜いた。今にも押しつぶさんとしてくる重圧を前に、無防備にも脱力する。いや、無防備ではない。これがユリクスの構え。いつも通りの無表情に、肩の力を抜いて腕を下ろす独自の自然体。誰が相手だろうと、ユリクスは気負わない。障害を前にして、己の力を振るうことに何も変わりはないのだから。(ゆえ)にユリクスは自然体のまま仲間たちを(かえり)みた。


「……準備はいいか」


 ユリクスの気負っていない様子を見てライトたちは目を見張り、そしてふっと笑った。この頼もしい男の仲間ならば、気負わずに飄々と困難を乗り越えてみせなくてどうする。意志は燃え上がらせ、しかし自分らしさを忘れずに。良い具合に肩の力が抜けたことを確認して、ライトたちはユリクスに頷いてみせた。


 そんなライトたちに、ユリクスもまた頼もしさを感じて頷き返した。


「お前たちはすごいな……。何故この圧を前に堂々としていられるのだ」


 モテナが一連のやり取りを見て呟く。ユリクスたちは一瞬考えるような仕草を見せた後、モテナに向かい合った。


「兄貴の弟分っスからね。恥ずかしい真似はできないっス」

「こんなことで怖気づいてたらこれからユリィを弄れなくなるじゃない」

「がっはっは! 年長者としてしっかりしないとな!」

「こいつらには俺が必要だからな」


 モテナは面食らう。なんとも個性が強いというか偉大でないというか、なんというか。常に人々の前に立つべきと思って行動しているモテナにとっては理解しがたい理由だった。そしてユリクスの回答は。


「……魔獣よりこいつらを相手にする方が疲れる」


 魔獣ではなく、勝手に弟分を名乗るライトと、弄りたい願望のあるリアナと、うるさいリューズと、上から目線のイヴァンにげんなりした表情をするユリクス。


 ユリクスの回答と表情に唖然とするモテナ。いつも〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟としての、強者としてのあるべき姿を意識して行動していた自分が馬鹿らしくなってくる。だが、モテナは気づいた。彼らのこのあり方こそ、自分らしくあるということ。もしかしたら、それが彼らの強さなのかもしれない。


 モテナの口元が緩む。


(まったく……こんな無軌道な連中に気づかされるとは……)


 モテナの足が竦んだのは、〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟として、人々の希望として、魔獣を圧倒しなければならないという使命感を負っていたから。その使命感を悪いことだとは思わない。だが、それで雁字搦(がんじがら)めになっていては元も子もない。


 今は自分一人ではない。頼もしい神人族たちがいるし、何より、気に食わないが最強と言われているもう一人の〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟がいる。ならば自分も、戦うことだけに専念していいのではないか。そう思ったら、モテナの体から無駄な力が抜けた。冷や汗もかいていない。


 モテナは()()()()()長い前髪をかき上げた。


「本当にどうしようもない連中だなお前たちは。魔獣のことは案ずるな。何故ならば今ここには、〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟、炎の騎士、モテナ・イデスバーンがいるのだからっ!」


 いつもの調子を取り戻したモテナを見たユリクスたちは。


「案ずるなって言われても……」

「そもそもビビってたのってあいつだけよね」

「それは言わないでいてやろうぜ?」

「まったく、清々しい程の上から目線だな」

「……お前がそれを言うのか」


 ユリクスたちは揃ってやれやれと首を振った。だがまぁ、これでモテナが本来の力を振るえるのであれば良いことだ。


「……先に進むぞ」


 ユリクスの号令で歩き出す。先に進めば進むほど、禍々しい気配は強くなっていく。怖気づいてはいないが、どうしても口数は減り、靴音だけを響かせて薄暗い道を進む。


 採掘場まで続く通路の終わりが見えてきた。広い空間に繋がる口が大きく開かれてユリクスたちを待ち構えている。すると、ぐちゃり、ぐちゃりと生々しい音が聞こえてきた。


「……何の音っスか……」


 ライトの呟きに答える者はいない。


 歩きながら採掘場の景色が見えてくる。


 ――グルルルルゥ……


 腹に響くような重低音の唸り声。


 とうとう採掘場に辿り着く。(ひら)けたその空間に出て最初に感じたのは、鼻を刺す血生臭い()()


 目の前にもう、()()


「散開しろっ!!」


 モテナの叫びの直後、全員が反射で左右に散る。同時に。


 ドガァァァァン!!


 自分たちがいた場所に何かが落ちてきて、地面をひび割れさせた。――否、落ちてきたのではない。振り下ろされたのだ。巨大な前足が。


 グルァァァァァァアア!!


 鼓膜が破れそうになる程の大きな咆哮。


 ユリクスたちはそいつを見た。でかすぎて、至近距離からでは全身を確認できない。だが順に見ていけば全貌がわかる。


 虎だ。巨大な虎。背には赤みがかった翼が生え、尾も赤みがかった複数の羽。恐らく、炎虎と不死鳥の複合種。だがそれにしても。


「でかすぎっスよぉっ!」


 ライトが全員の思考を代弁した。あまりにもでかすぎる。全員が魔獣を警戒しながら周囲を観察する。


「……魔獣を食らっていたのか」


 周囲に散らばるのは事前にユリクスたちが倒していた魔獣の群れ。とはいえ数が減り、残ったもののいくつかは食いちぎられた跡がある。先程の生々しい音はこの魔獣が他の魔獣を捕食していた音だった。


「どうやって入り込んだのかと思ったが……どうやら正面から無理矢理通ってきたようだな」


 モテナは道の一つ、不自然な形で且つ巨大すぎる穴を見て言った。まだ奥の採掘場にいた時に響いてきた音と振動は、この魔獣が道を破壊しながら進んできたものだったようだ。


「こんなに大きな魔獣が龍種の他にいたなんて……」

「もしかしたら他の魔獣を食って成長したのかもな」

「様相も他の魔獣とは比べものにならんくらい酷いものだな」


 巨大で、歪で、禍々しい。他の魔獣とは一線を画する存在と、ユリクスたちは対峙する。全員が神器を顕現(けんげん)させ、自分たちを獲物としか見ていない目をした魔獣と向かい合う。


 さて、どうやってこいつを生殺与奪の権の頂点から引きずり降ろしてやろうか。


 ユリクスたちは揃って瞳をギラつかせた。





お読みいただきありがとうございます。


次回更新は17日です。

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