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アクアリス英傑記  作者: 芳田たかみ


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024話 ハイネス攻防戦6

 帝国歴628年3月6日、ジェムジェーオン北部ハイネス。

 ジェムジェーオン暫定政府の遠征軍旗艦(バトルシップ)『モノポライザー』

 艦橋の司令席に腰を下ろした総司令官ドナルド・ザカリアス大将のもとへ、ハイネスの『勝唱の双玉』から、面会要請への返答が届いた。


 返答の通信文を手に取ったオペレータが、読み上げる前にザカリアスの顔色を覗った。

 ザカリアスは、まっすぐオペレータの目を見据えた。


「構わない。読み上げよ」


 オペレータが喉を鳴らし、恐る恐る読みあげ始めた。


「私たち『勝唱の双玉』は、弟ユウマ・ジェムジェーオンを傀儡として利用する奸臣ドナルド・ザカリアスと語るべき言葉を持っていない」


 艦橋の空気が凍りつく。

 だが、ザカリアスは微動だにしない。


 読み上げは続く。


「信義に背く不忠者が対等の交渉を求めるなど、勘違いも甚だしい。私たち『勝唱の双玉』と会談したいのであれば、マクシス・フェアフィールドおよびドナルド・ザカリアスの両人が、伯爵家に対する非礼を詫び、降伏することから始めるべきである」


 読み終えた瞬間、艦橋は静寂に沈んだ。

 ザカリアスは、眼鏡の位置を整えながら、心の中で呟いた。


 ――やはりな。


 確信が形を持った。

 『勝唱の双玉』のうち、どちらか片方は、ハイネスを脱出している。

 そして、ハイネスを脱出したのは、ショウマ・ジェムジェーオンと考えるべきだ。


 もし、ショウマがハイネスに残っていたとしたら、会談の場に出てきて、直接ザカリアスを糾弾してくる。

 しかも、その会談の模様を録画し、戦場に流すくらい考えるはずだ。


 ザカリアスはそれを危惧していたが、杞憂に終わったようだ。


 回答を読み終えたオペレータが、、固まったまま、次の指示を待っている。

 ザカリアスは眼鏡の位置を直し、軽く手を振った。


「ご苦労だった。下がって構わない」


 オペレータは安堵の息を漏らし、足早に退室した。

 ザカリアスは決意を固めた。


 ――力攻めも、やむを得ない。


 ジーゲスリードに退くより、ハイネスを落とす方が、戦略として正しい。

 多少のリスクを負ったとしても、ただちにハイネスを攻略する。


 決断してしまえば、躊躇している時間が勿体なかった。


「マクスウェル」

「はい」


 隣に控えていたヒューゴ・マクスウェル准将が姿勢を正す。


「遠征軍の諸将を集めよ。作戦会議を開く」


 ザカリアスの声は低く、揺るぎなかった。



 それから、1時間後。

 遠征軍の高級士官たちが、旗艦(バトルシップ)『モノポライザー』の謁見室に整列していた。

 ジェムジェーオン伯爵国防衛軍では、中将以上の師団長に特注の専用バトルシップの建造が許されている。

 なかでも、ザカリアスの乗艦『モノポライザー』は一際巨大なサイズで、移動型大本営と呼べるものだった。

 謁見室は、ゆうに50人を収容できる広さを有している。

 この艦の建造が具申された際、他の将校たちは「あんな馬鹿でかいサイズの艦が戦場で役立つものか、ザカリアスの尊大さの表れだ」と揶揄した。

 ザカリアスの耳にもその声は届いていたが「私には必要なのだ」と、意に返さなかった。


 いま、その巨大艦の謁見室の高座に、ザカリアスは静かに鎮座していた。

 隣に控えるヒューゴ・マクスウェル准将が小声で告げる。


「時間です」


 ザカリアスはゆっくりと立ち上がった。

 同時に、『モノポライザ―』の謁見室に集結した高級士官たちが姿勢を正した。


 この映像は戦場全域にオープンチャンネルで配信されている。

 味方の遠征軍だけでなく、ハイネスに籠る敵軍が観ることも意識していた。


 ザカリアスは周囲を見渡してから、語り始めた。


「私、ドナルド・ザカリアス大将は、ジェムジェーオンの国民同士が争うこの戦いを憂慮している。さきほど、ハイネスの『勝唱の双玉』に対して、会談を呼びかけた。もちろん、平和的解決を望むためにだ」


 一拍置き、声を低くした。


「だが、ハイネスからの返答は、会談自体の拒絶だった。そして、寄せられた通信文がここにある。全文を読み上げよう」


 マクスウェル准将が一歩前に踏み出し、ハイネスからの通信文を読み上げた。

 高級士官たちの間にざわめきが走る。


 ザカリアスは一喝した。


「狼狽えるな」


 静寂が落ちる。

 士官たちの視線が、疑念と緊張を帯びてザカリアスに向けられた。


「諸君。私は残念でならない。以前から伝えているように、私やマクシス・フェアフィールド元帥は故アスマ・ジェムジェーオン伯爵の命に基づいて、今日まで行動している。疑わしいというのならば、これも何度も言っている通り、首都ジーゲスリードに保管している証文を確認すればよい。逃げも隠れもしない」


 そして、声を落とし、言葉に重みを乗せた。


「しかし、もうひとつだけ、言いいたいことがある。ハイネスからの通信文を読んだ際、私の頭に、ひとつの疑問がよぎった。なぜ『勝唱の双玉』は、会談すら拒否して通信文のみを返してきたのか?」


 謁見室に緊張が走る。


「現在、私たちと『勝唱の双玉』は敵対している。しかしながら、私だけでなく『勝唱の双玉』も、出来るならば、ジェムジェーオンの市民同士が争うこの戦いを回避したいと願っているはずだ。それでも、会談は拒否された。そして、私はひとつの答えに辿り着いた」


 ザカリアスは声を張り上げる。


「『勝唱の双玉』こそ、君側の奸に利用されているのだ」


 高級士官たちが騒めく。

 さらに、ザカリアスは捲し立てる。


「ハイネスに籠る逆賊どもにとって、『勝唱の双玉』が自由意志で語る場を与えては不都合になる。だからこそ、私からの会談の申し出を拒否し、『勝唱の双玉』を表に出さなかった。そう考えると、会談を拒絶してきた理由がすべて腑に落ちる」


 高級士官たちが息をのんだ。

 暫定政府軍、映像を見ていた多くの兵士たちも、食い入るようにザカリアスの次の言葉を待った。


 ザカリアスは高座から一歩踏み出し、宣言した。


「私はここに宣言する。ジェムジェーオンの真の忠臣として、君側の奸たちを打破し『勝唱の双玉』を救出することを。そのために、苦渋の決断としてジェムジェーオンの国民同士が戦う決断を下すことを許してほしい」


 謁見室が揺れた。

 高揚の波が広がり、高級士官たちの多くが握りこぶしを作った。


「ザカリアス閣下に敬礼」


 一斉に、高級士官たちが頭を下げた。

 ザカリアスは右手を振り上げ応えた。


「これより、ハイネスへの総攻撃を開始する」


 その宣言は、遠征軍全体の士気を一気に燃え上がらせた。

 ザカリアスは、軍の心を完全に掌握した。




 同時刻、ハイネス市庁舎の貴賓応接室。

 カズマ・ジェムジェーオンたちハイネス守備隊の首脳は、遠征軍のドナルド・ザカリアス大将の演説を、苦渋の面持ちで見つめていた。


 カズマは深く息を吐き、皮肉めいた笑みを浮かべた。


「やれやれ。まさか、ザカリアスの口から、オレを救うと宣言されるとはな」


 アンナ=マリー・マクミラン大佐が応えた。


「こちらから送った会談拒否の回答を、ここまで巧妙に利用してくるとは」


 カズマはジョニー・マクレイアー少佐に視線を向けた。


「ハイネスの兵士たちは、この映像を観ているのか?」

「映像は流していません。しかし、兵の間に広まるのは時間の問題でしょう。少なくとも、相手はそのように仕向けてくることでしょう」

「だろうな」


 カズマが小さく頷いた。

 アンナ=マリーが真剣な眼差しでカズマを見つめた。


「カズマ様にお願いがあります」

「ああ、判っている。苦手だとか、言っている場合ではない。オレが兄貴として皆の前に出て、話すしかないのだろう」

「ありがとうございます。……くれぐれも、言葉は慎重に」

「ちゃんと、ショウマ・ジェムジェーオンを演じ切ってみせるよ」


 アンナ=マリーをはじめ、首脳部の面々が深く頭を下げた。

 カズマはその姿を見つめ、胸の奥で静かに決意を固めた。


 ――なんでもやってやる。


 いま、カズマにできること。

 『勝唱の双玉』として、自らの言葉で、味方の兵士を支え鼓舞することだった。




 10分後。

 再び、遠征軍旗艦(バトルシップ)『モノポライザー』の謁見室。


 散会が告げられたあとも、多くの遠征軍士官たちが興奮冷めやらず、その場に残り互いに言葉を交わしていた。

 来るべき戦闘に向けて拳を握りしめる者、決意を新たにする者。

 謁見室は、熱気と昂揚に満ちていた。


 ヒューゴ・マクスウェル准将が、ドナルド・ザカリアス大将の耳元に屈みこんだ。


「おつかれさまです。ザカリアス総司令。大成功です。これで、遠征軍の兵士たちは、閣下のために全身全霊を賭けて戦う集団となったでしょう」

「マクスウェルの献策の賜物だ」


 ザカリアスは誰よりも高揚感に包まれ、自らの言葉に酔っていた。

 マクスウェルが声を潜めて、続ける。


「僚軍はいかがしますか?」

「バルベルティーニのクラウディウス将軍のことか」


 ザカリアスの脳裏に、赤毛の青年将軍の顔が浮かんだ


 ――頼るつもりなど、毛頭ない。


 ハイネスは、ジェムジェーオンの軍勢だけで攻略する。

 これ以上、バルベルティーニに借りを作り、戦後に大きな顔をされるのは御免だった。


 マクスウェルが続ける。


「きっと、クラウディウス将軍は、ここぞとばかり、出撃を求めてくるでしょう」

「だろうな。だが、バルベルティーニは、こちらが統制できない。勝手に暴れ、戦場をかき回し、挙げ句の果てに援軍を求めてくる。そんな事態は避けたい」

「小官も同意します。後方の予備兵力として配置するのが最適かと」

「そうだな。早速だが……」


 ザカリアスは言いかけると、マクスウェルが即座に頷いた。


「小官自ら、クラウディウス将軍のもとへ伝えに行きます」

「ああ。そのように進めてくれ」

「承知しました」


 マクスウェルが踵を返す。


 ザカリアスは、ふっと口の端を歪めた。

 バルベルティーニ陣に向かうマクスウェルの背中に、付け加えた。


「クラウディウス将軍には、茶でも飲みながらハイネスが落ちるのを眺めていてくれ、と伝えてくれ」


 マクスウェルが振り返り、皮肉を理解した笑みを浮かべ、首を縦に振った。



「面白い」


「続きが気になる」


と思いしたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いします。


つまらなかったら☆1つ、面白かったら☆5つ、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


よろしくおねがいします。


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