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〝神の六使徒〟

 片側だけ大きく刈り上げられた髪。鼻の位置には横一線に大きな傷。鍛え上げられた上半身が惜しげもなく晒される服。見た目だけで戦闘を好むことが予想できる男だが、何よりも只者でないとわかるのは、その圧。


 その圧は威嚇などそんな生優しいものではない。ただ一色の〝殺意〟だ。


 ユリクスにはわかっていた。男は今殺意を抱いているのではない。()()()()()のだと。男にとって相手に殺意を抱くのは当たり前。呼吸をするのと何ら変わらない。明らかに異常者だった。


「……先程から見ていたようだが、お前は何者だ」


 ユリクスは自身も〝威圧〟を放ちながら問い掛ける。互いの強力な殺意と威圧がぶつかり合い、周囲の者は大地が震えているのを錯覚した。


「おーおー、気持ちいい圧だなぁ一匹狼(スール・ノワール)。俺の存在にも気づいてたみてぇだし、強ぇお前と今すぐに殺し合えねぇのが残念でならねぇなぁ」


 男はユリクスの威圧を浴びて恍惚(こうこつ)とする。


「俺は〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟が一人、ゼス・バリアス。覚えておいてくれよなぁ?」

「……〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟ですって……?」


 男――ゼスが〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟だと聞き、逸早く反応したのはリアナだった。つい先程まで皆と同様にゼスとユリクスの圧に圧倒されていた彼女だが、その単語を聞いた瞬間、人が変わったように気迫に満ちた態度で噛みついた。


「あんたが〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟だと言うのなら答えなさい! あの女は……! イリスは! 今どこにいるのよ!」

「落ち着くんだリアナ!」


 普段の優麗さはなく、溢れ出る怨恨(えんこん)のままにゼスに飛びかからんとするリアナをアイサがしがみついて宥めようとする。しかしリアナは柳眉(りゅうび)を逆立ててゼスを睨み続けた。


「なんだこの女ぁ。大人しくしてれば食いがいがありそうなんだがなぁ。……ん?」


 リアナを品定めするような視線で見ていたゼスが、ふと何かに気がついた様子で首を傾げた。


「あー! イリスを探してるってことは、お前があのイリスがわざと生かしておいたっていう()()()()()()()()()かぁ! こりゃいい土産話にできるぜぇ!」

「……リアナが……蠍の一族……?」


 アイサをはじめとする奴隷解放軍のメンバーたちが困惑の声を漏らす。その様子を傍観(ぼうかん)して、ゼスは嘲笑した。


「おいおい、ずっと仲間として活動してたのに自分の正体すら明かしてなかったのかよぉ! こりゃ傑作だぜぇ!」

「ッ! ……うぅっ!」


 リアナが言葉を詰まらせる。イリスという女への強い恨み。神人族である事実を仲間たちに隠し続けていたことの罪悪感。自身の内で激情が渦を巻いて体が追い付かないのだろう。息を乱し、言葉にならない声を上げ続けている。


「……答えろ。ディーオ・アポストロとはなんだ」

「いいぜぇ。教えてやるよぉ」


 ユリクスの問いにゼスは邪悪な笑みを浮かべると、両手を広げて誇るように答えた。


「俺たち〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟は、あのお方にお仕えする直属の部下、六人の神の使徒さぁ」

「……神の……使徒」

「そぉさ。その内、俺を含めた五人は〝決別の日〟を龍、不死鳥以外のそれぞれの国で扇動した立役者ってわけ。解放者(リベレイター)たちに崇められる存在なのさぁ」

「〝決別の日〟を扇動したですって……!」


 ソフィアもまた柳眉(りゅうび)を逆立ててゼスを睨みつけた。


「……不死鳥の一族と龍の一族の国では誰が扇動したの……?」


 ティアが落ち着いた様子で問い掛ける。取り乱さないティアをゼスは面白そうに見下ろすと、またも邪悪な笑みを浮かべて答えた。


「不死鳥の一族はあの方が直々に滅ぼしたんだぜぇ? 龍の一族の国に扇動者はいなかったがなぁ」

「……なに?」

「知ってるかぁ? 龍の一族の国には最も解放者(リベレイター)が多かったのさぁ。それほど、龍の一族は人間族に恐れられていたってことだぁ。その特性ゆえになぁ。ざまぁねぇぜぇ」


 ククッと心底可笑しそうに笑うゼスにユリクスの威圧が高まった。黒刀を握る手が震える。心の奥底で誰かが人間族への憎悪を押し上げてくる。ユリクスの呼吸が浅くなる。


「だめ……兄さん、だめだよ……おねがい……」


 ティアが必死にユリクスの黒刀を握る手を両手で包み込んで宥めようとするが、その声はユリクスに届いていない。


「んぁ? その反応、お前龍の一族に仲良い奴でもいたのかぁ? ハハッ! なら俺の言葉が、解放者(リベレイター)が許せねぇのも仕方ねぇよなぁ! ほんとは許可されてねぇが、いいぜぇ? かかってこいよぉ!」


 ユリクスの目が理性を失い、ティアの手を振り払って駆けだそうとしたその時。




 ドバンッ!




 一発の銃声が響いた。銃声のした方向を見遣れば、ライトが天に向かって真っ直ぐに発砲していた。俯いていて表情は窺い知れない。


「あー、質問なんスけど、アンタの人種はなんスか?」

「あぁ? 人間族だぜぇ?」

「リアナの(あね)さん、そのイリスって人は?」

「……神人族よ」

「なら決まりっスね」

「あぁ?」


 ライトの言葉にゼスは(いぶか)しる。様子を窺っている周囲の人々も同様だ。


 ライトは顔を上げると、精悍(せいかん)な顔つきで言い切った。


「〝決別の日〟には神人族も人間族も関わってる。なら、恨むのに人種は関係ない。ボクにとって、〝決別の日〟を起こした者が悪だ。だから、〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟、お前たちを、そしてあの方とやらを、ボクは許さない」


 ライトの言葉に辺りは静まり返る。


 そうだ、争うべくは人種ではない。周りで聞いていた者たちの瞳から動揺が消え、純粋な光が宿る。


 そして、ユリクスの心境にも変化があった。




 ――人間族を赦すな。




 己の中で重苦しい声が響く。




(……だまれ)




 ユリクスはその声に、ライトの言葉の意味と己の意思を乗せて抑えつける。




 ――人間族を信じるな。




(……だまれ)




 ――怒りに身を任せろ。




(……だまれ)




 ――全ての人間に裁きを!




(……黙れ!!)




 己の意志を奮い立たせ、湧き上がる闇を抑えつける。


 吸い込む空気が冷たい。呼吸が楽になった。視界がクリアになる。動悸が徐々に収まっていく。隣に寄り添うティアの体温を感じる。ティアと目が合った。ティアが安心したように微笑む。その表情に、冷え切った胸の内で温度が戻ってくる。


 ユリクスはゆっくりと息を吐く。そして、横にいるティアと頷き合う。振り返って、目が合ったライトと頷き合う。


 じっとこちらを面白そうに俯瞰(ふかん)しているゼスを落ち着いた心境で見据える。


「……俺たちはお前たちが〝決別の日〟を起こした者であろうと進んで追うことはしない。……だが、俺たちに害なすというのであれば、容赦はしない」


 そう、あくまで自分たちは自分たちだ。〝決別の日〟を起こしたことを恨むことはあれど、それに囚われるようなことにはならない。決して自分を見失わない。そう言外に告げる。


「……チッ、つまんねぇなぁ。折角剣を交えられると思ったのによぉ。まぁ、いいわ。いずれお前とは戦うことになる気がするし、その時を楽しみに待つとするかぁ」


「だが」と、つまらなそうな顔から再び悪意に満ちた笑みを浮かべてゼスは上空に手を伸ばした。


「いいもん見せてくれた礼だ。受け取ってくれよ一匹狼(スール・ノワール)?」


 ゼスの体から膨大な魔力が湧き上がり、暗雲に稲妻が走る。そして。


 ビシャァァァン!!


 ユリクスの上空に落雷が起こった。ユリクスは瞬時にゼス以上の魔力で紫電を発生させ、落雷を消し飛ばそうとする。だが、ゼスとユリクスの発生させた雷が互いに強力過ぎて、衝突した直後に辺りを衝撃波が襲った。


 所々から悲鳴が上がり、周辺の建物が崩壊していく。


「……チッ」


 ユリクスは衝撃波を少しでも弱めようと己の魔力を弱める。その結果、衝撃波は多少弱まったものの、徐々にユリクスの紫電が押され始め、このままではユリクスに直撃不可避だ。


 少しずつ落雷の威力を殺して直撃を受けるか? と考えるが……。


「奴隷解放軍! 鷲獅子の神核を持つ者は風魔法を周囲に展開して衝撃波を少しでも抑えこめ!」

「「「イエッサー!」」」


 アイサが奴隷解放軍に指示を出し、ユリクスを囲むように風魔法を展開する。一人一人の魔法はかなり弱いが、人数が集まり、ある程度は衝撃波を抑え込むことに成功している。


「ユリクスさん! あとは落雷を消滅させてくれ!」


 アイサの声にユリクスは一つ頷くと、魔力を一気に高めて自らの紫電で落雷を呑み込む。最後に最も強い衝撃波が発生し、落雷は消え去った。


 展開された風魔法により多少衝撃波の威力は収まっていたものの、周囲の建物の被害は甚大だ。事前に民衆を避難させていたため、犠牲者がいないことが不幸中の幸いだった。


 落雷が収まり、沈黙が落ちていた場にパチパチと拍手の音が響く。


 ずっと傍観(ぼうかん)していたゼスがほどんど原形を留めていない建物の上に立ったまま、一つ口笛を吹いて拍手をしている。


「いやー、割とガチで発生させたんだけど、それをあっさり消し飛ばすなんて流石一匹狼(スール・ノワール)だぜぇ。じゃ、俺はこの辺で」


「じゃあなぁ」と言い残して、ゼスは紫電と共に消えた。


 一瞬の沈黙の後、アイサが奴隷解放軍のメンバーたちを「ご苦労だった」と労う。


「ユリクスさんも、ありがとうございました」

「……いや。奴隷解放軍の風魔法にも、感謝する」


 アイサと頷き合ったユリクスは次にティアとライトに向き合う。


「……ティア、ライト。……ありがとう」


 突然の率直なお礼にティアとライトはきょとんとする。しかしすぐに、先程ユリクスが暴走しかけたところを止めたことだと合点がいくと破顔した。


「一時はどうなることかと思ったっスよ~。でも、兄貴が全ての人間族を恨まないでくれたみたいで、よかった」

「うん。ライトのおかげだね」


「いや~」と照れるライトにアイサが笑む。


「それについてはこちらからも感謝を。……ティア君とライト君のことは本人たちから聞いていましたが、先程の反応、やはりユリクスさんも神人族なんですね」


 その確認にユリクスは頷く。


「……それから、リアナも」


 未だ沈黙を続けるリアナにアイサが呼び掛ける。その声に、リアナは頷いた。


「……黙っていてごめんなさい。みんなが神人族を信じてくれていることはわかっていたけれど、それでも、どうしても怖かったの。……本当にごめんなさい」

「リアナ……」

(あね)さんが謝ることないです!」


 サギリが声を上げる。すると、一拍遅れて、奴隷解放軍のメンバーたちから続々とそうだという声が上がった。


「そうです。(あね)さんが謝ることなんて何一つありません!」

「今のご時世、神人族が生きづらくなってるのは重々承知してます。だから言えなくても仕方ないです!」

(あね)さんが神人族でも、俺たちの(あね)さんであることに変わりありません!」

「あんたたち……」

「そうだよ、リアナ」


 アイサがリアナの肩に手を置く。


「神人族も人間族も関係ない。リアナはリアナだ。だから、自分を責めることは何一つないさ」

「アイサ……」


 リアナがアイサと、奴隷解放軍のメンバーたちにゆっくりと視線を巡らせる。


「……ありがとう」


 元の優麗さを取り戻した笑みで、そっと噛みしめるように言葉を紡いだ。


「……あの、リアナの(あね)さん、イリスっていうのは……」


 ライトが躊躇いつつも問い掛ける。リアナは困ったような笑みを浮かべて、そして悲愴(ひそう)を表情に孕ませて答えた。


「あたしと同じ、蠍の一族の女よ。同胞たちを殺し、そしてあたしの恋人を殺した……」

「恋人さんを……」

「えぇ。あの女の異常性は前々から感じてはいたわ。でも、まさか同胞を進んで殺すなんて思わなかった。〝決別の日〟に、あたしに向かって自分は〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟だと名乗っていたから、さっきは過剰に反応しちゃったの」

「そうだったんだね……」

「……リアナの(あね)さんの気持ち、少しはわかるつもりっス」

「ライト?」


 ライトが物悲しい表情で告げる。


「実は、炎虎の一族を率先して滅ぼしたのも、神人族なんス。〝神の六使徒(ディーオ・アポストロ)〟なのかまではわからないんスけど」

「そう……だったのね……」

「でも、だからこそボクは人間族だけを恨むようなことにならずに済んだ。人種に囚われずに済んだ。……でももし、炎虎の一族も龍の一族と同じように人間族だけに滅ぼされていたなら、きっと、ボクも人間族を恨んでた……。だから、兄貴が人間族を信じられなくても仕方ないと思うんス。でもそれでもどうか、兄貴が人種に囚われずに考えてくれたら、ボクは嬉しいっス」


 ライトがユリクスの目を見て語り掛ける。ユリクスはその真っ直ぐな視線を受け止めて考えた。


 今でも、心の奥底で人間族を赦すなという淀んだ思考が渦を巻いている。それを完全に掻き消すことはまだできそうにない。けれど、今回の件でライトが人種は関係ないのだと強く示してくれた。そして、自分は自分、面倒なことには極力首を突っ込まないといういつものスタンスを取り戻すこともできた。


 もしまた暗い感情に呑まれそうになったのなら、きっとこのお節介な仲間たちが今回のように引き戻してくれるのだろう。眩しいくらいに真っ直ぐなこの二人なら、先を照らす(しるべ)になってくれるのだろう。ならば、恐れることはない。自分は自分だ。


「……人間族だろうが神人族だろうが、俺は俺を害なす者を斬り伏せる。それだけだ」

「結局のところそういう結論になるんスね兄貴は」

「それでこそ兄さん」

「ガウッ!」

「それにしても、〝神〟ってどういうことなのかしら」


 ソフィアが深刻な面持ちで呟く。


「神といえば、神核を神人族に与えたのが神だっていう言い伝えがあるわよね? でも本当に神なんて存在しているのかしら」


 リアナの言葉に全員が沈黙する。


 神核が神からの恩恵だという言い伝えは全ての人間の知るところだ。しかし、本当に神が存在していたのかは定かではない。未だ謎は多い。


一先(ひとま)ず、今回の件については総長に私から伝えておきます。恐らく、総長も情報を集めているところでしょうから」

「待ってくれ。ずっとギルドは中立を保っていたが、まさか〝決別の日〟の真相を探っているのか?」

「はい。ギルド総長と支部長は皆神人族を信じる者たちです」


 アイサの問いになんでもないようにソフィアが答える。


「ソフィアさん、それって言ってもいいことなの?」

「奴隷解放軍の皆さんは神人族を信じている方々の集まりですから、何も問題はありません。いたずらに広められるのは少々困りますが……」

「広めはしないと約束しよう。皆にも伝えておく」

「それなら助かります」


 そんなに守秘基準がガバガバでいいのかギルド……と思わなくもないが、支部長の決定ならいいのだろう。


「あぁそれから、ユリクス、あなたの活躍もしっかりと伝えておくわね。きっと総長も喜ぶでしょう」

「……言わなくていい」


 にこにことわかってて言ってくるソフィアは楽しそうだ。ユリクスは渋面(じゅうめん)になる。


「そんなに嫌な顔しないで本当に総長の相棒になっちゃえばいいのに」

「……ならない」

「ちょっとユリィ、あんたそんな話まで出てるの?」

「ユリクスは総長のお気に入りですから」


 リアナから感嘆の声が上がる。ユリクスはそれにも迷惑そうな顔をする。


「……リアナ」

「……どうしたのよ、アイサ」


 ユリクス弄りで楽しそうに話す中、アイサが真剣な面持ちでリアナと向き合う。リアナは思わず襟を正した。


「彼らと共に行きたいんじゃないか?」

「え……」

「追いたいんだろう、イリスという女を」

「……」


 リアナは言葉に詰まった。その態度が彼女の本心を如実に表している。


「行きなさい」

「でも、奴隷の解放はまだ終わっていないわ」

「この国はこれから少しずつ変わっていく。今回の件が大きなきっかけとなった。もうお前が心配することはない」

「でも……」

(あね)さん、行ってください」

「俺らは大丈夫なんで!」


 奴隷解放軍のメンバーたちからも後押しする声が上がる。


「あんたたち……」

(あね)さんにはもう十分過ぎるくらい支えてもらいました。これからは俺たちが奴隷解放軍を支えていく番です」

「リアナ、自分の好きなように生きなさい。私たちとこの国はもう大丈夫だから」


 サギリとアイサの言葉を最後に、リアナは涙ぐんだ。目を強く瞑って軽く天を仰ぐ。そして目を開いた時には、瞳は決然とした輝きを帯びていた。


「ありがとう。あたし、行くわ。これからのこと、任せたわよ」

「あぁ、行ってこい」

「いってらっしゃい、(あね)さん!」

「そういうわけだから、ユリィ、あたしもあんたたちと一緒に行くわ! あたしは蠍の一族の女、リアナ・スコープ! 改めてよろしく頼むわね!」


 リアナが凛々しく胸を張る。


「……別に俺たちは奴らを追うつもりはないぞ」

「そのつもりはなくても、あんたたちと一緒にいたら必ず奴らとは相まみえることになるわ」

「……何故そう思う」

「女の勘よ」


 その女の勘とやらが当たってしまったばかりなので、ユリクスは何とも言えない顔になる。


「ねぇ兄さん、私、リアナが一緒に行くこと賛成だよ。もっと旅が楽しくなりそう」

「そうっスね! リアナの(あね)さんが一緒にいてくれたら心強いっス!」

「ガウガーウ!」


 二人と一匹のお節介はこういう時に限ってはユリクスに発動しないらしい。寧ろ敵に回る。なんと厄介な。


 ライトの時と同様、四面楚歌(しめんそか)になったユリクスは長嘆息をもらしてから一言。


「……好きにしろ」


 ティアとライトの瞳が輝く。


「やった」

「これからよろしくっスリアナの(あね)さん!」

「よろしくお願いするわ。……それにしてもユリィはやっぱりこの二人に甘いのねぇ」

「……甘くない」

「説得力ないわよ」


 リアナにやれやれという顔をされる。同行を許可してやったというのになんだその態度は、と思わずにいられないが、今更撤回もできないので溜め息をつくしかない。


「ユリクスさん、リアナのこと、よろしくお願いします」

「……あぁ」


 アイサに差し出された手を暫し逡巡(しゅんじゅん)してから取る。こうなってしまった以上、仲間として認めざるを得ない。また賑やかになりそうだとユリクスはげんなりした。ティアやライトと共に旅をしていても、未だ賑やかな空間には慣れないユリクスなのであった。


「さて、まずはこの惨状を何とかすることから始めないとな」


 みんなで辺りを見回すと、広場周辺の家々はほとんどが崩壊してしまっている。


 変革の第一歩は広場周辺の修繕作業からだ、というアイサの号令に奴隷解放軍の「「「おー!」」」という元気な喚声が辺り一帯に響くのであった。






お読みいただきありがとうございます。


蠍の一族の一族名は「スコープ」です。

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