第五話 ベルリーフ・ビオラ
「遅くなりましたが、私はベルリーフ・ビオラと申します。Cランク冒険者として活動しています」
逃げる事を止めてくれたベルリーフさんは、赤くなった手をさすりながら自己紹介をしてくれた。
冒険者なのは分かっていたが、Cランクだったとは。こんなに可愛くてCランクなら話題になりそうなものだが、僕は聞いた事がなかった。
「僕はロイス・ジャスパーです。ランクは……イーです」
逆に僕の事は知っているだろう。このヴェガの冒険者組合で、僕は違った意味で有名人なのだから。
しかしどうやら、彼女は僕の事は知らない様子だった。
「Eランク……新人さんですか。Dランクまではすぐに上がれると思うので、頑張ってください」
「すぐに……ですか。あの、ベルリーフさんはヴェガの冒険者じゃないのですか?」
「私は流れ冒険者です。つい先日、このヴェガにやってきました」
それならば僕が彼女の事を知らないのも、彼女が僕の事を知らないのも無理はない。
冒険者には拠点を持ち活動する者と、持たないで活動する者の二種類がいる。
拠点持ちの利点は、依頼が優先的に回される事、指名依頼がある事あたり。
流れ冒険者の利点は、ランクが上がりやすい事、なにより自由な事。高ランクの冒険者は、様々な場所で名を売れる流れ冒険者が多かったりする。
僕は育成者のため、この国を出ての冒険者活動は行えない。行えないというか、この国を出てしまうと育成者の補助金が貰えなくなるのだ。
でも最近、活動拠点を移そうかとも考えていた。国さえ出なければ問題ないのであって、他の地区に移る事は大丈夫だし。
「しばらくはヴェガを中心に活動するつもりです。ロイスさんはヴェガの?」
「一応、ヴェガ所属の冒険者です。そろそろ他の地区にとは考えていますけど」
「……ロイスさんにとって、このヴェガは旨味がないと?」
「そ、そうですね。最低ランクの僕が言うのもなんですが……」
拠点持ちのデメリット、それは格差である。
依頼の多さ、質などは地区によって様々なので仕方ないのだが、そのせいで冒険者間での格差が生じてしまっている。
拠点持ちなのに優先依頼が少なかったり、名指し依頼がゼロであれば、色々と制限が付く所属冒険者でいる意味がない。
ある奴にはずっとある、ない奴にはずっとない可能性がある。そのため、その地区に見切りをつけて他の地区に移動する冒険者は普通にいる。
同じランク帯の冒険者が少ない所や、得意な依頼が多い所に移動し、自分にとって最適な場所を見つけるのが冒険者のゴールだとも言われていた。
「まぁ最低ランクの僕は、どこにいっても旨味なんてないですけどね」
「そう……ですね。Dランクにでもなれば、それなりだとは思いますが」
本当は旨味なんてどうでも良かった。
ただ最近、僕はヴェガで有名人になってしまったから。
冒険者三年目で最低ランクは珍しい。冒険者という職業に見切りをつけて去っていく最低ランクはいるが、三年も最低ランクをやっている者はあまりいない。
これ以上有名になれば、このヴェガに留まらず僕の汚名が広がるかもしれない。
そうなれば、遠く離れた僕の故郷にまで噂が届き、リリアが耳にするかもしれない。
(せっかく村から遠く離れたヴェガまで来たのに……)
ヴェガに来て、一年が経過しようとしていた。
噂が広まらないようにと、前に所属していた冒険者組合から逃げるようにこのヴェガにやってきたが、結局ランクは上げられず。
更には三年目に突入してしまったので、噂は一気に広がってしまった。まだ三年なのに、どういう伝わり方をしたのか万年最低ランクと呼ばれていた。
(まぁ、今から他の所に行っても、一気に噂は広まるだろうな)
もう後がなかった。この状態ではどこにいっても噂はすぐ広がり、いずれは故郷まで遠く。
もう時間がない。未だに最低ランクとリリアが知ったら……どう思うかは想像に難しくない。
しかしついに僕は、スキルを有効活用できるようになった。
この覚醒したスキル【神択肢】を使用して、まずはDランクを目指すんだ。
「ではロイスさん。私はヴェガに戻りますが、ロイスさんも一緒に戻りませんか?」
「えっと、そうですね……僕は――――」
ベルリーフさんと一緒する事も魅力的だが、もっと神択肢の実験もしておきたい。
まだ日は高いため、急いで戻る必要もないのだが……せっかくの誘いを無碍にするものどうだろう。
(どうしよう……ってそうか。こういう時こそ神択肢なんじゃないか?)
僕は意識を集中し、スキルを発動させる――――
【ベルリーフともっと会話をする――――89%】
【ベルリーフと一緒に街に戻る――――※※】
【ベルリーフとはここで別れる――――※※】
【ベルリーフと共に森の奥へ進む――――71%】
【※※※※※※※※――――※※】
そして表示された文字列。%表示もしっかりとあった。
このスキルは戦闘特化スキルという訳ではないため、このような場面でも問題なく効力を発揮してくれそうだ。
(問題は欲しかった場所に%表示がない事だけど……)
頭にあった選択肢は、一緒に戻るかここで別れるか。図ったように同じ文字列が出て来たが、それらに%表示はなかった。
(まぁでも、他の選択も高確率じゃないか)
どちらも高確率だが、念のためここは高い方を選択しよう。
➡【ベルリーフともっと会話をする――――89%】
「あのっ! ベルリーフさん!」
「はい? どうしました?」
「あの……そのですね……え~と……」
選択は出来たものの、会話をするって何を言えばいいのだろう?
話題を全く考えていないのに、とりあえず会話をしようなんて思えばこうなるのは当たり前か。
それに思えば、同年代くらいの女性と会話をした事などあまりない。もしかして僕はコミュ障なのだろうか?
「ロイスさん? どうしました?」
「ああいえっ! ちょっとお待ちください!」
首を傾げながらも、僕の言葉を待ってくれているベルリーフさん。
こうなったら仕方ないと、再び神択肢に頼る事にした。
【なんでもないです、さようなら――――37%】
【好きな食べ物は何ですか?――――※※】
【好きな言葉は何ですか?――――77%】
【ブラックベアは尿素も弱点?――――※※】
【※※※※※※※※――――※※】
「――――うっ……!?」
文字列は表示されたが、今までに感じた事のない眩暈が襲ってきた。これが連続使用の影響なのか、使用可能回数の影響なのかは分からないが。
倒れてしまう程ではないが、この眩暈が戦闘中に起きたらマズいかもしれない。
「ロ、ロイスさん!? 顔色が急に……」
「い、いえ……大丈夫です。好きな言葉は何ですか?」
➡【好きな言葉は何ですか?――――77%】
「は……? す、好きな言葉ですか? いきなりですね……」
「す、すみません。でもその……確率が高くて」
なんでもないですサヨナラはない。呼び止めておいて、なんだよって話だし。
(尿の話を蒸し返すなっ! 表示されてなくても分かる、絶対に低確率だ!!)
「確率……? ええと、好きな言葉は……一期一会、ですかね」
「な、なるほど、それは素敵ですね」
「ええ、この出会いも……まぁかなり特殊な出会い方だとは思いますが。ともあれ、新たな出会いに感謝を――――」
今日一番の笑顔を見せてくれたベルリーフさんは、当たり前のように美しかった。
その後、尿を撒き散らしている所を見られた事など忘れたように、会話に花を咲かせた僕達。
会話のち、僕はスキル検証のために残り、ベルリーフさんは一人先にヴェガに戻って行った。
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