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「人か妖狐か」

第17話「人か妖狐か」

怪異達が去った後僕たちは屋敷に集まった

「色々聞きたいことはあるだろうがまず俺から説明させてくれ」

アンデルセンが重い口を開く、晴明(はるあき)が葛の葉に討ち取られた事に彼なりに責任を感じているのかもしれない

「まずさっきまで葛の葉と戦っていた晴明の事だがあれの正体は晴明のもう1つの一面である妖狐だ」

「ならあいつは晴明とは違うの?」

「そうだな、そして妖狐であるはるあきは本来召喚されないはずなんだ、だからこそ晴明は妖力を操る葛の葉を見た時に彼女を倒すことこそがはるあきが晴明の別の面として召喚された理由だと確信したんだ」

「それなのに晴明(はるあき)さんは葛の葉にとどめを刺せなかった、ならそれって思い違いだったってこと?」

「はるあきは葛の葉を追い詰めた時奴の血を浴びた、おそらくその時に気づいたんだ'彼女は妖狐などではなく紛れも無い人間だと'まあそれが原因で敗北したのかは俺にはわからんがな」

「妖力を操っていたのは確かなのかしら?仮にそうだとしたら葛の葉も人と妖狐の二面性を持って召喚されたんじゃない?」

「それについては本人に聞くのが早いだろう、ついて来い」

アンデルセンが立ち上がり襖を開けると月明かりが部屋を照らす

「綺麗な月ね、そろそろ満月かしら」

「この世界でも月の満ち欠けはあるんだね、僕のいた世界と一緒だ」

「ほら立ち話などしていないで早く来い」

アンデルセンが廊下の奥で急かす

僕たちは急いでそちらへ向かう

「ボクとマキアは戦場の様子を見てくるよ、今はまだ夜中だからね万が一にも不意を突かれたら不味いし」

ユリアとマキアは庭から外へと出て行く、僕たちは廊下を進む

しばらく歩き辿り着いた場所には祭壇があった

「それ以上先には近づくなよ、結界がはってあるからな」

アンデルセンはどこからか巻物を取り出す

「これは俺が晴明から預かっていたものだ」


回想 屋敷にて

「この巻物を預かってもらえませんか?」

晴明が懐から巻物を取り出す

「こいつは何かの魔術の道具か?」

「これは結界を張る魔法具でこの屋敷の中にある祭壇の結界の近くで使うとその結界とぶつかり合って共鳴して互いに砕け散るようになっています」

「ほう、それでその祭壇でお前は何をする?」

「話すと長くなるから細かいことは省かせてもらいます、とにかく私はこの後君の目の前から消えるでしょう、そしてその代わりに君の前に現れるものがいるはずです、彼の事を手助けしてやってもらえないかい?」

「了解した、お前のやろうとしていることは大体想像出来たがもしそいつでさえも葛の葉に敵わなかったらどうする?」

「そんな事は絶対にないと願いたいですが、もしそうなったら時のために君にその巻物を託します、何かあったら結界を解除してください」

「そういうことか、ではこれが最後の会話となる事を願おう、世話になったな晴明」

「こちらこそ、託すだけで申し訳ないが頼みましたよアンデルセン」

アンデルセンは振り返り手を振りながら屋敷を出て行った


「こいつを使えば結界が解除出来るはずだ」

アンデルセンは巻物を結んでいる紐をほどき巻物を足元に広げる、すると巻物に書いてある文字が浮き出て結界を形成し祭壇の結界と共鳴しはじける

「これは面白い封印ね、これなら解除の手間はかからないし何より鍵を複数作るのも簡単だし」

結界の解除が完全に終わると祭壇の前に魔方陣が紡がれる

魔方陣から光が漏れ人影を作る

「また君と会うことになるとは思いませんでしたよアンデルセン」

晴明だ、その姿は紛れもなくヒトでありそして陰陽師である安倍晴明である

「こっちこそもう2度と会わんつもりだったのだがな、少々予定が狂ったお前の力が必要だ」

「はるあきに仕込んだ魔力のパスから全部見ていました、はるあきの敗北は私のせいです、最初に出会った時感じた彼女の存在は確かに人間でした、妖力を持っていたとはいえ気づけなかったのは私の甘さが原因です、私は彼女が人間である可能性を見出したくなかったのです....」

「確かに妖狐のあんたを葛の葉にぶつけたのは悪手だったわ、けど妖力を扱ってたなら人間じゃないって思っても仕方のないことだと思うわよ、第一妖力を持った純粋な人間なんてどうやったらなれるのよ」

「それについては俺に思い当たる節がある、法外な力を引き出す代わりに本来の感情を失う代償魔法<ロストシンシア>」

アンデルセンの口から出た魔法の名は僕たちも考えていたものだった

「それは私たちも考えたけど確実に葛の葉をそれから解放する方法はわからなかったの、あんたは知ってるの?」

「ああ、知っているとも」

僕たちが思い当たっているのは晴明を犠牲にする方法だけだ、まさかそれを言うのか?

「それは葛の葉のやりたいようにさせる事、つまり晴明を彼女自身の手で殺させる、それによって

彼女は解放される」

晴明の顔が曇る、自分を犠牲にして助けるなんて方法を言われたのだから当然だ

「あんた本気でそれを晴明にやらせる気?そんなの葛の葉だけを救うだけじゃない」

アンデルセンがハアと溜息をつく

「もう1つあるにはあるが現状の俺たちに出来ることではない」

「それでも教えてもらえないかなアンデルセン、少しでもそこに可能性が残ってるなら僕はどっちも救いたいんだ」

智也の瞳はローシャを助けた時のものと同じだった、その願いがたとえ傲慢だったとしてもいつか倒さなければならない相手だったとしても今救えるのなら救いたい、智也を魔法戦争におけるイレギュラーだと認識しているアンデルセンは仕方ないというような顔で答えを口にする

「葛の葉の真なる心がしたい事をさせることだ、だがこれはロストシンシアに心が侵食されている状態の葛の葉が望んだ事をするという事だ、だがそれは今の俺たちには何1つわからん、それでも救いたいなどと言うのか?」

僕は何も言えず口を閉じる

「俺だって救えるのなら救いたい、だがな智也人に救えるものなんて限られてるんだ、隣にいた者すらも助けられない人間に他の者を救う資格はない」

「ならば私は前者を取りましょう、もちろん誰にだってこの選択が正しいか間違っているか言えません、智也の気持ちは嬉しいですがこれ以上皆に迷惑はかけられません」

まさか晴明さんがそんな事を言いだすとは、だが隣にいるメディカはもう覚悟を決めたようだ

「なら私が葛の葉にトドメを刺すわ、もっとも本来の葛の葉の強さを知らないから何とも言えないけれどね」

「その点なら問題はない、おそらく葛の葉の身体はもう限界を超えている、それでもなお魔法の力で無理矢理身体を行使している状態だ、魔法が解けた時点でこちらの勝利だ」

「なら解決ね、あとは連中の襲撃に備えてそろそろ寝ましょうか?」

空に浮かんでいた月は傾き始めている、メディカは足早に去っていく

「私も万全の状態で明日に備えます、2人もそうした方が良いでしょう」

晴明は先程の決定をまるで気にしていないかのように振る舞い部屋を出て行く

「さて、何か不服がありそうな顔だな」

アンデルセンと2人きりになり空気が張り詰める

「アンデルセンの選択は間違ってる、それじゃあ晴明さんは救われないし何より葛の葉が正気を取り戻した時に絶望するだけだよ」

僕の問いにアンデルセンは驚きもせず答える

「そうだな、今はその選択で救われる奴なんていないだろうな、だが後になれば変わるかもしれないだろう?」

「えっ」

僕はアンデルセンの答えにどう反応していいかわからなかった

「俺の領域である書庫にあった本にこう書いてあった<魔法戦争の意味は勝者に変えることのできない運命の改竄の力を与えるだけでなく参加者全員に因果を繋ぐ機会を与える>とな」

因果の繋ぐ....それはつまり参加者と何らかのつながりがある者が召喚されるのは偶然ではなく必然という事なのだろうか

「因果を繋ぐためには晴明さん自身が行動を起こさなきゃいけないのか...」

「ほるあきが晴明と鏡面的に召喚されたのも何か意味があるはずだ、ならば俺が出来ることは現状を把握し因果を結ぶだけだ、なにより今から他の手を当たっていたら葛の葉の身体が持たん」

そうかアンデルセンは晴明さんと葛の葉を会わせるためにロストシンシアの話をしてすぐに行動させようとしたのか

「そういうことなら文句はないよ、ただそれでも上手くいかなかったら僕も介入するけどね、ところでさっきの因果の話だけどアンデルセンは誰と関係してるの?」

アンデルセンの手にある刻印は一針のみ、彼はまだその人と会ってはいないのだろうか

「そうだなひょっとしたらお前がその人かも知れんのか、ちょうどいい機会だそれが知りたいなら書斎まで付いて来い」

僕がその人って一体どういうことなんだ

「わかったよ、行こう」

僕はアンデルセンと書斎まで歩いて行く

書斎の前まで着くとアンデルセンが扉を軽くノックする

「中に誰かいるの?」

「防衛の為にちょっとした魔法をかけていてな、それを解除しただけだ」

アンデルセンは扉を開け中に入り智也もそれに続く

書斎の机の上には前来た時には無かった鎖で巻かれた本が置いてある

「あれっ、この模様どこかで...」

本の表紙に刻まれた模様には見覚えがあった

「俺たち参加者に刻まれている時の水晶の力から与えられた刻印、この本の中に封じられている彼女こそが俺との因果を紡ぐ者だ」

「なんで本に刻印ごと封じられてるの?」

単に倒すだけであれば封印した後に本ごと貫いて仕留めればいいだけのはずだ、それをしない理由があるのだろう

「そうだな、少し長くなるが話をしよう」

アンデルセンは椅子に腰を下ろし話始める

「俺がこの世界に召喚された時同じ領域にもう1人召喚された者がいたんだ彼女の名は<人魚姫>俺が書いた童話の中で悲劇の最後を遂げた者だった、だから俺は彼女に殺される事こそが召喚された意味だと思ったんだ、だがそれは違った彼女は俺を見るなり自己紹介をして一緒に戦っていこうと言い出した、その時に俺は1つ彼女に質問をしたんだ「君の願いは何なんだ」とな、そしたら彼女はこう答えた「そんなの決まっているじゃないですか、私を描いてくれた貴方が望む事ですよ」、絶対にあり得ないと思っていた回答に俺は困惑しただが同時に不幸な結末を迎える運命の彼女を俺は救いたいと思うようになった、ところが運命はそれを許さなかった、召喚から数日だった頃彼女の様子が少しおかしくなったんだ、まるで何かに取り憑かれたかのように生気を失っていた、その時に何処からか声が聞こえたんだ「汝が望むなら力を与えよう」とな、そして彼女はそれを受け入れた」

「それが矛盾の魔法....」

「そうだ、そして俺がそれに気づいた時にはもう手遅れだった、彼女は力だけを求める闇の探求者になってしまったというわけだ、俺はそんな彼女をいつか救う為に封印したんだ、彼女自身の伝承であるこの<物語を描く本-グリムニア>にな」

「この本が人魚姫の伝承?」

「そうだ、それに俺が<運命の鎖>を使って完全に封印したというわけだ、これのおかげで来たるべき時が来るまではこの本は絶対に外部からの影響を受けない」

「そんなに凄い魔術なんだね簡単に解けそうに見えるのに」

「いつか必ず解かれるという因果を背負う代わりにその時までは何があっても解けない、言うなればこれも矛盾の魔法のようなものだがな」

いつか必ず解かれる...もしかしてアンデルセンが僕にこの話をしたのって...

「ねえアンデルセン、今でもアンデルセンの願いは人魚姫を救う事なの?」

アンデルセンは真剣な眼差しで答える

「当たり前だ、俺の願いは彼女を救う事だけだ、時の水晶の力なら闇に取り憑かれた過去も無かったことにできるはずだその上で俺は彼女の悲劇の最後を変える、それだけが彼女を描いた俺の出来ることだ」

「ならどうして僕にこんな話をしたの?時の水晶の力を手に入れるにはどの道僕たちは戦う運命にあるはずなのに」

「お前の考えを聞いて少し期待をしてしまったのかも知れないな、話はこれだけだお前はお前の願いの為に戦え」

アンデルセンがこちらに向けていた顔をグリムニアにうつす

「もちろんそのつもりだよ、その上で救いを求めるただそれだけさ」

僕はアンデルセンに背を向け扉を開ける

「呆れた根性だな」

アンデルセンが呟く

「お互いさまだろ?」

智也も負けじと口にする

智也が去った後書斎の隅から影が現れる

「まさか本当に影になる能力を持っているとはな」

「なるほど君の眼鏡は潜在的な能力以外は見抜けないのか」

影から現れたのはホームズだ

「伝承級とは言っても俺の書き物では限りなく近づけることしか出来んからな、それでさっきの智也の様子を見てどう思うか探偵?」

ホームズが壁に寄りかかり帽子のつばを掴む

「この世界に慣れてきたという感じかね、以前僕が会った時よりもずっと参加者らしい」

「俺にもわかるように説明してくれ」

ホームズは不思議そうな目でアンデルセンを見る

「君は智也がイレギュラーな存在だと気づいているんじゃ無かったのかい?」

「俺がそう思ったのは智也の情報が殆ど不明だったからだ、それも何かしらの魔術が情報隠蔽に使われているわけでもなくまるで白紙の本だ」

「そういうわけだったのか、なら端的に説明しよう、一言で言えば今までの智也は何1つ特筆すべき点がないただの一般人だったんだ、だが今の彼は歴史に名を残すような存在に変わろうとしている、まあ的確に言えば変わるというより戻るという表現の方が正しいかな」

「ならお前は智也が万全ではない状態で召喚されたというのか?」

「それは違うよ、おそらく彼はこの世界の主人公なんだ、だから物語が進めば彼はいずれそこに辿り着く、今の彼は少しずつ変わっているんじゃないかな」

「ようやく理解できた、だがそれが真実なら俺たちに勝機は無いんじゃないか?」

「それは違うと思うよ、この世界は既に狂っているそもそも時の水晶が絶対の勝者を呼ぶなんて事はありえない、その時点で彼が破れる未来があってもおかしくはないと思うよ」

「そうかならばあいつは俺が倒す、お前はどうするんだ?」

「彼には借りがあるからね、僕のやるべき事が終わったら力を貸すよ」

フッとアンデルセンが笑う

「倒すべき者も居ないのに借りがあるというだけで力を貸すか、面白い、お前も智也も本質は変わらんではないか」

「そんな評価をされるとはね、そろそろ僕は眠るとするよ、君もそうした方がいい」

影がスッと消える

「そうだな」

窓から溢れでる月明かりを眺めながらアンデルセンは眠りにつく

屋敷の誰もが寝静まった夜、影が蠢く

「どうやら物語は順調に進んでいるようだよ、君も上手くいっているかい?」

そして静寂が訪れる

明かされたアンデルセンの過去、救われるのは誰なのかそれを知る者は今はいない

次話 五大元素

封印されていた晴明の思惑、そして彼の決断、いよいよ最後の戦いが始まりそうですね

加えてアンデルセンの過去も今後どうなるのでしょうか

人魚姫は登場するかしないのか

では次の物語で

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