疑惑
第24話 疑惑
レータは、総司令部内のサーバーにアクセスして、資料を見ていると怪しい会社があったので調べていた。
クロイツとレータの予想は正しかった。
この会社は5年前までは存在すらしていなかったのである。会社の所在地や代表者名もデタラメだった。
レータはそれをクロイツへと伝える。仕事に遅刻した男でも上官は上官であるから仕方がない。
クロイツは、レータから受けた報告を急ぎハレル総司令官へと通信を行なった。
「ハレル総司令、お忙しいところ失礼します。経理課と物資配給課の過去10年分のデータを調べていたところ、物資の卸先に怪しい会社を発見しましたので、ご報告させて頂きます。これについては如何対応致しましょうか?」
クロイツから連絡を受けたハレルは、詳しく調べる為の特殊チームを即座に組織した。
「クロイツ少佐、その会社へは今から組織する実行部隊に直接調査させる。君たちは引き続き、他にも怪しいところがないか調べてくれ」
ハレルからそう言われると、クロイツを了解したことを伝えて通信を切った。ハレルから言われたことをレータにも伝える。
「レータ少尉、この会社についてはハレル総司令が今から作る組織に直接調査させるそうだ。私たちは他にも怪しいところはないか調べるようにとの命令だ」
クロイツからそう言われたレータは深く頷くと、目線を持っていた資料に落として怪しいところが無いか注意深く調べ始めた。
黙々と資料を調べる2人は、昼食を食べるのも忘れて作業に没頭していた。気がつけば昼の3時を回ろうとしている。ついにお腹の方が我慢しきれなくなったようで、ページをめくる音しかない静かな空間をぐぅ〜という鳴き声が響いた。
その音の出所はレータだった。真剣な表情で資料を見ているが、顔は恥ずかしさのため赤く染まっていた。
クロイツはそれに気づかないフリをして休憩を挟むことを提案する。
「レータ、そろそろ休憩にしよう。お昼もまだ食べてないだろ?腹が減っては戦はできぬって言うからね!さぁ作業は一旦お終いにしてご飯に行こう。奢るよ?」
お腹が鳴ったことを触れないでくれたクロイツに感謝するが、恥ずかしい思いがまだあるので、彼の顔を見て返事をすることはできなかったレータは、コクリと頷くと顔を下に向けたまま先を行くクロイツの後を付いていった。
クロイツ達が向かったところは、総司令部の建物から出て少し歩いた先にある、一軒のサンドウィッチ屋さんがあった。そこは30年も昔から細々と営んでいる老舗の店であった。
この店は道路に面したところに小窓があり、そこから注文する形式をとっている。
昼時もだいぶ過ぎているので、いつもは並ぶ客もこの時間は人がポツリポツリとしかいなかった。
クロイツは小窓から注文を行う。
「おやっさん、スペシャルを2つね!」
そう言うとすぐさま店の中から声がした。
「おぉ!その声はクロイツかい?久しぶりだな。いつ帰ってきたんだ?おっ!そちらのベッピンさんは彼女かい?」
質問を同時に2つ投げかけられたクロイツは苦笑いしながらもしっかりと答えてあげた。
「お久しぶり。帰ってきたのは半年前ぐらいかな。あと、彼女は私の部下だから。付き合ってないよ」
それを聞いたサンドウィッチ屋の親父は、ガッハッハッと豪快な笑い声をあげながらも手は動かしていた。
「そうかそうか。ならとっとと顔を見せに来ないか。心配しとったんだぞ。それに早く彼女の1人でも作りなさい。君の部下だったか…彼女、物凄くベッピンじゃないか男なら一発いっとけよ!」
親指を立てながらハニカム親父を見てクロイツは困った顔をしてレータを見た。レータは、親父からベッピンと言われたことに照れていた。
彼女が使い物にならない状態であることを確認したクロイツは、親父に早く作るように催促する。
「おやっさん、その話はいいからサンドウィッチ早く作ってくれよ!」
そう言われた親父は意地悪そうな表情で嫌味ったらしく言った。
「サンドウィッチができるのと、お前に彼女ができるのどっちが先かな〜」
それにたいしてクロイツは思いっきりツッコミをいれる。
「サンドウィッチだろ!!」
そうツッコまれて親父は渋々、完成していたサンドウィッチをクロイツに渡して『また来いよ』と言った。
親父からサンドウィッチを受け取ったクロイツは、お金を親父に渡すと足早にレータと総司令部へと帰った。
サンドウィッチを食べた2人はすぐに作業を再開した。
黙々と資料を見続ける作業は、精神力を減らし目を疲れさせる。2人は、家に帰ると眼精疲労からくる肩凝りに悩まされる日々になっていた。
1時間ほどたったころ、クロイツは経理課の資料に不可解なところを見つけた。
「レータ、これを見てくれないか?」
そう言われたレータは、クロイツの持っている資料に目を移す。
「……どこかおかしなところがありますか?」
レータは、クロイツがどこを不可解に思っているかわからなかった。
理解していないレータの為にクロイツは説明した。
「この資料を見比べてほしい。右は5年前に書かれたもので、左は6年前に書かれたものだ。5年前から急に書式が変わっているんだよ」
クロイツに指摘されて初めて気がついたレータは、他の経理課資料を漁り始めた。
すると経理課の全ての資料で、5年前から書式がガラリと変わっていた。書式を決めるのは、その課を任されている課長である。だが、余程のことがない限り書式は変更しない決まりであり、変更の際は総司令官の許可が必要となる。
今現在使われている書式は5年前に変更された時と同じであった。そこでクロイツは、人事課へ5年前の人事データを総司令官名で手配した。
この書式変更の謎を解決するには、やった本人に直接尋ねる方が早い。
10分ほどすると、人事課職員が走って5年前の人事データを持ってきてくれた。総司令官の名前は最強だと思ったクロイツだった。
クロイツはそれを受け取り、経理課の欄を読んでいった。すると【新任課長】として、今現在もその職に着いている脂汗男が乗っていた。あの脂汗がテカって汚い小太りのおっさんである。
名はドワール・テントリューと言うらしい。当時の階級は少佐。どうやらこの5年もの間、昇進等は一切してこなかったようだ。
名前も分かったことで、クロイツは彼を聴取することにした。場所は調査本部と同フロアにある第五小会議室で行うこととなった。
一応、重要な課を治める人を聴取するということでハレル総司令官に確認の通信を行なった。
「ハレル総司令、度々失礼します。書類偽装の疑いのある経理課長のドワール少佐を任意聴取したいのですがよろしいでしょうか?」
それを聞いて、調査が進んでいることに感心したハレルは二つ返事でこれを許可した。
総司令官の許可を得たクロイツは、経理課長のドワール少佐に【調査協力】という名目で第五小会議室に来るように伝えた。
特別監査官であるクロイツからの【調査協力】を頼まれたドワールはウキウキ気分で第五小会議室へと入った。クロイツはすでに彼が来るのを待っている状態だった。表情が緩んでいる脂汗男が入って来るのを見たクロイツの肌に、これまでにない程の鳥肌が立った。気持ち悪さ故である。
脂汗男のドワールが席に着くと、クロイツは彼にお茶を用意し、疑惑について単刀直入に尋ねた。
「……ドワール少佐、5年前に経理課長になった時、資料の書式をすぐさま変更したのはどうしてですか?」
そう問われたドワールは普段通りの脂汗ではなく、冷や汗を大量に流し始めた。表情もこれまでの緩み切ったものではなく、バツが悪そうな表情に切り替わった。
そしてクロイツの問いにドワールは口ごもった。
「いや、それは…その。なんていうか…えぇと」
どんな素人が見てもこの反応は黒である。
《嘘を吐いているかどうかは目を見ればわかる》なんて言うが、今回はそんなものに頼る必要がない。
ドワールの反応一つ一つが答えになっているからだ。クロイツは彼の反応を見て黒だと判断した。一応念の為、ここには隠しカメラを設置している。その証拠映像も必要ない程の反応にクロイツも予想外であった。
しかし、この反応だけではドワールの身柄を拘束することはできない。そこでクロイツは本人に自供しさせるようにと質問を変えることにした。
「ドワール少佐、こちらの資料を見てください。左は6年前に書かれたもので、右が5年前に書かれたものです。5年前、貴方は書式の変更を行った。それに伴い予算の支出欄が変更前より分かりにくくなっている。…普通、変更する際は分かりやすくするものではありませんか?」
クロイツの核心をつく問いかけに、ドワールの顔色はだんだん悪くなっていった。
ドワールは突然席を立つ。
「すまない監査官殿。急用を思い出した為、私はこれで失礼するよ」
逃げるように部屋から出ようとしたドワールだったが、扉を開けるとそこにはレータと憲兵が待っていた。
驚きのあまりヒィッ!と情けない声をあげたドワールは、観念したかのように床へとしゃがみこんだ。
それを見たクロイツは、レータに目で合図を送った。するとレータは憲兵にドワールを確保するように命令した。
憲兵によって後ろ手に逮捕されたドワールは、半ば引きずられるようにして第五小会議室から連れ出されていった。
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