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突然の


第20話 突然の



「なっ…⁉︎本気ですかハレル総司令!!いささか強引な気がしますが…」


 ハレルから昇進させると言われたクロイツは、驚きのあまり目を白黒させた。


 驚いたのは、一緒にその場に居たイヴァンも同じだった。


「ハレル総司令、さすがにこの人事は参謀本部も納得しませんよ!もう一度お考え直しください」


 2人にそう言われたハレルは、悪びれた感じは一切なく、普通の顔で2人に反論する。


「私は本気だ。どうだクロイツ、いい話だろ?これはチャンスだぞ。それとイヴァン、そこは心配しないでもいいさ。辺境星系防衛艦隊の最高指揮官としての特権を行使するだけなんだから」


 ハレルに押されたクロイツは、黙り込んで考え始めた。それを見たイヴァンは、クロイツに断るよう勧める。


「クロイツ、お前はこんな昇進の仕方で良いのか?武功を立てて昇進する方が外面も良いだろ。総司令に(こび)を売ったと思われるぞ」


 そう言われたクロイツは、真剣な表情でイヴァンに言葉を返す。


「…イヴァン、これは俺だけの問題じゃないんだ。もし少佐に昇進して内勤となれば、アレンを1人にしないで済む。俺も幼い時に親父を亡くしてるから、アレンの気持ちは十分わかるんだ。だから…」


 クロイツのこの発言には、イヴァンも返す言葉が見つからなかった。


 それでもイヴァンはクロイツを引き留めようとする。


「クロイツ、それとこれとは別だと思う。確かにアレンは保護施設に行く。だがそれは仕方のないことだ。こればかりはお前が責任を感じる必要はないんだよ」


 これにクロイツは反論した。


「仕方がないであの子の悲しむ顔が消えるなら良いよ。でも、似たような過去を持つ俺は、そう割り切れないんだ。親を亡くした喪失感は、亡くした者にしかわからないんだよ!その喪失感を俺が少しでも満たしてあげることができるなら、俺はハレル総司令の話を受けたい」


 その言葉にイヴァンは強く反発する。


「そんなのは偽善だ!アネモイの俺や他のクルーはどうする?アレンの為に俺たちを捨てるのか!3ヶ月も何もない宇宙を航行して苦楽を共にしてきたのに、ほんの5日前に会ったアレンの方が大切だと言うのかよ!」


 イヴァンの反発は、アレンへの嫉妬からくるものだった。彼が正常な判断を失っているのは明白だ。感情的になっているイヴァンをクロイツが(なだ)める。


「イヴァン、落ち着いて冷静になれ。別にお前たちが嫌いだからとかそんな理由じゃないよ。…偽善でも構わない。幼い時に受ける心の傷は大人になっても残るんだ。それを理解している人間が、そんな人をフォローしてあげないといけないんだ。わかってくれイヴァン」


 イヴァンは顔を真っ赤に染め、手を震えさせながらクロイツを睨んでいる。


 それを見ていたハレルは、ヒートアップする2人に割って入る。


「2人とも落ち着きなさい。クロイツ、君が真剣に悩んでいるのはわかった。なにもすぐに返事する必要はないよ。ゆっくり決めると良い。そしてイヴァン、君の気持ちは十分わかる。だが、そこはアレンを思うクロイツを後ろからそっと押してあげるのが、幼馴染として、また副官としての役目じゃないか?今日はここで終わろう。2人でゆっくり決めると良い」


 ハレルはそう言うと、2人に帰るよう促した。


 部屋から出た2人は、宿舎までの道のりを終始無言のまま帰っていった。


 宿舎に帰った2人は、大荒れだった。罵倒が飛び交い、彼らの部屋の廊下には何事かと野次馬が集まっていた。


 彼らの言い争いは夜が更けるまで続いた。




 あれから2日が経って、2人とアレンは再び総司令官室へと来た。


 クロイツとイヴァンは未だにギスギスした雰囲気を出していた。


 それを見たハレルは、呆れたような表情をしながら2人に聞いた。


「それで話はついたかい?かなりやり合ったようだけど…」


 その言葉に真っ先に返事をしたのはクロイツだった。


「先日はお騒がせして申し訳ございませんでした。2人で話し合った結果、ハレル総司令のご提案を受けることに致します」


 イヴァンは、その言葉をクロイツの顔を睨みながら聴いていた。


 ハレルは、それを聴いて少し安堵した。そして、2人に言葉を返した。


「2人に変な思いをさせたことをお詫びする。クロイツ、よく決心してくれた。これでアレンも安心できるだろう。それとイヴァン、クロイツが抜けた後のアネモイ艦長を君に頼む。艦長職に昇進するからには、階級も一つあがることになる。2人には追って辞令書を渡すよ。」


 ハレルの謝罪に2人は驚きつつも、彼らの雰囲気は変わらなかった。


 ハレルは目線をアレンへと向ける。


「アレン君、君には朗報がある。君は保護施設へ行かなくて良い。そこのクロイツと生活できるよう手配する事になった」


 それを聴いたアレンは、表情をパァッと明るくした。


「本当ですか!ありがとうございます。でも、何でそのような事が出来るようになったのですか?この前は法律がどうなった事で断られた筈なのですが…」


 そう言われたハレルは、苦笑いしながら訳を話した。


「いやぁ〜それがね、全て言い終わる前に君が走って行っちゃったんだよ。この前話した《遺留孤児保護法》には、条件付きで例外が設けられているんだ。階級が少佐以上、勤務地が内勤であるなら、軍人家庭でも生活できるんだよ。だから、クロイツを少佐に昇進させて勤務地を私の直属にしたんだ。君が寂しい思いをせずに済むようにね」


 それを聴いたアレンは、神妙な表情で話した。


「それだとクロイツさんはアネモイを離れなくちゃいけないんだよね。だからイヴァンさんと喧嘩して…」


 弱々しく悲しそうな声で話したアレンを見たクロイツとイヴァンは、お互いの顔を見合わせて、これまで強張っていた表情を緩めた。


 気を取り直したクロイツは、アレンへ話しかける。


「アレン、そんな事ないさ!見てみろ、イヴァンとは今まで通り仲良しだ」


 そう言ってクロイツは、イヴァンにしがみつきキスをしようと顔を近づけた。


 襲われそうになったイヴァンは、強引にクロイツを引き剥がして、強めのビンタをお見舞いする。


 綺麗にクロイツの頬を捉えたイヴァンのビンタは、甲高い音を部屋へと響かせた。その強さにクロイツは横へと吹き飛んだ。


 それを見たアレンは、これまでの表情を崩して笑っていた。


 クロイツ、イヴァン、アレンの3人を見ていたハレルは、安堵した表情でそれを眺めていた。



 ハレルは3人に言った。


「君たちは離れ離れになる訳じゃない。私の権限で、アネモイが帰港している時はいつでも会えるよう手配しよう。アレン、君には軍属としてのIDを発行するよ」


 その言葉に3人は顔を見合わせて微笑んだ。


 そしてハレルに感謝を告げる。


「「「ハレル総司令、何から何までありがとうございます!このご恩は一生忘れません」」」


 そう言われたハレルは、3人に笑顔で言った。


「その言葉に覚えておくよ。何かあったらよろしく頼む」


 これまでのギスギスした空気は一変して、初めからそうであったかのような雰囲気が部屋を満たしていた。



 部屋を後にしたクロイツ達の3人は、宿舎へと直帰せず、少し高めのレストランへと足を運んだ。


 そこでフルコースを楽しんだ3人は、宿舎へと帰る道のりでも、楽しそうに会話をしながら歩いていった。



 翌日、クロイツとイヴァン宛に防衛艦隊総司令部より辞令書が届いた。


 クロイツ宛の辞令書の中身はこう書いてあった。


『クロイツ・アルティザン大尉を本日付けで()()に任命し、総司令官付特別監査官として総司令官直轄監査局への出向を命じる。防衛艦隊総司令官ハレル・バーモント大将』


 一方、イヴァンの辞令書は以下の通りだった。


『イヴァン・ゲルトナー中尉を本日付けで()()に任命し、防衛艦隊所属特別偵察艦アネモイの艦長とする。防衛艦隊総司令官ハレル・バーモント大将』


 この辞令書によって、正式に昇格と転属が決まった。


 クロイツは、辞令書を読むなり荷造りを始めた。


 艦内勤務を終えるからには、この宿舎から出ないといけない決まりだからだ。


 それを見たイヴァンも、彼の荷造りを手伝う。


 荷造りが終わり宿舎の部屋を出ると、目の前にはアネモイの全乗組員が整列していた。


 彼らの中で最も軍歴の長い先任軍曹が号令をかける。


「総員、クロイツ艦長に敬礼!」


 号令とともにビシッと敬礼を決める乗組員へ、クロイツは敬礼で返す。


 敬礼を解いたクロイツは、アネモイの乗組員全員へ言葉をかける。


「みんな、今までありがとう。あっ、でも一生の別れじゃないから安心して!総司令から許可が出てるからいつでも会えるよ」


 そう言われた乗組員達は微妙な空気を出しながら、良かったと口々に言った。


しかし、みんなの心の中では


(((ようやく適当な艦長から卒業できたのに…)))


と、会えることを残念がっていた。



 イヴァンと乗組員に見送られ、クロイツとアレンは宿舎のある基地を後にした。


 乗組員達は、クロイツと一緒に歩くアレンへ別れの言葉を口々に叫んだ。


「クロイツ艦長にイジメられたらちゃんと言うんだぞぉー!」


「いつでも俺たちの艦へ帰ってきて良いからな

ぁー!」


 そんな言葉を聴いたアレンは後ろを振り返り、深くお辞儀をして、大きく手を振りながら大きな声で感謝の言葉を返す。


「みなさん、ありがとうございました!また必ず遊びに行きますからぁ!!!」


 その言葉に涙する乗組員もチラホラいた。乗組員で1番大きな男は号泣して、イヴァンへ抱きつこうとしたら、横っ腹に蹴りを入れられ(うずくま)るように倒れた。


 それを見たアレンは苦笑いして、先を行くクロイツに走って付いて行った。




 基地を出るクロイツは、アレンと一緒に生活する家を探して終わっていた。


 クロイツが借りたのは、2LDKの小さい一軒家だが、2人で生活する分には十分広かった。



 ここから一つ屋根の下、クロイツとアレンの共同生活が始まる。


 それと同時にクロイツ達を取り巻く時代の流れも大きく変わろうとしていた。

イヴァン達とは一旦お別れです。


ここからはクロイツとアレンが話の中心人物になります。


アレンと新生活を始めるクロイツと、新たに艦長となったイヴァン。この2人が再び共に戦う日はいつになるのか…


クロイツ達の居る連邦とシュトルフ達の居る帝国、この2つがせめぎ合う宇宙の今後の運命はどうなるのか。


それを楽しみに待っていて下さい!



第1章もそろそろ終わりに近づいています。



みんな忘れているかもしれない、謎の少女レータ・パルトノーイがそろそろ登場するかも⁉︎



次回は25日(水)21時更新予定です。


乞うご期待ください!!!!!

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