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でぇと




琉球という島国に、琉球ガラスというものがあるそうだ。

いつだったか、勇魚に似ても似つかない髭もじゃの義父が、買い付けのお土産にと薫子に買ってきてくれたそれは、琉球ガラスを粉々に砕いて角を削り、お弾きにのようにしたガラス玉だった。

青や緑、黄色などの鮮やかな色がこれ異常ないほどの透明感を持って煌いて、一目で薫子は気に入った。

義父の心遣いも嬉しくて、実家から持ってきたビロードの張られた宝箱にそっとしまいこんで、ちょっと時間ができれば取り出して陽に透かしてみたりした。


それをじっと見ていたのが勇魚だった。

彼から特になにか欲しいと思ったことはなかったが、このガラス玉と同じように、いつか彼からもらったものをこの宝箱に仕舞う日がくるのかしら、とぼんやりと考えてはいた。

それが見透かされたのか、或いは夫として父親に負けてはおれぬと思ったのか知らないが、ある日、街へ行こうと誘われた。


落ちぶれたとはいえ、一応華族の跡取り娘だったので、護衛もなく外を回ることを許されていなかった薫子にとって、街は未知の場所だ。護衛を雇う金すらなかったので、街に出た回数など片手に数えるほどだといっていい。

なので、勇魚の提案は薫子にとってはとんでもないものだった。勿論、嬉しい、という意味で。





海に近い帆積の家から少し歩くと、すぐに街の喧騒が届いてきた。帆積のほかにわりかし裕福な者たちの家の波を抜けて、小さな雑木林を過ぎると、西洋の文化も取り入れた活気ある街が見えてくる。

中央のほうに行けば、路面電車も走っている大きな街だ。物流が盛んで、だからこそ帆積は商売で成功したし、この街だからこそ、その成功の報酬は大きかった。

住む人々は新し物好きでにぎやかし。この頃では珍しい、外国産の映写機での映画上映が可能な建物もあて、日々大勢の人で溢れかえっていると聞く。

そんな中、薫子の目を引いたのは、子供たちが群れをなしている小さな屋台だった。

屋台の背後には大きな甘味屋があり、そこの店の屋台なのだろう。風にふらふら揺れる旗には、みずあめ、と書かれている。


みずあめ。

もう随分と食べていない。昔は馴染みの物売りが家に品を届けてくれる度におまけとしてもらっていたのだが、その物売りの足が遠のいてからはすっかりご無沙汰だった。父の後妻が薫子の贅沢を嫌う人でもあったので、甘味の香りを嗅ぐのすら久々だ。

薫子がじっとそれを見つめているのに気付いた勇魚が、屋台のおやじから水あめをふたつ買った。

それをぼんやり見つめていた薫子の前に、きらきらとした飴色のそれが差し出される。


「ほら、水あめ」


手渡されたそれを、薫子は感動しながら受け取った。

木の棒の先にくるくる巻かれたそれを口に含むと、優しくも濃厚な甘みが口に広がる。おいしい。たまらない。

思わず目尻が解けて、自分でもだらしない顔になっているな、と思ったが、水あめがあまりに美味しすぎて、そんなことすら気にならなかった。それを勇魚がじっと見ているとも気付かず、薫子は柔らかいのになかなか頑固な固さを持つ水あめを、口の中でとろかした。


「うまいか」


道端に置かれたこれまたハイカラなベンチに座って水あめを堪能していると、横に座っている勇魚にそう尋ねられた。何故そんな当たり前のことを聞く。


「うまいです」


だらしのない顔のまま、薫子は答えた。その返答に勇魚も満足して、薫子の頭をぐしゃりとかき混ぜる。

いつもなら髪が乱れるのを気にして怒る薫子であったが、このときばかりは、そんなことも些細なことのように思えて黙ってぐしゃぐしゃされていた。


水あめを食べたあと、ごく自然と手を繋いで街を歩いた。

勇魚の顔は広い。どこの店を冷やかしても、おう、勇魚だとか、帆積のぼっちゃんだとかの名称で声を掛けられて、薫子は繋いだ手を恥ずかしく思いながらも、勇魚の友人たちに律儀に頭を下げて挨拶した。


帆積の若衆と呼ばれる者たちがいる。

大半はこの街出身で、勇魚はその彼らの家にも薫子を案内した。

帆積の若衆とは、いつか勇魚が代替わりで帆積を継ぐ際、彼を支えるために集められた将来有望な若い男達である。彼らは一様に、算術、音楽、建築、絵画、気象……などなど、薫子にはその知識の一粒すらわからないようなものを特技としている。それらを傍に置くことで、勇魚は幼い頃から審美眼を磨いてきたらしい。

まあ要するに、幼馴染で親友で悪友で仕事仲間、というわけだ。


彼らは帆積の家にも各々の部屋を持ち、仕事の後は帆積の部屋に泊まろうが街にある実家に帰ろうが自由となっている。大抵、夕飯を帆積の家で済まし、そのあと晩酌という乱痴気騒ぎを日常としている、大変元気の有り余った者たちだ。


「……もし、仕事の最中あいつらに何か遭った時、その時俺が動けないときは、薫子があいつらの家族に報せに走ることになるからな」


それは、彼らの親から大切な息子を預かっているという帆積の者としての言葉だ。


勇魚が、普段は好き勝手やっているように見えて実はきちんと考えているらしいというのを、薫子はごく最近知った。そして、知ると同時に、そんな勇魚を尊敬し、そんな男が夫であることをむず痒く想い、情が益々深まった。

そんな責任の一端を任せようという勇魚に、きちんと報いたいと、深く思う。

薫子はそれにしっかりと頷いた。


最後の挨拶周りは、薫子ともよく顔を合わせる男の家だった。

大きな呉服問屋の裏口に回ると、丁度目当ての人物が顔を出す。


「葵」


勇魚が名を呼ぶ。

葵。初めてその名を聞いたとき、名が似合う人だな、と思った。

赤毛の勇魚と対照的に、青みがかって見えるほどの黒髪を後ろで結わえている葵は、色白の美男子だ。きりっとした一重に、涼しげな口許とすっと通った鼻筋が、大層女子たちに人気なのだという。

名と同じ葵の着物をきっちりと着こなした葵が、片眉を上げて薫子と勇魚の繋がれた手を見た。


「急に今日は休みにすると言い出すから何があったのかと思えば、そういうことか」


呆れきった溜め息を隠そうともせず、葵は冷ややかな視線を投げつけてくる。

薫子はいまだ、この視線に馴れない。じり、と小さくなって勇魚の背中に隠れてしまう。


「悪いな。スケジュール調整頼むわ」


勇魚は葵の苦言などものともせず、けらけらと笑って途中で買った土産を渡している。

葵は勇魚の片腕だ。頭の回転が速く、算術のほかにも様々な分野で造脂が深い。勇魚をコントロールできる数少ない人でもあった。


「親父殿は息災か」

「奥でそろばんを弾いている。久しぶりだろう、顔を見せて来い」

「そうする。薫子も、」

「妻殿の相手は俺がしよう」


葵に言われて、薫子はがちっと固まった。

勇魚と繋ぐ手にも力をこめてしまったため、当然勇魚もそれに気付く。

とはいえ、縋るような女々しい眼は向けたくなかったので、じっと地面を見て勇魚の判断を待った。葵はそんな薫子を一瞥しつつ、同じように勇魚の言葉を待っている。

一瞬思案するような顔をした勇魚だったが、薫子の頭をぐしゃりと混ぜてから、親父殿がいるらしい屋敷の奥へと行ってしまった。薫子を置いて。


やはり、と思い、たらり、と背中に冷や汗が流れる。



「さて、妻殿」


葵の冷たい美貌が薫子を見下ろした。

勇魚が大型犬のようなイメージだとすると、葵は黒猫だ。


祝言のあの日、帆積の門の前で、花嫁衣裳でいすゞを連れた勇魚を出くわしたあのときから、薫子の中の葵の印象は変わらない。

薫子が勇魚に律儀に挨拶をして、連れのいすゞに睨まれているところに、葵は現れた。

勇魚の後を追いかけてきたらしく、門から足早に飛び出してきた。


――今日はお前の祝言があるのだと、何度言えば。

――親が決めたもんだろうが。俺が従う謂れはねえ。

――そうは言っても相手方はもう家を出たと連絡が、

――そこにいる。

――は?

――だから、そこにいるって。


というような会話を経て、葵の視線が薫子を突き刺した。

驚いたように見開いた眼はすぐさま冷静を取り戻し、とりあえずあのどうしようもない状況を纏め上げたのが、この葵なのである。


「渡した目録は覚えましたか」

「……覚えてません」

「何頁までです」

「さ、……二十九頁まで」


低く冷ややかな葵の言葉を受け、薫子はどんどん頭を俯けた。

葵は厳しい。己にも勇魚にも、そして薫子にも。


「一月で覚えろと言ったはずですが」

「も、もうしわけ」

「謝罪が欲しいのではありません」


こわい。


勇魚の公私を良く知る葵が、薫子の教育係りを任せられたのはある意味当然の流れだった。

帆積の嫁として、その采配を振るっていかねばならない未来が薫子には待っている。

葵から一番に出された宿題は、まずは名前を覚えることだった。

帆積が取引をしている大勢の顧客、長く雇っている者から短期雇用者の名前、親戚、世話になっている業者の名前などなど。

とりあえず頭に入れて、彼らと会う機会があれば都度その名前と人物を一致させろというものである。

これは跡取り教育中だった勇魚もしたことだから、と。


薫子ははっきりいって賢くない。大馬鹿ではないが、馬鹿である。

分厚い冊子を渡され、暗記しろと言われたとき、本気で涙が滲んだ。

参考までに、勇魚はこれをどれくらいで覚えたのかと聞いたら、二時間、と答えられてしまった。今度こそ本気で泣いた。


「……か、必ず、覚えますので」


本心だった。

帆積の家に嫁いだのは薫子の意思ではなかったが、それは勇魚も同じことだ。当時付き合っていたらしい恋人とも引き裂いてしまった。

時間は多少かかったが、それでも勇魚は薫子を妻として扱い、先ほどのように帆積の家を共に支えようと小さな責任から任せてくれるようになった。

勇魚の両親であっても同じことだ。

髭もじゃの義父はいかつい見た目とは違い、とてもおおらかで優しい。口許の黒子が色っぽい妖艶な義母は、薫子をかおちゃんと呼び、可愛がってくれる。

華族の家から貿易商の家に嫁いだ無知な娘を、大切に育てようとしてくれているのだと、薫子は気付いている。


だからそれに報いたいと、毎日のように薫子は思っていた。


「覚えるのは当たり前です。……頑張ってください」


薫子の決意が通じたのか、葵からは優しい言葉が返ってきた。

いつもは覚える気があるならもうとっくに覚えているはずですけど、というような言葉が聞こえてくるはずなのに。


「勇魚から聞いています。毎晩眠る前に机に向かって目録を読みふけっていると。朝は朝で、朝餉を作る前に早起きして、昨晩覚えたところを復習していると。貴方がきちんと努力しているのは知っています」


葵から聞くそれに、薫子の黒い瞳がじんわりと滲んだ。

それを見ながら、葵は小さく息を吐く。


勇魚には、ただでさえ不慣れな場所にきてんだぞ、ゆっくり長い目で見てやれ、とも言われたが、葵はそれについては黙っていた。そこまで甘やかすつもりはない。


「だからといって、覚えられなければ意味はありませんからね」


釘を刺された薫子は、承知しております、と青ざめながら呟いて、頭を下げた。

薫子をちくちくいじめるのに満足したらしい葵にやっと〝親父殿〟のところまで案内され、勇魚とともに挨拶を済ませて呉服屋を後にした。

別れ際、葵に宿題を増やされてふらふらになっている薫子の手を引きながら、勇魚は笑う。


「あんまり気に病むなよ。あいつの小言は挨拶みたいなもんだ」


慰められたが、あの大量の宿題がなくなることはないので、薫子はとりあえずぐったりしながら頷いておいた。

それからは立ち並ぶ店を冷やかして回ったり、蕎麦屋で鴨蕎麦なる絶品をいただいたりして、その頃には薫子の頭の中からは葵のことも宿題の存在も抜け落ちていて、ただただ楽しくて仕方なかった。



「あ」


薫子が久しぶりに見た路面電車に夢中になっていると、その路面電車の向こうに見知った顔があるのに気付いた。


いすゞである。

相変わらず男好きのする可愛らしい外見だが、少し落ち着いたようにも思う。

元気そうだな、と思って見ていると、あちらも薫子に気付いたらしい。

それなりに距離はあったが、睨まれたのはわかった。相変わらず、睨んだ顔が美しいというかなんというか、迫力がある。

勇魚がいすゞと完全に切れるまで、いすゞは薫子にひたすら意地悪をし続けた。なまじ街出身で若衆とも交流があった為、帆積の家に出入りすることは珍しくなく、その度に薫子に突っかかっては困った事態を引き起こしたものである。床の間に飾られた陶器を割って薫子のせいにしてみたり、庭の花をむしりまくった挙句、庭の手入れもできない女が、と罵ってみたり、勇魚の素敵なところを延々と言って聞かせ、こんな勇魚、貴女は知らないでしょう、と誇らしげに言ってみたり。


考えてみると大した意地悪ではなかったようにも思うが、その頃は嫁いだはずの勇魚ともろくに会話をしたこともなく、若衆は面白がって話しかけてはくるが、基本どちらの味方というわけでもない。葵は葵で、あんな女に負かされているようでは帆積の嫁は務まりませんよと放置されたりで、結構心細かった。

結局は、勇魚は薫子を選んだのだが、それだって家のことを考えての決断だ。


正直、いすゞと勇魚がその関係を解消したときは、申し訳なさすら感じた。薫子が現れる前から、ふたり仲良くやってきていたのだろうに、ぽっと出の薫子が全てひっくり返してしまったのだから。


申し訳ないとは思うが、睨まれてしまえば睨み返すのが道理というものだろう。

薫子がいすゞと暫し睨みあっていると、知り合いの店に顔を出していた勇魚が戻ってきた。

それに気を取られて、再び前を見た頃にはいすゞの視線も逸れている。身なりのよさそうな年上の男と腕を組み、高級そうな小物屋に入っていった。


「どうした」

「なんでも」


今楽しいこのときに出す話題ではあるまい、と薫子は勇魚に首を振った。

一度は思いあった男女が、お互いとは違う相手を連れている場面など、見たくないに決まっている。


そう思うと、薫子の胸はずきりと痛んだ。



「今は映写機が壊れてて修理中なんだと。直ってまた映画が再開したら、連れて来てやる」


勇魚が少し元気をなくした薫子を慰めるように言う。

くしゃくしゃと頭を撫でられ、薫子も微笑んだ。


「楽しみにしてます」


心から。








という話を穂積から聞いていた薫は、水あめが食べたくて仕方がなくなっていた。

これで二度目の会合であるが、穂積は相変わらず誤魔化しもなくありのままを語った。


(この人、前世の記憶持ちがどれほど特殊か、解ってるのかな)


それとも解っていてあえて、全てを話しているのだろうか。

薫が記憶持ちでなければ、穂積は頭がおかしいと早々に距離をとるだろうから、それを狙って。


(まあ、引き下がりませんけど)



「水あめ食べたいですね」


とりあえず、その意思はないことを言外で伝えるべく、そう言ってみた。食べたいのも事実である。


「行くか」

「どこに?」

「駄菓子屋」


なんて魅力的な提案だろう。一も二もなく頷いた。


聞けば、学生客だけで売り上げを維持している駄菓子屋は学校を下った先にあるという。

コンクリートに反射する熱を避けて、街路樹の影を踏みながら、薫は穂積の後を距離をとって歩いた。


そろそろ太陽の陽射しもきつくなってきた。

高台の坂道から見下ろす海岸にはサーファーの姿もちらほら見える。もうすぐ本格的な夏である。


「なんでそんな離れてんの?」


穂積が振り返る。


「ふたりで歩いているところを見られたら、いすゞさんが傷つくでしょう」


馬鹿なのだろうか。


「薫子、じゃねえ。いすゞはそんなことで嫉妬するような女じゃねえよ」


するわ馬鹿。


「貴方が知らないだけでは。彼氏が自分以外の女と歩いているのを見て妬かない女なんていないと思いますけど」


というか穂積は、もしかしてふたりきりのときはいすゞのことを薫子と呼んでいるのだろうか。

それは、いすゞにとってどれだけ屈辱的で、悲しいことなのだろう。いや、自分を薫子だと偽っているほうが悪いのだが、本当はいすゞなのに、薫子と呼ばれ、穂積に慈しまれるのは、心がつらくないだろうか。


薫のはっきりとした言葉に、穂積は少し面食らったような顔をした。

なにかおかしなことを言っただろうか。いや、言ってない。男女間の一般論だと思う。


「それ、前も言われたな」


ぽそり、と穂積が呟いたが、薫にその声は届かなかった。



辿り着いた駄菓子屋は、今にも倒壊してしまいそうなほど年季が入った木造家屋だった。

軒先に色あせて破れた日よけがかけられ、引き戸の前にはベンチが置かれている。数人の学生の姿を認めて、薫は穂積よりだいぶ遅れて中に入った。先ほどの言い分に納得したのか、今度は穂積はなにも言わなかった。


店内は狭かったが、商品棚にはかなり充実したラインナップで駄菓子が並べられている。昔懐かしいベーゴマや、粉ヨーグルト、ビニールに入ったジュースなどが山のように積まれている。

計算間違いでもしやしないかと心配になるような古臭いレジのショーケースには、黒糖ロールパンに切れ目を入れて生クリームを挟んだ、その名も黒糖パンという生クリーム全無視の商品が並べられている。

たまたま店で一緒になったクラスメイトの態を装って、この黒糖パンが人気なのだと穂積から教えられる。


「……美味しそう」


水あめもいいが、こちらも随分と魅力的である。


「どっちも買えばいいだろ」


穂積が水あめを物色しながら言う。

確かに両方買っても、少ない小遣いにはさして響かないほどの金額だ。


「食い切れないってんなら、俺が半分もらってやるし」


こちらを見ずに言われたが、薫はそれを断った。


「君、生クリーム苦手でしょ。牛乳嫌いじゃん」


前世の勇魚は少なくともそうであった。あの生臭い白い飲み物のどこがいいんだよといつも憤慨していたが、薫子はあれを氷で冷やして飲むのが好きだった。

前世と今世では事情も違うかな、と思ったが、薫子が苦手だったものは薫も苦手なことが多い。雷とか。

なので、穂積もそうなのであろう。


穂積がなにか返事をする前に、薫子はきらきらした水あめに目を奪われて、自分が今口走ったことを忘れた。


「すごい。イチゴ味とかレモン味とかある」

「袋入りとかあるんだな」

「昔みたいに茶色くないんだねえ」


水あめコーナーには、瓶入りのものと袋い入りのものがお行儀よく並んでいる。

透明なものと、着色されてピンクだったり緑だったりと、カラフルなものがある。

どっちにしても甘くて美味しそうだが、昔、勇魚に買ってもらった水あめのほうが美味しそうに感じるのは、薫の中の薫子のせいだろうか。


結局、小さな袋入りをひとつずつ購入して、外の空いたベンチではなく、駄菓子屋の裏に回って食べた。滅多に人がこないのか、足元の地面ではは雑草がすくすくと伸びている。

皹の入った壁にもたれて、袋を破って口をつける。

甘くて、昔ほど固くなくて、舐めやすいというか吸いやすいというか。水あめといったら棒に絡めて食べるのが当たり前だったので。袋からちゅーちゅーしているのが、なんだか違和感である。


「変な感じだな」


穂積も同じようなことを考えていたのか、そんな言葉が隣から聞こえてきた。


「そうだね」


短く返しながら、薫は小さく笑う。


変な感じだ、本当に。

こうして、時代を飛び越えて、再びこの人と水あめを舐めているなんて。


なんて魅力的で、癖になる甘さだろうか。





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