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調査の終結


        第29話 調査の終結



 とりあえず、男がリーダーだということを確認できたクロイツは、次の質問をすることにした。


「これは、誰の命令を受けてやったんだ?」


 調査の段階でわかっていた事だが、物資を保管する彼らがどういった命令系統に属していたかを明らかにするためには、必要不可欠な質問であった。


「お、俺たちは誰の命令も受けてやしねぇ」


 ここにきて惚けた答えをする男に、イヴァンが目を光らせる。それに気がついた男は、体をぶるっと震わせて真摯に答え直した。


「あっ…いや、俺たちはネリ軍務大臣直轄の私兵だ。だから、あのお方の指示だけに従っていた。だが……」


 言葉を詰まらせる男に、クロイツが助けを差し伸べた。


「だが、彼は死んだ。帝国の手によって。それからは誰の指示に従っていたんだ?」


 口に出しにくかったことをクロイツが言ってくれたおかげで、男は喋りやすくなった。


「それからは、ドワールという男が指示を出していた。あの野郎、ネリ軍務大臣の様に偉そうな態度を取っていたんだ。あのお方は構わない。俺たちの雇い主なんだから。……だが、奴は違う!アイツに雇われた覚えはねぇ!!」


 これまでの鬱憤が溜まっていたのか、男は手を縛られているのにも関わらず、椅子を蹴り上げて暴れ出した。


 それをイヴァンと彼の側に立っていた2人の隊員たちが取り押さえる。


「離せ!!あの野郎をぶっ飛ばしてやる!許さねぇ…絶対に許さねぇーーー!!」


 床に押さえつけられてもなお、男は喚き散らしていた。見兼ねたクロイツは、1人の隊員に目配せをして緊急用に持っていた睡眠ガスを男に吸引させた。


 ガスのお陰で潔く意識を無くした男を他に拘束している私兵とは別の場所で監視することにした。



 ハレルに護送用の飛行艇と作業班を頼んで30分程だった。外から飛行艇の着陸する()()()()()()音が鳴り響いた。


 少しすると着陸が済んだのか、音が鳴り止んだ。そしてクロイツの通信端末に連絡が入ってきた。


「クロイツ少佐。飛行艇と作業班、無事到着いたしました。これより作業班をそちらに向かわせます。護送対象の搭乗準備完了です。いつでもどうぞ」


 連絡を受けたクロイツは、小屋にいる全員に命令をした。


「飛行艇が到着した。後は一緒に来た作業班に任せて、私たちは帰るとしよう。私兵達を飛行艇に乗せるぞ」


 クロイツの命令を受けた特殊部隊員達は、縄で一列に繋がれた私兵達を連れて飛行艇へと向かっていった。


 睡眠ガスで眠らされている男は、急ごしらえの担架に乗せて、飛行艇に連れて行くことにした。



 小屋を出て間もなく。そろそろ飛行艇に乗るというところで、小屋の方から爆音が鳴り響いた。


 クロイツ達が急いで振り向くと、そこには豪炎を上げて燃え上がる小屋があった。それと同時に真っ黒い煙が、もうもうと立ち上る。


 どうやら、この時のために仕掛けておいた時限爆弾が何かの拍子に起爆したようだった。これにより物的証拠の大半が消え去ってしまった。


 激しく燃え上がる小屋に対して、消火手段を持たないクロイツ達はただ外から眺める事しか出来なかった。


 消火部隊を呼んだクロイツは、彼らが到着すると本部へ帰ることにした。



 レータが待つ指揮車に戻ったクロイツは、溜息交じりに『本部へ帰還する』と短くレータに伝えたあとは、一言も喋らなかった。


 車内が無言に包まれる指揮車が総司令部に帰って来たのは、夕方の6時になるころだった。日もだいぶ沈みかけていた。


 時間を確認したクロイツは、ハレルがいる総司令官室に寄ることなく、まっすぐ家へと帰って行った。その背中はどこか虚しさ漂うものであった。



 翌日、総司令部内の内部調査本部に出勤したクロイツは、レータを連れてハレルの居る総司令官室へと向かった。


「失礼します。特別監査官クロイツ・アンティザン少佐ただ今参りました」


「特別監査官補佐レータ・パルトノーイ少尉同じく参りました」


 2人が来たのを確認したハレルは、応接間用の席へと彼らを案内した。


 席に着くよう促されたクロイツとレータは、気まずそうに席へと腰を下ろした。まず先に口を開いたのはハレルだった。


「クロイツ少佐とレータ少尉。この度はご苦労だった。君たち2人のお陰で防衛艦隊内部の秩序を維持できるようになったよ。心から感謝する」


 そう言ったハレルは、深々と頭を下げて2人にお礼をした。


 2人がハレルの行動に驚いたというのは言うまでもない。


「ハ、ハレル総司令、おやめください!総司令官である貴方が部下である私たちに(こうべ)を垂れる必要はございません!」


「クロイツ少佐の言う通りです!ハレル総司令、おやめください」


 頭を下げるハレルを慌てて制止する2人。その様子は何とも言えないものであった。


 ハレルが頭を上げたところで、今度はクロイツとレータが謝罪をした。


「ハレル総司令、この度は重要な物的証拠を焼失させてしまい申し訳ございませんでした。如何なる処分も甘んじてお受けする所存でございます」


 クロイツがそう詫び文言を言うと、2人して頭をテーブルに着くぐらい下げてお詫びをした。


 今度は、それをハレルが制する。


「2人ともそんな事はどうでも良いよ。あれは事故だった。誰も予測できなかった事なんだよ。どうか気にしないでほしい」


 そう悟すハレルに、クロイツは言葉を返した。


「しかし今回の件を裁判にかける際、調査内容と容疑者の証言、物的証拠を必要とします。物的証拠がない場合、被告の罪は軽くなると思われますが……」


 そう言われたハレルは、笑い飛ばして否定した。


「ハッハッハッ!君達はそれを気にしていたのかい?心配しないでもいいよ。今回の裁判は普通の裁判所で行わないから。連邦中央の軍事法廷で行うことになったから大丈夫だよ」


 事の大きさに唖然とするクロイツとレータの2人を他所にハレルは、秘書官にお茶を淹れるよう頼んだ。


「中央の軍事法廷ですか⁉︎ 何でまた…」


 通常、【連邦軍事裁判法】は軍関係の不祥事や不正は管轄の軍事法廷で裁く事を規定している。余程のことがない限り(例えばクーデターやテロ等)、中央にある連邦最高軍事法廷で裁判は行わない。


 だから、それを承知しているクロイツとレータは唖然としていたわけだ。


 クロイツが口に漏らした疑問にハレルは答えてあげた。


「クロイツ少佐、疑問に思ったようだね。簡単に言うと、今回の事件の首謀者は、軍の実権を握っていた故人のネリ軍務大臣だという事と、現地リーダーとしてマティス前総司令官が関わっていたからなんだ。だから、(おおやけ)の裁判ではできないという事なんだよ。軍の威信にも関わるからね〜」


 重大な内容を軽い口調で話すハレルは、秘書官が持ってきた紅茶を口元に持っていった。


「ん〜良い香りだ。ダージリンかな?」


 未だに困惑するクロイツ達を意図的にか、無視して紅茶を楽しむハレル。それを見ていたクロイツとレータは、考えるのをやめて目の前に置かれている紅茶へと手を伸ばした。


「ハレル総司令、これはダージリンではなく。キームンですよ。この上品な香りが何とも言えないですよね」


 大の紅茶好きであるクロイツは、ハレルの間違いを鋭く指摘した。クロイツに指摘されたハレルは、笑って誤魔化す。


「ハッハッハッ!そうか、キームンか。やはり紅茶好きのクロイツ少佐には敵わないな!」


 2人の会話を静かに聞いていたレータは、クロイツの意外な面に驚くとともに、そんな紅茶の種類があるのかと感心していた。


 ゆっくりとティータイムを楽しんでいると、ハレルはティーカップをテーブルに置くと、執務用のデスクから2枚の紙を持って戻ってきた。



「今回の2人の働きに対する私からの褒賞だ。ぜひ受け取ってほしい。すぐに返事をくれ。拒否権は無しだよ?」


 笑いながらそう言うと、手にしていた紙を2人に1枚ずつ渡した。


 紙を受け取ったクロイツとレータは、それを開いて中に目を通した。




『本日付けで、クロイツ・アルティザン少佐を中佐に昇進させ、辺境星系防衛艦隊第2艦隊所属第1分艦隊巡洋艦フェルムートの艦長とする 防衛艦隊総司令長官印』




『本日付けで、レータ・パルトノーイ少尉を中尉に昇進させ、辺境星系防衛艦隊第2艦隊所属第1分艦隊巡洋艦フェルムートの副官とする 防衛艦隊総司令官印』





 2人が受け取った紙は、総司令官の印が押された辞令書であった。その内容も突然の転勤という形である。


 ついこの間、少佐になり総司令官直属の特別監査官になったばかりのクロイツにとって急すぎる展開であった。


 それは、レータも同じである。初めて任官したのがつい最近で、少尉になって数ヶ月もしない内に中尉である。連邦史上、類を見ない昇進スピードであるのは間違いない。


 こんな突然の昇進を2人が素直に受け入れるはずがない。


「ハレル総司令、これはいくらなんでもやり過ぎです!」


 クロイツは、ハレルに猛抗議をする。レータもそれに参加した。


「その通りですハレル総司令!私なんて士官学校を出てまだ数ヶ月ですよ⁉︎それが中尉に昇進だなんて最高です!」


 どこかおかしいレータを他所にクロイツは、言葉を続けた。


「それに前回の昇進の話は、アレンと一緒に過ごせるから受けたのであって、昇進欲からなったわけじゃありませんよ」


 そこまで言われてもハレルは、紙に書かれた内容を取り消すことをしなかった。そしてハレルの視線はレータに向いていた。


「…彼女は、すごく嬉しそうだけど?ちょっとはしゃぎ過ぎな気もしないではないね」


 初任官から初昇進までの最速記録を更新したレータは、踊るような気分になっていた。足をバタつかせ、辞令書を閉じたり開いたりしている。どこからどう見てもレディー(淑女(しゅくじょ))には見えない有様だ。


 ハレルとクロイツの視線に気がついたレータは、急に大人しくなってティーカップに手を伸ばした。もちろん中身は入っていない。彼女が照れ隠しをしているのは明白であった。


 ハレルは、クロイツとレータの2人に視線を戻すと、2人を励ますように言った。


「今回は、君達が力を合わせたから解決できた事だ。これからも君たちの活躍を願っているよ。……まぁ、辞令書に書いてある事は命令になるから拒否は通用しないよ?」


 最後にそう言われた2人は、特にクロイツは苦笑いをしてその場を(しの)いだ。

次の話で、第1章は最後になります!


最後まで全力で走りますので、応援よろしくお願いします!!


次回は、日曜日です!

朝の10時には更新しますので、ぜひ最後の話までお楽しみください(^^)


あと、最終話の後書きでサプライズがあります。それも楽しみにしていてください!

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