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大都市シーガラス

 (きら)びやかな謎の装飾が施されたふかふかで豪奢(ごうしゃ)なソファー。良さが理解できない程派手な装飾が施されたローテーブル。その上に乗せられた触りたくない程に華美な装飾で埋め尽くされたティーカップ。辺りを見回せば目がチカチカするほどお高そうな家具の数々。


 ここは大都市シーガラスの市長邸。辺り一面チカチカテカテカな紛うことなき豪邸である。その待合室に、ユリクスたちはいた。


「……どうしてこうなった」

「ごめんね、兄さん」

「ほんと申し訳ないっス……」

「……いや、いい」


 ユリクスたちが市長邸にいるのは本意ではない。一秒でも早く帰りたくて仕方がない。とはいえまだ宿も決まっていないので帰る場所はないのだが。


 何故こんな場所に来てしまったのか。時は数時間前に(さかのぼ)る。


 早朝、ツバメルの町から出発した一行は大都市シーガラスへ向かって歩いていた。馬車で移動しなかった理由は二つ。徒歩で丸一日程の近い距離であったことと、また奴隷解放軍に襲われる可能性があり面倒だったからだ。


 昼を過ぎた頃、前方で三体の魔獣に襲われている馬車を発見した。冒険者らしき男が応戦しているが、何分相手の数が多い。かなり苦戦している。


「……」

「ねぇ、あれ!」

「魔獣に襲われてるっス! 早く助けないと!」

「……おい、待て」


 ユリクスの制止を聞かずに、ティアとライト、メラは飛び出していった。その後をユリクスも溜め息をつきながら追う。


「メラ、お願い!」

「ガウッ!」

「でりゃっ!」


 馬車の中から見えない位置にいる魔獣を、元のサイズに戻ったメラが雷魔法を放出することで討伐する。馬車の前方にいた魔獣はライトが神器を顕現(けんげん)させて銃殺。後から参戦したユリクスが、馬車の側面を襲っていた魔獣を黒刀で斬り伏せることで全ての魔獣を討伐した。メラはすぐに子犬サイズに戻る。


「これでもう大丈夫っスね」

「皆さんのおかげで助かりました。なんとお礼を申し上げたらいいか……」


 馬車から壮齢(そうれい)の男が降りてくる。いくらか身なりがいい。襟を正して男は名乗った。


「私はシーガラス市長専属の奴隷商人をしている者です」

「市長専属の……」

「奴隷商人……っスか……」

「はい! 是非この度の事は市長にお伝えして、お礼をさせて下さい!」


 ティアとライト、メラがギギギと壊れたロボットのように首を動かしてユリクスを見遣る。ユリクスの表情は密な付き合いをしてきた二人と一匹だからこそわかる。物凄く不機嫌だ。


「……結構だ」

「いえ、そういうわけには参りません! ささ、馬車にお乗り下さい!」


 御者台と、恐らく奴隷が物のように詰め込まれているであろう荷台の間には空間があり、そこにぐいぐいと押し込まれる。半強制的に乗せられたティアとライトは顔面蒼白だ。


「あの……兄貴……。さっきボクたちを止めようとしたのって……」

「奴隷の気配で奴隷商人の馬車ってわかってた……?」

「……そうだな」

「「……」」

「……加えて森の中から奴隷解放軍らしき奴らの気配がしているな」

「「……」」

「……奴隷解放軍にとって俺たちは敵になったな」

「「……」」

「……面倒事不可避だな」

「「……………………ごめんなさい」」


 こうして奴隷解放軍たちからの鋭い視線に刺されながら関所に辿り着き、そこの検問で〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟ということもばれ、問答無用で市長邸へと連行されていったのであった。


 時は現在に戻り、待合室。コンコンと扉がノックされる音が響く。


「お待たせ致しました。市長がお待ちです」


 メイドが深くお辞儀をして入室し、ユリクスたちに同行を求める。ユリクスは心底面倒だと思いつつ、ここで逃げても余計(こじ)らせるだけだと思いなおして大人しくついていった。


 通されたのは応接室。待合室と同じように至る所に装飾が施されていて目に悪い。座っている市長本人もでっぷりと肥えていて、大きな宝石がついた装飾品をこれでもかと身に着けている。三人は思わず嫌悪に顔を歪めたが、市長本人は気がつかなかったようだ。


「ようこそおいでくださいました〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟様! この度は私の奴隷を守っていただきありがとうございました。ささ、どうぞお掛け下さい」


 下品な笑みを向けながら席を勧めてくる市長。勧めてきたソファーは明らかに一人掛けで、〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟であるユリクスにしか興味がないとありありと示してくる。それにも不快感をあらわにしたユリクスだったが、ティアとライトは気にしないというようにユリクスにソファーを勧めた。ユリクスは投げやり気味にどかりと腰を下ろす。


 市長が手を揉みながら話し出した。


「いやぁ、最近は奴隷解放軍などというわけのわからん連中のせいで奴隷が手に入りにくくなっておりまして、今回奴隷を守っていただいたことは誠に感謝しております」

「……奴隷商人の方はいいのか?」

「えぇ。商人ならいくらでも替えがききますから」


 市長の人を人とも思わない発言に、余計にユリクスの心情は不快なものになる。こんな男が市長でいいのかシーガラス。


「お礼につきましては、シェフが腕によりをかけて作った食事をご用意致しましたので後程ご案内致します。それから金銭の方も用意しているのですが……」


 ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべていた市長が、突然わざとらしくしおらしい表情を作って言葉を濁してくる。ユリクスは怪訝(けげん)に思い眉を顰めた。


「実は〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟様に折り入ってお願いしたいことがございまして、聞いていただけるのであれば謝礼金は弾むつもりです」


 ユリクスは瞬時に面倒事だと感じ取る。だが断るより先に市長が切り出すほうが早かった。


「奴隷解放軍。奴らを制圧していただきたいのです。ギルドの方に何度か要請はしているのですが、あの木偶坊(でくのぼう)は一切動こうとはしませんので……」

「……木偶坊とは支部長のことか」

「その通りでございます。ですから〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟様に協力していただきたく、こうしてお願いしているのです」


 お願いと言うわりには偉そうな態度を崩さない。今までずっと、全てに対して金か権力で望む通りにしてきたのだろうことが窺える。恐らく今回も金でユリクスを動かせると思っているのだろう。……気に食わない。


「……断る」

「なんと……『断る』と申されたのですか?」

「……そうだ。礼も結構だ。これで失礼する」

「……それは困りましたねぇ」


 市長の口調に仄暗(ほのぐら)さが滲み出る。その変化に立ち上がろうとしたユリクスは動きを止めて様子を窺った。市長はしおらしい表情から元のニマニマとした気持ちの悪い表情に戻っている。


「〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟様ともあろうお方が、市長である私の依頼を断ってもいいのでしょうか? 市民たちが聞いたらどう思うか……」

「……」

「それなら勘違いしてるのはアンタの方っスね」


 ずっと静観していたライトが不快そうな表情をあらわに話を遮った。


「〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟の仕事はギルド総長、あるいはギルド支部長からの依頼をこなすこと。シーガラス支部長が動いていない時点で〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟である兄貴が協力する義務はないっスよ」

「ッ! ええいっ! 私は〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟様に申し上げているのだ! 付き人風情が黙っていろ!」




 ドンッ!!




 誰もがそんな音を錯聴した。市長がライトに叫び散らした直後、室内の空気が急激に重くなったように感じられたのだ。室温もいくらか低下したようで、特に肝がよく冷える。


 この場にいる者の視線が圧の中心地――ユリクスに集まる。


「……俺の連れに何か文句でもあるのか」

「……い、いえっ……滅相も……ございません……」


 ユリクスの放つ殺気を間近に受けたことで、先程まで威勢のよかった市長が冷や汗をかいて戦々恐々となる。


 ユリクスは立ち上がり、そんな様子の市長を下視すると踵を返して扉へと向かう。


「……し、市長であるこの私に逆らって、た、ただで済むと思うな……!」


 震えを一切隠せていない声で市長が何やら言っているが、意に介さずユリクスたちは部屋を出て行った。


 市長邸を出るまでの無駄に広い廊下にて。


「うわぁぁぁ……兄貴が! 兄貴がっ! ボクのために怒ってくれたぁぁぁ!」

「よかったねライト」

「マジ嬉しいっス~! 兄貴マジかっけぇ大好きっス~!」

「……別に怒ってない」

「でも腹は立ってたよね?」

「……うるさい」


 ライトのテンションが有頂天である。ティアもユリクスがライトのために腹を立てたことがとても嬉しかったようで、にこにこと良い笑顔だ。ユリクスは仏頂面だが、二人と一匹にはわかっていた。若干照れている。


 市長相手に逆らったとは思えない程和気藹々と玄関へ向かって歩く一行だったが、玄関に着いたところでユリクスの纏う空気が少し張り詰めた。それを敏感に察したティアたちは上がりきったテンションを抑えて警戒する。


 市長邸の玄関を開けて外に出る。誰もいない。しかしユリクスにはわかっていた。


「……隠れていないで出てきたらどうだ」


 市長邸の前に立っていた木の陰から一人の男が出てきた。その手には片手剣。服装は庶民然としている。すなわち、奴隷解放軍。


「市長と何の話をしていた?」


 緊張を孕んだ声音でユリクスたちに問いかけてくる。返答次第では戦闘も辞さないという考えか。ユリクスが〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟であることは、関所で監視されていたことから奴隷解放軍に知れ渡っていることだろう。〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟相手に刺し違えてでも傷を負わせてやろうという気概がよく伝わってくる。まぁそんな気概、ユリクスにはどうでもいいのだが。


「……別に。お前たちを何とかしろと言われたから断っただけだ」

「断ったのか?」

「……そうだ。何か文句があるのか」

「……いや、断ったのならいい。……悪かった」


 小さな謝罪を残して、男は去っていった。


「これで奴隷解放軍がボクらを敵とみなさないでくれるといいんスけど……」

「どうだろうね……」


 不安げに二人が零す。


「……敵とみなすのなら斬り伏せるだけだ」

「うっ、奴隷解放軍のみんながどうか兄貴に喧嘩を売りませんように……!」

「あわよくば市長に痛い目見せてくれますように……!」

「……お前たち、奴隷解放軍の味方になっていないか?」


 そんな軽口を叩き合っていると、またもや人が近づいてくる気配。今度は何だとユリクスはげんなりする。すると一人の女性が気品を感じさせる所作で現れ、三人と一匹に深々とお辞儀をした。


「私はシーガラス支部長補佐のアナと申します。〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟ユリクス様、支部長がお呼びです。ご同行願えますか?」


 どうやらギルドの人間のようだ。


「今度は拒否できないっスね。兄貴、ボクらは先に宿を探してくるっス」

「それとも一緒に行った方がいい?」

「……いや、宿を頼む」

「わかった。いってらっしゃい」

「……知らない人間についていくんじゃないぞ」

「子どもじゃないんだからしないっスよっ!」


 ティア、ライト、メラと別れてユリクスはアナの後をついていく。市長の相手より支部長の相手の方が余程疲れそうだなとシーガラスの町並みを見ながらげんなり思う。


 シーガラスは大都市というだけあってとても大きな町だ。だが洗練されていない。酒場や娼館などが目立ち、街並みは猥雑(わいざつ)さが極まっている。奴隷の扱いもやはり酷いものであるし、住む人自体がまるで品がない。ティアたちと別れたのは失敗だったかと後悔しそうになったユリクスだが、過保護すぎるかと首を振って否定する。ティアは戦えないが、ライトは神器を顕現(けんげん)できるほどの実力者であり、いざという時はメラもいる。何も問題はないだろうと思いなおして歩く。


「酷い町でしょう?」


 不意にアナが声をかけてきた。


「不死鳥の一族が治めていた時代はこんな町ではなかったのですが、市長が奴隷の使用を大々的に広めてからというもの、猥雑(わいざつ)さは増すばかり。住む人間の心まで、醜くなりました」

「……昔からこの町で暮らしていたのか」

「はい」


 〝昔〟というのは神人族と人間族が共存していた時代のことを指した。変わり果てていく町を見て、アナは心を痛め続けてきたのだろう。それが声音から伝わってくる。それでも町を出ようとしないのは、ゲオルグが言っていたように神人族が再び肯定され、町が元のように戻ることを信じているからだろうか。


 辺りを見渡せば、奴隷を見る人間の目がとても醜いのがよくわかる。例え神人族が肯定される時代が再び訪れたとしても、この腐りきった町は元には戻らないのではないかとユリクスには思えてならない。


「着きました」


 気づけばギルドに到着していた。かなり大きい。


 中に入れば酒場が付設されており、バーのようなカウンターもある。昼から酒盛りをしている冒険者たちはかなり下品だ。イグレットでも昼からの酒盛りは日常茶飯事だったが、もう少し洒落(しゃれ)た明るさがあってここまで卑しくはなかった。あの二人にはあまり足を踏み入れてほしい場所ではないなと、無意識に過保護が発生する。


 支部長補佐であるアナに連れられて奥の部屋へ通されるユリクスに、冒険者たちからの視線が集まる。ねっとりとした気色が悪い視線だ。


 アナに促されるままに素早く奥の部屋へと入った。同時に声を掛けられる。


「来たのね、新たな〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟」


 部屋にいたのは、勝気そうな切れ長の目をし、オレンジに強く輝く長髪をポニーテールにした女だった。その女に促されてアナが部屋から出ていく。


 二人きりになってから、ユリクスが口を開いた。


「……お前がシーガラス支部長か」

「えぇそうよ。私はソフィア・メジーリカ。よろしくねユリクス」


 そう言って、シーガラス支部長――ソフィアは手を差し出してくる。しかしユリクスはその手を取ることなく、ソファーにどかりと腰かけた。


 ユリクスの不躾な態度にソフィアは気分を害すことなく、寧ろ楽しそうにクスクスと笑った。


「ふふ、随分な態度ね。総長から聞いていた通りだわ」

「……それで、支部長が俺に何の用だ」


 ユリクスの問いに、ソフィアも対面のソファーに腰かけて真剣な面持ちになる。


「指名依頼よ、ユリクス」

「……断る」

「まず話を聞きなさいな」

「……聞いてもどうせ断る」

「面白い人ね。指名依頼を即答で断る〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟なんて初めて。本来なら〝ギルド総長の懐刀(ガーディアン)〟の地位剥奪よ?」

「……願ったり叶ったりだ。是非そうしてくれ」

「でもあなたに対しては総長から特命が下されているの」

「……特命?」


 特命という嫌な予感しかしない言葉に眉を顰める。その正面で、ソフィアは茶目っ気たっぷりな表情でユリクスに言い放った。


「そう。断った場合、総長の付き人として一緒に旅をしてもらうって」


 ユリクスは唖然とする。なんだその拷問は。


 ユリクスにしては珍しく感情が表にはっきり出ていたらしい。ソフィアは楽しそうに笑って言った。


「普通の冒険者なら喉から手が出る程欲しい立ち位置なんだけどね。だってあの総長の懐刀どころか相棒と言っていい立ち位置なのよ?」

「……どうでもいい。誰が好き好んであいつの相棒になんてなるか」

「ふふ、本当に面白い人。総長に敬意なんて一切なく、相手が誰であろうと傲岸不遜な態度を崩さない。だからこそ、気に入られたのかもしれないわね」

「……それこそ迷惑な話だ」


 ユリクスの仏頂面を見て、ソフィアはまた楽しそうに笑う。勝気そうな見た目に反してよく笑う女だなとユリクスは思った。それはソフィアにもまた気に入られてしまったからだとユリクスには知る由もない。


「それで、話は聞いてくれるのよね?」

「……」


 無言を肯定ととらえたか、ソフィアは笑みを潜めて再び真剣な面持ちになると話を切り出した。


「率直に言うと、あなたにはどこからか仕入れられてくる奴隷の出所を調べてほしいの」

「……ほう、奴隷解放軍に関する依頼かと思ったが、随分予想外な話だな」

「奴隷解放軍はいいのよ。神人族を信じる者として、奴隷解放軍の活動を邪魔するつもりはないわ。とはいえ公的な立場として手を貸すつもりもない。あくまでギルドは中立を保つつもりよ」


 奴隷解放軍と市長や市民の板挟みになっているだろうに、ソフィアの意志は固いようだ。芯の強さがうかがえる。支部長の肩書は伊達ではないようだ。


 ユリクスは無言で話の続きを促した。


「奴隷が不死鳥の一族であることはもちろん知っているわね? 嫌な話だけど、不死鳥の一族の男女に無理矢理子どもを産ませて奴隷を増やしているという事実はあるわ。でもね、それにしても日々仕入れられてくる奴隷の数があまりにも()()()()のよ」

「……」

「不死鳥の一族の奴隷は若さを保つために殺されては甦ることを繰り返して発狂し、神核を(えぐ)り取られて処分されてしまうことも多い。それに今は奴隷解放軍の働きで奴隷が保護されているケースも多いから、奴隷の数は増える人数よりも減る人数の方が圧倒的に多くなるはずなの。にもかかわらず、日々奴隷はどこからか仕入れられ続けている。おかしいと思わない?」

「……不死鳥の一族だからといって赤ん坊が急速に成長するなんて話はないからな」

「そう。そしてもう一つ不可解なことがあるわ」

「……不可解なこと?」

「奴隷の中で、確かに胸に神核が埋め込まれているにもかかわらず、自分は人間族だと主張する者がいるのよ。それも一人や二人じゃないわ」

「……つまり、何らかの方法で人工的に奴隷が作り出されている可能性があると?」

「そういうことよ。だからあなたには、誰がどのようにして奴隷を生み出しているのかを調査して証拠を掴んでほしいの」


 ユリクスは内心で唸った。なるほど、面倒だ。


「面倒でも断ったら総長の相棒いきだからね?」

「……何故わかった」

「あなた結構わかりやすいわよ」


 ユリクスの表情筋は割と死んでいるのだが、どうやらソフィア曰くわかりやすいらしい。女の勘というものだろうか。恐ろしい。


「……調査関係は素人だ。期待はするなよ」

「できる範囲でいいわ。よろしくねユリクス」


 ユリクスは長嘆息をもらして立ち上がり、いい笑顔で見送るソフィアに苦々しい顔を向けてから部屋を出た。全く、誰だ指名依頼は滅多に来ないとか言った奴は。ライトか。


 苛立ちを理不尽にライトに向けながら、二人と一匹を捜しに行くためにギルドを出ようとする。しかし。


「よぉ、随分綺麗な兄ちゃんだな。支部長と二人で何してたんだ? ん?」

「支部長、顔だけは良いからなぁ。楽しいことでもしてたんじゃないか?」

「いやそれはねぇだろ! この兄ちゃんはどう見たって掘られる側だろうが!」

「ちげぇねぇ!」


 ギャハハと下品にも程がある男たちの笑い方と内容にユリクスの苛立ちは限界点を突破した。ズドンッ!! とギルド内の圧力が高まり、目の前にいた男たちは失神。周りにいた冒険者たちは次々と椅子から転げ落ち、酒を零し、顔を青くする。苛立ちのせいでギルド職員やバーテンダーの男にもうっかり余波がいってしまい、震えあがっている。一瞬でギルド内はユリクスの支配下に置かれた。


 おっと、やってしまった。まぁすっきりしたからいいか。なんて軽い考えを抱きながら周りの様子そっちのけでギルドの出入り口に向かう。


 ティアたちは無事に宿を見つけられただろうか。面倒なことに巻き込まれていなければいいが。


 心配しつつ、先程よりも気分と共に軽くなった足取りでてくてくとギルドを出ていった。






お読みいただきありがとうございます。

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