掃討戦 I
第4話 掃討戦 I
「敵艦側面距離200の至近へ威嚇射撃始め」
クロイツはCICにて敵艦への威嚇射撃命令を下した
すると艦首にある主砲から2本のレーザー弾が発射され、敵艦の左側面ギリギリを通っていった
あくまで警告であるため当てることはしない。しかし相手を威圧する為にもギリギリを狙ったわけだ
『次は当てるぞ』との意味を込めて
するとCICにいる観測員から報告が飛んできた
「敵、艦首を我が方へと向け攻撃体制へと移行しました!」
「こっちが1隻ということで潰しにきたな」
クロイツの側に立っているイヴァンが不敵な笑みを浮かべながら呟いた。
戦闘ということあって、普段はダラダラしているクロイツも真剣な眼差しでモニターを眺めている
「量子高速通信にて基地へ連絡。『我、敵艦発見せり。敵数3、いずれも戦闘態勢に移行。増援を乞う』この言葉をそのまま送れ」
「はっ!緊急増援要請を行います」
「全兵装使用スタンバイ!自動照準にて敵艦を捕捉、命令があるまで待機」
通信士に連絡させたクロイツは、ふぅ〜と溜め息を吐き隣にいるイヴァンに話しかけた
「さて、増援が来るまでどうやって凌ごうか……。イヴァン、なんか良い案ないかい?」
「それを考えるのがテメェの仕事だろ!まぁ…普通は時間稼ぎの為に遊撃戦かな?」
「チッチッチッ。甘いな〜イヴァン君は。こんな時こそ大攻勢にでるんだよ!!」
目をキラキラさせながら言い切ったクロイツにイヴァンは『正気かコイツ……』という顔をした
「ま、今のは冗談だ。こんな所で死にたくはないしね〜何より面倒だ。だから君の言った通りに遊撃戦……一撃離脱戦法で時間を稼ごう」
「ならさっきの回りくどい発言は要らないだろ。そうと決まれば主砲の発射方法も決めやすいな!おい、主砲を長距離射程に変更しとけ」
「はっ!主砲長距離射程に変更」
「艦長、基地より返信です!『友軍艦艇3隻をそちらに派遣した。到着まで敵艦を捕捉し続けろ。30分後到着予定』との事です」
「わかった。と、まぁそういう事だイヴァン。後は頼んだよ」
やる事を終えた雰囲気を出しながらCICを出ようとしたクロイツの襟首をイヴァンが咄嗟に掴んだ
「テメェどこ行こうとしてんだ……まだ終わってないぞ。艦隊規則第92条1項『艦長職に就くもの或はそれに準ずる者は、戦闘時に於いて緊急時に陥らぬ限り指揮所を離れる可からず』って知らんのか?」
「え…いや、その………」
「答えろ艦長。2項目も教えようか?」
「ゴメンナサイ。職務に励みます……」
「それで良い。わかったら早く指揮官席につけ」
ドスの効いた声で言われたクロイツは、縮こまりながら指揮官席へと腰を下ろした。これまで戦闘時のピリピリしていたCICの空気は、この一件により怒られた職場内の嫌な雰囲気に変わっていた
そしてCIC内にいる全乗組員同時に思った
(((今イヴァン少佐に話しかけるのは止そう)))
「艦長、敵艦2隻、離脱していきます!12時方向敵、エネルギーチャージ始めました」
「……そう来たか。敵さんは後続艦2隻を離脱させて領内の奥に侵入するきだな。イヴァン」
「はいよ。後続艦2隻にミサイル照準完了してるぜ!いつでもどうぞ」
「早いな……。2隻の機動力を奪いたい。メインエンジンを破壊してくれ」
「ちょ、難しいこと言うね〜……飛ばすのミサイルだぜ?自律式っての忘れてないよな」
「ん?あぁ…そうだったっけ。まぁお前ならいけるだろ」
「無理だよ!!!有線でやれって言ってるわけ?いったいいつの時代だよ!んあぁー!!ちょっと考えるから待ってくれ」
「わかった。なるべく早くな。敵さん逃げちまうから」
クロイツから無理難題な注文を付けられたイヴァンは、頭を抱えながら唸っていた。何しろミサイルで敵の機動力を奪うなど前代未聞である
イヴァンがブツブツと独り言を話していると、観測員が慌てた様子で情報を読み上げた
「12時方向より敵砲撃来ます!弾数3!!」
「前面に電磁シールド展開、反撃する!主砲全発射、目標12時方向敵艦!!」
クロイツが出した的確な指示により自艦は傷一つ負うことはなかった。しかし、敵方も同様だったらしい
「我が方の攻撃、敵のシールドにより防御されました」
「…まぁ同然だよな。しっかしこんなことを続けていても埒があかないな。やっぱり後続艦2隻の足止めをしないと」
「これだ!!ミサイル班、装填済みミサイルのデータ書き換え。急いで全100発の内40発を近接信管に切り替えろ!」
「おっおい……どうしたそんなに張り切って」
「テメェが早くしろって言っただろ!安心しろ。これで大丈夫なはずだから」
クロイツは、妙に張り切っているイヴァンを横にダラけきった間抜け面をしながらメインモニターを見つめていた
イヴァンの命令で兵装班たちは慌ただしく艦内を走り回っていた
艦橋では、レータが他の乗組員達をまとめている。副官がしっかり者であるからこそ、この艦は運行できているのかもしれない
「レータ中尉。こんな時になんですが……艦長は大丈夫でしょうか」
「それはどういう意味です?アホか馬鹿かということですか?」
「い、いえ!そういった事ではなくてですね。その……無事かどうかという事です」
「ふふふっそれなら大丈夫ですよ。CICにはイヴァン少佐が居ますから」
「そ、そうですよね〜ハハハハハ……」
……少し抜けているが入っているがしっかり者である
レータの発言に艦橋内は微妙な空気が流れてしまった。しかし彼女はそんな事お構いなく、現状況のデータとこれから予想される事態をコンピュータにまとめていた
そこへCICから連絡が入ってきた
「CIC、艦橋。艦長のクロイツだ。レータ中尉、これから予想される敵艦の動きは」
「はっ。現在、本艦正面にいる1隻が我が方を足止めしております。残り2隻は後方を大きく回って第5宙域へと向かうと予想されます。2隻の戦線離脱までの所要時間およそ10分」
「わかった。ありがとう。引き続き艦橋を頼む」
「了解しました!」
レータから敵の予想行動を確認したクロイツは、この時、命令を下す大きな覚悟を決めた。……敵の殲滅である
友軍艦艇が到着する頃には敵艦が逃亡してしまう可能性が高かった。連邦領の奥深くまで進まれてはそこに住む住民の命が危ぶまれる
苦渋の決断だ。現に連邦と帝国は戦争状態にある。その為、奪い奪われの状況下にあるが誰も自ら人を殺しに行こうとは思わない
それではただの殺人鬼と同じであるからだ。殺したくないのに殺さないといけない状況に陥るのが戦争である
極限状態に陥った人は、普段できない事もやってのける。たとえそれが道徳・倫理に反した事であっても……
戦争とはそんなものだ。人と人が命を奪い合う醜い争い。『人類の歴史とは戦争である』と言うが、学習能力のない生物がここまで繁栄するのもいささか不思議である
多くの疑問を抱きながらも自らの手を敵兵の血で汚さざるを得ない。戦場においてこの様な考えを持つのは禁物である
一瞬の迷いが大きな被害を生み出すことになるから
艦橋と連絡を終えたクロイツの表情が曇り、急に黙り込んだ。その様子を目にしたイヴァンは、彼の頬に平手を打ち込んだ
パンっという音が機密性の高いCICの中でこだました
突然ビンタされたクロイツは、驚いた顔をしてイヴァンを見た。そのイヴァンの顔は今まで以上に怒っている様子だった
「何、暗い顔してんだ。今戦闘中だぞ。敵を殺すことを躊躇っているのか?今更そんな事で考え込むな!!テメェの下には200人の部下が居るんだぞ。敵の命より先に部下の命を優先しろ!!」
「……すまなかった。そうだな、その通りだ。もう大丈夫。次から同じ事はしないよ。心配かけた」
CIC内に響いたイヴァンの怒鳴り声は、その場にいた全員の心を強くした。今だけ、今だけは人の心を捨てようと。人ではなく鬼になるのだと
イヴァンの言葉で我を取り戻したクロイツは、これまでダラけきっていた顔から一変して引き締まった表情へと変化していた
そして目の前にある艦内放送用マイクを手に取ると、一呼吸おいてマイクのスイッチを押した
「艦内全乗組員へ伝達する。これより我が艦は敵殲滅を行う。我が方も戦闘により被害を受けるかもしれない。皆、心してかかって欲しい。……最後に、生きて帰ろう」




