表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアリス英傑記  作者: 芳田たかみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/37

030話 ハイネス攻防戦12

 帝国歴628年3月9日、ジェムジェーオン北部ハイネス。

 ハイネス攻防戦は、激戦のまま四日目へ突入していた。

 疲労と焦燥が戦場全体を覆い、両軍の兵士たちの呼吸は荒く、足取りは重かった。


 だが、その戦場の空気は、唐突に破壊された。

 正体不明の3個師団が、暫定政府遠征軍の背後を突いた。

 しかも、その3個師団は無傷。

 初日から戦い続けて疲弊した遠征軍とハイネス守備隊とは、もはや比較にならない。


 戦力差は消えた。

 勢いは完全に、3個師団を加えたハイネス守備隊に傾き始めていた。


 その時だった。

 戦場全域に、澄んだ声が響き渡った。


「私の名はジェムジェーオン伯爵国世子『勝唱の双玉』ショウマ・ジェムジェーオンだ。私たちの進軍を阻む者は、国逆の賊とみなす」


 その声は、戦場を震わせた。

 正体不明の3個師団を率いて、遠征軍の背後を突いたのは、ショウマ・ジェムジェーオンだった。

 その事実が伝わった瞬間、両軍に衝撃が走った。


 ハイネス守備隊は息を吹き返し、疲労で沈んでいた兵士たちの瞳に、再び火が灯る。


「ショウマ様だ……! 本当に……!」

「援軍だ! 援軍が来たぞ!」


 歓声が上がった。

 同時に、士気が爆発的に高まった。


 一方、遠征軍は背後からの急襲に加え、『勝唱の双玉』ショウマの登場により、戦列が一気に乱れた。


「あの3師団……もともと俺たちの遠征軍だったよな……?」

「じゃあ……ショウマ様に寝返ったってことか?」

「誰と戦えばいいんだ……!」


 混乱は瞬く間に広がり、遠征軍は統制を失いかけていた。

 戦場の空気が、ショウマ・ジェムジェーオンの帰還によって、劇的に塗り替えられていく。




 ハイネスのAS(アーマードスーツ)補給基地。

 ハイネス脱出の準備を整えていたカズマ・ジェムジェーオンは、AS(アーマードスーツ)のコクピットのなかで、思わず涙を流した。


 ――兄貴が生きていた。……良かった。


 カズマは天井を見上げた。。

 胸の奥に張りつめていた何かが、音を立ててほどけていく。


 そして、ハイネス攻防戦の戦場の空気が激変したことを、敏感に感じ取った。

 兄ショウマの帰還は、戦局そのものを揺り動かしている

 そして、自分が果たすべき役割も変わる。


 ――さあ、魂よ、奮い立て


 もう、脱出の必要はない。

 カズマは攻撃準備へと移行した。




 遠征軍旗艦(バトルシップ)『モノポライザー』の艦橋

 総司令官ドナルド・ザカリアス大将は、混乱に陥った司令部のなかで、茫然とモニターを見つめていた。


 スン・シャオライ中佐に預けた3個師団が、『勝唱の双玉』ショウマ・ジェムジェーオンに寝返った。

 そして、遠征軍は、陣の背後から奇襲を受けている。


 ――なぜだ。


 ザカリアスの作戦は完璧だったはずだ。

 遠征軍の参謀長ヒューゴ・マクスウェル准将が、焦りを隠せぬ声で指示を求めてくる。


「ザカリアス閣下、命令を」


 ザカリアスは軽い目眩に襲われた。

 ふらつく頭を抑えながら、目線だけをマクスウェルに返した。


「……」

「ここが挽回の時です」


 マクスウェルの声は強かった。

 だが、ザカリアスの胸に湧き上がったのは、怒りだった。


 ――いったい誰のせいで、こんな失態に至ったのだ。


 ザカリアスは絞り出すように言葉を発した。


「マクスウェル准将。どうして、スン中佐に預けた軍隊をショウマが率いているのだ?」

「認めなくてはなりません。スン中佐が途中でショウマと合流し、オステリアに向かった部隊ごと、敵軍に寝返ったのです」


 その返答に、ザカリアスは声を荒げた。


「なぜ。どうしてだ? 誰のせいで、このような結果となった!」

「原因の究明は後です。いまは、この事態をどう切り抜けるかをお考えください」

「このような結果になるなど、私は聞いていない」


 ザカリアスは、再びモニターを凝視した。

 目眩は、毒が回っていくが如く、ザカリアスの全身に伝播していった。

 現実を拒むように、ザカリアスはただ、戦場の映像を見つめ続けた。

 

 その姿を見て、マクスウェルが静かに天を仰いだ。




 ハイネス市庁舎の貴賓応接室。

 司令部の中心で、アンナ=マリー・マクミラン大佐は震えていた。


 ――ショウマが生きて戻ってきた。しかも、援軍を引き連れて。


 胸の奥が熱くなり、視界が滲みそうになる。

 だが、感慨に耽っているわけにはいかなかった。

 ハイネス守備部隊の責任者として、任を全うしなければならない。


 出撃直前だったカズマ・ジェムジェーオンとジョニー・マクレイアー少佐に、待機を命じた。

 アンナ=マリーは熱くなった頭を冷やしながら、戦況を分析した。


 ――攻勢に移るべきか。


 暫定政府の遠征軍は、予期せぬ背後からの奇襲を受け、混乱している。

 乾坤一擲の好機。

 ハイネス守備隊に残された戦力を考えれば、次の一撃が最後の反攻となる。


 ――ここが勝機なのか。


 確かに、ショウマの声を聞いた。

 だが、確実な情報があった訳ではない。

 偶然、戦場に流れた通信の声を耳にしたに過ぎない。

 確実な事実と断定するには、情報が足りなかった。


「至急、援軍の正体、と軍を率いているのがショウマ様なのかどうかを確認して」

「ショウマ様はハイネスにいるのでは?」

「いいから。お願い」

「承知しました」


 ハイネス守備部隊の司令部が、アンナ=マリーの指示を受けて、一斉に情報収集へ動き出した。

 少しでも確かな戦場の情報が欲しかった。

 モニターが映し出す戦場の画像だけでは、正確な状況を掴みきれなかった。


 アンナ=マリーは額から流れ落ちる汗を拭った。

 その時、前線で戦っていたアレックス・ラングリッジ大尉から通信が入る。


「こちら、アレックス・ラングリッジ大尉。司令部、応答を願う」


 すぐさま、アンナ=マリーは通信に応じた。


「アンナ=マリー・マクミラン大佐です。現場の状況がどうなっているか、教えてもらえませんか?」

「こっちが聞きたいくらいです。いったい、どんな魔法を使ったんです」

「報告をお願いします。目に見えている状況の報告で構いません」


 アンナ=マリーの切羽詰まった声の調子に、アレックスも真剣な口調で答えた。


「暫定政府の遠征軍は混乱状態に陥っています。退却するASと、踏み止まるASが、お互いに罵り合ってます。指揮系統が崩壊しかけています」

「ショウマ様が援軍を引き連れて帰還したとの情報があります。ただし、裏は取れていません。司令部も情報の真偽を、確認しているところです」

「ショウマ様が……。どこかの部隊が、敵軍の後背より襲ったことは間違いないのですが、それがショウマ様だったとは。小官としては納得です。言えることは、戦場の敵軍は、援軍の登場で混乱していると事実だけです」


 もっと、確実な情報がほしい。

 そう思った瞬間、別の通信が入った。


「アンナ=マリー・マクミラン大佐」


 通信相手は、AS(アーマードスーツ)に騎乗したまま待機していたカズマ・ジェムジェーオンからだった。


「カズマ様」

「マクミラン大佐。兄貴、ショウマ・ジェムジェーオンの言葉を聞いたな」

「はい。いま、あの声の主が、本物のショウマ様なのかどうか、事実確認を進めているところです」

「こんな奇策ともいえる戦術を大胆かつ精密に実行できるのは、兄ショウマ以外に誰がいるか?」

「確かに、その通りなのですが……」

「オレはジョニー・マクレイアー少佐とともに出撃する。責任者のマクミラン大佐に許可願いたい。挟撃のチャンスだ。できるか、できないかじゃない。やるか、やらないかだ」


 カズマの言葉には、迷いがなかった。


 ――私も決断しなければならない時だ。


 アンナ=マリーはモニターに映るカズマとアレックスの顔を観た。

 どちらも、真剣な表情で、アンナ=マリーの言葉を待っていた。


 吹っ切れた。

 覚悟が定まった。


「出撃を許可します」


 続けて、回線をパブリックに変更して、全軍に告げた。


「ハイネス守備隊の全員に告げます。援軍を率いて現れたのは、ショウマ・ジェムジェーオン殿下です。遠征軍の背後を襲っています。この動きに連動して、敵軍を挟撃します。最後の戦いです」

「承知!」


 息を吹き返したハイネス守備部隊の返答が、木霊した。

 ジョニー・マクレイアー少佐の部隊がハイネスを出撃した。


 出撃を待っていたカズマが軽く笑った。


「また、最後のいいところを、兄貴に持っていかれるなぁ」

「カズマ様はショウマ様に負けない武勲を上げてください」

「了解した。任せておけ」


 アンナ=マリーは微笑んだ。


「カズマ様、頼みます」

「了解。カズマ・ジェムジェーオン、出る!」


 カズマが騎乗するAS(アーマードスーツ)が、勢い良くハイネスの格納庫から飛び出した。




 ジェムジェーオン北部、ハイネス。


 スン・シャオライ中佐に預けた3個師団は、ショウマ・ジェムジェーオンに忠誠を誓い強力な尖兵となって、暫定政府の遠征軍の背後を襲っていた。

 さらに、新たな戦力も加わっている。

 とりわけ、白いAS(アーマードスーツ)ランサー部隊は精鋭の中の精鋭だった。

 波状攻撃、陣形変化、突撃の鋭さ。どれもが常識を超えており、次々と遠征軍を破っていく。

 暫定政府の遠征軍は、完全に混乱した。


 この好機を、ハイネス守備隊は逃さなかった。


 『疾風』ジョニー・マクレイアー少佐のAS(アーマードスーツ)部隊、『怒涛』アレックス・ラングリッジ大尉のAS(アーマードスーツ)部隊が、一斉に前線へ飛び出し、暴れまくった。

 そして、この戦いでも、カズマ・ジェムジェーオンの戦果は群を抜いていた。

 短時間で10機のAS(アーマードスーツ)を単独撃破。

 その戦いぶりは、まさに戦場の『彗星』だった。

 伝説の1ページに書き加えられることになった。


 背後の3個師団の援軍と、正面のハイネス守備隊により、挟撃が完全に完成した。


 戦場の流れは一変した。

 時間の経過とともに、戦闘は一方的なものとなっていった。

 ハイネス守備隊が暫定政府の遠征軍を、次々に打ち破っていく。


 勝負は決した。


 その時、戦場に登場したショウマ・ジェムジェーオンは、敵味方関係なく全軍に告げた。


「こらからのジェムジェーオンに力になりたいという者を、私、ショウマ・ジェムジェーオンは拒まない。志をともにするものは、私のもとに集ってほしい」


 最終的に、『勝唱の双玉』ショウマ・ジェムジェーオンによるこの呼びかけが、勝敗の決定打となった。

 遠征軍のジェムジェーオンの兵士たちは武器を捨てて、『勝唱の双玉』のもとに、投降していく。

 投降兵の数は、ハイネス守備隊を上回る程に膨らんでいった。


 ショウマ・ジェムジェーオンが3個師団の援軍を引き連れて、遠征軍の背後を突いてから、わずか2時間後。

 ドナルド・ザカリアス率いる暫定政府の遠征軍は、全軍崩壊を避けるために、首都ジーゲスリードへの全面撤退を始めた。


 ショウマは命じた


「同じジェムジェーオンの市民だ。負傷兵と投降兵を助けることに最優先とする」


 こうして、ハイネス攻防戦は決着した。


 ハイネスは陥落一歩手前という状態から蘇った。

 ここに、『勝唱の双玉』による奇跡の大逆転劇が演じられた。


 4日間に及んだハイネス攻防戦は、『勝唱の双玉』の大逆転勝利で、幕を閉じることになった。




「面白い」


「続きが気になる」


と思いしたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。


つまらなかったら☆1つ、面白かったら☆5つ、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


よろしくおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ