ここにあらず
第2話 ここにあらず
「目標物、視認!!第2宇宙ターミナルまで、距離1万」
「よし。ここからは宇宙ターミナル管制官の誘導に従ってくれ。周囲の警戒を怠るな」
「了解!」
観測員の報告を受けたクロイツは、通信士と操舵手に指示を出すと座っている椅子の背もたれに身を預けてウトウトし始めた
「……ょう、……艦長、クロイツ艦長!起きてください。ハレル総司令官から通信です!」
「っん……んん?レータ中尉、せっかく良い気持ちで寝ていたんだから起こさないでくれよ…」
「寝ていた、か……。クロイツ、お前勤務中だよな?まさかだとは思うが……寝てたのか??」
ドスの聞いた低い声が艦橋内に響き渡った
眠たそうに目をこすっていたクロイツは、その声で身体をビクッとさせると慌てて帽子と制服を正して直立になった
「ハ、ハレル総司令、お疲れ様です!!この度は如何様なご用件で……」
モニターに映し出されるハレルに敬礼をしながら、慌てた様子で通信内容を聞こうとするクロイツは、ボタンを掛け違っているのに気が付いていなかった
「クロイツ、ボタン掛け違ってるぞ」
「え?あっ…あははは」
「っふざけてるのかお前は!!お前が真面目じゃないのは分かっていたが、ここまで気が緩んだ奴だとも思っていなかった。訓練終了次第、私の部屋に出頭しろ!」
ハレルは顔を真っ赤にしながら、大きな声でクロイツに向かって怒鳴った
その怒鳴り声は艦橋内だけに収まらず、艦橋下部の士官室や食堂にまで鳴り響いた
怒鳴られた当のクロイツは、あちゃ〜という表情をしてモニターに映るハレルを前にシュンと縮こまっていた
「まあ良い。この話は置いといて、今回連絡した用件を話そう。レータ中尉は居るか?」
「は、はい!ここに」
「よし。レータ中尉、こいつが役に立たないから君がよく覚えておいて欲しい。これから伝える用件は第一級軍事機密に指定された。その意味は分かるな?」
「はい!…ボソッ(……第一級軍事機密)」
「では説明しよう。先日、帝国軍の軍艦3隻が我が国との境界線に接近中との報告があった。その艦艇を調べてみると、特殊工作用に改良された駆逐艦である事が判明した。どうやら帝国は、連邦内に工作員またはそれに準ずる者を送り込もうとしているのだろう。もし、貴艦の訓練航行中に遭遇すると3隻から襲撃されることが予想がされる。そこで、私の権限により当該宙域で活動する全連邦艦艇に対して無制限戦闘許可を出す。貴艦にもそれが適用される事を伝える為に通信を行ったというわけだ。……しかし、まさかこんな事になっているとはなぁ、クロイツ」
ハレルの内容はこうだ
・帝国艦艇3隻が連邦領へと接近中
・当該艦艇は特殊作戦用に改良された駆逐艦3隻の模様
・敵の目的としては、我が国内に工作員もしくはそれに近い者を潜入させようとしていると予想
・敵は任務遂行の為なら手段を選ばないであろう
・国家防衛の為、総司令官権限において無制限の戦闘を許可する
国家安全保障上よろしくない状況が起きようとしている為、現場最高責任者である防衛艦隊総司令官のハレルが所有する権限が、ここで使われた形となる
上記に出てきた《 第一級軍事機密 》とは、国家安全保障上、場合によると最悪の事態を引き起こす恐れのあるもの、又は連邦市民に動揺を与える敵軍事行動等を連邦市民に隠す為のものである
民主主義、個人主義を謳う国家である連邦と言えど、市民の権利や権限を守る為ならやむを得ないという対応である
「そうでしたか。了解しました、それではご命令通り行動させて頂きます。ハレル総司令、失礼ながら意見具申致します。今回のクロイツ艦長の件に関しましては、副官である小官にも責任があると考えます。どうか艦長のみ罰をお与えになるのは御一考くださいますようお願い申し上げます」
レータは、ハレルの命令を了承した後、すぐに自身の上官であるクロイツのフォローを行った
「……すまんがレータ中尉。貴官が、彼と共に責任を負うことは出来ない。それは君には一切責任がないからだ。また、彼も立派な大人である。自分のした事に対しては、彼自身でしっかりと責任を取ってもらわなければならない。これ以上、本件に関して意見することは認めない。これは命令だ」
「……そうですか。出過ぎた真似をしてしまい失礼致しました」
「いや謝ることはないよ。それにしてもクロイツには勿体ない副官だな君は。君がアイツで苦労するのかと思うと胸が痛むよ」
「め、滅相もございません。苦労など……そんな」
「レータ中尉、安心してほしい。アイツは帰還した時にキツく絞り上げる予定だ。だからそれまでの間、君とイヴァン少佐にアレのお守りを任せたよ」
「はっ!!了解しました。謹んで拝命いたします」
「ハハハッ!そう気負いしなくても良いよ。……クロイツ中佐、いつも見ているからな。気を抜くなよ」
レータのフォロー虚しく、クロイツの刑が確定された
ハレルは、クロイツに向かって『見ているぞ』とジェスチャーをすると通信を遮断した
「あちゃ〜やっちまったよ……。こりゃ帰ったらシゴかれるな」
「任務中に寝るのが悪いんですよ?クロイツ中佐。ハレル総司令、相当怒っている様子でしたからね……これは覚悟が必要ですよ」
「やっぱそうだよな。ハァ……」
「そんなことより艦長、目的地までの距離1000です。そろそろドッキングの準備をしなければならないかと」
「今、私はそれどころじゃないんだよ。レータ中尉、後は頼んだ!!……んん〜どうしようか」
ハレルの逆鱗に触れたクロイツは、帰還した後の事で頭が一杯であった
しかし、そんなことはどうでもいいと言うのが乗組員全員の考えである。自業自得なんだから潔く諦めてくれという空気が、艦橋内に充満していた
そもそも目的地である第2宇宙ターミナルには着々と近づいている。この艦の指揮官として新たな指示を出してもらわないと、民間船などが頻繁に往来する宙域で右往左往する羽目になってしまうのである
それでは連邦軍の名が廃る。ここは役に立たなくなっている艦長に変わって、副官のレータが指揮をとることになった
「機関前進微速、操縦システムをドッキングオート操縦に切り替え。ドッキング用アーム、ロック解除。観測員は周辺航行中の艦艇に気を配ってください」
「第2宇宙ターミナル管制官より通信。貴艦の進路そのまま、第6ドッキングベイに接岸せよとの事です」
「わかりました。ではそのようにしてください。艦搭載全兵装、セーフティー確認。進路そのまま」
「了解!!」
レータの的確な指示で巡洋艦フェルムートは第2宇宙ターミナルへと進んで行く
それから5分ほどして目標地点へと着岸することになった
「ドッキングベイとの距離500を切りました」
「本艦の位置をドッキングベイと平行にしてください。完了次第、メイン、サブの両エンジン出力調整。艦側面ブラスターを利用して接岸します」
「了解!!艦体制御開始、回頭右30度。続けてトリムアップ20度。………ドッキングベイとの位置、平行です」
「ありがとうございます。それでは機関出力調整、メインエンジン停止。ドッキングベイとの距離200までサブエンジンで航行、目標距離まで到達次第サブエンジン停止してください」
「了解!!メイン停止します。距離200までおよそ3分」
「管制官より通信。航路上障害物なし、そのまま。との事です」
「距離200に到達、サブ停止します。これよりブースター噴射を使用して航行開始します」
艦橋内が接岸に向けた準備でパタパタしている中、この船の艦長は席に座ってブツブツと何かを唱えていた
「どうしたらハレル総司令の怒りを収めることができるか……ん〜…わからん。どうしよう………」
彼はまだお悩み中らしい。いい加減慣れたのか、艦橋内のクルーは気にも留めない様子で業務に励んでいた
いよいよドッキングベイに接岸する事になった。艦橋内は、これまで以上にない緊張が走る
「ドッキングベイとの距離100を切りました」
「艦体姿勢そのまま!ブースターの出力に注意してください。接岸用アーム展開、接続ハッチ周辺の安全扉ロック」
「距離50、……20、10メートルきります!」
ドッキングベイとの距離がどんどん近づいていくにつれ艦橋内の空気はピリピリしたものになっていく
「接岸まで10秒を切りました。……5秒前、4、3、2、1。接岸!!ドッキングベイのアームと本艦接岸用アームのロック完了!」
「接岸用ハッチ解放!ハッチ周辺の気圧確認急いでください。安全が確認されるまで総員待機」
「ハッチ周辺の気圧確認完了。酸素濃度、気圧共に異常ありません」
観測員がデータを読み上げると、ワァーという歓声が艦橋内に響き渡った
実のところ、副官を任されているレータは、艦をドッキングさせるのが初めてであった
それ故、彼女は成功するまでの間、人一倍緊張していた
「せ、成功した………やった…やったぁ!!あぁ〜怖かったよー」
「やったな、嬢ちゃん!!初ドッキングおめでとさん」
「ありがとうございます!イヴァン少佐。お陰で今も緊張が抜けませんよ…」
「ハハハッまあそうだろうな。でも良い経験が出来たじゃないか。あっそうだ!今、そこでブツブツほざいている馬鹿を迎えに行くから、艦橋から出さないでくれよ」
「はい!えっ…あっはい。りょ、了解しました……」
CIC(戦闘指揮所)からの通信で、そこにいるイヴァンがレータを労った。そして、少し怒った様子でクロイツに目線を向けるとすぐさま通信を遮断した
それに気が付かないクロイツは、未だにブツブツと聞き取れない何かを話していた。もはや艦橋内の誰も相手にしていなかった。完全に放置である
それから5分ほどしてイヴァンが勢いよく艦橋へと入ってきた
「クロイツー!!!!テメェちょっと来い。話がある」
「…ん?あぁ、イヴァンか。ちょっと待ってくれ、今それどころじゃないんだ」
「誰が待つかバカ野郎!!とっとと来い!」
「イタタタタッ!!耳!耳が取れるぅ〜」
怒鳴り込むようにして入ってきたイヴァンの声が、艦橋内に響き渡った
ズカズカと艦長席まで来たイヴァンに耳を引っ張られながら、クロイツは引きずられる様にして艦の奥へと消えていった
その光景を艦橋内に居るクルー全員は、黙って見ているだけであった。それは要らぬ火の粉を浴びない為でもある。
『鬼の砲術長』それがイヴァンのあだ名であった
それから小1時間、彼の姿を見た者は居なかった。ただし、叫び声だけは艦に鳴り響いたとのことだ
レータにしたら、とんだ初航海だっただろう
航行初っ端からハレル総司令官の怒鳴り声を聴き、艦長は役に立たなくなり、失敗が許されないターミナルとのドッキングを行う
たった数時間のうちにこれだけのイベントをこなした彼女は、心身共にヘトヘトであったに違いない
副官の席に座るレータは、魂が抜けた後のようだった
ドッキドキのドッキングでしたね〜
ハラハラドキドキってこの事だよね!
まぁ、それはさて置き。次回いよいよです。皆さんお待ちかねの戦闘ですよ!!
まぁ今言ったらネタバレになるけど、迫力ある戦闘シーンになる予定です!!!!!
乞うご期待ください(o^^o)
それと、7月11日のSF日間1位ありがとうございました!!
日間首位の効果でPV数がうなぎ登りでございます。
この場をお借りして御礼申し上げます。
ありがとうございましたm(_ _)m
これからも当作品をよろしくお願い致します!
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