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幕間 リアナ

リアナ視点です。

 ガタガタと馬車が揺れる。その揺れも不愉快だけど、何より不愉快なのが同乗者。


「装備の手入れも碌にできねぇのか! 使えねぇなテメェはよ!」

「も、申し訳ございません……ッ!」


 目の前にいる冒険者の男が奴隷と思われる女性を殴りつけている。一体どういう神経してんのよ。ていうか大事な武器くらい自分で手入れしなさいよ。


 この国、ベルファリナ王国に入国してからこんな光景ばっかりで辟易(へきえき)する。どいつもこいつも神人族を道具のように扱って。本当に、不愉快。


 この馬車はもう少しでベルファリナ王国の大都市、シーガラスに到着する。どうせそこでもこの光景は変わらないのでしょうね。


 関所での雑な検問を通って大都市に入る。そこは想像以上に奴隷の扱いが酷かった。思わず顔を歪めてしまう。


 町の中を歩いてみれば、娼館に連れ込み宿、酒場。オプションは奴隷への暴力。それが店の価値を下げると何故気がつかないのか。


 もう宿に行って休んでしまおうかしら。町に入ってすぐに、娼館や連れ込み宿に混ざって点在している普通の宿にチェックインしておいたし。


 そう考えて、散策をそこそこに行きとは違う道を通って宿へ向かう。


「奴隷は残り一人ですよー! いかがですかー!」


 そんな声が耳に入った。奴隷商人。不愉快な商売ナンバーワン。どういう神経で自分と同じ人間を売っているのよ。


 そんなイライラした気持ちで横を見る。そこには痩せ細った一人の女性が鎖に繋がれて売られていた。雑に切られた茶髪が痛々しい。値段は金貨五枚。奴隷の相場を考えれば高額。とはいえ人間の価値はお金なんかに釣り合わせるべきものではないけれど。


「最近の奴隷はみんな高過ぎるな……」

「あぁ、補充したくとも手が出せねぇ」


 補充……ねぇ……。


 言葉一つ一つにイライラする。


 奴隷の相場が上がりつつある理由は知っている。奴隷解放軍という団体が奴隷を保護しているらしいから。どんな理由でそんなことをしているのかは知らないけれど、それが良い理由であることを望まずにはいられない。


 少し思考が違う所へ飛んでいる間にどんどん人が集まってきた。奴隷を購入するかみんな悩んでいる。人が集まるほど、売られている女性の表情は苦しいものになる。ふと、その女性と目が合った。酷く怯えている。


 同じ女として、神人族として、放っておけなかった。


「商人さん、はい金貨五枚。その人もらうわ」

「まいどあり!」


 女性に繋がれた鎖を手渡される。不快な物だけど、今は我慢して握る。


「行きましょう」

「……はい」


 とても弱り切った返事。それだけで酷く胸が痛んだ。


 寄り道をせずに真っ直ぐ宿に帰ってきた。そこで鎖を外す。


「え……なんで鎖を……」

「必要ないからよ。ご飯の支度しておくから、先にシャワーでも浴びてきなさいな」

「いえ……食事なら私が……」

「いいから、行った行った」


 半ば無理矢理シャワールームに押し込む。服は……とりあえずあたしのでいいわね。服を一式用意してシャワールームの前に置いておく。それからあたしは食事の準備を始めた。


「あれだけ痩せ細っているからいきなりボリュームのある物は無理ね」


 彼女の状態を考えながら料理を作った。


 食事をテーブルに並べ終えた頃。


「あの……」


 恐る恐るといった様子で彼女が出てきた。何故か全裸で。


「ちょっ!? なんで服着てないの!? ちゃんと置いといたわよね!?」

「え……あんな高価な服は、着れません……」

「いいから着る!」

「はっ、はいっ」


 彼女は慌てて服を着にいった。心臓飛び出るかと思ったわよ……。


 数分で彼女は戻ってきた。用意した服はあたしのお古だけどサイズは大丈夫そう。よかった。


「ご主人様、私はどうすれば……」

「じゃあまず食事ね。食べやすいお雑炊作ったから食べちゃって」

「え……」


 彼女が酷く困惑している。食事も碌に与えられていなかったことが窺えて胸が痛い。


「いいから、食べる」

「はい……」


 床で食べようとしたので、椅子に誘導して座らせた。あたしの様子を窺いながらゆっくりと食べ始める。


「美味しい……」

「そう、よかった」


 味に自信はなかったけど、口に合ったみたいで安心した。彼女ががつがつと食べ始めたのでゆっくり食べるように注意しながら二人で食事を取った。


「ご馳走様でした」

「お粗末様でした。片付けちゃうからお皿ちょうだい」

「いえっ、片付けは私が!」

「いいから、座ってる」

「……はい……」


 彼女は言われた通りに大人しく座っている。寛いでていいのに。


 片付けを終えたあたしは対面に座った。


「あの、ご主人様、私は何をすれば……」

「じゃあまずはその呼び方をやめなさい」

「え……」


 あたしは彼女が怖がらないように意識して微笑んだ。


「あんたの奴隷人生はこれで終わり。今日からあんたはあたしの友達よ」

「……とも……だち……?」

「そう、友達。あんたはもう奴隷じゃないの。だからあたしのことはリアナと呼んでちょうだい」


 そう言えば、彼女はあたしの言葉の意味を噛みしめるように何度か繰り返して、そして泣いた。


「……ふっ、うっ……」

「今までたくさん辛かったわね。もう大丈夫よ」


 椅子から立ち上がって彼女に寄り添い、それから彼女が泣き止むまでずっと背中を摩り続けた。


 長い時間が経ってようやく、彼女は落ち着いた。


「あの、リアナさん」

「リアナよ」

「リ、アナ」

「そう。あんたの名前は?」

「ミサ。ミサ・フェニシスです」


 やっぱり不死鳥の一族だった。さっきシャワールームから出てきた時にも神核が見えていたからそうだとは思っていたけれど。不死鳥の一族の現状を実感して胸が苦しくなる。


「あたしはリアナ・スコープよ」

「っ……蠍の一族の……!」

「そう、生き残り。だから神人族が奴隷にされてるのが許せなかったのよ」

「そう、だったんですね。リアナ、助けてくれて、ありがとうございました」

「いいのよ」


 それからミサの話をたくさん聞いた。辛かったことをたくさん聞いた。あたしもたくさん話した。そうして、あたしたちは友達になった。




 ◇◇◇




「え!? 魔獣討伐の依頼を受けたの? 危ないよ……」

「ミサは心配性ね。あたしこれでも結構強いんだから大丈夫よ」


 シーガラスで何日か共に過ごして、すっかりミサとは打ち解け合った。


 だからこそ、奴隷だったミサを知っている人間がいるかもしれないからと、外に出してあげられないことが心苦しい。


「なら、私も一緒に!」

「だめよ。ミサは宿で待ってて。今日中に帰ってくるから」


 心配そうな顔で見送るミサを置いて、あたしは魔獣討伐のために町を出た。共同馬車に乗って行こうかとも思ったけど、また不愉快な光景を見るのが嫌で、徒歩で森へ向かった。


 魔獣討伐は難なく進んだ。八体程弱い魔獣を狩ったところで昼を過ぎていたからそろそろ戻ろうと大道へと出た。するとそこには三体の魔獣に襲われている馬車がいた。


「お前たち、絶対に魔獣を馬車に近づけるな! 一体の魔獣に三人でついて、一人は魔獣の後ろから攻撃するんだ!」


 リーダーらしき男の的確な指示で魔獣は男たちに気を取られ、馬車に襲い掛かってはいない。


「人々を守り抜け!」


(人々……?)


 妙な言い方にあたしは引っ掛かりを感じた。賓客(ひんきゃく)か観光客でも乗せているのかしら?


「奴隷解放軍の意地を見せろ!」


 奴隷解放軍。その単語であたしは状況を理解した。あの馬車は恐らく奴隷を運搬していた馬車だ。その中にいる奴隷たちを彼らは守ろうとしている。


 確証はないけれど、きっと助けるべき人たちだと思う。なら。


 あたしは駆け出して神器である大鎖鎌を顕現(けんげん)させ、長い鎖を一体の蠍種の魔獣に巻き付ける。身体強化を施して思いきり引き、勢いよくこちらに引き寄せられた魔獣をそのまま鎌で両断する。


(あと二体)


 こちらに気づいた人魚種の魔獣が水弾を発射してきたので鎌で引き裂いて掻き消す。そのまま魔獣を鎖で巻きつけて、隣にいたもう一体の人魚種の魔獣に叩きつける。怯んだ隙に魔獣たちを鎖で巻き、苦無(クナイ)のようになっている先端でまとめて貫く。体の小さい人魚種は毒の回りが早い。魔獣たちは毒に侵され、そのまま絶命した。


 放っていた荷物を背負い直してから奴隷解放軍の男たちに近づく。


「あんたたち、怪我は?」

「重傷者はでていない。助けてくれたこと、感謝する。何か礼をさせてほしい」


 どうやらこのリーダーらしき男は律義な性格らしい。


「礼なんていいわ。たまたま通りかかっただけだから。それより、状況を教えてもらっても?」

「あぁ、もちろんだ」


 話によると、彼らは奴隷商人の馬車を奴隷解放のために襲撃した。けれど途中で魔獣たちに襲われたらしい。奴隷商人の男はすぐさま馬車を置いて逃げ出し、彼らは奴隷たちを守るために戦っていたという。


(なるほど。奴隷解放軍っていうのは自分の命惜しさに逃げ出すような名ばかりの連中じゃないってことね)


 正直感心した。


「……あなたは、我々が奴隷解放軍だと知っても不快には思わないんだな」

「えぇ。あたしも奴隷制度は好きじゃないの。だからあんたたちの活動は応援してるわ」

「それは嬉しいな」

「あのっ」


 様子を見守っていた奴隷解放軍の一人が声をかけてきた。なんだか瞳が輝いているように見えるのは気のせいかしら。


「さっきの戦いぶり、感動しました! (あね)さんって呼んでもいいですか!?」

「はぁ?」

「俺も感動しました! その手腕に心から惚れました(あね)さん!」

「俺も!」


 次々と(あね)さんと呼んで慕ってくる。会ったばかりの相手にこんなに懐いて大丈夫なのかしらこいつら。


「はっはっはっ! これは参った! まさか一度会っただけで人望を持っていかれるとは!」


 とか言いつつこの男もまんざらでもなさそう。大丈夫なのかしら奴隷解放軍。


「やはり礼をさせてくれ。これから保護した人々を拠点に連れていくんだ。一緒に来てくれないか? 大したことはできないが、昼食くらいはご馳走しよう」


 お礼がしたいというより、あたしと話がしたいっていう魂胆が駄々洩れだわ……。まぁ、いいか。あたしも奴隷解放軍には興味があるし。


「少しの時間なら大丈夫よ」

「それはよかった。感謝する」


 こうしてあたしは奴隷解放軍と保護された人々と共に拠点へと向かった。


 道中色々話をしたけれど、どうやら奴隷解放軍リーダーのこの男はアイサという名前らしい。やっぱり人間族だけど、剛腹で信頼も厚いみたい。


 拠点に着いてからはあたしの戦いぶりを男たちがそれはもう大っぴらに広めるものだから、奴隷解放軍の一員でもないのに(あね)さん呼びが定着した。


「初対面の相手にこんなに警戒心がなくて大丈夫なの?」

「それは問題ないさ。リアナ君、といったか。君が心根の優しい人間であることは少し話をしただけでわかったからね。君相手なら問題ない」

「短時間で随分信頼されたわねぇ」

「なにより、普通見ず知らずの他人のために複数の魔獣と戦ったりしないさ」


 それを言われるとなんとも……。自分が神人族で多少腕に自信があったからとも言えないし。なんて考えていると、あれよあれよと昼食の席に案内され、聞いてもいないのに奴隷解放軍の現状について聞かされた。そして。


「あの、(あね)さん。俺たちの仲間になってくれませんか?」


 言われるとはなんとなく思っていた。あたしは口を噤んだ。


「確かに、リアナ君が仲間になってくれるのは心強い。考えてみてはくれないか?」

「……」


 奴隷という存在は許せない。そんな同じ志を持ち、人間族で大きな力はないにも関わらず社会と戦っている人たちがいる。敵は社会だけじゃない。今回のように魔獣と戦う危険もある。多くの人間を養う食料を用意するのも一苦労。


 そんな彼らの力に自分がなれるならと、一切思わないと言えば嘘になる。


 でも、あたしには旅をしている目的がある。あの女を探し出して復讐するという目的が。


 あの女を探したい。でも、奴隷にされた神人族を放っておきたくもない。葛藤して、まだ答えは出ない。


「答えは焦らなくていい。心が決まった時に教えてくれればいいさ」

「……ありがとう。考えてみるわ」


 あたしの答えに奴隷解放軍のメンバーたちは喜んだ。断られはしなかった、と。どうやらポジティブな人間が多いらしい。そうでもないとこんな過酷な環境ではやっていけないものね。余計に放っておけないと思う。


 とりあえず、今回の話は一旦持ち帰ってミサと相談してみよう。そう思って考えるのをやめた。


「そういえば、ツバメルに行った連中がそろそろ戻ってくる頃だな」


 アイサの言葉が耳に入った。


「奴隷解放軍はどこまで活動範囲を広げているの?」

「ベルファリナ王国全土だ。奴隷にされた人を保護するのもそうだが、奴隷から解放された人を他の国へ逃がす活動もしている」

「逃がす……」

「あぁ。他の国でも神人族は生きづらいが、ベルファリナと違ってわざわざ探し出そうとする風潮はないからな」

「そう……」


 ミサは、どうしたいのかしら……。そんな考えが頭を(よぎ)った。


 夕方頃になって、奴隷解放軍たちに別れを告げて宿への帰路についた。宿に着くまでの間、あたしはずっと悩んでいた。


 ミサはずっと宿に閉じこもる生活をしている。奴隷として顔が広まっている可能性があるから、外に出れば神人族だと正体がばれるかもしれない。もしもばれてしまったら、きっとあたしから引き剥がされて再び奴隷にされる。あたしが買ったのだからという主張はきっと通らない。それだけこの国での奴隷の、いや、神人族へのあたりは厳しい。


 でも、だからといってこのままずっと宿に閉じ込めておくのは……。


 あたしはミサに自由になってもらいたい。ミサにとって一番の幸せの道を示してあげたい。あたしのミサへの思いは固かった。


 なら、あたし自身は? ミサと共にこの国を出る? ミサのように奴隷として苦しんでいる人々がまだいるのに?


 ミサと出会ったあの日、ミサからたくさん話を聞いた。どれだけ奴隷が過酷な環境にいるのかを知った。それは想像以上のものだった。


 ――やっぱり、放ってはおけない。


 あたしは意を決した。


 宿の部屋の前。あたしは柄にもなく緊張し、震える手で扉を開けた。


「おかえりなさいリアナ!」

「ただいま」


 いつものようにミサが元気に出迎えてくれる。ミサはすっかり明るくなった。けれどあたしはこれから、この表情を曇らせてしまうかもしれない。あたしは怖気づいてしまいそうになる心を奮い立たせてミサに向き合った。


「ねぇミサ、大事な話があるの。聞いてくれるかしら」

「大事な話? いいけど……待ってね、今お茶を淹れるわ」

「ありがとう」


 ミサがお茶を淹れてくれている間、あたしは自分に問い掛け続けた。うん、大丈夫。あたしの意志は変わらない。確認し続けて、とうとう目の前にお茶が置かれた。


 ミサが淹れてくれたお茶を二人で飲みながら、テーブル越しに向かい合う。あたしの緊張が伝わったのか、ミサも心なしか表情が強張っているように見える。


「それで、話って?」


 ミサが切り出してくれる。あたしからだと切り出しづらいだろうと気を遣ってくれるところもミサの良いところね。あたしは思わず口元をほころばせて話を切り出した。


「今日、奴隷解放軍と出会ったの」

「奴隷解放軍と……」

「そう。そこで色々と話を聞いたわ。それでね、奴隷解放軍は、奴隷だった人々を他の国へ連れ出す活動も行っているらしいの」

「……何が言いたいの?」


 聡いミサはそれだけであたしの伝えたいことを理解したみたいだった。あたしは続けた。


「ミサ、あんたは他の国へ行きなさい。他の国なら、今のように閉じこもる生活をしなくて済むのだから」

「……もちろんリアナも一緒よね?」

「いいえ」


 あたしの答えにミサは表情をより強張らせた。


「あたしは奴隷解放軍と行動を共にする。このまま奴隷にされた人々を放ってはおけないから」

「なら私も一緒にっ!」

「だめよ」

「どうして!?」


 ミサが勢いよく席を立つ。あたしは彼女の様子につられないように、冷静に話すことを強く意識して、宥めるように話を続けた。


「あんたは神人族として顔が知られている可能性がある。普通の人間としてこの国にいたら、いずれまた奴隷として捕らえられてしまうかもしれない。この国が神人族に対してどれだけ残酷か、あんたもよく理解しているでしょう?」

「でもリアナだって神人族でしょう!? もしそれが知られたら!」

「あたしはこの国の人間じゃないから、余程のへまをしない限りばれることはないわ」

「例えそうだとしても危ないことに変わりないじゃない!」

「今までずっと隠し通せてきたんだもの、これからも問題ないわ」


 あたしが剛毅(ごうき)に言ってのけると、ミサは一瞬言葉に詰まった。


「……私だって、リアナの奴隷として外に出れば何も問題はないわ」

「あたしはあんたを奴隷として扱うつもりは一切ない。例え奴隷として見せかけるためであっても、薄汚い服を着せるつもりもない」

「リアナ……」


 ミサは悔しげに瞳に涙を滲ませた。


「お願いミサ。あたしはあんたに自由に生きてもらいたいの。わかってちょうだい」

「……リアナが私を思ってこの話を切り出してくれたことはわかってる。でも、だからといって簡単に受け入れられるわけないじゃない……」

「あたしのことは恨んでくれて構わないわ」

「っ! 恨むわけない! リアナは私の友達だもの!」

「ミサ……」


 耐え切れずにミサの瞳から涙が零れ落ちる。あたしは立ち上がってその涙を指で拭った。ミサがあたしの拭う手をそっと両手で握る。


「……意志は変わらないんだね?」

「えぇ。変わらないわ」

「そう……。わかった。リアナは一度決めたら曲げないものね。今回は私が折れてあげる。……でも、約束して。必ずまた無事に会うことを。神人族だとばれて奴隷にされるようなことになったら、それこそ絶対に許さない」


 ミサの初めて見る毅然とした表情にあたしは意志をより固くした。奴隷解放軍として奴隷にされた人々を救う覚悟を。自身のことも守り抜く決意を。


「約束するわ。必ずまた会いましょう、ミサ」

「えぇ、必ず」


 毅然とした表情を崩して再び泣き出したミサを抱きしめてあやしながら、あたしも一族が滅ぼされて以来初めてできた親友の葛藤と優しさを思って、少しだけ泣いた。




 ◇◇◇




「それでは出発します」


 奴隷解放軍の馬車に乗せられて、奴隷にされていた人々が他の国に向かって出発する。その中にミサもいた。


「リアナ、元気でね」

「えぇ、ミサも」


 お互い泣くのはもう終わり。別れは笑顔で。その約束通りにあたしたちは微笑みあって握手を交わした。


 馬車がゆっくりと動きだした。あたしと奴隷解放軍のメンバーたちに見送られながら馬車が遠ざかってゆく。


 ミサは他の誰よりも明るい笑顔で手を振っていた。きっとそれは、あたしが自らの信念を貫き、再びミサに会うという約束を必ず守るだろうという信頼から。そう思ったらうかうかなんてしていられない。あたしの成すべきことを成さなくては!


 あたしは振り返って奴隷解放軍のみんなを見遣った。


「さて、あんたたち! 全ての奴隷を解放するなんて、並大抵の覚悟じゃできないんだからね! あたしが一からあんたたちを鍛えなおしてあげるわ! ついてきなさい!」

「「「はいっ、(あね)さん!!」」」


 必ず親友との約束を果たす。その誓いを胸に、あたしは新たにできた自分の居場所でこの力を存分に振るう。敵は社会制度。強大な敵だけど、望むところよ!


 そして、イリス。あんたのこともいつか絶対に見つけ出す。


 見つけ出したその時は、必ず――。






お読みいただきありがとうございます。

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