そこに〇〇があるから
シーガラスの広場にて、多くの人間が犇いていた。町に住む人々がずっと悩み続けてきた奴隷に関する情報が公開されると、流布されたのである。しかも、その情報源はずっと中立を保ってきたギルドから。
人々はようやくギルドが動いたことに訝しがりながらも、かえってそれが大きな興味を抱かせた。
町中の人々が押し合い圧し合い、ギルドからの公表を今か今かと待ち侘びている。
舞台裏で、ソフィアたちはその光景を見つめていた。
「上手くいったわね。やはり奴隷解放軍からよりもギルドからの方が民衆の興味を引けた」
ソフィアの言葉に情報公表を予定しているアイサやリアナ、サギリをはじめとする奴隷解放軍のメンバーたちは揃って頷いた。その近くには捕まって神核を埋め込まれそうになった者たちや、既に神核を埋め込まれてしまった者たちもいる。
「では、これから大々的に公表します。準備はいいですね?」
「我々はいつでも大丈夫だ」
「行きましょう」
広場に設置された高台となっている舞台に、まずソフィアが一人立つ。集まっている人々は静まり、視線は舞台に集中した。
無数に集まる視線に臆することなく、ソフィアは口火を切った。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。私はソフィア・メジーリカ。ギルド支部長です」
民衆から「支部長自ら!?」「これは情報に期待できるな」などと声が上がる。ソフィアは再び場が静まり返るのを待ってから話を切り出した。
「奴隷解放軍の活動により、奴隷の供給が格段に減っているのは皆さんもご存知かと思います。しかし、市長専属の奴隷商人に限り、奴隷の供給が減ることはありませんでした」
民衆から「あぁ、だから俺たちは市長の奴隷商人から高額で奴隷を買ってたんだ!」「奴隷解放軍なんかが余計なことをするから!」と怒声が飛ぶ。ソフィアは気にした様子もなく話を続けた。
「そこで、先日より私は〝ギルド総長の懐刀〟に依頼し、奴隷の仕入れ状況についての調査をしました。その結果、信じ難い事実が明らかになったのです」
ソフィアが目配せすると、舞台袖からアイサと縛られた解放者、捕まっていた人々が出てきた。
奴隷解放軍の顔であるアイサの登場と縛られている男の存在に、場は一気に騒然となる。「ギルドめ、奴隷解放軍と組みやがったなっ!」という類の野次も飛んでくる。
「お静かに」
ソフィアの凛としたよく通る声が広場に響く。圧を孕んだその声に、野次は抑えつけられた。
「我々は市長が奴隷を保管していた倉庫を発見しました。その中にいたのが後ろにいる彼らです」
後ろに控えていた捕まっていた人々が前に出てくる。彼らを見る民衆の目は神人族を侮蔑するものだった。
その目に内心不快感を抱きながらも、ソフィアは続ける。
「彼らは奴隷として売り捌かれようとしていた。しかし、彼らのその状況は彼らのみならず、あなた方にも及ぶ可能性があった」
民衆からどういうことだという声が上がる。すると、ソフィアが合図を出し、一斉に捕まっていた人々が襟を胸元まで下ろした。そこには神核がある者が少数。ない者が多数いた。広場が再び大きくざわつく。
「彼らは皆あなた方と同じ人間族です。ここで縛り上げられている男に捕まり、胸元の肉を抉られ、神核を埋め込まれ、そして、奴隷にされる」
捕まっていた人々の中から女と子どもが前に出る。
「私たちは親子です。私にはまだ神核が埋め込まれていませんが、この子には埋め込まれました。この子は正真正銘の人間族です」
民衆から信じられないというような声が上がる。その声音は困惑に満ちていた。
アイサが解放者の男を小突く。すると男は怯えながら白状した。
「……俺が、奴隷を作った……。神核を人間族に埋めて、奴隷を作り続けていた……市長の命令で……」
男の発言と市長の命令という言葉に再び場がざわつく。ソフィアは畳みかける。
「皆さんは獣族だからという理由で奴隷を道具のように扱ってきた。けれど、実際はどうでしょう。神人族から人間族が多数となった奴隷に、皆さんは気づくことがなかった。自分と同じ人間族を、奴隷として虐げてきた。皆さんはそれをどう受け入れますか? 知らなかったと主張しますか?」
民衆から意気消沈とした雰囲気を感じ取る。あともう一押しだ。
「もしも、捕まって奴隷にされたのが自分だったらどう思いますか? どれだけ辛い思いをするか、今までの自分たちの行いを振り返れば容易に想像できることでしょう。これは、気づかずに奴隷を虐げてきたシーガラスの、ベルファリナ王国民全員の罪です。罪のない人々を奴隷として虐げてしまった、全員の罪」
全ての民衆がソフィアの言葉に耳を傾けている。ソフィアは続けた。
「そしてどうか気づいて下さい。神人族と人間族のどこに違いがありましたか? それは、生まれつき神核が備わっているか否かだと思います。それのどこに、奴隷として虐げていい理由がありますか?」
でもそれは神人族が人間族を支配してきた一族だから、という声がぽつりぽつりと聞こえてくる。しかし、ソフィアは続ける。
「神人族が人間族を支配してきた根拠はどこにもありません。それに、もしも解放者たちが言うように、神人族が魔獣を使役していたというのであれば、奴隷として虐げた時点で魔獣を使役し、あなた方に牙を向けてきたはずです。しかし、そうはならなかった。不死鳥の一族は、どれだけ辛い思いをしても、あなた方に報復をしなかった。それが意味することが何か、どうか考えて下さい」
捕まっていた一人の女が続けて声を上げる。
「……私は、捕まる前は当たり前のように奴隷を使役していました。今では、彼らに謝りたくて仕方ないです。自分が奴隷にされそうになって、初めてその苦しみを理解するなんて、なんて愚かだったのだろうと思えてなりません」
その横の男も声を上げる。
「……俺も奴隷を酷く扱っていた。たくさん殴った。食事も碌に与えなかった。……神人族だからって、苦しくないわけがないのに。平気で道具のように扱った……。もう、奴隷なんて制度、あっちゃいけないんだ。どうかみんな、目を覚ましてくれ」
広場は完全に沈黙していた。誰もが自身の行いを振り返る。そして、もし自分が奴隷だったらと考える。皆、恐怖した。自身の行いに。奴隷という存在を当然のように虐げてきた事実に。
ソフィアは安堵の息をついた。民衆に言葉は確かに届いた。これからすぐに変わるのは無理かもしれない。けれど、これをきっかけに変わってくれればと期待せずにいられない。
そんな思考に水を差す声が辺りに響き渡った。
「貴様ら、一体なんのつもりだっ! そんな戯言をほざいて私を陥れるつもりか!」
怒りに声を張り上げながら、市長が足早に舞台へ近づいてくる。
「市長、あなたが関与していた証拠は十分に押さえてあります」
「ふんっ、そんな薄汚い男の証言のどこが証拠になる!?」
往生際悪く、市長は自分の無実を主張する。しかし、市長を弾劾する材料はこれで終わりではない。
「ソフィアさーん! 連れてきたっスよー!」
ユリクス、ティア、ライト、メラが市長専属の奴隷商人たちと秘書を連れてきた。秘書以外は皆こってりしぼられた後なのでげっそりしている。なお、連れてくるために必要だった器物損壊と不法侵入、ついでに脅迫は非常事態ということでソフィアがゴーサインを出した。
秘書の女は眼鏡を指でくいっと押し上げると口を開いた。
「市長が人間族で奴隷を作っていたことは事実です。秘書として勤めてきた私が断言します」
「なっ!? 貴様裏切るつもりかっ!」
「ほう、〝裏切る〟ですか市長。つまりお認めになるのですね?」
「ぐぬっ」
市長の失言で、民衆の中で人工的な奴隷作成の件は紛れもない事実となった。
「市長、我々が行ってきたことは明らかに非人道的で決して許されることではありません。言い逃れはおやめ下さい」
「あらあら、ずっと秘書として仕えてきたのに随分ばっさり切るのねぇ」
リアナが意外そうに秘書に話しかける。秘書はもう一度眼鏡を指で押し上げると、まるで憑き物が落ちたように穏やかな表情で微笑んだ。
「ずっと、市長の行いは摘発しなければならないと思っていたのです。私も、かつては神人族と共存していた身。奴隷の存在には憂いておりました」
「その割にはユリィにノリノリで色仕掛けしてたじゃない」
「あの時は〝ギルド総長の懐刀〟様であったことまでは知りませんでしたが、奴隷に関して調査をしている方だということにはすぐに気がつきました。なので二人きりになったところで情報を提供しようかと」
「なるほどねぇ。ユリィを連れ出したのは早計だったかしら」
「まぁ綺麗なお方ですし、あわよくばいい思いもしようとは思っておりましたが」
「あんたねぇっ!」
「リアナ、まだ話は終わってないから落ち着きなさい」
アイサの言う通り、まだ話は終わっていない。ここまで追い詰めたところで市長の弾劾はほとんど成功といっていいところだが、まだ捕縛と解放者が残っているのだ。
言い逃れのできなくなった市長はというと、握りしめた拳を震わせ、顔を真っ赤に染め上げて叫んだ。
「お前たち、コイツらを殺せぇ!」
その叫びに答えるように、物陰から二条の紫電が舞台上に向かって飛んでくる。ユリクスは紫電を広範囲に素早く展開し、二条の紫電を相殺した。民衆から悲鳴が上がる。
「いいんですかい市長? 民衆まで殺しちまっても」
「構わん! 私の思い通りにならん民衆などいらん!」
陰から出てきたのは二人の男と二体の魔獣。二人の男は捕まえている男と顔が瓜二つであった。違うことといえば入れ墨の位置。一人は右頬、もう一人は左頬にある。
「アイサは奴隷解放軍のみんなと民衆の避難誘導をお願い」
「戦うつもりか、リアナ」
「えぇ。ユリィとライトもいるから心配ないわよ」
「そんな! 姐さん、俺たちも戦います!」
奴隷解放軍のメンバーが続々と自分もと名乗りを上げる。しかしリアナは不敵に笑って胸を張った。
「怪我人たちは大人しく見てなさいな。ここからは、姉貴分であるあたしの見せ場よ」
威風堂々としたリアナの姿は、奴隷解放軍のメンバーたちを信頼させるに足るものだった。アイサを含めた奴隷解放軍は力強く頷くとすぐさま民衆の避難誘導を行う。
「空腹のボクを痛めつけてくれたのはどっちっスかね。リベンジマッチするっスよ」
リアナの横にライトが並ぶ。顕現させた二丁の銃を人差し指でくるくると回してやる気十分だ。
「あの時のガキか。あの時は邪魔が入って殺せなかったが、今度は確実に殺してやるよ。シュラクの兄貴、奴は俺がやる」
「おっ! 弟対決っスね! 兄貴ー! アイツはボクが――」
ズパンッ!
ライトの言葉を遮るように破壊音が響いた。音のした方向を見ると、ライトが相手をする予定だった男の横にいた人魚種の魔獣が体の中心に大孔を開けて絶命している。
「えぇ……何やってんスか兄貴……」
「……わざわざ互いの準備が整うのを待つ必要があるのか?」
「いや必要はないけど……ユリィあんたいい性格してるわねぇ……」
「テメェ……卑怯な真似しやがって……!」
「ほらぁ、あの人自分の魔獣が出番もなく殺されて怒ってるっスよ~」
ユリクスの空気の読めない一撃に相手は殺気立ち、反対にこちらは脱力した。
「フォルゴ、落ち着け。俺の魔獣を貸してやる。お前はガキとあの女をやれ。俺が〝ギルド総長の懐刀〟を相手する」
「っ……わぁったよ!」
左頬に入れ墨のあるフォルゴと呼ばれた男がマチェットナイフを顕現させてライトと対峙する。その横には妖狐種の魔獣がいる。
「リアナの姐さん、魔獣の方お願いしていいっスか?」
「えぇ、任せなさいな」
不敵に頷いて、リアナは神器を顕現させる。手元に溢れ出した毒が収束し形を成したそれは、リアナの体よりも大きく、そしてとても長い鎖のついた大鎌だった。
「大鎖鎌!! かっけぇっス!」
「ふふん、そうでしょうとも。ほらライト、来るわよ」
マチェットナイフに紫電を纏わせ、身体強化を施したフォルゴがライトに迫る。
ドバンッ! ドバンッ!
ライトが《銃炎弾》を連射。しかし大きく横に飛ばれることで回避される。だがその仰々しいまでの回避は、ライトが優勢であることを証明していた。
「やっぱりこの速度には慣れるまで時間がかかるんスねぇ」
「舐めやがって! 接近戦に持ち込めばこっちのもんなんだよ!」
紫電を纏い、凄まじい速度で迫ってきたフォルゴのナイフとライトの銃がぶつかり合う。
「ハッ! これで炎魔法を使うお前には分がわりぃだろ!」
「物は使いようって知ってるっスか?」
そう言って不敵に笑うと、ライトは両足に炎を纏った。そして右足でフォルゴを蹴り上げる。その速度は雷魔法を使うフォルゴにも劣らなかった。フォルゴは吐血し、天高く飛ばされる。
「確かに炎魔法は風魔法や雷魔法に比べて常時速度は遅いっス。でも、炎を放出する爆発力を利用すればその一瞬の速度は劣らないっスよ。しかも火力は凌駕するんスよねこれが。ていうかそれがパワー特化魔法の本来の使い方っス」
今度は両足で炎を放出し、身体強化も相まってライトも天高く跳躍する。空中で体勢を崩しているフォルゴに追いつくと、再び右足で炎を爆発させ、その勢いのままフォルゴの腹に踵落としを見舞う。くの字型に折れ曲がったまま地に勢いよく激突したフォルゴは、陥没した地面の中で気を失っていた。
敵が炎虎種の神核にとって不利な接近戦に持ち込んでくることは予想できていた。それを逆手に取ったライトの完勝である。
「イエーイ! リベンジ達成っス!」
「ライトあんた強いじゃないの。それでもユリィに勝てないの?」
「兄貴にはあのくらいじゃ勝てないっスよ~。だって、兄貴なら《銃炎弾》の速度にも対応できるし、そもそも雷魔法を使った時の速度と威力がアイツの比じゃないっスもん」
「なるほどねぇ」
「というよりリアナの姐さん、それ大丈夫なんスか?」
「ん?」
のんきにライトと話をしているが、リアナも現在進行形で戦闘中である。
長い鎖を利用し、魔獣の尻尾以外の全身を覆うように巻き付けて拘束している。だが、どうやら相手は全身を鋼鉄化できる魔獣のようで、その重さにより一切その場から動かせていない。
傍目から見れば打つ手なしのように見えるが、リアナは余裕そうだ。
リアナがくすりと笑う。
「全身鋼鉄化させるにはそれなりに魔力を使うわよね?」
「たぶんそうっスね」
「鎖で巻いてる体の部分をよく見てみなさいな」
「んー。ん?」
鎖で巻かれている部分をよく見てみると、若干溶けつつあった。
グギャォォォォ!
魔獣が悶え苦しむ。
「どうなってんスかあれ?」
「あたしは蠍種の神核を持ってるの。蠍種の魔法は毒。あの鎖には強力な酸性の毒を染み込ませてるから、金属でも溶けちゃうのよ。そして、体の方の鉄が溶かされてるとあれば……」
魔獣は体の鋼鉄化を修復し、溶かされないようにより多くの魔力を回そうとする。すると、鎖で巻かれていない尻尾の部分の鋼鉄化を解除する。
「ほら、これで終わりね」
まるで鎖が生きているかのように動き、鋼鉄化されていない尻尾に苦無のようになっている先端が差し込まれた。
ギャォォォオオオ……
すると、魔獣は力を失くしたように鋼鉄化を解き、地面に倒れ伏した。鎖の先端には麻痺毒を発生させたのである。
「それじゃあね」
綽然とした歩調で魔獣に近づいたリアナは、止めに鎌を振り下ろして首を切り落とした。
「めちゃくちゃ優雅な勝ち方っス……流石リアナの姐さん……」
悠然と歩いて戻ってくるリアナをライトは拍手と共に迎えるのだった。
「そういえば、どうして鎖の部分がニョキニョキ動いてたんスか?」
「あたしは毒を自由自在に操れるの。神器全体に毒を染み込ませてあるから、鎖の部分も自在に操れるってわけ」
「ほえ〜、すごいっス。正直毒魔法って地味なイメージあったんスけど、やっぱり物は使いようっスね」
「そういうこと。さて、あとはユリィだけね」
「そうっスね」
ドガァァァァァァン!!
「「え」」
ユリクスの方へと振り向いた瞬間、轟音と共に落雷が発生する。強烈な光で一瞬真っ白になった視界が戻った時には、倒れ伏すシュラクと泰然と立っているユリクスがいた。
急いでユリクスに駆け寄る。
「えっと、兄貴、今の落雷はもしかして兄貴が……?」
「うそでしょ……どうしてそんなことが……」
「……そこに雷雲があるから」
「いや、どっかで聞いたような言い方されても」
◇◇◇
時は数分前に遡る。フォルゴと魔獣の相手をライトとリアナに任せて、ユリクスはシュラクと対峙していた。
「そこにいる弟……ザンダスを随分な目に遭わせてくれたようだな」
「……俺を殺そうとした。だから返り討ちにした。それだけだ」
「だとしても兄として、許すわけにはいかねぇなぁ」
シュラクは神器の小太刀を顕現し、紫電と身体強化を施して突進してきた。ユリクスも黒刀を顕現し、小太刀と打ち合う。
シュラクが小太刀で打ち合いながら紫電を放出させて攻撃してくるが、ユリクスにとってそれは児戯に過ぎない。自らも紫電を放出してシュラクの紫電を飲み込み、倍にして返す。
「チッ、やっぱ〝ギルド総長の懐刀〟は一筋縄ではいかねぇか」
シュラクは長男というだけあって、他の二人よりも魔力の扱いに長けていた。故に速さもパワーもあったため、しばらく黒刀で丁々発止を続けながら紫電の打ち合い合戦を続けていたが……そろそろ飽きてきた。
どう決着をつけようかと考えたところで、ふと、空に暗雲が垂れこめていることに気がついた。
――ふむ、これは使える。
そう考えたユリクスは左手を鷹揚に天へと伸ばし、膨大な魔力を練り始めた。
「なんだこの魔力量は……!」
ユリクスの魔力に影響され、空で稲妻が活発に走り始める。対峙するシュラクと、後ろでザンダスを見張りながら様子を窺っていたソフィアが愕然と見守る中、ユリクスの化け物じみた魔力が空へと立ち昇っていく。
魔力の膨張が収まった時、ユリクスの黒レザーの手袋で覆われた手が上品且つ嫋やかに下ろされた。そして……。
ドガァァァァァァン!!
シュラクの上空から天罰のように雷が落ちた。
直撃を受けたシュラクは体中の穴から煙を吹き出し、倒れ伏した。
◇◇◇
「天候まで操るなんて、あんた一体どうなってんのよ」
「……たまたま雷雲があっただけだ」
「だからって普通雷は落とさないっスよねぇ」
リアナとライトが呆れかえっている。避難誘導を終えていた奴隷解放軍たちも各々の戦闘を見ていたが、ユリクスの所業には口をあんぐり開けて放心している。
多くの人間が立ち尽くす中で、近づいてくる一つの気配。
「驚いたわユリクス。総長に認められるくらいだから強いのはわかっていたけど、まさかここまでだったなんて」
瞳をキラキラさせて近づいてきたのはソフィアだ。ユリクスはデジャヴを感じた。そうか、ソフィアはゲオルグと同じ戦闘民族か。ユリクスはすんっと虚脱した。
リアナが未だ放心している奴隷解放軍たちに指示を出し、倒れているシュラクとフォルゴ、そして腰を抜かしている市長を捕縛させる。
指示をアイサに任せたリアナがユリクスに近づく。
「ありがとう、ユリィ。あたしの思った通りだった。やっぱりあんたがこの町に来て、行動して、この町は変化の兆しを得た。本当に感謝してるわ。もちろん、ティアとライトとメラもね」
「リアナ……」
「リアナの姐さん……」
「グルゥ……」
リアナの慈愛の籠った笑みは本当に美しいものだった。自分たちが努力したことによって一時的とはいえ仲間になった彼女のこんな表情を見ることができたのならば、これ以上の報酬はないとティアたちは思った。
ユリクスはといえば、思い入れのない町で変化が起きようと正直どうでもよかった。けれど、自分の行動によって確かに誰かが幸福になったのだとしたら、それはアドラに言った〝自分が生きている意味〟に関わるのかもしれないとも思う。
この町の変化が、未来が、自分が生き残った意味の一つに繋がるのかもしれない。そう思えば、悪い気はしなかった。
「兄さんも嬉しいんだね」
「そうなのユリィ?」
「……わからない」
「雰囲気でなんとなくわかるっスよ」
「あんたたちはエスパーかなんかなの? って言いたいところだけど、不本意なことに、なんだかあたしまでユリィの機微に鋭くなってきちゃったわよ」
ティアたちは笑い合う。ユリクスは自分が笑いのネタにされていることは解せないが、まぁいいかと流すことにした。
ソフィアも入れて、ティアたちが穏やかな時間を過ごしている姿を見ていたその時。
ユリクスは――最大限に警戒を強めた。
「兄さん?」
ユリクスは頭上、近くの建物の屋上を鋭く見据える。手に持つ黒刀に紫電を纏わせて。
「いやー、おもしれぇもん見させてもらったぜ〝ギルド総長の懐刀〟。いや、一匹狼?」
そこには圧倒的な〝殺意〟という圧を纏った一人の男が立っていた。
お読みいただきありがとうございます。




