表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアリス英傑記  作者: 芳田たかみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/36

028話 ハイネス攻防戦10

 帝国歴628年3月9日、ジェムジェーオン北部ハイネス。

 遠征軍の旗艦(バトルシップ)『モノポライザー』の艦橋。


 最上段に設置された司令官席で、遠征軍の総司令ドナルド・ザカリアス大将は、ハイネス攻城戦の映像をじっと見つめていた。


 ――この調子を維持できれば、ハイネス守備部隊はじきに限界を迎える。


 ザカリアスは安堵の息をついた。


 初日の奇襲で、本陣が危機に晒された時は、さすがに心中穏やかではなかった。

 だが、物量で押し切る戦術へ切り替えてからは、戦局は明確に遠征軍優勢へと傾いている。

 伝令が運んでくる報告も、その優勢を裏付けるものばかりだった。


 ザカリアスはテーブルに置かれた紅茶入りのティーカップを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。


 ――この段階に至れば、小細工など無用だ。


 焦る必要はない、着実に時間を掛けていい。

 ハイネス守備部隊を、ひとつずつ確実に潰していけば、いずれ落とせる。

 改めて、全軍に命令を下した。


「相手の挑発にだけは乗るな。各隊、課せられた目的を果たすことだけに集中するのだ」


 その時だった。


 側近の参謀長ヒューゴ・マクスウェル准将のもとへ、下士官が駆け寄り、ひそひそと耳打ちを始めた。

 ふたりの表情が曇る。


 下士官が去るのを見届け、ザカリアスは声をかけた。


「マクスウェル准将、何かあったのか」


 マクスウェルが目だけで頷いたあと、ザカリアスのもとに速足で寄ってきた。

 耳元に顔を近づけて、小声で言った。


「オステリアに向かったスン・シャオライ中佐から『至急ザカリアス閣下に伝えたいことがあるため、ハイネスに戻ってくる』と、連絡がありました」

「む?」


 思わず、ザカリアスは声を漏らした。


「スン・シャオライ中佐がわざわざハイネスに戻ってくる? 通信では駄目なのか」

「内密に話がしたいとのことです」

「それでは、オステリアに向けた3個師団は、誰が率いているのだ?」


 マクスウェルが言いにくそうに続けた。


「そのことですが……、スン中佐は軍勢を引き連れたまま、ハイネスに戻ると聞いています」


 ザカリアスの眉がぴくりと動いた。


「それはおかしな話であろう。内密の話に、軍勢を戻す必要があるのか」

「確かに、閣下の仰る通り、不可解です」


 マクスウェルが首を傾げた。

 ザカリアスの頭に血が昇った。


 ――スンは何を考えているのだ。


 この勢いでハイネスを攻め続ければ、ハイネス陥落は時間の問題だ。

 だが、その間にオステリアが敵軍の手に落ちて、新たな反抗拠点となってしまえば、第二のハイネスとなる。


 その芽を摘むがために、軍を割いて、オステリアに送ったのだ。


 ――それを勝手に戻すとは。


 怒りが喉元まで込み上げる。


 ――落ち着け。


 ザカリアスは深く息を吸い、冷静さを取り戻す。

 改めて、マクスウェルに指示を出す。


「内密の話の件は了解した。スン中佐に、軍勢の指揮をいずれかの者に委ねて、ただちにオステリアに向かわせろと厳命せよ。そのうえで、本人は、少人数でこちらに向かうようにと」

「承知しました」


 マクスウェルが頭を下げ、ただちに、伝令をスン・シャオライ中佐に伝えるように指示を出した。




 遠征軍の司令部からの命令は、スン・シャオライ中佐に確かに届いた。

 命令を受け取ったスン中佐からの返答も届く。


「司令部の指示に従います」


 この回答があったにもかかわらず、3個師団の軍勢はオステリアに向かうことなく、まっすぐハイネスの遠征軍本隊へと迫ってきた。


 遠征軍の司令部からは、再三、停止命令を発出された。

 それでも、軍勢は止まらない。

 スンの部隊は、まるで何かに導かれるように、一直線に進んでくる。


 ついに、接近してくる3個師団の軍勢を抑止するため、ハイネスに布陣するジェムジェーオンの遠征軍の陣から、部隊が出撃した。




 同じ頃、遠征軍バルベルティーニ陣。

 謎の軍勢接近の報が届き、ベリウス・クラウディウス将軍が率いる黒騎士第二軍団の司令部は、ざわつき始めていた。


 遠方の地平線に、(バトルシップ)が巻き起こす砂埃が舞うのを認めた。

 肉眼でも、かすかに部隊の影を確認できる距離となっていた。


 クラウディウスは椅子を蹴り上げるように、立ち上がった。


「どういうことなんだ!」


 バルベルティーニの若手士官のひとり、アスセット少尉が押し出されるように立ち上がる。


「ジェムジェーオン司令部からは、あの部隊は味方で、ハイネスから距離10000の地点に留まると報告を受けています」

「距離10000だと? すでに、肉眼で確認できる位置に迫ってきている。それより近い距離に迫っているのは、明らかではないか」

「は、はい。その通りなのですが……」

「どの程度の兵力なのだ」

「3個師団の戦力と聞いています」

「……3個師団だと」


 クラウディウスの本能が、鋭く警鐘を鳴らしていた。


 ――間違いない。これは敵襲だ。


 3個師団がこの遠征軍を背後から襲えば、戦局は違った方向へと舵を切ることになる。

 可及的速やかに、対処が必要だった。


 クラウディウスは早口で、アスセット少尉に命じる。


「再度、ジェムジェーオン司令部にあの部隊の正体を確認しろ。至急だ」

「はい」


 アスセット少尉が椅子に座り、身体をコンソールのほうに向き直した。

 ジェムジェーオン司令部と連絡を取るため、ヘッドセットを頭に装着した。


 その時、艦橋のクルーたちがざわついた。


〈衝突だと! どういうことなんだ〉

〈憶測はいらない。現在の状況を正確に報告してくれ〉


 クラウディウスはクルーのひとりに声を掛けた。


「どうしたのだ?」

「接近してくる部隊と、それを抑止するために向かったジェムジェーオンの部隊が、……戦闘状態に突入したようです」


 クラウディウスの背中に、冷汗が流れた。


 ――決断が遅れたか。


 ジェムジェーオン遠征軍の対処は、すでに後手に回っている。

 ここでさらに、対処を躊躇すれば、取り返しのつかない事態に陥る。


 アスセット少尉が、視線をクラウディウスに向けていた。報告するタイミングを窺っている。

 クラウディウスは顔を向けた。


「ジェムジェーオンの司令部は何と言っている」

「同じ答えです。当該の部隊は、味方のはずだと」

「戦闘が始まっているのに、まだそんな根後を言っているのか!」

「詳細は調査中とのことです。ジェムジェーオンの司令部は混乱しているようです」

「接近している部隊は、どのくらいの距離まで近づいている。こちらで測った結果を伝えてくれ」

「……お待ちください」


 アスセット少尉がモニターをのぞき込み状況を確認した。

 青い顔で、答えた。


「およそ2500です」


 クラウディウスは天を仰いだ。


 ――近づけすぎだ。


 すでに、迎撃限界を超えいる。交戦距離だ。

 直ちに、接近する部隊を潰さねばならない。

 でなければ、クラウディウスたちを含む遠征軍は、この戦場でハイネス守備部隊との挟撃を受けることになる。


 悠長に、調査などに時間を費やしている場合ではない。

 クラウディウスは、横目でガルバ大佐を見た。


「ガルバ。分かっているな。止めてくれるな」


 ふぅ、ガルバが深く息をついた。


「できることならば、クラウディウス閣下には、ジェムジェーオンの司令部からの要請を受けて、出撃していただきたいと思っていますが……」

「あいつらの回答を待っている間に、俺たちが全滅することになるぞ!」


 ガルバが苦笑した。


「閣下の言、尤もです。仕方ありませんな」

「もちろん、俺自らがASで出撃するぞ」

「止めたとて、無駄なのでしょうな」


 クラウディウスはニヤリと笑った。


「俺はバルベルティーニのトライデント『赤槍』だ。トライデントは、常に戦場の最前線に立たねばならない。ガルバは引き続き、この艦に残り、ジェムジェーオン司令部と連絡を継続してくれ。できれば、ザカリアスからの追認を取ってくれ」

「承知しました」


 クラウディウスはバルベルティーニ黒騎士第二軍団に向けて命じた。


「すぐに、ASランサー部隊に出撃の準備を整えさせよ」


 黒騎士第二軍団のAS(アーマードスーツ)ランサー部隊は、クラウディウスの親衛隊だった。

 ガルバが念を押す。


「決して、無理はなさらぬよう」

「ああ、判っている。だが、心配は無用だ。敵はどこぞの衆、俺たちはバルベルティーニ黒騎士第二軍団の敵ではない。無理せずとも、目の前の敵を打ち破るのみだ」


 クラウディウスの胸に、久しく忘れていた昂揚が湧き上がった。


 ――ようやく、本領を発揮できる。


 ジェムジェーオン到着以来、自らが率いるバルベルティーニ黒騎士第二軍団は行動を制約され続けてきた。

 その鬱憤を晴らすとともに、武名を轟かせる好機が訪れたことに、胸が高鳴っていた。



「面白い」


「続きが気になる」


と思いしたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。


つまらなかったら☆1つ、面白かったら☆5つ、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


よろしくおねがいします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ