アレン・モレスビー
第18話 アレン・モレスビー
クロイツは救命ポッドの側に駆け寄り、ポッドの操作パネル横にある緊急解除ボタンを押した。
すると、空気の抜けるような音とともに、ポッドの扉がゆっくりとスライドしていくように思われた。しかし、扉は何かに突っかかったように途中で止まってしまった。
扉が完全に開いてない状態では、中の子供を救出するのは難しい。その為、他の乗組員達と力を合わせて力尽くで扉を開けることにした。
クロイツとイヴァンもその作業に加わる。
「くっ…硬いな。ビクともしない」
「中に生身の人間が居るんじゃ超振動カッターも使えないね」
ビクともしない扉を前に手が止まってしまうクロイツ達は、収容されている子供の容態を気にし始めた。
「一応、軍医に中の子の容態を診てもらおう」
クロイツに呼ばれた軍医は、診察用携帯端末とタブレットタイプのモニターを見ながら、子供の状態を確認し始めた。
軍医が診察し始めて2、3分経った。軍医は粗方診断が終わったらしく、クロイツに報告した。
「艦長、中の子供は意識を失っておりますが、救命ポッドの生命維持装置が作動していたおかげで、命に別状はありません。しかし、緊急解除ボタンを押した為、その装置も止まっております。早急に救出しなければ命の危険が出てきます」
軍医の報告を聞いたクロイツは、動かない扉をどうやって取り除くかを考え始めた。
そこで隣にいたイヴァンが提案した。
「超振動カッターがダメなら、ウォーターカッターで切るのはどうだ?まぁ辺りは水浸しになるだろうけど…」
その案にクロイツは難しそうな顔をして言った。
「たしかに、それなら大丈夫だと思うけど、中の子が感電でもしたら大変だ。感電…不純物…純水」
ブツブツ言い始めたクロイツに周りが注目の目で見ている。すると閃いたかのようにクロイツが顔を明るくした。
「純水だ!純水は電気を通さない。だから感電はしない。機関冷却用の純水に予備があるはずだ!それを使ってあげよう!」
そこでイヴァンが疑問点をあげた。
「クロイツ、純水は良いが生身の体には毒だぞ。中の子にかかると大変だ」
それに対してクロイツは落ち着き払ったかのように返した。
「油を使おう。先に隙間から油を入れるんだ。その油で中にいる子供をコーティングして、扉をウォーターカッターで切り外すんだ」
その考えにイヴァンは不安たっぷりだった。
「本当に上手くいくのか…?」
「大丈夫。イヴァン、君をその隊長に任せるからさ」
その言葉にイヴァンは度肝を抜かれた。
「クロイツふざけるな!責任が重すぎるわ」
その反論にクロイツは、当たり前のような顔をして
「イヴァン中尉、これは艦長命令である。拒否となれば軍法会議ものだぞ」
ここぞとばかりに職権を使ってきたクロイツを横目に、イヴァンは渋々これを受け入れた。その表情は怒りの篭った様子だった。
クロイツに命令(?)されたイヴァンは、数名の部下を連れて救命ポッドへ向かった。
実行部隊は扉の隙間から、コーティング用の油を流し込んだ。それが終わると、ウォーターカッターで扉の突っかえていた部分の切断に取り掛かった。
5分ほどして問題の箇所を取り除いたイヴァン達は、扉を思いっきり押して外した。
上手く外れたところで軍医を側に呼び、触診させて生存確認をさせた。
すると、軍医はしっかり生きているとの判断を出し、連れてきた衛生兵に担架を用意させて、医務室へと急行した。
クロイツ達は、艦の前方に漂っている損壊した輸送船を捜索することにした。
3時間ほど捜索して、先ほど救出した救命ポッドの子供以外の生存者はいないことがわかった。
輸送船内の遺体は、アネモイの船体後部にある格納庫に保管して辺境星系首都星カーラミネまで連れて帰ることにした。
クロイツはこれまでの事とまとめて、緊急通信を使って基地へと報告した。
輸送船からの救難信号をキャッチして1日が経ったころ、クロイツ達の乗る特別偵察艦アネモイは、再び帰港への航路を進み始めた。
救出宙域を離れて5時間が経った。そこへ医務室より急ぎの報告が入る。
『救出した子供の意識が回復した。至急医務室へ』
その報告を受けたクロイツは、急いで艦長席より立ち上がり走って医務室へと向かった。
「軍医!意識が戻ったそうだが」
「艦長、静かにしてください。この子は回復したばかりですよ」
「それは済まなかった。して容態は?」
慌てて駆け込んだ挙句、大声を出したクロイツは入室早々、軍医に怒られることになった。
クロイツに容体を聞かれた軍医は、分かりやすいように説明してくれた。
「まず、左大腿骨にヒビが入っており、左第7、8、9肋骨が折れてました。今は手術により繋ぎ止めている状況です。激しい動きは厳禁です。今のところ痛み止めを処方してます。意識をなくしていたのは、射出された際に頭を強打した事が原因の脳震盪ですね。意識が戻った事で会話は出来ますのでどうぞこちらへ」
軍医説明を受けたクロイツは、艦長に促されるまま子供の側へと座った。
クロイツは恥ずかしそうに頭を掻きながら、目の前の子供に自己紹介をする。
「初めまして。この船の艦長をしているクロイツ・アルティザン大尉だ。よろしく」
そうクロイツに言われた子供は、表情を柔らかくしてそれに答える。
「まずは、助けて頂きありがとうございます。僕はアレン・モレスビーと言います。こちらこそよろしくお願いします」
アレンは、コバルトブルーの瞳に黄金色に輝くショートヘアーで、身長160cmの男の子だった。
クロイツは、アレンから何があったのかを聞き始めた。
アレンの乗っていた輸送船は、辺境星系首都星カーラミネへの帰還途中、エンジンの故障と小惑星の破片の衝突により航行不能になって、その修理の為に停船した時に燃料タンクが爆発したとのことだった。
損壊していた輸送艦には、彼の両親と妹もいっしょに乗船していたらしい。
クロイツは、今回助かったのが君だけだと伝えようとした。
しかし、それは軍医に止められてしまった。彼が言うには、『意識を取り戻した後で混乱しているかもしれない。精神的にも不安定な時に、その現実は辛すぎる』とのことだった。
クロイツは、軍医の忠告通りアレンへ伝えるのを保留にし、また来ると言うと医務室を出て艦橋へ戻った。
艦橋へ着いたクロイツは、艦長席へ深く座り込んだ。
普段から深く座り込んではいるが、今回の様子はどこか違う感じだった。
クロイツは手の空いている部下へティーセットを持って来るよう伝えると、席を立って外の様子が映る操艦用船外映像モニターを眺めていた。
そこへイヴァンが歩み寄ってきて声をかける。
「クロイツ、あの子意識が戻ったらしいな」
後ろからした声に振り向きもせずにクロイツは答える。
「あぁ…」
色々な感情が詰まったクロイツの返事に、イヴァンはこれ以上何も言うことはなかった。
クロイツは、ティーセットを取りに行った部下が戻って来ると、それを受け取って2人分カップを用意した。
それを見たイヴァンは、何も言わず側に来て紅茶が入るのを待った。
クロイツ自らの手で注がれた紅茶を、2人はモニターで外の様子を眺めながら一口、また一口と飲んだ。
モニターに映る映像は、無数の岩と遠くに煌めく星々が見える虚しくも冷たいものだった。
辺境星系首都星カーラミネまで残り5000光秒まで近づいていた。
これまでと違い、民間輸送船との遭遇も多くなってきたことから、艦の乗組員達は皆やる気に溢れていた。
それとは別に、クロイツとイヴァンは外を眺めながら静かに紅茶を口にしていた。
今回初登場のアレン・モレスビー君は、これからもちょくちょく出てきます。
次話はアレン君の処遇についてです。
果たしてどうなってしまうのでしょうか…
次は22日(日)21時更新予定です!
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