作戦開始?
話が脱線してしまったユリクスたちだったが、気を取り直して作戦会議となった。
「奴隷商人の馬車を尾行すると解放者に邪魔されるんスよね? だったらその解放者の相手をボクと兄貴がして、その間に奴隷解放軍が馬車を追跡するって作戦じゃダメなんスか?」
「……ほう、お前は奴隷解放軍と積極的に協力し合えと言うんだな?」
「あ、関わり合いたくないこと忘れてたっス」
「ユリィが関わり合いたくないことは一先ず置いておいて、その作戦は失敗するでしょうね」
「そうなの?」
「解放者は一人じゃないもの。市長が何人雇っているかも不明。仮にあたしとユリィ、ライトが一人ずつ相手にしたとしても、他にも解放者がいたんじゃ奴隷解放軍の追跡は失敗するわ。数の利があったとしても戦力に差がありすぎるし、それに……」
「それに?」
「……できるだけ犠牲者を出したくないのよ」
リアナが愁いを帯びた表情で俯く。恐らく、今までの戦いで失った仲間のことを思い出したのだろう。その表情を見て、ティアとライトも悲痛な面持ちになる。
「……奴隷解放軍とは関わらないと言っているだろう。犠牲者も何もない」
ユリクスの口調はすげない。しかし、それを聞いたティアとライトはというと……。
「兄さん……」
「兄貴……」
ニマニマ。ニヤニヤ。
「……今すぐその顔をやめろ」
「え、なに? どういうことよ?」
「兄貴はリアナの姐さんを気遣ってるんスよ」
「兄さん優しいけど不器用だからこれが精一杯なの」
「……違う」
にやけ顔のままリアナに説明する二人の言葉を、ユリクスが仏頂面で否定する。だがその否定は一切受け取られなかったらしい。リアナにまで同情の目を向けられる。
「ユリィ、あんた損な性格してるわねぇ」
「……だから違うと言っている」
「一緒にいるとだんだんわかってくるよ」
「そうっスね。気遣うってことは、兄貴がリアナの姐さんをどうでもいい存在だとは思ってないっていう証っス」
「もう、だったらそうと言ってくれたらいいのに。ユリィったら素直じゃないんだから」
「……」
「あ、兄さん拗ねちゃった」
ぷいっとそっぽを向いて黙り込んだユリクス。表情には出ずとも実にわかりやすいとほのぼのするティアたち。その空気にいたたまれなくなったのか、ユリクスは「……話はもういいのか」と不機嫌丸出しな声で言った。
「あぁ、また脱線しちゃったわね。話を戻しましょう」
「結局手はもうないんスか?」
「いいえ、情報を集める方法ならあるわ」
リアナの言葉に、ユリクスたちはリアナへと視線を集める。その視線を受け止めて、リアナは切り出した。
「とあるバーに市長の秘書を務めてる女が頻繁に出入りしているという情報があるの」
「秘書?」
「えぇ。あんたたち、市長邸に行った時に秘書には会った?」
「メイドさんには会ったっスけど、秘書らしい人には会ってないっスね」
「そう。なら好都合ね」
勝気な笑みを浮かべたリアナに三人は首を傾げる。リアナは唐突にピシッとユリクスを指さした。
「ユリィ、あんたの出番よ!」
「……」
「ズバリ、ハニートラップよ」
「兄貴が……」
「ハニートラップ……?」
ライトとティアは引き攣った顔をする。その横でユリクスは無表情だ。リアナだけが「これだわ!」というように勝ち誇った顔をしている。
「その秘書の女に近づいて情報をひったくるのよ」
「いやいや、兄貴にそんなことできるわけないっスよ」
「何言ってんのよ、この顔でやったことないわけないじゃない。ねぇユリィ?」
視線が一斉にユリクスに集まる。その視線を向けられたユリクスはというと……。
「……はにーとらっぷ?」
首を傾げていた。
「嘘でしょ!? ハニトラをしたことない!? その顔で!? そもそも知らない!? あたしがさっきあんたにやったでしょうが!!」
「……そうだったのか」
「気づかれてなかったっ!? あたしのプライドが……。って違う、今はそうじゃない。ねぇユリィ、その顔でやったことないなんてそんなことないわよねぇ? ねぇ??」
「……顔?」
「え、無自覚?」
「あー、兄貴自分の顔面偏差値わかってないっスよ。だって今でも顔と髪のケアは自分でやらないからボクがやってるし」
「どんだけ甘やかしてんのよっ!!」
リアナは息を切らして、信じられないという表情で首を緩く横に振る。そのまま頭に片手を置いてしばらく考える素振りを見せた。
「……いいわ。あたしが伝授してあげる。時間がないから短時間で叩きこんであげるわ。覚悟しなさい」
ふふふと黒い笑みを浮かべながらリアナがユリクスを見遣る。ユリクスはなんだかとても面倒な予感がした。横でライトが「兄貴、どんまいっス」と言っているのがその予感を後押しする。
かくして、リアナ先生によるハニートラップ講習会が幕を開けたのだった。
◇◇◇
月明かりが照らす夜。とあるバーのカウンター席にて、一人の女が愛飲しているカクテルを喫していた。眼鏡をかけ怜悧な印象だが、はだけさせたシャツが色香も感じさせ、そのアンバランスな雰囲気が男を誘う。今日もまた、花の蜜に誘われた蝶のように一人の男がその女の隣に座った。
女はまるで慣れているというように、驚くことなく妖艶に笑う。
「あら、綺麗なお兄さんね。私に何か御用かしら」
「……別に。マスター、彼女と同じものを」
男の前に女が飲んでいるものと同じカクテルが置かれる。男はカクテルに手を伸ばすと、香りを楽しんでから一口口に入れた。
「同じものを頼んだのは何故?」
「……お前の好きなものを知りたかったからだ」
「嬉しいことを言ってくれるのね」
女の視線が男を値踏みするように、顔から首筋、はだけたダークグレーのシャツから覗く鎖骨あたりへと滑っていく。服越しでもわかる引き締まった体に美しい顔のアンバランスさがこの女の色欲をくすぐる。
「それで、どうして私の隣に来たのかしら? 何も用がないわけじゃないでしょう?」
「……それは……お前が何をしているのか知りたかったからだ」
「え? それはどういう?」
「……仕事……」
「仕事? 聞いてどうするの?」
「……それは……」
女はこの男が今まで自分に寄ってきた男たちとは何かが違うように感じた。明確な違和感。何故、そのようなことを聞くのだろうか、と。
一方、少し離れたテーブル席にて。
「……ちょっとやばいんじゃないっスか? あれ確実に怪しまれてるっスよ」
「最初は良い感じだったのにね」
「もうユリィったらなんであんなすぐに仕事にもっていっちゃうのよ!」
「兄さん駆け引きできないからね」
「……お前は市長の秘書なんじゃないのか」
「どうしてそれを……?」
「……お前から話を聞きたい」
「……話すことなんて何もないわよ。そもそも何故聞きたいの?」
「……それは……情報が欲しいからだ」
「情報欲しいって言っちゃってるじゃないっスか! リアナの姐さんハニトラの仕方教えたんじゃないんスか!?」
「教えたわよ! でも時間がないからコツだけね」
「なんでコツだけなんスかっ! 兄貴相手なら一から千まで教えなきゃできるわけないじゃないっスか!!」
「そんなこと言われたってあそこまでできないなんて思わないじゃない!」
「二人共、話聞かないと」
「……そう、情報が欲しいのね。でも条件があるわ」
「……条件?」
「私、今夜は楽しみたいのよ。だから今から一緒に店を出ない? 良い所があるのよ。そこであなたのことも教えて……?」
「……」
「あんなに兄貴にしなだれて逆にハニトラされてるじゃないっスか!」
「あぁもう! これじゃあ作戦失敗じゃない! なんとかユリィを回収してずらかるわよ!」
「どうやって回収するの?」
「……ティア、あんた一芝居打ちなさい」
「えっ」
女に寄りかかられ、この後どうすべきかわからずに遠い目をしている男、もといユリクスはこの女を力任せに突き放してしまおうかとまで考えていた。こうなったのはよくわからんハニトラなんていうものをさせたリアナのせいだと責任転嫁して実行しようとした。だがそこで、後ろから小さな影が近づいてきた。
「兄さん、こんなところで何してるの?」
「……」
「……兄さんって……?」
「ごめんなさいお姉さん。私、全然帰ってこない兄さんのことを探してたの。だから連れて帰るね」
「えっ、あぁ、わかったわ」
「それじゃあね、お姉さん」
「……」
ティアがユリクスの手を引き、外へ誘導する。店の外には労わるように小さく笑っているライトと、怒り心頭に発した様子のリアナが立っていた。
「ちょっとユリィ! あんた下手にも程があるでしょうが! 逆にお持ち帰りされかけてたわよ!」
「……お持ち帰り?」
「連れ込み宿で食われかけたってことよ!」
「……」
「まぁまぁリアナの姐さん、初めてなのに兄貴も頑張ったしあんまり言うのも……」
「そうやってあんたが甘やかすから不器用が誕生するのよ! ハニトラ以前にコミュニケーション能力の問題ね。全くどうしたらこんな破滅的コミュ障になるのかしら……ってあら?」
ずっと黙り込んでいるユリクスを見ると、いつも通りの無表情ではあるが、心なしか雰囲気がしょもんとしている。
「落ち込まないで兄さん。兄さんは頑張ったよ」
「………………落ち込んでない」
「あ、あたしも言い過ぎたわ。だからそんな落ち込まないでちょうだい……なんか虐めてる気持ちになるから……」
「……」
「リアナの姐さん、それ追い討ちっス」
「帰ろう兄さん。家でメラも待ってるし」
預かっていた黒コートをユリクスに手渡してやる。黒コートを羽織ったユリクスは借家に向かって歩き出した。その足取りも心なしかしょもしょもしている。借家に着くまでの道筋、三人はユリクスを懸命に励ましながら帰っていった。
◇◇◇
煌びやかな装飾が目に痛い市長の執務室。そこで二人の男女が向かい合って話していた。一人はフカフカなソファーに座った市長。もう一人は姿勢良く立っている怜悧な印象のある女秘書だ。
「市長、先程私から情報を得ようとする男に接触されました」
「ほぅ、私の秘書と知ってか」
「はい」
「どんな男だった?」
「二十代程の若い男で、黒髪にダークグレーのシャツを着ていました」
「ふむ。恐らく〝ギルド総長の懐刀〟だ」
「あの男が……」
「お前から情報を得ようとするならば奴隷に関することだろう。奴め、奴隷解放軍と手を組んだか」
「そう考えるのは早計では?」
「いや違いない。そろそろ目障りだったところだ。解放者たちに奴隷解放軍の本拠地を潰させろ」
「お待ち下さい。そのようなことをすればいずれ町や住人を巻き込んだ戦争に発展してしまうのでは……」
「ふんっ、奴隷が減り碌に税を納められなくなった連中の集まる場所で戦火を交えれば何も問題なかろう。寧ろいい掃除になるというものよ」
「ですがっ」
「くどいぞ。この私に逆らうつもりか」
「……いえ」
「わかったのならすぐに手配しろ」
「……かしこまりました」
「付き人を殺すのは失敗したが、流石に奴隷解放軍を潰すのに失敗はせんだろう」
黒い笑みを浮かべる市長に一礼し、秘書は執務室から退室した。廊下を歩きながら、一瞬愁いを帯びた表情はすぐに元の怜悧なものへと変わる。
事は大きく動こうとしていた。
◇◇◇
ハニトラ作戦を終えて帰ってきた一行は、ライトが作った夕食を食べ終えブレイクタイム中である。なお、ユリクスの機嫌は未だ直らずふてコーヒー中だ。一人離れたところでむすっとしたままひたすらコーヒーに口をつけている。
「もう、ユリィったらいつまで不貞腐れてるのよ。何度も謝ったじゃない」
「兄さん、大分傷ついたみたいだね」
「コーヒーが心の傷を癒やしてくれるのを待つっスよ」
リアナはやれやれといった様子で、ティアとライトはほのぼのした様子で話している。メラはみんなが帰ってきたことにはしゃぎすぎて現在はティアの膝の上で眠っている。
「なんであんたたちはそんなに嬉しそうなのよ」
「いやー、だってあの兄貴があんなに不貞腐れるようになるなんて」
「どういうことよ?」
「兄さん、会った時は本当に感情の変化が希薄だったから。ちょっとずつ変わってきてて嬉しい」
それを聞いてリアナはユリクスを不思議そうに見遣る。
「……あれで感情が表に出てくるようになってきたの……?」
「「あれでなってる(の)(っス)」」
「……あいつは成長型ロボットか何かなの……?」
リアナはドン引きだ。その様子にクスクスと二人は笑う。
「ねぇリアナ、よかったら奴隷解放軍のこと教えて?」
「あ、ボクも聞きたいっス」
「奴隷解放軍のこと?」
「どんなことをしてるのかとか、どういう人が集まってるのかとか。単純に興味があるの」
「ボクらも奴隷制度のこと良く思ってないっスから、奴隷解放軍がいるって聞いて、色々気になっちゃって」
「あぁ、そういうことなら」
リアナはふっと慈愛に満ちた表情で微笑む。心から奴隷解放軍を誇りに思っている……いや、愛していることが察せられて、ティアとライトは目を見張った。
リアナが穏やかに話し始める。
「奴隷解放軍を立ち上げたのは、アイサという男よ。人間族だけど、〝決別の日〟に異を唱えた人。これは聞いた話だけれど、アイサには神人族に親しい人がいたみたいでね、〝決別の日〟に殺されたらしいの。それからずっと、神人族の無実を訴え続けて、同じように〝決別の日〟に疑問を抱いている人たちと結託して奴隷解放軍を作ったらしいわ」
「リアナはその時にいなかったの?」
「えぇ。あたしはそもそもこの国の人間じゃない。旅の途中、この国に立ち寄った時に奴隷解放軍に出会って、その在り方に心惹かれたの」
「あ、旅をしてたからリアナの姐さんも戦える前提で話してたんスね。出身はどこなんスか?」
その問いに、リアナは一瞬目を伏せる。一つ息をついてから答えた。
「アウデス王国よ」
「蠍の一族の……」
「そう。……あたしも神人族に親しい人がいたの。だから、違う一族とはいえ奴隷の存在を許せないのよ」
「リアナ……」
リアナの悲痛な様子に、ティアとライトも胸が締め付けられる。
「奴隷解放軍の活動は奴隷の保護よ。あとは、あんたたちも知っている通り、奴隷の供給が多い謎を探ってる」
「保護した奴隷はどこにいるの?」
「奴隷解放軍の拠点よ」
「その……食事の用意とかって大変じゃないっスか?」
「そうね。奴隷だった人たちも加えて、人数の割りにお金が足りないから森で食材を調達しているわ。まぁ、お金があったとしても大量購入なんてしたら奴隷解放軍じゃないかって怪しまれて売ってもらえないでしょうけど」
「森には魔獣がいるのに……命がけなんだね」
「えぇ。死人も出ているわ」
「奴隷の保護と食料の調達には命がけで、町の人には煙たがられる。……それでも奴隷解放軍であり続けるのってすごいことだと思うっス」
「そうね。みんな誇りがあるから奴隷解放軍であり続けるのよ」
ティアとライトは愁いを帯びた表情で顔を見合わせる。
やはり奴隷解放軍は神人族を信じる者の集まり。その人たちの覚悟を垣間見て、神人族としてはどうにかしたくなってしまう。それに、リアナだけでなく、奴隷解放軍の人たちともっと触れ合ってみたい。ティアとライトの思いは合致した。
二人はお互いの意思を汲み取り頷き合うと席を立った。そのままユリクスに近づいていく。ティアが立ち上がった拍子に起きたメラは寝ぼけ眼でティアたちについていった。
二人と一匹が近づいてくると、ユリクスは黙ってカップをテーブルに置いた。不貞腐れながらも耳を欹てていたユリクスは二人の言わんとしていることが予想できていた。
「兄貴、ボクたち奴隷解放軍の拠点に行ってくるっス」
「兄さんが関わり合いたくないことはわかってるけど、それでも、もう放っておけないから」
「……」
二人の瞳は決然とした色を帯びていた。恐らく何を言おうと揺らがないだろう。
ユリクスは二人から視線を逸らし、再びカップを持ち上げて一口口をつける。
「……好きにしろ」
「兄さん……!」
「兄貴……!」
二人の表情がぱぁっと輝く。
「もしかしてユリィ、あんたも奴隷解放軍に協力を……?」
「……勘違いするな」
二人の後ろから近づいて問うてきたリアナの言葉を、ユリクスは厳しい口調で突っぱねる。
「……俺は今でも誰かに加担するつもりはない。拠点にはティアたちだけを連れていけ」
「いいの……? 大事な仲間なんでしょう?」
「……奴隷解放軍がそこの二人とメラに敵意を向けるなら、その時は敵になるだけだ」
横目にリアナを見るユリクスの瞳には明確な敵意が孕み、思わず射竦められる。リアナは奴隷解放軍の仲間が何があっても彼らに敵意を向けないように念を押しておくべきだと胸に刻んだ。
「……そういうことなら、明日この子たちを拠点に連れて行くわ。万が一にもこの子たちの身が脅かされることがないようにあたしが守る。それでいいわね?」
「……あぁ」
「リアナの姐さん、案内よろしくお願いするっス」
「お願いね、リアナ」
「ガウッ」
「えぇ。きっとみんなも歓迎してくれるはずよ」
話がまとまったことで、明日に備えて早めに寝ることにした一行。ティアたちが就寝していく中で、ユリクスだけが胸騒ぎを覚えて星の見えないくすんだ夜空を眺めていた。
◇◇◇
次の日、早めの朝食を取ったティアたちはユリクスを借家に一人残して奴隷解放軍の拠点に向かっていた。歩いているのは町外れの森の中。人が滅多に寄り付かないような薄暗い獣道だった。
「うへー、拠点ってこんな道の先にあるんスか……」
「当然じゃない。見つかりやすいところを拠点にしてたら危ないでしょうが」
「メラ、大丈夫? 疲れてない?」
「ガウッ!」
「そう、よかった」
「拠点が近づいたらメラは小さくなっててちょうだいな。メラの本来のサイズは知れ渡ってるけど、大きいサイズのままじゃどうしてもみんな警戒しちゃうわ」
「うん、わかった」
「……それにしてもなんか変じゃないスか?」
「変って?」
ティアに問いかけられてライトはうーんと唸る。
「何がってわけじゃないんスけど、なんか、所々に戦闘の後があるような……」
「日々魔獣と戦いながら食料調達してるんだから当然でしょう?」
「まぁ、それもそうっスね」
「……リアナ、昨日聞けなかったことなんだけど」
「ん? 何かしら?」
ティアが俯きがちに口を開く。昨夜聞こうとしたが、奴隷解放軍が誇りの元活動していることを知り、聞こうか迷っていたことだ。
「……奴隷解放軍は今の国の現状をどう思っているの? 奴隷がいなくなって、大分荒れ果ててしまった様子を私たち見たの。奴隷が必要とは言わないけど、でも国の状況にも思うところがあって……」
「……優しいのね、ティア。自分の国でもないのに。……そうね、確かに奴隷がいなくなってこの国は大分廃れたわ。それに全く胸が痛まないなんてことはない。でも、奴隷がいなくてもこの国はやっていけるはずなのよ。だって元々は奴隷なんていなかったのだから。だから私たちは奴隷がいなくなって、それから国が立て直されていく未来を信じて活動しているのよ」
「どうやって立て直すんスか?」
「無責任だと思うでしょうけど、具体的にはまだ何も。でも、まずは市長をあの座から引きずりおろして新しい指導者を立てるつもりよ」
「あー、確かにあの市長じゃ奴隷のいない国の立て直しは無理っスね」
「でしょう?」
それぞれがあの市長の性格を思い出して辟易した顔をする。そんな時だった。
「グルルル……」
「メラ?」
突然、メラが一点を見つめて険しく唸る。その様子にライトとリアナは警戒しながらメラの見つめる方向に向かって進む。すると、そこにいたのは。
「ッ! サギリ!」
「うぁ……リアナの……姐さん……」
「リアナ、この人は……」
「奴隷解放軍のメンバーよ」
樹陰に隠れるようにして倒れていたのは、奴隷解放軍のメンバーであるサギリという男だった。全身傷だらけだが、幸い致命傷はないようだ。
リアナが体を助け起こす。
「サギリ、一体何があったの?」
「……姐さん、敵襲だ……」
「敵襲ですって!?」
「……俺は……とにかく早く姐さんに伝えようと……拠点を飛び出して……。でも、途中で見つかって……攻撃されたんだ……。なんとか隠れて……やり過ごしたけど、意識を失って……」
「そう……ありがとう、サギリ」
「リアナ、その人をメラの上に」
「えぇ、ありがとう」
ティアがメラから降り、代わりにサギリをメラの上に乗せる。
「とにかく拠点に急ぎましょう」
「うん」
「そうっスね」
メラに乗るサギリにできるだけ負担がかからないようにしながら、小走りで拠点へと急ぐ。拠点が近づくにつれて、徐々に煙の臭いが強くなっていく。
焦りを覚えながらしばらく走り、ようやく開けた場所に出た。そこで目にしたものは……点々と設置されたテントが崩壊し、地面が所々抉られ、怪我人と死体がそこら中に転がっている筆舌に尽くしがたい光景だった。
お読みいただきありがとうございます。




