反撃の狼煙
凄惨な光景をしばらくの間愕然と見つめていたティアたちだったが、至る所から聞こえてくる呻き声に我に返った。
「……怪我人が多過ぎるわ。まずはアイサのところへ行きましょう」
「……うん」
震える程拳を握りしめるリアナは一刻も早く怪我人の手当てを始めたいのだろう。しかし、如何せん人数が多過ぎる。片っ端から手当てをしても効率が悪くなるだけで、助けられる者も助けられなくなる。
切歯扼腕し、感情を抑え込んでリアナはリーダーの元へ急ぐことを提案する。
リアナの先導で辿り着いたのは奥に設置された一際大きなテント。ボロボロだが崩壊は免れている。リアナを先頭に急いで中に入る。
「っ! アイサ!」
「……リアナか」
中にいたのは、体中に包帯が巻かれながらも凛とした姿勢で座っている男。アイサと呼ばれた彼は筋骨隆々とまではいかないまでも、鍛え上げられたことがわかる体つきをしており、リーダーと呼ばれるにふさわしい風格を纏っていた。
リアナはアイサに近づき、膝をついて寄り添った。
「アイサ、一体何が」
「説明は後だ。それより今から怪我人の手当てを早急に行う。それと、彼らはまさか……」
「えぇ、〝ギルド総長の懐刀〟の仲間よ」
「そうか……」
「アイサさん、私たちも手当て手伝うよ」
「できることはするっス!」
「感謝する」
リアナに支えられて立ち上がった際に苦悶の声を漏らしたアイサだったが、すぐに凛とした姿勢を取り戻す。
まずは怪我人を一か所に集めることにし、テントを出てそれぞれ散っていった。
怪我を負いつつも動ける者の力も借り、怪我人を一か所に集めて重傷者と軽傷者、そして死者を把握する。
「……ひどい」
ティアの呟きにライトも無言で頷き返す。
奴隷解放軍の全体の人数は奴隷も含めて百を超える。重傷者は約四十人、死者は約三十人、他は全て軽傷者で無傷の者はいなかった。
アイサとリアナが軽傷者に指示を出しながら重傷者の手当てを行っている。応急手当が精一杯であることから、これから重傷者の中で多くの死者が出ることだろう。
ティアは俯きがちに拳を握りしめ、決然とライトに言った。
「……あれを使おうと思うの」
「あれって……まさか」
「うん」
「でもあれを使ったら……!」
「そうだけど、このまま見過ごせないから」
ティアはユリクスから預かっていた魔道袋の中から細いガラス容器を取り出す。中には無色透明な液体が入っていた。
これはティアの涙である。今まではその場その場でティアが涙を流していたが、それでは大変だろうというライトの提案で、いくつもの容器に涙を蓄えておいたのである。
ティアがライトにも数本の容器を渡す。
「ライト、お願い」
「……正体をバラすのもやむなしっスか……。まぁ確かに、ここで見捨てたら寝覚めが悪いっスもんね」
二人で頷き合って手当てを行っているアイサとリアナに近づく。
「アイサさん、リアナ、これを重傷者に」
「ティア、これは……?」
「不死鳥の一族の涙。効果は知ってる?」
「不死鳥の一族の涙ですって!?」
「何故君たちがそれを……」
「その様子なら知ってるみたいっスね」
「なんで持っているかといえば、それは私が不死鳥の一族だから」
「……本当なの……?」
「本当っス。ちなみにボクは炎虎の一族っス」
「ライトまで言わなくてもよかったのに」
「ティアの姉御にだけ言わせるわけないじゃないっスか」
リアナは容器を受け取って少し考える素振りを見せると、おずおずと口を開いた。
「……ユリィは……?」
「ごめんなさい、今は私たちが勝手に話したことだから、兄さんのことは言えない」
「ご想像にお任せするっス」
「そう……」
「とにかく、今は手当てが先だな。ティア君とライト君と言ったか。感謝する」
アイサの言葉を皮切りに、それぞれ重傷者の元へ急ぐ。不死鳥の一族の涙の効果は絶大で、みるみるうちに傷が癒えていく。
最終的に全ての重傷者は救えず約十人が新たな死者となってしまったが、多くの重傷者は峠を越すことができた。重傷者たちを無事なテントに運び込み、死者を一か所に集めて弔い、ようやく拠点内は落ち着きを取り戻したのだった。
しかし、襲撃により植え付けられた恐怖は未だ取り除かれることはなかった。
「……魔獣だ」
「なんで魔獣がいるんだ……!」
「早くここから出ていけ!!」
怪我人を運ぶためにメラは元の姿のままだった。そんなメラと、メラを連れてきたティアたちに厳しい言葉が飛ぶ。
「お前たち、落ち着けッ!!」
アイサの一喝が拠点中に響き渡る。至る所から飛んでいた言葉が止み、静寂が訪れる。
「お前たち、よく思い返せ。お前たちの中でこの子に牙を向けられた者はいるか? いないだろう。それどころかこの子は怪我人を、その身を血で汚しながら何度も運んだ。それに、襲ってきた魔獣とこの子は全く様相が異なる。魔獣の禍々しさなどどこにもないだろう。仲間の命の恩人に石を投げるような真似をするのはやめるんだ」
「……申し訳、ありません」
アイサの諭すような言葉に徐々に奴隷解放軍のメンバーたちは落ち着きを取り戻し、小さく申し訳なかったと続々と呟いた。
アイサが申し訳なさそうにティアたちに向き合う。
「ティア君、ライト君、メラ君、すまなかったな。……実は襲撃してきたのは解放者と、魔獣だったんだ」
「魔獣ですって?」
「あぁ、どういうわけか解放者たちは魔獣を使役しているようだったんだ」
その言葉にティアとライトははっとする。ライオーネに着く前の洞窟で遭遇したアドラを思い出したのだ。そして、奴が身に着けていた神核を。
「鈍色の神核……」
「鈍色の神核? なんだねそれは」
「前に遭遇したことがあるんス。魔獣を使役する解放者と。ソイツは鈍色の神核で魔獣を使役していたんス」
「そんなことって……」
「だが、ライト君がそう言うなら事実なんだろう」
「……アイサ、相手の数は?」
「解放者が三人、魔獣が三体だ」
「そう……」
解放者たちそれぞれが魔獣を使役しているとみて間違いないだろう。これ以上の数がいないことをティアたちは祈るのだった。
「あの、皆さん」
「どうしたのサギリ?」
声をかけてきたのはある程度怪我が癒えたサギリだった。その顔は青ざめている。
「少し来ていただいていいですか……? おかしなことが起こっているんです」
「おかしなことだと?」
サギリに連れられて、死体が集められている場所に行く。出来る限り清められた死体の大半は奴隷解放軍だったが、中には奴隷だった者たちもいた。
「おかしいと思いませんか?」
「おかしいことっスか?」
「……どうして奴隷だった不死鳥の一族まで亡くなっているの……?」
ティアの言葉にライト、リアナ、アイサははっとする。自分たち自身の常識に捉われて、不死鳥の一族の魔法特性を失念していた。
不死鳥の一族の特性は不死。寿命と病のみが死となり、今回のように殺された場合は若返り蘇るはずである。しかしそうはなっていない。これはどういうことなのか。
「……失礼」
アイサが亡くなった一人の男性の服を胸元まで捲る。胸には小さなクリスタルが埋め込まれていた。
「この男性は以前、自分は人間族だと言っていた方だ」
「……おかしいっスね」
「何がおかしいんだね?」
ライトが埋め込まれたクリスタルを指差す。
「神人族の中でも神核の大きさには個人差があるっス。でも形は統一されていてみんな丸い。多少差はあってもこんなにも歪な形は普通ありえないっス」
ライトの言う通り、埋め込まれた神核は奇妙な形状をしていた。亡くなった他の不死鳥の一族の死体を精察してみると、皆同じように形状は歪だった。
この共通点が奴隷の供給が多いことと、自分は人間族だと主張する奴隷がいることの謎に関係があるのだろうか。考えても答えは出なかった。
亡くなった人々の姿を整え、元居た場所へと戻る。すると、奴隷解放軍のメンバーたちが集まって険しい表情で何かを話していた。
「どうしたお前たち」
「アイサさん」
アイサたちが戻ってきたことに気づくと、皆拳を握りしめながらこちらに向き直った。
「アイサさん、俺たちはもう我慢なりません! 戦いましょう!」
「そうだ……! 拠点が襲撃されて仲間がたくさん殺されたんだ! このまま何もしないでなんていられない!」
そうだそうだと次々と奴隷解放軍のメンバーたちが言葉を発する。今にも無謀に決起してしまいそうな勢いだった。
「落ち着くんだ。奇襲だったとはいえ、奴らを前に我々は防戦一方だったんだ。何の策もなく向かっていっても余計に犠牲者を出すだけだ」
「ですが……!」
アイサの言葉でも彼らの思いを押しとどめることは難しそうである。それほどまでに、今回の襲撃は体だけでなく心にも痛手だった。
「あんたたち、落ち着きなさいな」
「姐さん……」
リアナが前に立ち、腕を組んで威圧的に、しかしどこか慈愛を孕んだ声音で彼らの言葉を遮る。
「あたしたち奴隷解放軍の本来の目的を思い出しなさい。無謀にも奴らに挑んで全滅すること? 違うでしょう。あたしたちがすべきことは奴隷の解放。それを履き違えないこと。ここで挑発に乗って全滅したら奴らの……市長の思うつぼよ」
「……でもこのままじゃ」
「えぇ、このまま解放者たちを野放しにしておくのも危険ね。だから、奴らの殲滅はあたしとライト、それから〝ギルド総長の懐刀〟でやるわ」
「へっ?」
ライトが素っ頓狂な声を上げたが、その声はメンバーたちの「〝ギルド総長の懐刀〟だって!?」という声にかき消された。
「姐さん、〝ギルド総長の懐刀〟とは協力関係を結べたんですか?」
「まだよ」
リアナの返答にメンバーたちはざわつく。
「でも仲間を預けてもらえるくらいには信頼を得ているわ。絶対に協力させてみせるから安心しなさいな」
「……なら、そこのお二人に人質役をやってもらって、無理矢理協力を得るというのは……」
「それは完全な悪手よ。敵意を見せれば彼は敵対する。奴らを何とかする前に彼に全滅させられるわ」
「一人にですか……」
「えぇ。それだけ彼は強い。対面して威圧の一つでも浴びせてもらえばわかるわよ。絶対に敵対しちゃいけない相手だってことは」
「ほう、君にそこまで言わせるとは、是非とも会ってみたいな」
アイサが興味深そうに顎をさする。その様子を見たリアナに「興味本位でちょっかいかけないでちょうだいよ……」とツッコまれているが、本当にわかっているのかは危うい。
「とりあえずまずは腹ごしらえしましょ。この惨事じゃまだ朝食も取れていないでしょう」
「あぁ。だが食材も大分やられた。調達から始めないといけないな」
「なら調達はボクたちがやるっスよ」
「うん、頑張るね」
「このあたりの魔獣は少なくない。ライト君とティア君で大丈夫かね?」
「私は戦えないけどメラがいるし、ライトは強いから大丈夫だよ」
「ほう、それは頼もしいな」
「なら、魔獣はライトさんにお任せして、案内役として俺が一緒に行ってきます」
まだ傷は治っていないが、動くのにはすっかり支障のなくなったサギリが名乗り出た。それにアイサとリアナは頷く。
「あたしたちはこれからについて話をするわ。あんたたち、よろしく頼むわね」
こうして、ティア、ライト、メラ、サギリは食材集めに森へ入った。魔獣の迎撃担当のライト以外は大きめの籠を背負っている。メラは紐を使って両脇に籠を二つくっつけている。
三人と一匹だけになってからは色々と興味津々なサギリから質問攻めにあっていた。食材の調達が予想以上に順調なのが、より彼の燻っていた好奇心を満たそうと働いたのだろう。
「ティアさんたちはすごいですね。どうやって〝ギルド総長の懐刀〟とお近づきになれたんですか?」
「敬語じゃなくていいっスよ。ボクたちも外しちゃってるし」
「じゃあ遠慮なく」
「私たちが会った時は、兄さんはまだ〝ギルド総長の懐刀〟じゃなかったんだよ」
「兄さん? 兄妹なのかい?」
「ううん。私が勝手に兄さん、ライトは兄貴って呼んでるだけだよ」
「へぇー。仲がいいんだなぁ」
「始めはすごい嫌がられてたんスけどね。でも兄貴はなんだかんだ優しいから、そのままでいさせてくれてるっス」
「〝ギルド総長の懐刀〟って強いし、なんだか怖いイメージがあるけど、そんなことないのかな」
「兄さん、不器用でクールだから勘違いされやすいけど、怖くはないよ」
「そうかぁ。会ってみたいなぁ」
「たぶんすぐ会えるっスよ!」
食材調達を進めながらも話の種は尽きない。とはいえその内容はほとんどユリクスに関するものだ。ティアとライトも誇らしげにユリクスの事を話せる機会なので、とても楽しい時間だった。
だが、そこに水を差す存在が。
「グルル」
「っ……魔獣の気配がするっス」
茂みから現れたのは人魚種の魔獣だった。おどろおどろしい顔で威嚇してきたかと思えば、口から三発の水弾を発射してきた。
ライトは素早く神器を顕現し、水弾を次々とはたきおとしていく。
「すごい……!」
「この間の解放者が撃ってきた雷に比べたら大分遅いっスね。いい練習台っス」
その後も撃ち出され続ける水弾を一発も漏らさずにはたきおとしている。確かに雷よりは遅いが、全て正確にはたきおとすのは至難の業だ。それを多少の余裕をもってこなすライトの運動神経も十分に異常者たちの領域に足を踏み入れ始めている。
「さて、練習もこのぐらいにして終わりにするっスよ」
ドバンッ! ドバンッ!
ギャォォォオオオ!!
二丁の銃から撃ち出された《銃炎弾》の速度に反応できず、人魚種の魔獣は呆気なく倒された。無傷のままティアたちの元へ戻ってくるライトを見て、サギリが口を開けて愕然としていた。その様子を見てライトもまたぽかんと口を開ける。
「……えっと、どうしたんスか?」
「いや、どうしたも何も、ライト君って本当に〝ギルド総長の懐刀〟じゃないのかい? あまりにも強くて……」
その言葉を聞いて、ライトはクツクツと可笑しそうに笑う。
「ボクなんてまだまだっス。兄貴と比べたら月と鼈、雲泥の差っスよ!」
「……〝ギルド総長の懐刀〟ってどれだけ強いんだ……」
サギリがおじおじとした様子で呟く。その様子にティアとライトは顔を見合わせて笑う。やはり自分たちの兄貴分が強いと褒められるのは嬉しいのである。
その後も魔獣を討伐しながらきのこや木の実などの食材を順調に調達していく。ついでに魔獣の部位も回収しているのだが、その理由をサギリに問われた。
「どうして魔獣の部位を回収してるんだい?」
「実は、ボクたちベルファリナに来る前に魔獣討伐の依頼を受注してたんスけど、シーガラスに来てから報告するの忘れてたんスよね。だからついでにちょっとでも報酬を上げておこうかなと」
「なるほど。どのくらい討伐したんだい?」
「ルシファルタのライオーネからベルファリナのツバメルに着くまでの間と、ツバメルとシーガラスの間を合わせて、ざっと百ちょいくらいっスかね」
「ひゃくっ!?」
「兄さんとライトがどんどん討伐しちゃうからすごい数になっちゃったんだよね」
百という数字にサギリの常識が侵され、今にも魂が抜けそうな表情になっている。ティアは元々世間知らずだから仕方ないものの、最近ではライトまで常識が麻痺してきている。どうやらサギリはその最初の被害者になってしまったようだ。
「さて、じゃあそろそろ籠もいっぱいになってきたし、拠点にもどろー!」
「うん!」
「ガウッ!」
「……百……〝ギルド総長の懐刀〟……弟分……」
サギリの精神がまだ戻ってきていないが、軽い足取りで拠点へと戻るティアたち。帰り道も魔獣とは遭遇したが問題はなく、無事拠点へと帰ってきた。
「あら、おかえりなさい。随分集めてきてくれたのねぇ」
「ん? どうしたんだサギリ?」
アイサをはじめ、メンバーたちが次々とサギリの様子がおかしいことに気づき、近づいてくる。どうしたと問うてくる仲間たちにサギリはひたすら「解放者たちの相手はライト君たちに任せた方がいい。マジで」と繰り返すのであった。
集めてきた食材を使い、怪我を負っているメンバーたちに代わって調理を担当したライト。その料理の腕にメンバーたちは一口口にするなり涙を流して歓喜していた。襲撃に遭った恐怖を一時忘れ、和気藹々とした時間を過ごして一時間程。食器を片付けて歓談を楽しんでいたその時。
ドゴォォォォォ……!!
突如遠くから天変地異を疑うような轟音が響いてきた。
「何よ今の!?」
「……わからん。反対側の森の中からだ」
アイサに言われて、自分たちがいる森とは町を挟んで反対側にある森の方角を見てみると、細い煙が上がっていた。火事にはなっていないようだが、そこで何かあったことは自明の理だ。メンバーたちの間で不安の色が濃くなっていく。
「……私が様子を見に行ってくる」
「なら、あたしも行くわ」
「ボクも行くっス」
「私も」
「ガウッ」
アイサが名乗りを上げた者たちに一つ頷いて、それからメンバーたち一人一人の顔を見遣る。
「今から私とリアナ、ライト君、ティア君、メラ君で様子を見てくる。みんなはここで待機していてくれ。警戒は怠らないように」
アイサの指示に各々頷き、「お気をつけて」「どうか無事で」と声をかけてくる。それに頷きで返事をすると、四人と一匹は反対側の森に向かって出発した。
反対側の森に行くには町を突っ切っていった方が早い。ティアが小さくなったメラを抱えながら町に入る。すると、先程の轟音で町は騒然としていた。煙の上がる方角を見ながらひそひそと不安そうな話声があらゆる場所から聞こえてくる。
足を止めている人々を次々と抜き去り、ギルドの前まで来たところで声を掛けられた。
「あなたたち……」
「ソフィアさん」
声を掛けてきたのはギルド支部長のソフィアだ。
「ティア、この人は?」
「ギルド支部長のソフィアさんだよ」
「ギルド支部長……」
今までずっと静観を続けてきたギルド支部長にどう対すればいいのか決めかねているのか、リアナとアイサは顔を見合わせてからソフィアを見据える。
「そちらの二人は奴隷解放軍の方ね。今の轟音の原因はギルドとしても確認しておきたいことよ。私も同行します」
「支部長自らっスか!?」
「冒険者に依頼する時間も惜しいし、何より自分で確かめたいからね。……奴隷解放軍の活動の邪魔をするつもりは一切ありません。同行を許していただきます」
リアナとアイサを正視し、暗にこれは決定事項だと突きつける。それを正確に読み取った二人は頷き、同行を許した。
ソフィアを加え、五人は煙の消えかかっている地点に急ぐ。森に入ると道は若干の斜面になっており、森とも山ともいえる地形だった。
斜面を走るのはティアには負担が大きいため、大きくなったメラに乗って駆ける。
獣道をしばらく走り、頂上付近に来てようやく開けた場所に出た。そこにあったのは倉庫のような大きく古びた建物。その目の前の地面は所々が陥没し、小さなクレーターがいくつもできている。その上に傷だらけで倒れているのは魔獣と一人の男。そして、それを立って俯瞰していたのは、なんとユリクスだった。
「兄貴!?」
「兄さん、どうしてここに? この人と魔獣は?」
ライトとティアがユリクスに駆け寄っていく。
「リアナ、彼は」
「〝ギルド総長の懐刀〟よ」
「……これを彼がやったのか……? 凄まじいな……。それに、あの倒れている魔獣と男は拠点を襲った奴だ。その猛者と魔獣をたった一人で下すとは……」
リアナとアイサが辺りを見回し、それから倒れている魔獣と男を見て話す。その横を通り過ぎて、ソフィアがユリクスに近づいていく。
「ユリクス、一体何があったの? この惨状は?」
「……成り行きで」
「真面目に答えなさい」
ユリクスにとっては至極真面目に答えたつもりだったのだが。解せぬ。その思考を読み取ってティアとライトは含み笑いを浮かべた。
「面白いな、彼。思っていたよりずっと若いし。仲良くなってみたいものだ」
「茶々入れないであんたも真面目に話を聞きなさいアイサ」
リアナに肘鉄される知らない男を見て困惑しつつ、ユリクス自身もどうしてこうなったと思わざるを得ない。だが、そんなのお構いなしに早く説明しろという視線が四方八方から突き刺さる。ユリクスは深い溜め息をついて、物事が起こった経緯を順番に話していった。
お読みいただきありがとうございます。
狼煙を上げたのは奴隷解放軍ではなくユリクスさんでした。




