蹂躙劇開幕
――炎の如き装飾が施された二丁の銃が敵を喰い殺さんと銃口を燃え上がらせる。
――死への誘いを謳う大鎖鎌が敵を蝕もうと猛毒を滴らせる。
――シトリンの光を灯す大鎚が敵の生命力を奪わんと輝く。
――白銀のチャクラムが敵を切り裂かんと刃の如き鋭い風を纏わせる。
――重厚の大槍が敵を貫かんと獰猛に風を吹き荒ませる。
――漆黒に閃く抜き身の刀が敵を斬り伏せようと刀身で紫電を躍らせる。
準備は整った。後は戦端を開くのみ。
魔獣の大行進に大地が揺れ、草原は踏み荒らされ、砂塵が舞う。木々はざわざわと不吉を運ぶように揺れる。だがその不吉はどちらの側に運ばれるものなのか。それはまだ神のみぞ知るもの。とはいえここにいる人間たちは揃って自分たちに運ばれてくるとは微塵も思っていないようだ。それだけの気迫に満ちている。
「ユリクス、開戦の合図、いっちょぶちかましてやれ」
魔獣との距離は約五十メートル。
自身も瞳をギラつかせながら、ゲオルグは狼煙を上げる役目をユリクスに譲った。
「……面倒な」
でもやる。何故ならば苛立っているから。
ユリクスは紫電を纏わせた黒刀を片手で引き絞り、地面と平行に構える。ユリクスの放出する魔力量が爆発的に上昇し、刀身の上では更に紫電が踊り狂う。その圧倒的な圧に魔獣たちの先頭が本能で一歩後退り、列が詰まる。
とうとう刀身が紫電で覆い隠され見えなくなると、ユリクスの瞳がよりギラつき、そして。引いていた黒刀を鋭く前に突き出した。黒刀から放出される一条の紫電。レーザー砲の如きその魔法は轟音を響かせながら押し寄せる魔獣の群れに大穴を開けた。
「でたー! 兄貴の《雷龍の咆哮》! 強烈に痺れるぅっ!」
いつものようにライトがユリクスの魔法に勝手に名前をつけるが、その間にも魔法から運よく逃れた魔獣たちが迫ってきている。どうやら魔獣たちはアクアトラスへ向かうより先に、障害物であるライトたちを殺すことに決めたようだ。
ライトは力が解き放たれる瞬間を今か今かと待っている二丁の銃を構えた。
ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ!
ライトが目の前にいる魔獣たちに《銃炎弾》を放つ。一体につき一発。的確に急所を狙い撃つためにたったそれだけで済む攻撃を連発する。
眼前で亡骸の山が作られるが、魔獣たちの進行は止まらない。
ライトを数の勢いで押し潰さんと魔獣たちが迫った時、身体強化を施し、加えて足裏に炎を放出した瞬間の爆発力を用いて大きく跳躍する。そのまま空中で体を上下反転させると、逆さまの状態のまま地面に腕を伸ばして発砲する。
ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ!
ライト目掛けて突進してきたために一か所に集まっていた魔獣たちを一斉に仕留める。それが終わると、今度は体の向きを元に戻して、少し離れた位置にいる魔獣たちに狙いを定める。腕を斜め下に広げて左右に発砲した。
ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ! ドバンッ!
見事な早撃ちで空中にいる間に周辺の魔獣を仕留めきったライトは死骸の海へと着地する。
クルクルと銃を指で回すと、ライトは再び迫りくる魔獣たちに向き合った。
「流石ね。また狙撃の腕が上がったんじゃないかしら」
ライトの戦いぶりを少し離れた位置から見ていたリアナは感嘆の言葉を呟く。
自らの眼前にも迫りくる魔獣の群れ。その中で一匹、列を乱して飛び出している蠍種の魔獣を発見した。リアナはその魔獣に狙いを定める。
神器の長い鎖を魔獣に向かって伸ばす。纏わせた毒を器用に操作して鎖を魔獣の体に巻きつけると、そのまま身体強化を自らに施して円を描くように魔獣を振り回す。
蠍種の外殻は固い。それが勢いよく叩きつけられた周囲の魔獣たちは次々と吹き飛ばされていく。
己を中心にして魔獣たちがいなくなったことを確認すると、絡めとっていた蠍種の魔獣を引き寄せて鎌で両断する。
少し離れたところで次の魔獣たちが迫るが、数十体が不自然に倒れていく。先程魔獣を振り回していた時に毒も一緒に撒き散らしておいたのだ。それを吸い込んでしまった魔獣たちはなすすべなく絶命していった。
だが、迫る魔獣の全てが毒に侵されるわけではない。運よく毒を吸い込まなかった個体が近づいてくる。
リアナは妖艶に舌なめずりすると、再び振り回すに適した魔獣を見出して狙いを定めた。
「おいおい、リアナの奴、吹っ飛ばした魔獣がこっちにも来てんじゃねぇか。しゃあねぇなぁ」
少し離れたリアナの方角から魔獣が吹き飛んできて、運よく内臓の破裂しなかった魔獣たちが今度はリューズに向かってくる。
やれやれと嘆息を漏らしながらも、こちらもやる気は十分。数体増えようが問題はなかった。
筋骨隆々な腕にシトリンの光が発生し、腕が更に逞しくなる。大鎚の柄を伸ばし、こちらもリアナ同様大鎚を円を描くように振り回した。ただ、リアナと違うのはその威力。大鎚で打たれたものだけでなく、風圧によって奥にいた魔獣までまとめて薙ぎ払われる。迫っていた魔獣たちが木っ端のように吹き飛んでいく。
次の群れとの間にある程度空間ができると、リューズは吹き飛ばされて潰れた魔獣の亡骸に近づき拾い上げた。それを軽く空中に放り投げ、大鎚の柄の長さを短くしてバットのように構える。大きくテイクバックして……。
バコーン!!
思いきり打った。少し離れたところにいた群れに魔獣の亡骸が吹っ飛んでいき、まるでボーリングのように複数体の魔獣をまとめてぶっ飛ばす。
バコーン! バコーン! バコーン!
それを何度も繰り返し、四方八方で魔獣たちが宙を舞う。
よし、と満足げに頷いたリューズは次に大鎚の柄を伸ばし、更にヘッドも巨大化させる。身体強化と強靭な膂力で飛び上がると、全体が巨大化した大鎚を魔獣の群れの中心に向かって振り下ろした。
グシャリッ!!
一気に多くの魔獣がぺしゃんこに潰され、大鎚の振り下ろされた大地が真っ赤に染まる。
一発に相当力がいるため一息入れたリューズは、再び巨大な大鎚を振り下ろすため、次の群れに視線を転じた。
「ふんっ、どいつもこいつも力任せな」
そこら中で魔獣が宙を舞う様を見て、イヴァンは呆れたように鼻を鳴らした。
イヴァンの周囲には十のチャクラムが風を纏って浮遊している。主を守るように円形に配置されているそれは、魔獣が近づく度にスパンッと切り裂いていく。
チャクラムの数だけ風を精密に操作し、隙なく展開する手腕は実に見事だ。
敵が近づく度に切り裂いていたが、ふと、ここで手法を変えることにした。決して自分だけ地味だな、なんて思ったわけではない。決して。
チャクラムがイヴァンを中心にして集まり、綺麗な円を作る。すると、イヴァンを囲んだままぐるぐると周囲を回転し始めた。徐々にスピードが上がり、とうとう十のチャクラムが一つの輪に見えるようになる。一つの輪は風を巻き起こし、竜巻を作り上げた。
パチンッと指を鳴らした――本来なら不要な――合図でチャクラムの間隔が広がり、同時に竜巻も広がっていく。
生み出された大きな竜巻は魔獣を次々と呑み込み、切り刻み、赤みがかってゆく。
同胞たちの血を得て威容の増した竜巻に、本能で危険を察知した魔獣たちが逃走を試みる。だが風に体を絡めとられ、竜巻に引き寄せられる。
逃げることもままならず、反撃する余地もなく、ただただ呑み込まれその命が絶たれていく。
竜巻が血肉で真っ赤に染まった頃、やっと竜巻はその姿を消した。中から現れたのは涼しい顔をしたイヴァンただ一人。呑み込まれた魔獣たちは原形も保てずに地に帰った。
自分を中心に更地となった周囲を俯瞰してから、懲りずに迫りくる魔獣の群れを再び竜巻の餌食にすべく、鋭い視線を送った。
「ったく、どいつもこいつも派手好きな奴らだぜ。俺が総長として目立てねぇじゃねぇか」
呆れたような言葉を言いながら、その声音は実に楽しそうなゲオルグ。元々強者好きなゲオルグだ。前代未聞の魔獣の軍勢を前にして、怯むどころか己の力を存分に発揮して戦う彼らと並んで戦えることが嬉しくて仕方ない。
ユリクスと出会う前は自分が一番だった。〝ギルド総長〟、〝風槍の守護者〟と呼び崇められていた。正直それは誇らしくもありつまらなくもあった。ギルド総長として世界に貢献できることは嬉しいが、一人の冒険者としては張り合いがなかったから。
だが、今はどうだろう。ライトやリアナ、リューズ、イヴァン。十分な伸びしろを感じる彼らがそこにいる。神人族であり、肩身の狭い思いをしてきたはずなのに、確かな信念を持っていることを今ここで示している。
彼らも凄いが、一頭地を抜いているのはユリクス。この男に至っては底が計り知れない。確実に自分より強いことはもうわかっているのに、この男はまだその実力を発揮していない。この世に武神がいるのであれば、この男こそがそれではないかとさえ思えてくる。感心を通り越して末恐ろしい。
ゲオルグは目の前の魔獣ではなく、彼らと共に戦える歓喜に、ユリクスの古今無双なその恐ろしいまでの実力に一つ汗を滴らせた。
高揚している気分をそのまま魔力に変えて、大槍に風を纏わせる。吹き荒ぶ風にイヴァンのような華麗さはなく、まるで小さな嵐のような暴風だ。
身体強化と強靭な膂力で大槍を片手で構える。先程のユリクスと同様に引き絞り、目の前の魔獣の群れに向かって鋭く突き出した。すると、矛先から竜巻が発生する。その竜巻は魔獣の群れを穿ち、地面を抉った。一線を描くように魔獣がいなくなると、竜巻を発生させたまま槍を横に動かす。竜巻は方向を変えて隣の群れを続けて穿つ。
そのまま一周すると、ゲオルグの周囲から魔獣は消え失せ、ゲオルグを囲むように地面に円が描かれた。
だめだ。この程度では満足できない。上には上がいることを知ってしまった今では、この程度の魔法では一切満足できない。ゲオルグは自身の伸びしろを探すために、この場にいる魔獣たちを利用することに決めた。
「……」
ユリクスは無心で黒刀を振り続けていた。兵器のように。死神のように。向かってきた順で次々斬り殺す。
こういった作業は慣れていた。今までもずっと独りで戦ってきたから。だが、今までと違うことが一つある。それは、意識の端々で感じる彼らの気配。共に戦場に立っている仲間の気配。
ずっと独りで戦場に立ち続けてきた自分には不思議な感覚だった。
いつも敵の殺意は自分に向いていた。戦場には〝己に向けられる殺意〟しかなかった。頼れるものは何もなく、常に孤軍奮闘。多数の敵に対して自分は独り。まるで自分だけが悪になったような感覚。
だが今は違う。町を守るために、共に戦う仲間たちがいる。自分の行動は何一つ間違っていないのだと、自分は兵器ではないのだと、示してくれる。
無心で刀を振っている? いいや、それは否だ。今の自分の刀には確かに信念が宿っている。仲間と共に戦うという意志。後ろで見守るティアを守るという意志。アクアトラスでできた思い出を守るという意志。
今までの自分とは違う。自分は兵器でも死神でもなく、一人の人間としてここに立っているのだ。
戦場にいるはずなのに、どこかあたたかい。戦場にあって、感情は確かにここにある。
そうなると、ユリクスの確かな思いは一つだった。
――この数、面倒だなぁ。
ユリクスは刀を振るのをやめた。代わりに紫電の纏った刀身を地面に突き立てる。すると、突き刺さった刀を中心に紫電が大地に広がっていく。電流が走るが如く素早く広がったそれは、全ての魔獣の下に広がりきった。
「うぇっ!? なんスかこれぇ!?」
「ちょっとこれユリィの仕業!?」
「がっはっはっ! 驚いたぜ!」
「ユリクス貴様! せめて何か言ってからやれっ!」
「おいユリクス! お前なにやらかすつもりだ!?」
全ての魔獣の下に広がったということは、それはもちろん仲間たちの足元にも広がったわけで。そこかしこで動揺する声が聞こえてくる。ユリクスは知らん顔で魔法を発動した。
支配地から小さな龍を模した紫電が大量に発生し、まるで生きているかのように次々と魔獣を喰い殺していく。突如足元から発生した雷龍に魔獣たちが抵抗できるわけもなく着実に数が減っていく。減っていく数、およそ三万。
もちろん仲間たちに被害がないようコントロールしているため、ユリクスの元に徐々に集まってくる。
「すごいっス! 新技っス! 《支配者の園》とかどうスか!?」
「ユリィのとんでも魔法には驚かされてばかりだわ……」
「がっはっはっ! すげぇ! そこら中に龍がいっぱいだ!」
「貴様! 俺の分の敵まで奪いおったな!」
「ユリクスお前、やめとけって言ったじゃねぇか!」
「そう言いつつゲオルグさんめっちゃ瞳がキラキラしてるっス」
ユリクスの魔法への反応は様々だ。気配でわかってはいたが、やはり誰一人傷を負っていないようでユリクスは少しだけ安堵する。
「おいおいユリクスよぉ! お前こんなとんでもねぇ魔法まで使えたのか!?」
「……いや、今思いついた」
「今思いついたんスか!?」
「よくこの状況で思いついたわねぇ」
「……これだけの数相手にするのは面倒だろう」
「「「えぇ……」」」
面倒故に思いついた、しかもこれだけの大魔法をその場で完成させるという神業に感心を通り越して呆れかえる一同。
魔法の広がる一面を見渡せばほぼほぼ魔獣は喰い殺されており、全滅するのは時間の問題だろう。事前の討伐分担は一体何だったのかと言いたくなる。
開き直って、魔獣が一匹残らず喰い殺されていく光景をじっと眺める一同。あれだけの数いた魔獣のなんと哀れなことか。
これだけの大魔法を使っても汗一つ流さない化け物を相手にしてしまったことが運の尽きだ。
魔獣たちが残り数体となったところでゲオルグが面白そうにユリクスを見遣った。
「ユリクスよぉ、お前面倒だからってこんなことしたがよ、この後どうなるかわかってんのか?」
「……この後?」
「ボクなんとなく想像つくっス」
「あたしも」
「んぁ? おー、そういうことか!」
「馬鹿め」
「わかってねぇのは本人だけかよ」
「……」
この後、はて、何かあったか? 首を傾げても答えは出なかった。
魔獣が殲滅されたタイミングでティアが近づいてきた。
「みんな、お疲れさま」
「……怪我はないな?」
「うん、もちろんだよ」
「……そうか」
ユリクスが魔法を解除し、全員揃って関所へと戻っていく。だが、それは関所と自分たちの間で待機していた冒険者たちに妨害された。全員瞳が物凄くキラキラしている。ユリクスはゲオルグが言っていたことをやっと悟った。過去に帰りたい。
そんなユリクスの心境など知らずに冒険者たちがユリクスを囲む。
「物凄い大魔法でした!!」
「俺、すごく感動しました!!」
「最強っていうのは本当だったんですね!!」
「龍王ユリクス万歳!!」
「バカ! そこはユリクス様だろう!!」
「龍王様!!」
「ユリクス様万歳!!」
ユリクスの表情は死んだ。
「兄さんこれで人気者」
「兄貴がみんなに認められたんスね!」
「がっはっはっ! これで世界に名を轟かせることになるな!」
「ユリィのあの顔、ほんと傑作」
「自業自得だ。馬鹿め」
「まぁでもこれで、アクアトラスの連中にとってユリクスやお前らは救世主になったろ。後ろ盾が一つ増えたな」
「アクアトラスの? でも冒険者たちはともかく、町の人たちは今回の件を知らないんじゃなかったかしら?」
「いや、よく見てみろよ」
ゲオルグに促されて冒険者たちの後ろの方を見遣ると、なんと民衆たちが町から出て歓声を上げていた。冒険者たちの大歓声に混ざっていたため気づかなかった。
民衆たちの近くにカラルがいるため、恐らく彼の仕業だろう。ユリクスたちの後ろ盾を作るために動いたというわけか。
「龍種の魔獣の件もあって、今やユリクスはこの町の英雄だな。なんならカラルに彫像でも作らせるか」
「それは流石に兄貴のメンタルが死ぬっスね」
なにやらカラルが民衆たちに何かを伝えている。すると、民衆たちから「龍王ユリクス様万歳!!」という大歓声が響いてきた。その横でカラルはにこやかに笑っている。
ユリクスの表情は完全に死んだ。
「兄さんの口から魂出てる」
「兄貴ー! 戻ってきてー!」
「がっはっはっ! ほんと面白れぇな!」
「おーい、お前らー、そろそろユリクスを解放してやれー」
ゲオルグが力のない声で解放を求めているが、大興奮中の冒険者たちには全く聞こえていない。その間にもユリクスはもみくちゃにされている。更には民衆たちも近づいてきてユリクスの姿は完全に隠された。
ティアたちは適当にユリクスの精神が無事戻ってきますようにと祈る。その祈りは届きそうにないが。
「ユリクス君大人気ですねぇ」
「おー、カラル。お前もご苦労さん」
「いえいえ、総長たち程ではありませんよ。僕は冒険者たちや民衆たちに声掛けして回っただけですから」
「ううん。おかげで兄さんはたくさんの人に好かれるようになった。カラルさん、どうもありがとう」
「どういたしまして」
カラルを加え、ティアたちは大歓声の光景を眺める。四万もの軍勢が迫ってきていると知った時はどうなることかと思ったが、守ることができてよかったとしみじみ思う。なんせ、守れずにアクアトラスへの侵攻を許してしまえば、この平和な光景は見られなかったのだから。
ティアは少し寂しそうな顔をしてライトたちに向き合った。
「みんな、本当にありがとう」
「どうしたんスかティアの姉御?」
「私は戦えないから、この町を守れなかった。みんなが守ってくれたから、今のこの光景はあるんだもの」
「……あんたも戦いたいのね、ティア」
「……うん。私に力がないのはわかってる。でも、やっぱり歯痒いなって」
「なにも戦うことが全てじゃない。お前は不死鳥の一族で、人を癒やす力を持ってる。お前はそうやって人を助ければいいさ」
「ゲオルグさん……」
ゲオルグがティアの頭に手を乗せて慰める。
ティアはまだ完全に納得はできなかったが、それでも自分のできることをしようと考えを改めて頷いた。でも、きっといつか自分に力が目覚めますように。そう願わずにはいられなかった。
「さて、僕は先に町に戻ってここにはいない民衆たちに状況を説明してきます」
「頼んだぞ」
「えぇ。しっかり龍王様についてお伝えしておくのでご心配なく」
カラルはにこりと人好きのする笑みを残して町に戻っていった。ユリクスにとっては不穏な言葉を置き土産にして。
「あいつもいい性格してるよなぁ」
ゲオルグもカラルの腹黒さに小さく笑った。
「ていうか、この光景はいつまで続くのかしら」
リアナの言葉により目の前で繰り広げられる光景に意識を戻したが、その熱が冷める様子はない。やれやれと息をつきながらも勝ち取った平和な光景を眺め続け、結局それは夕方近くまで続いたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
次回の更新は11日です。




