第六話 タイラー・ジルコン
「はぁ……はぁ……か、買い取りお願いします」
ヴェガまで戻ってきた僕は、冒険者組合に素材の買取りをお願いしていた。
今日もモンスターは倒せなかったので、討伐素材じゃなく採取素材ではあるが、僅かばかりでも金にはなる。
「――――お待たせしました。こちらが買い取り金額になります」
「……あ、あの、先日はもうちょっと貰えたような……?」
「……深夜価格です。今何時だと思っているのですか?」
時刻は最も闇が深き刻。
実はベルリーフさんと別れた後、スキルの使用回数の検証を行ったのだが……。
(あれから五、六回目だったか? 急に意識が遠のいて……)
気絶してしまったようなのだ。モンスターに襲われなかったのは幸運だったとしか言いようがない。
しかし冒険者組合は24時間利用できるようになっている。そのため疲れた体を引きずってでも素材を売りに来たのに。
深夜だからと言って、買い取り額が下がるなんて話は聞いた事がない。
どうせ僕が最低ランクだという事もあり、そういう対応をとっているのだろう。
「……そうですか、分かりました」(クソがっ! てめぇその顔覚えたからな! 後で匿名でチクってやる!)
深夜帯に組合に来た事は初めてで、担当してくれた組合員も初めて見る顔だった。
まぁでもここで揉めても疲れるだけ、深夜の職員はヤベぇ奴だと割り切るのが面倒じゃなくていい。
「クソ職員が、もう深夜にはこねぇよ」(ありがとうございました、またこの時間になった時は宜しくお願い致します)
「……はぁ? おいお前! 今なんて言った? 最低ランクのゴミ――――」
なんか急に怒り出した職員を無視して食堂へ。やっぱりあの職員はちょっとヤバイ奴なようなので、やはり極力深夜は避けようと思った。
「すみません、このEランク定食を下さい」
「あいよー」
この時間でも開いているのはありがたい。酒場も併設しているこの食堂も、基本的に24時間利用が可能な施設だ。
「あいよーお待ちー」
「どうも」
出来上がった一番やっすい定食を受け取り、開いている席へ。
本当は別の定食でもいいのだが、この組合の所属になった時に心に決めた事がある。
同じランクの定食を食べ続ける。なんか、そういう制限を付ければ少しでも頑張れるかなと思って。
それに、普通に美味しいんだよね、Eランク定食でも。
「頂きます……うん、相変わらず……美味しい……」(なんだこれ……? いつもよりマズいぞ)
「そうっすかー? ありやーす」
正直な所、懐事情はそこまで悪い訳ではない。僕は育成者のため、国から毎月補助金が出ているからだ。
といっても、ある時を境に大幅に減額した。恐らく、僕の無能っぷりに気づいた王宮が減額させたのだろう。両親が行った不正の事も影響しているはずである。
まぁでも、もらえるだけありがたい。この補助金がなかったらと思うと恐ろしい。
「もぐもぐ……うん……これも……うまいっす……」(まっじぃぃぃ! なんだこれ!? 作り手が違うだけでこんなに違うのか!?)
「ほめ過ぎっすよー、ありやーっす」
問題は、この育成者でいられる期間が残り僅かだという事。
育成者には当然だが年齢制限がある。この期間終了後、王都に成果を報告しに行かなければならないのだが……どうしよう。
成果と言える成果なんて何も上げていない。冒険者は最低ランク、剣術魔術の技術は停滞し、あの子供大会以来どこかの大会で入賞したなんて事もない。
「ゲロマズ……これで料理のつもりかよ、金返せや」(なんとか期間終了までに、なにか成果を上げないとな……)
「はぁ? おいコラてめ今なんつった?」
「あ、すみません、つい……」(ああ、ダメだ……ちょっとしんどくなってきたな)
スキル使用による衰弱なのか、ただの寝不足なのか分からないが、頭がボーッとしてしまう。
難しい事は後で考えようと、Eランク定食を頬張った。
しかしマズい。ワンオペで頑張っている様子の職員には申し訳ないが、こちらはお金を払っているお客様なのだ。
「た、大変ですねお一人で。頑張ってください」(やっぱ深夜はダメだな……ワンオペは大変だろうが、こりゃいかんぜ)
「え……ありやーっす! がんばりゃーっす!」
食材に罪はないので残すつもりはないが、眩暈が酷くなった。ぶっ倒れる前に宿に引き上げた方が良さそうだ。
そう思い堪えてE定食を咀嚼していと、食堂に大きく下品な声が響き渡った。
「――――おうっ! C定食と酒だ! さっさと頼むぜ!」
ズカズカと食堂に入ってきた大男は、威圧するように職員に声を掛ける。
「へいっ! すぐにお持ちします!!」
僕の時とはえらく違う対応をする食堂職員。まぁあんな強面の冒険者に大声を出されたら、委縮してしまうのも無理はないか。
僕は他人の振りをしようと存在感を消したが、人が少ないこの時間帯では無意味だったようだ。
「……ん? ロイスじゃねぇか! なんでこんな時間にいやがんだ?」
来なくていいのに、こんなガラガラなのに僕のテーブルに腰を落ち着けた大男。
というかこんな時間帯に大声を出すんじゃない。他の人に迷惑……まぁ僕しかいないけど。
「色々あったんだよ。タイラーこそ遅いじゃないか」
「うはははっ! 俺は木の上で寝ちまってよぉ! 気づいたらこの時間よ!」
この大男はタイラー・ジルコン。
Cランクの冒険者で、僕と同時期にこの冒険者組合にやって来た男だ。
「木の上って……馬鹿じゃないの?」
「うるせぇな! お前こそ今日はモンスターの一匹でも倒せたのかよ?」
木の上から尿を垂らした僕が言うのもなんだが、木の上で寝てしまうとか馬鹿なんじゃないだろうか? 木の下で寝てしまった僕が言うのもなんだが。
「……まぁ、ある意味倒したようなもんだよ」
「おお!? ついにやったか!? 万年最低ランクのお前がDランクになるのも近いってか!?」
僕の尿で弱ったブラックベアをベルリーフさんが倒したんだ。半分以上は僕が倒したようなもんだろう、嘘は言っていない。
しかし何が面白いのか、運ばれてきた料理と酒をなぜか上機嫌で食べ始めたタイラー。
「低級モンスターを安定して倒せるようになりゃぁ、Dランクは目前だぜ!? ほまへぼひゃっとひひにんまえだへぇ」
「食いながら喋るな、なに言ってんのか分からないよ」
このタイラーとは長い付き合いだった。前に所属していた地区の組合の時からの付き合いで、このヴェガに来たのもタイラーの紹介だったりする。
「あぁうめェ!! で? 倒したモンスターってのはなんだ? ビッグボアか? ロングスネークか? まさかラージウルフか!?」
美味しそうに定食を頬張っているタイラーだが、そんなに美味しいのだろうか? 僕も早くCランク定食を食べられるようになりたいものだ。
「……ブラックベア」
「……ブラックベア? なんだ、嘘かよ。期待して損したぜ」
急に興味を失った様子のタイラー。さっきとは打って変わって、つまらなさそうに酒を煽りだした。
「……なんだこの飯、急にクソマズじゃねぇか……おいっ! なんだこの飯は!? 作り直せっ!!」
「は、はい、すみません! すぐに!」
作り直しても同じだとは思うが。大体さっきは美味そうにしていたじゃ……ないか……。
「お前なぁ、いきなりブラックベアを――――万年最低ランクなんて――――だろうがよ?」
(あれ……急にタイラーの声が……遠くに聞こえだした)
「おい――――てんのかよ? お――――したロイス? だいじょ――――」
(やべ……意識が……)
急に眼が開けていられなくなり、僕は意識を失ってしまう。
タイラーが何か叫んでいるような気がしたが、とりあえず僕は眠りたかった。
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