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004

 かつて、この世界には混沌が溢れていた。

 魑魅魍魎が跋扈する地獄餓鬼畜生道そのままの世。強きものが生き、弱きものが死に、強きものはさらに強きものの糧となる、それが絶対真理であった。

 そんな殺伐とした世界に鋼の救世主《めしあ》が降り立ったのだ。




「それが佐助大明神だと言われている。魔動機《まじからいざー》も、佐助大明神の似姿を造らんとしたのが始まりだとか――どうした、銀髪の若者よ」


 古の神、左上にて輝く者の似姿として造られた魔動機初号機《エグゼディ》を操る黒騎士|(※変装中)は目を泳がせながら冷や汗を流していた。


「い、いえ、ちょっと眩暈が。続けてください」




 佐助大明神はその巨躯に反し、決して力強い存在ではなかった。

 かの神が持っていたのは、知恵と、技術、そして何より勇気であった。神はそれを人々に惜しみなく分け与え、人は邪鬼どもと戦う力を得るに至ったのだ。




「佐助大明神はその力こそ拙かったが、人々を守るために邪鬼たち相手に一歩も引かなかったという――どうした少年」


 神剣の記憶の中、傷ついても戦い続ける光景を見た転生機とそれを駆る少年は、ナノマシンのなせる技か、妙な怖気を共有していた。


「な、なんでもない、な、ゼフィルカイザー?」


『お、おう』



 そして大明神は戦いの中、ある島でひときわ強大な邪鬼と、それに従う民たちと出くわした。

 大明神とそれに従う益荒男《ますらお》たちにも倒し切れなかった邪鬼は、戦いの末、どうにか虹の七色を帯びた霊山、忍界山に封印されたという。

 そして益荒男の一部が、その封印の監視の為に島にとどまった。それこそがこのスッパ島に伝わる忍者たちの祖であるとされている。


「……以上が、この里に伝わる伝承だ」


『すまん、タイムを要求する』


 ゼフィルカイザーの一言で、面々の中でも気づくところの合った者たちが円陣を組んだ。

 得意げに口火を切ったのはハッスル丸だ。


「シング殿、どうでござるか」


「……ま、誠に遺憾ながら……俺の母が信仰していた神、「左上にて輝く者」と同じ神かと思われる」


 それなりに日に焼けているのに、シングの表情は随分と青く見える。どこか恨みがましそうな目が促すと、冷や汗ダラダラのアウェルが渋々言葉を引き継いだ。


「で、ガンガン戦ってたってのはオレとゼフィルカイザーが見た神剣の記憶とかいうのとピッタリ合う。

 ……だから」


 一行の視線が通信機に向く。そして佐助大明神の似姿に向いて、改めて通信機へ。


『そんな視線を向けるな……!! だ、断じて違う、私はあんなけったいな御神体じゃないぞ!? マゲだってないし!』


「そのうろたえっぷりが全てを物語ってるような……実際のとこ、どうですエル兄?」


「や、別人だろ」


 アウェルはきっぱりと言い切った。


「まあ、ガワっていうか、機体自体は同じなのかもしんないけどさ。ゼフィルカイザーはその左上のナンタラとは違う奴だよ」


「……そう言い切る根拠は?」


 確信のある物言いにシングが思わず尋ねるのに、アウェルは迷うことなく答える。


「オレらが見た中で、その神さまっぽいのは確かに戦い続けてたけどさ。けどO-エンジンも内蔵武器も一切使ってなかった。つまり、一人で戦ってた。ゼフィルカイザーはそうじゃないだろ」


「なるほど……確かに、言われて見ればそうですね」


『あ、アウェル……パティもわかってくれたか』


「格好つけたがる割にすぐヘタレて人を頼って来るし、痛いの嫌がって遠距離からチクチクやるののほうが好きなチキンですし。

 佐助さんに失礼ですね」


『貴様ぁあああああああ!!』


 普段ならここでゼフィルカイザーをヨイショしてくれる鉱物《クオル》と金属《ツトリン》はいない。

 片方は寝呆けており、もう一方は伝承の類に興味がないのか、自分用のショットガンの分解清掃に興じている。


「まあまあ。して、シング殿、どう思われるでござるか?」


「確かに左上の者と同じ神なんだろう。魔法文明や神剣について触れていないのは、おそらく伝承の差だと思うしな。

 ただ、そうなると邪鬼を封印した、というくだりが気になる。それはオレの聞いた話にはないからな」


「それこそが、貴殿らがこの島に招かれた本題なのだよ」


 やはり気取られることなく歩み寄ってくるバレット・正。その言葉を受けた皆の視線が向いたのは、忍び装束の女、オクテットだ。セルシアも、通信越しに聞いていたツトリンも流石に聞き逃せなかったようで、注意を向けてくる。


『招かれた? どういうこっちゃ、ハッちゃん。うちらの逃避行の手助けをしてくれただけと違うんか?』


「それは、その通り。けど、その……」


 気まずそうに目を逸らすオクテット。誰から目を逸らしているのかは明白だ。手引き自体は善意だったのだろうが、この島に連れてきたのは、何か別の事情が働いてのことだったのだろう。


「ハチ」


「う……ご、ごめんハッスル丸、その、でも……」


「構わんでござる。下の里の変わりよう、そして相反するように島全体を覆う鬼気。思えばお主が忍びとなっておった時点で、気づくべきだったのでござる。

 ――これが、拙者の犯した所業の結果というわけでござるか、バレット・正殿」


「左様。客人ら、ここからが本題となる」




 邪鬼に施された封印は完璧だった。忍者たちは忍界山の封印を守護しつつ、己らの忍法を研鑽していった。

 事が起こったのは数百年前――外の世界で言う、魔法文明崩壊の時だ。

 この世に現われ出でた邪神の力に影響されてか、封印にほころびが現れた。

 そして、忍界山の中から邪鬼の放った見るも恐ろしい軍勢が島を襲った。

 鬼の軍勢との激闘の末、辛くも邪鬼の復活を押しとどめた忍者たち。

 だが大明神の霊験による無二の封印、そのほころびを繕うことはできなかった。

 しかし邪鬼の方も忍者たちの奮闘に思うところがあったのか、おとなしくする代わりに条件を出してきたのだ。




『どうせあれだろう、生贄を出せとかそういうのだろう』


 お約束というか定番と言うか。それもカビが生えてるレベルだ。


「――――流石、というわけでございますか。八重桜の便りを見た時より、まさかとは思っておりましたが」


『私はそこの木工品とは何の関係もない……!!』




 ゼフィルカイザーの指摘したとおりだった。

 十年に一度、生娘を己の世話係に遣わせるよう要求してきたのだ。




「きむすめ、ってなんだ? 知ってるかセルシア?」


「そりゃあれよ。こう」


「黙らんかはしたない……!!」


「ん? じゃあアニキは知ってるのか?」


「そ、それはだな、その……み、未婚の、子供を産んだことのない女性のことだ」


「合っとらんこともないけど、微妙に間違っとるなあ」


「ていうかセックス云々でも恥ずかしがるとか、シングさんどんだけ初心なんでしょうかね、ゼフさん」


(お前がマセてるだけだ中学一年生……!)




 戦いによって多くの手勢を失った忍者たちは、秘伝の喪失を防がんとした結果、三つの流派にまとまった。

 そして世話役、今でいう嫁ぎ女をいずれの里から出すかで争いとなり――以来――三つの里は、血で血を洗う戦いを演じることとなった。




「幼少のころは忍者学校に通い、そこで芽があった者が里で正式に忍者となるのでござる。

 三つの里は普段より小競り合いを繰り返しておるのでござるが、十年に一度、雌雄を決すべく血で血を洗う争いに身を投じるのでござる。

 それこそが、この島の因習の極み――祭、とも呼ばれる戦、その真の名を、機妖武闘伝忍(にん)ファイト」


『待てゐ。なんだその半端な名称は』


 唐突な横文字に突っ込むゼフィルカイザー。しかし、バレット・正が首を振る。


「最後に行われたもので二十九回目となるものにござる、伝統あるものゆえ。

 それにそこな鯱の言うことを鵜呑みになさるな。我らとて同じ島に住まう者でもあり申す、最低限の取り決めはあるでござる」


「へー。たとえばどんな?」


「忍ファイト約定第一条、首を刎ねられた者は脱落となる」


「待てゐ。首刎ねられたら大体死ぬでしょうが」


 まるでゼフィルカイザーのような調子でツッコミを入れたセルシア。その蛮族の姿に、懸想する二人は膝を着いた。


「なんてこった……!! あのセルシアがツッコミに回ってるなんて……!!」


「この島の異常性は最早明らかだ。くっ、どうする……!?」


「あんたらも待てゐ」


 アウェルとシングの頭を砕かんと、蛮族の指が唸って叫ぶ中、ゼフィルカイザーは変に冷静に考えていた。


(どこぞのロボット同士の国際試合のような条項……しかし、こういうルールでもないとロボットはどうしようもないしなあ。頭をほいほい取り外せるロボットもいるし)


 頭部が脱出ポットになっている機体から、ドクターがスランプして造り上げた人造人間まで幅広いロボットを思い浮かべるゼフィルカイザー。

 一方その沈黙が気になったのか、ハッスル丸が懐疑の声をあげた。


「ゼフ殿が突っ込まんとは以外でござるな」


『お前ら忍者だし、首だけで飛び回るとかバラバラになってから復活しても正直驚かん』


「不可能とは言わんでござるが、稀代の天才に限った話でござる」


 などというがこのペンギン、ゼフィルカイザーの記録している限り五十回は串刺しにされているはずなのだが。


「ともあれ、本題に戻るでござる。

 忍ファイトにて他の二つの里を打ち倒した里は、後の忍ファイトまでの島の主導権と、嫁ぎ女を出す権利を得るのでござる」


「ちょ、ちょっと待った」


 ハッスル丸に疑問を上げたシングに、はて、と首をかしげるセルシア。


「なんかおかしなとこあった?」


「それよりセルシア、いい加減離してくれないか!? ず、頭蓋骨がさっきから異音を……!!」


「何言ってるの、手加減してるわよ。じゃないととっくにミンチよ? ねえアウェル――あら、なんか手足がだらんと」


『バイタルサインが気絶中になってるぞ』


 ゼフィルカイザーからの忠告に、慌てて二人を離すセルシア。パトラネリゼが二人を介抱する中、疑問を口にしたのはクゼネミッツェだった。


「疑問が、ある。勝者が贄を出すのは、筋が違う、のでは」


「嫁ぎ女を出すという栄誉を、何故弱い里に渡さねばならんのだ?」


 真顔で答えたバレット・正に、セルシアやパトラネリゼも流石に顔をゆがめる。だが、誰よりも怒りの声を上げたのは、おねむのはずの聖剣だった。


『――若い娘を生贄に捧げるのの、何が栄誉ですの』


 いつものように跳ね回るのでもない。鞘に収まったまま、聖剣は静かに鍔鳴りしている。それが返って彼女の怒りの深さを物語っていた。


『なぶりものにされて殺される娘に、恥じることはないんですの。どうなんですの、異境の者』


「いや、別に殺されたりはせぬぞ」


『……は?』


「じゃから、嬲られも殺されもせぬ。あくまで世話役よ。まぁ……床の世話はしておるようじゃが」


「知ったようなこと言うわね、胸糞悪い」


 女衆はかなりいきり立っている。一方で、


「あ゛ー、まだ眩暈が……ところで、なぶられるとかトコの世話とかってなんのことなんだ、アニキ?」


「そ、それは、その、だな、うん」


「エロいこと絡みだってのだけはわかった。悪かったな、アニキ」


「一方的に納得されてもムカつくな……!?」


 男どもはこの始末だった。

 そして詰め寄られたバレット・正は、さらりと告げた。


「大明神様と、その共をした我らの祖先と激闘を繰り広げ、また数百年前力を認め合った鬼の世話役を務めるのじゃから栄誉じゃろうて。

 戻ってきた嫁ぎ女は少々歳が行っておっても皆が娶りたがるしのう。儂の代の嫁ぎ女なんぞ、皆が血眼になって奪い合ったものよ」


 不敵に笑うバレット・正。しかし、さも不快というように吐き捨てたものがあった。


「相も変わらず滑稽でござるな」


「――なに?」


「忍者学校を出た途端、昨日までの朋友が刺客となって襲い掛かる非情。

 血で血を洗ったうえで女子《おなご》の操を差し出しておいて、それを栄誉と嘯く。

 あげく出戻りを巡って血眼になる――前々から思っておったんでござるがな――この島の男どもに、魔羅《まら》はついておるんでござるかなぁ?」


「――――抜かしよるな、鯱の童。打ち上げられておったのを拾われた恩を忘れ、生き抜く技を教えられた恩を忘れ、今また島に仇を残した業すら忘れるか」


「己が雄であることすら忘れた連中に言われとうないわ」


(ぐっ……なにやら真っ当な忍者時代劇のようなかけあいを……!?)


 いつもの名伏しがたい表情のままに見えるが、そこには心底からの憤怒と軽蔑があった。まあその面は両サイドから豊満なバストに挟まれたままだが。


「オクテットさんのおっぱいに挟まったまま言っても、説得力は……いや、逆に説得力はあるんですかね?」


「ちなみにカーバインのお姫様」


 セルシアに、マルテアがどこかいたずらっぽく尋ねる。


「……って、あたし? カーバインってなんのことよ」


「や、あなた、ヘレンカ妃の娘さんなんでしょ? なら、カーバインのお姫様ってことになるじゃない。

 そういう、人身御供の娘さん的にはどう思うのかなって」


「……あー、父さんの故郷のことか。あんた、いろいろ勘違いしてるわよ。

 で、ひっじょーに遺憾ながら、向こうのじいさんよりかは非常食の言ってることの方がまだ筋が通ってるわ。

 取り合うのはいいけど余所に差し出した後でとか、ちょっとないわ。

 ……父さん、だからあんな山奥に籠ってたのかな」


 言われたとおり、セルシアの母もそうしたもめ事の火種になった傾国の美女だった。見た目は、とつくが。

 故に思うところがあるのだろう。


「ナマクラ、あんたは」


『そ、そろそろギブですの。やっぱり、眠い……すぴー』


「ちょっと見直したと思ったらこれですよ。これだからこのナマクラは。で」


 オクテットのバストに挟まったハッスル丸と視線をかわしあうバレット・正。一歩も退かず、さりとて何を言い返すでもないのは、ハッスル丸の言に思うところがあるのか。


「でもこのままだと話が進みませんしねえ……で、バレット・正さん、下の里で会った人たち、別々の里の人たちなのに仲良くしてるみたいでしたよ?

 ハッスル丸さんが言ってるような殺伐とした感じじゃなかったですし……ハッスル丸さんは、結局なにをやらかしたんですか?」


「……なに、簡単なことよ」




 前の祭において、勝ち残ったのはシグ魔の里だった。そしてシグ魔の頭領の娘、八重桜の姫が前の嫁ぎ女と入れ替わりに、封印に入った――だが、10年のお役目どころか、半日と立たずに送り返されてきたのだ。

 姫は文を携えており――そこには、約定を違えたことへの罵詈雑言が連なっていた。

 他の里の姫を寄越すも封印は固く閉ざされ、祭はその目的を見失ってしまった。

 八重桜の姫を尋問し、浮かび上がった元凶を血祭りに上げんと三つの里が総出で誅殺せんとしたが、その下手人はとうとう逃げおおせ――




「そして今こうして帰ってきよったと、そういうわけじゃ」


「クエックエックエッ、稚魚一匹、あいや雛一羽仕留めれぬとは、スッパ島の忍法も存外甘いでござるなあ」


『……ちなみに鯱は哺乳類だからな。魚類じゃないぞ……いや、この世界の鯱がどうか知らんが』


 通信機がぼそりと突っ込む。気づかれまいとしつつも突っ込まずにはいられないあたりがこのロボットのアレなところだ。


「――――して、本題に入るでござるか。何が起こったのでござる?」


 侮蔑も憤怒も置き去りにした言葉が、氷点下の刃となってバレット・正に突きつけられた。


「いやだから、その儀式が潰れたんですよね?」


「左様。ああして三馬鹿が今でもつるんでいる時点で察しはついておったでござる。

 名誉だなんだと言ったところで、里の者らも皆疲れ果てておったのでござろうよ、竹馬の友と血風を散らし、抱き合った恋人の刃が背に突き立つ、そんな有様に。

 帝国の秩序も大概でござったが、忍びの理に比べればまだマシというものでござろう」


 ハッスル丸が吐き捨てると、一行ははっとした。

 帝国の魔力至上主義がもたらした膨大な弊害や犠牲者、そしてその歪みの権化ともいえる少女。それらを目の当たりにしてきた一行にとっては、ハッスル丸がここまで言うのに頷かざるを得なかった。


「……話を戻して。

 里の変遷を憎む老害が刺客を飛ばしてくるというなら分かるでござる。しかしそれでもなく、ハチを通じて拙者を――否、拙者らを呼びつける。

 その魂胆はいかに」


「……察しの良さといい、相も変わらずよの。

 左様……つい近頃のことじゃ。邪鬼は我らに告げた。かつて己を侮辱した報いとして、三つの里の女をすべて差し出せと」


「それでどうされたのでござる?」


「性転換忍法の使い手や婆どもや、傀儡にした屍鬼を差し向けたら、血文字で「おまえら ころす」と返ってきよった」


(当然だろうが……!! 所詮はハッスル丸の原産地……いや、生まれ故郷じゃないから加工地か)


「して、その折に、帝都での返事を聞きつけてのぅ。我らにも、帝国には伝手があるのでな」


「帝国に伝手って……?」


 アウェルが首をかしげるのに、ゼフィルカイザーは軽く推測を述べた。


『おそらく帝国があったころは一番の客だったんだろう。下手をすれば、十二神将の一人くらいは忍者だったかもしれん』


「……正解」


 ぽつりと、クゼネミッツェが返す。


(確か、ルミラジーと同格の宮廷魔術師でシトラッセ・橙蝋院というのがいたらしい。なら、その関係者なんだろうな)


 アウェルに向けている視線にはなにやら含むものを感じるが、敵意は感じない。折りを見て尋ねればいいことだろう。アウェルも感づいているのかいないのか、話を先に進めることを優先していた。


「なるほどな。

 けど、この里ってハッスル丸並みの手練れが他にもいるんだろ? なら、そいつらで何とかすればいいじゃないか」


「そうできればよいのだが……そうはいかんのだ、少年よ。なぜならあの邪鬼は――」


『忍法を無力化でもしてくるのか?』


 ぼそりと呟くゼフィルカイザー。なにせ忍者だ、それくらいのことはあるだろう。というか、日本初の無効化系能力も忍者じゃなかっただろうか。

 しかし要らん一言のせいで、バレット・正の形相が鬼気迫るものとなった。


「……ッ!! その洞察、否、知っていた……? やはり、やはり貴方様こそは……!!」


『違う、違うから本当に!!』


 否定しつつゼフィルカイザーは思った。勘違いされ続けるというのはこんなに嫌な気分になるのかと。


(シングを変に勘ぐるのもやめといたほうがいいなぁ……ともあれ)


 大体の話は分かった。そして佐助大明神が神剣の主であるならば、自分にも無関係ではないだろう。なにより、話の通りならその邪鬼というのは、


(神剣の主と面識がある、ということだ。ならば、これ以上ない情報源ということになる)


 彼は謎の光るおっさんによって、この機体、ゼフィルカイザーへと転生した。

 だが、この世界における体である、この機体。その出自や正体、製造目的などは未だに謎めいている。

 神剣の主とあの光るおっさんとの関係はまだ不確定だ。邪神を倒すのに関係あるかどうかはわからないが、未知であることは余計なフラグを抱え込む原因になりかねない。

 落ち着いたバレット・正は、改めて話を戻す。


「数百年前の戦の折、忍法は邪鬼の軍勢を蹴散らしたのでござるが、しかし邪鬼そのものには兵法、機甲道、陰陽術、他、およそ忍法とつくあらゆるものが通じなんだそうでござりまする。

 さらにはその眼力に当てられれば、たちまちに五行の気を縛られてしまうとか。

 そもそも、佐助大明神と忍者の勇士たちを持っても鬼を滅ぼせなんだという話でござるし――貴殿ならば、存じておられようが」


『知らんと言えん私のCPUが憎い……!!』


 いきなり敬語のバレット・正に全力で否定する。

 少なくとも、太古の昔この機体を操っていたものは、今のゼフィルカイザーのような無比の火力を使ってはいなかった。それだけは確かだ。


「しかしこの度の旧帝都での御前試合において、かの皇帝機を凌駕するほどの力を見せた機体があったと耳にしたのでござる。

 なにより、里にはこのような伝説が伝わっておるでござる――里が、島が危機に陥ったならば、七人の勇士を雇い入れよ、と」


『おい、それ忍者じゃなくて侍だろうが』


 いきなり変な方向に話がねじれたのでツッコミを返すゼフィルカイザー。だがしかし、


「なんと、侍の存在を知っておられるのか!? その身一つであらゆる忍法を凌駕すると言う、伝説の戦士を……!!」


『一体何の話だ!?』


 このままではツッコミ用の回路が形成されてしまうのでは、と危惧するゼフィルカイザー。このまま忍者どもの故事を穿り返したらAIに深刻な障害が発生しかねない。


「七人って言うけどさ。オレとゼフィルカイザーだろ、セルシアとハッスル丸とアニキ、それにツトリンとパティで一応七人いるけどさ」


「否、封印の中は異界と化しておる故、忍者でもない者が生身で踏み入れる地ではない。

 故に、魔動機《まじからいざぁ》を七機揃えんとしておるのでござる」


 指折り数えていたアウェルにバレット・正が告げると、アウェルもいい加減察しがよくなってきたのか、嫌そうな顔で尋ねる。


「ひょっとしてだけど、ムーやレリーもあんたらが呼んだのか? あとケレルトの兄ちゃんも」


「左様。あーもにあには我らの手の者がおるゆえ、お得なつあーぱっくを装ったのでござりまする。ケレルト殿に関しては偶然でござるが。

 一応、皇帝殺しとやらにも依頼を出そうとはしたのでござるが」


 その二つ名に、アウェルの表情から血の気が引いた。なにせアウェルにとって、永遠の憧れであり、憧れに留めておかねばならない最強の凶鳥だ。


「げっ、九郎さんまで呼ぼうとしたのか? それでどうなったのさ」


「別口の先約があると言って断られたとか」


「……それでよかったと思うぞ」


 アウェルはほっと息を突く。あの男が来たらスッパ島が消滅しかねない――いや、それはむしろゼフィルカイザーの思考回路クリーンアップ上ありがたかったのではなかろうか。

 しかし、そうなると別の問題があった。


「でもゼフィルカイザーはともかく、影鯱丸は頑張ごと全壊状態だぞ。ミカボシだって結構ガタが来てるし」


「業腹ながら、そこの鯱の童の機体はオメ賀の者らが修復するよう手筈を整えてござる。

 修復するための鍛冶場や資材は提供させてもらいまする。なんでしたら、機体も用意できまするが」


「なら、なんとかなるか……で、いいんだよな、ゼフィルカイザー?」


『ああ。不本意ながらやむを得ん。この際だ、新たなる私の性能試験と思って派手にやらせてもらおう』


「すまんでござるな。拙者の宿業に貴殿らを巻き込んで」


「気にしないでくれハッスル丸さん。俺も無関係ではなさそうだしな」


「んじゃ、細かい話は後にして、とりあえずケレルトの兄ちゃんに――セルシア? どうしたんだ?」


「……いや、結局のところ非常食、なにやらかしたの――」


「私ちょっと実家に顔出してくるから! じゃ!」


 ハッスル丸がぼたりと床に落ちる。驚いたセルシアが視線を上下するが、そこにはオクテットの影も形も、気配の残滓もなにもない。


「あたしが察知できないとか、やっぱりあの女も只者じゃないわね。

 で、あんた――」


「さて、では拙者らもオメ賀の里に向かうでござるか! なに、なんだかんだ言っても古巣にござる、なんとかなるでござろう!」


「ゼフさん、ハッスル丸さんが無理矢理話題逸らそうとしてるっぽいんですけど。いつもの勘で当たりをつけたりは――」


『ほうっておけ。掘り起こしてもろくなことにならんだろ』


 というが、なんとなくあたりはついていた。生贄は生娘必須。それが即返却された、ということは。


「そう言いつつお前、なんか感づいて……」


『知らんと言ったら知らん……!!』

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