003
アニメにおける、特番やOVA、映画などのキャラクター総出演話は、2010年代ともなると時系列に配慮されていることも多いが、昔はまったく考慮されていないことが多かった。
下手をすると本編のどの時系列でも絶対不可能なメンツが顔をそろえる、ということも珍しくはなかったのだ。
『つまりそういうことに違いない……!! これもあの光るおっさんの――いや、そうじゃあない、ニンジャだ、ニンジャの仕業だ……!!』
「や、何でも忍者の仕業にされるのは流石に心外でござるが」
『ふ、ふふ、だが私を舐めるなよ!? この程度、昭和のころにはチャメシ・インシデントだったからな!!』
「ちゃ、ちゃめし……なんだって?」
「ちゃめし……茶、飯。ひょっとして日常茶飯事って言いたんでしょうか。なんでまたそんなけったいな言い回しをしてるんですか、このポンコツ」
『ぐっ……!! はぁ、はぁ。すまない、電子頭脳を忍者にやられていたようだ。
くっ、時空間だけでなく電脳ウイルスまで操るとは……!! いいや、忍者にとってハッキングは必須技能、ならばこそか!?』
「あの、ゼフィルカイザーさん? 忍者をなんだと思ってるの?」
ハッスル丸だけでなく、オクテットも困惑している。
ゼフィルカイザーが死亡したころ、最新の忍者モードといえば海外産のサイバーパンク忍者物を翻訳した代物だった。異質極まる独自言語の影響は、転生してもなおゼフィルカイザーを蝕んでいたようだ。
「あー、ゼフィルカイザー殿はどうしたので? いや、姿形が変わったのもあるが、そうでなくな?」
「久々に変なことに気ぃ回してるんだよ。
それより驚いたのはこっちだよ。ケレルトの兄ちゃん。なんでこんなとこにいるのさ」
アウェルが尋ね返したのは、猫目に禰宜姿の少年、ケレルトだ。
「君らがメグメル島というところでまたも活躍してのけた、という知らせが船と共に届いてな。
その便によって鎖国中の海外情勢の変化を察した陛下は、耳目を飛ばすことを考えられたのだ。そして私に、見分を広めよと仰せられてな。
メグメル島まではよかったのだが、そこからアーモニアを目指そうとした矢先、船が魔物に襲われ、そちらのマルテア殿がさらわれてしまったのだ」
「凄く大きくてぬらぬらしたのが襲ってきてね。ケレルト君が助けてくれなきゃどうなってたか」
と、ため息をつくのは、こちらも巫女服姿の羊娘だ。どちらかと言えば華奢な印象で、四足に合わせてしつらえられた巫女服のあちこちから、白い羊毛が見え隠れしている。
「あー、その分だとおそらくあれでござるな。ヌラヌラートパスでござる」
「なんですか、その魔物」
「この島の近海にもおるんでござるがな。見た目は蛸でござるが、他の生き物のメスを見るととりあえず絡み付こうとする習性がござってな。中には愛好家もおるとか……クエックエッグギエッ」
「うちのハッスル丸のうんちくはおいといて。
それでどうしたの?」
「魔物は仕留めたものの、船とはぐれて漂流していたところ、こちらの島の水軍という方たちに拾われたんです。
里同士は軋轢がある中、この神社は島の中で中立不可侵ということなので、置いてもらっているんです」
「大変だったんですね。それで、そっちの羊のお嬢さんはどこの誰様なんですか?」
「私? マルテア・ナギウスメリン。よろしくね、救国の英雄さんたち」
袴をスカートのようについ、と持ちあげ、うやうやしく挨拶をするマルテア。だが、その姓を耳にしたパトラネリゼがふいに目をひそめた。
「これはどうも……って、ナギウスメリンって、あのトメルギア東の辺境の大領主の?」
「そ」
かつて一悶着を片付けたトメルギア公国における、最も力を持つ三つの侯爵家、ルイベーヌ、ベリエルクガン、そして最後の一つがナギウスメリンだ。
だが、ゼフィルカイザーたちがトメルギアに滞在中は接点がなかった家でもある。
「……なんでそんな方がこんなところに?」
「船に勝手に潜り込んでおりまして。追い返す手立てもないし、まあいいかなあと」
「イル君の周りを飛び回るのが減って、ケレルト君的には喜ぶところでしょ?」
ぐっ、と気まずそうに顔をしかめるケレルト。イル君、というのは、トメルギア公王イルランドのことだろう。
知らない仲でもないアウェルが、訝しげにケレルトに尋ねた。
「トメルギアでなんかあったのか?」
「……君らが去ってしばらくして、ベリエルクガン侯爵の元トメルギアの健全化が図られようとしていた矢先、ナギウスメリン侯爵が乗り込んできたのだ。
おそらく、公都がもたらす利益を得るためなのだろうな。ご丁寧に娘三人を引き連れて、この中から妃を選ばれるよう、と告げられたのだ」
「お父様、野心家だからねー。
で、私はそういうのに利用されるのが癪だから、使節の船に密航したって感じ」
「ナギウスメリンの第三侯女のお転婆っぷりは聞き及んでいたが……どう思う、アウェル殿、セルシア殿」
目上相手だろうに心底呆れ顔のケレルト。だが、帝国の末裔と殺しあったばかりの二人にとってはこの程度ジャブですらなかった。
「いや、お姫さんとしちゃまともじゃね? 最近ひどいの見たばっかだし」
「少なくともうちの母親に比べればどんなのもまともじゃないの?」
片や自分で帝都を滅ぼしかけた帝国最後の皇女、片や生まれ育った領地もなにも顧みずやりたい放題やっていたトメルギアの魔女|(血生臭いほう)である。
即答されたケレルト、その場に崩れ落ちた。
「また大変なんですね、トメルギアも。でも、そんなときにケレルトさんがイルランドさんの側を離れて大丈夫なんですか?」
「それは問題ない。私以上に頼れる方がいるからな」
誰の事かは一目瞭然だ。真っ先に名を上げたのはアウェルだった。
「ああ、リリエラさんか。リリエラさん、元気にしてるか?」
リリエラ・ハルマハット。ゼフィルカイザー達が最初に交戦した傭兵団の頭目を率いていた、流浪の女騎士。
さまざまな事情が重なり、今ではトメルギアの公王代理騎士という身分にある。
「うむ。リリエラ隊の面々の調練をする一方、令嬢だったころの人脈や流浪の経験を生かして陛下を助けてくださっている」
「リリエラ隊って、ひょっとしてあの山賊の皆さんですか? あの人たちにまともな軍人生活なんて無理なんじゃあ……」
「ああ。私も最初はそのように侮っていたのだがな。しかし近衛らも逃げ出す調練を受けているのに、リリエラ様の配下は一人も逃げ出さんのだ。
粗野でこそあるものの、全員、芯から髄まであの方に忠誠を誓い、リリエラ様のためにならんとしている。私も感銘を受けたものだ」
「……いや、ケレルトさん、どちらさんの話をしてるんでしょうねえ」
パトラネリゼが遠い目をする。アウェルもセルシアも同じ気持ちだ。
自分らが知っているのは人がいい割にマナー皆無のゴロツキ集団と、それに振り回される幸の薄いジャストサーティのオールドミスだ。
いや、最後に見たときのリリエラからは、そうした雰囲気は消え失せていはしたが。
「……気になるな。おいゼフィルカイザー?」
『ええい、どこだ、黒幕はどこにいる!? とりあえずOVAで髪の色を変えたりするのは紛らわしいから――』
「セルシア」
「あいよ」
小指らしきところを蹴られて悶絶する白黒のロボット。その一方で、
「いやー、全然話についてけへん。なあ、グーやん?」
「そ、そうだな」
「でもゼッフィーやエルやんが炎の大公国を救った言うんはほんとやったんやな。
そんで、それをやった魔族言うのも実際におると。いやー、おどろいたもんや」
「まったく、そのとおり、だな」
夏の日差しの下、自分がその魔族とは言えず汗が凍る思いのシングだった。
『すまないなケレルト殿。私も少し新手の不具合があってな』
「いやいや、大丈夫です。しかし、本当にトメルギアと通じ合うことができるのですか?」
『通信機のシグナルは確認できている。あとは当人が通信機の近くにいるかどうかだが……まあ、そのあたりは運次第だな』
「まあポンコツですからねえ。えーと、どこにやりましたか」
『うるさいわポンコツ賢者……!!』
パトラネリゼから通信機を手渡されたケレルトに返答しつつ、内心、痛みに顔をしかめるゼフィルカイザー。
『すぐ修復したが、なんであいつは私の装甲にヒビ入れられるんだ。パワーアップだってしたのに、おかしいだろ。
――そしてポンコツ、何故今更収納ラックを漁っている』
「ちょっと探し物がですね……ローブはあった。で、杖、杖は……でもなんか、しまってあったはずの物が大分となくなって……げっ!? ハイラエラで勝った可愛い上着が半分消し飛んでる!? さては食べましたねゼフさん!?」
『コックピットが抉れたんだがから仕方ないだろう、文句はベーレハイテンの馬鹿どもに言え!
というか着てるところ一回しかみたことないぞ、それ。別にいいだろう』
「おや、エル兄が作ったヌールゼックフィギュアが。でもゼフさんなら現物の記録みっちり取ってるしいらないですよね」
『正直すまんかった……!!』
「はいはい。弁償出来たらしてくださいね」
などと言い合う間に通信がオンラインになったので、ひとまずゼフィルカイザーから先方に話しかけてみる。
『久方ぶりだな、騎士殿。ゼフィルカイザーだ』
『久しぶりじゃないかい。こんな夜明け前にいきなり連絡をよこすなんて、何かあったのかい?』
ゼフィルカイザーは上を見上げるが、太陽はそろそろ中天に差し掛かろうというところだ。どうやら時差で、向こうのほうが夜明けが遅いらしい。
『すまない、起こしてしまったか』
『そういうわけじゃないけど……んっ……で、何の用なのさ?』
『当方は今、砂の大陸――ベーレハイテンのある大陸の遥か東にある、ハッスル丸の育った島国にいる。そこでひょんな相手と再会してな』
「ええと、これで向こうに通じるのですか? リリエラ様、ケレルトです」
『え? ケレルト君!? 貴方、確かアーモニアへ向かったはずじゃ……あっ』
「む、どうされたのですかリリエラ様」
『ああ、なんでもない、ちょっとね。それでケレルト君はどうしたのさ』
「いろいろあったのですが、漂流の結果、今いるスッパ島にたどり着いた次第です。マルテア嬢も共におります。
そちら、陛下はお元気ですか? 宮廷内の様子などは?」
『大丈夫だよ、特に問題はないね。公都の方も活気は戻って来たし、宮廷の方も落ち着いてきたよ。
アウェル君やセルシアちゃんはどう?』
「おー、久しぶりねオバハン」
『オバハン言うな魔女の娘……!!』
機外の音声を拾って転送するやいなや、リリエラの怒りの声が返ってきた。
「はいはい、久しぶりだな、リリエラさん」
『こっちこそお久しぶりね、アウェル君。一皮剥けたみたいね、声でわかるわ』
「まあ皇帝機とやり合ったり皇帝機を倒した奴とやり合ったりしたしな。死にかけた」
『とんでもない相手とぶつかってるわね。でもこうして生きてるんだから大したものよ。ナグラス卿も、それにきっと兄さんも喜んでるわ。本当に大したもん――んん゛っ!?』
「……? リリエラさん、さっきからどうしたのさ。調子でも悪いのか?」
『なんでもっ、ないか、らぁっ……』
とは言うが息も微妙に荒く、なんでもないことないのは明らかだ。ゼフィルカイザーは解析ツールを起動した。
(……いや、いやいや。あの騎士殿に限ってまさか――音量調整、ノイズ分析)
――――通信機から衣擦れや湿り気を帯びた音、さらにリリエラ以外の荒い呼吸が聞こえてきたのでゼフィルカイザーは解析ツールを即座に強制停止した。が、向こうは既に相当出来上がっているらしく、無意味だった。
『と、とにかく、ケレルト君は、見分を広めてくる、ようっ、に……!!
それじゃ、き、切るわよ、あっ、へ、陛下……!!』
『――――ごゆるりと』
通信が切断され、境内に微妙な空気が漂う中、
『……トメルギアで何があった……!?』
「いや、ナニがあったんじゃ――あいたっ」
率直すぎる回答をかましたセルシアを、シングが叩いた。こちらも顔を真っ赤にしている。
「言うなはしたない……!!」
「ええと、よくわかんないんだけど……陛下ってことは、イルランドのことだよな? ケレルトさん、リリエラさんとイルランドがどうかしたのか――ケレルトさん?」
「いや、少し待ってくれアウェル殿。私も今大分と混乱している。
確かに陛下は何かにつけてリリエラ様に面会したがっておられたが、てっきり母君がいなくなられたことへの寂しさ故かと」
「……ん? あたしがどうかした?」
ケレルトが訝しんだ目をセルシアに一瞬向けたのに気付き、尋ねる。ケレルトは諦めたように答えた。
「陛下の母君、スレイジア様は城を退転されたのです。その、ヘレンカ様に同行する形で」
「え゛」
唐突に矛先が自分に向いて、セルシアは顔を歪めた。
ヘレンカとは、セルシアの実母にして、セルシア以上の美しさと暴力をもってトメルギアを混沌の渦に叩き込んだトメルギアの魔女|(血生臭い方)である。
「いやなんていうか、あたしは関係ない、わよ?」
「ええわかっていますとも。あのお二人の間には並ならぬものがあるようですからね。
しかし、まさか陛下がリリエラ様に……」
言われてみれば。公都の港でリリエラのことを思い浮かべる若獅子の様子は、(大分)年上のお姉さんにときめく少年そのものだった。
『騎士殿に何か変わった様子などはなかったのか?』
「いや、特には。まあしいて言うなら、方々からの見合いの申し込みに辟易としていました。
特にメイミ殿――マルテア嬢の一番上の姉ですが、その方など顔を合わせるたびに身上書を渡していて、リリエラ様も流石にげんなりしていましたよ。
もしハルマハット家に婿入りできれば、その実家は現在の宮廷の中核に一足飛びに入り込めますからね。
……まあ、それは私も同じなのですが」
ケレルトもイルランドの側近だ。さらに言えば若い分、申し込みも相当だったのだろう。ため息交じりの呟きは疲れ果てていた。
「私にも冗談めかして、「後継ぎに困ったら、ケレルト君にもらってもらおうか」などと言っておられましたし。
――あれは確か、陛下が私に見分を広めよ、と言われる前の日のことでしたか」
「あの、ケレルトさん。それ、イルランドさんに嫉妬されて遠退けられていませんか?」
「もらってもらうと言っても家名の話ですよ? それにほんの冗談話ですし。
あの陛下がそんな短慮に及ぶわけが。由緒正しきトメルギア公、おぅ」
同じくその末裔が国家クラッシャー級のビッチだったことを思い出して頭を抱えるケレルト。そのケレルトの足を、羊毛を纏う蹄が小突いた。
「む、マルテア殿」
「別にいいじゃないの。イル君だって色を知る年ってことなんだし」
「……まあ、そうですが。
そうですね、前向きに考えますか。リリエラ様でしたら経験も豊富でしょうし、陛下も耐性が着くでしょう。
陛下もいずれは後宮に幾人もの妃を迎えねばならぬ身、ならば誘惑してきたのがリリエラ様でよかったと思うべきですか、いや、あるいは手ほどきのためにあえて?」
『いや、あの騎士殿、この分野については新兵同然だと思うのだが』
あの三十路に青い果実をハントするような度胸があるとは思えないし、そこまで恥知らずとも思えない。むしろ恥じらいで頭が煮えるのではなかろうか。
「とにかく、陛下も成長しておられるということです。ええ、こんなに嬉しいことはない……!」
「……ケレルトさん、あれ、自分を誤魔化してません?」
『言ってやるな』
「――――それでお客人がた、よろしいかな?」
唐突に尋ねられ、慌てて皆がその方を向く。そこには和装に羽織の初老の男が立っていた。月代を剃っているでもなく結い上げられた白髪交じりの髪は、ポニーテールと言ったほうがいいのだろうが、威風のある面構えには何ともそぐわない。
驚くべきは、その身のこなし。一体いつ現れたのか。ゼフィルカイザーのセンサーにも、それにセルシアやシングといった手練れにも察知できなかったのだ。
「む、宮司殿、すみませぬ。こちらの方々は――」
「よいよい、わかっておる。けれると殿がおっしゃっておられた、とめるぎあの救国の士であろう。最近はべぇれはいてんでもご活躍なすったとか」
口調は好々爺のようであるが、しかしともすれば食い殺されそうな静かな圧力がある。現にセルシアもシングもわずかに身をかがめいつでも斬りかかれる体勢にいる。二人の流れ落ちる汗は、決して日差しのせいだけではないだろう。
「それまででござる、セルシア殿、シング殿。この御仁に警戒する必要はないでござる。
否、こう言い換えるべきか――この御仁がその気ならば、拙者らは既に涅槃にたどり着いてござるよ」
「久しいな、出戻りの嫁ぎ女。そして鯱の小僧」
「……お久しぶりです。バレット・正様」
(だからそのネーミング……もういいや)
「……責任者。拝観を所望する。金なら、ある」
(そしてこの娘は誰なんだ――と?)
少女に歩み寄っていく、久々にローブに杖と、賢者スタイルフル装備のパトラネリゼ。その姿と、手にした杖に気づいた少女は、驚いて聞き返す。
「ひょっとして、御同輩?」
「はい。私、トメルギア辺境から出てきました、パトラネリゼ・紫燭院といいます。紫燭院といっても、師匠から譲り受けただけですけど。」
「……クゼネミッツェ・橙蝋院。気にしなくて、いい。当方も、似たようなもの。
この島の技術に、興味があって、きた」
ぎ、と音を立てて、社殿が開かれる。踏み入った一行を、ひやりとした空気が出迎えた。下の里の喧騒から切り離された神域、その中にあってなお切り離されているような錯覚を覚えさせる。
温度と同じく、明るさも外とはまるで違う。妙なほの暗さは、他の面々は当然、セルシアにも奥が見通せない。見えないのではない、見えづらい、というのを濃縮したようなものが感じられる。
「失礼、明かりを灯そう――疾ッ」
バレット・正が指を振るうと、社殿に設けられていた蝋燭に一斉に火が灯る。そして幽々とした明かりが、社殿に祀られた者の姿をほのかに照らす。
魔動機というほどのサイズではない。だが、影鯱丸のような小型機よりは大きい。修験者のような服装の胴体からは、細い、棒のような手足が伸びていた。
両足はその細さでありながら落とした腰を力強く支え、両手は胸のあたりで印を結んでいる。
やや潰れた丸い頭は胴体に匹敵するほど大きく、力強い眉と双眸、口が描かれ、野武士風の髷が真っ直ぐに伸びていた。
「……これ、が。スッパ島の技巧の粋と言われる」
「然り。よく御存じのようでござるな、クゼネミッツェ殿。
これが佐助大明神の似姿にござる」
「なんて躍動感……まるで、今に宙返りでもしそうな」
『よし、怒られる前に焼こう』
通信機越しにゼフィルカイザーは即断した。ゼフィルカイザーの足元、社殿を踏み抜いてしまうので残っていたツトリンが、慌てて脛にあたる装甲を小突いた。
「何言うとんねんゼッフィー!?」
『あ痛ぁ゛!? い、、いやしかし、流石に駄目だろうこれは!?
忍者だったらなんでも許されると思ってるのか!? ええい、もういい、もうたくさんだ、佐助像を破壊する――』
「ゼフィルカイザー、ちょっと黙れ」
アウェルの声はかつてない冷たさだった。ゼフィルカイザーを僅か一言で圧して、改めて佐助像をしげしげと眺める。
「……材質も言うことないし、それに凄い仕事だな。オレが死ぬまで修行してもできるかどうか」
「むっ……でき、る」
アウェルが名工の作に感嘆の声を漏らすのはそう珍しいことではないが、今回の深さは度合いが違った。眉尻を上げたバレット・正が、鷹揚に頷く。
「ほう、それがわかるだけでも大したものだ。大概の者は、職人が遊び半分で作った木偶としか見んからな」
「「「「えっ」」」」
アウェルとクゼネミッツェと地元人、それ以外が一様に懐疑の声を上げるも、アウェルは気にすることはない。その目が次に留まったのは、像の台座にある数本のレバーだ。
「これは?」
「引いてみるといい」
言われるままに引くと、佐助像の目が光った。パトラネリゼはびくっとした。
「おおっ、じゃあこっちは」
口がレバーに合わせてがこんがこんと開閉する。ツトリンは閉口した。
「そんじゃ次は……!」
「待った。当方にも、やらせる」
目を輝かせるアウェルからレバーをひったくるクゼネミッツェ。二人の期待に応じるかのように、マゲが勢いよく伸びた。シングもげんなりとした。
「レバーの手ごたえから、して、駆動系はほとんど木製。
なのに引っかかりをまるで感じさせない、この駆動……」
「すげぇ作品だな!? 一体、どこのだれが作ったんだ!?」
「スーパー仏師、慶の作にござる。今の像は先回の遷宮に合わせ先代の慶が作ったものだったかと。
今も慶の一門と呼ばれる仏師一族がおるはずでござる。なんだったら尋ねてみるでござるか?」
「是非に頼む。これだけの技、ちょっとでも見れたらありがたいどころの話じゃない」
「よければ、当方も」
「……木工、好きなのか?」
「似たような、もの。貴殿も、とは、当方は、意外に思う」
世間話程度に尋ねたアウェルに、クゼネミッツェは謎めいた笑いを返した。
「なんにせよ、好機」
「そいつは同感だ。物にしてみせるぜ、この島の工芸……!!」
「ああ、なんかうちのアウェルが遠くに行こうとしてる……!! 白いの、何とかしなさいよ!?」
『だから焼いてしまえと言ったのだ! 今からでも遅くはない、ミサイルパーティーと洒落込んで――』
流石に焦りを帯びたセルシアに発破をかけるゼフィルカイザー。しかし、忍者ペンギンが極めて穏やかに尋ねてきた。
「その前に、ゼフ殿。この像、何か気づくことはないでござるか?」
『知らんわ! からくり人形なのは分かったが、だからと言って――ん? からくり?』
「然り。この像は遷宮の度に新たに作られる習わしにござるが、慶の一門はそのたびに最大限工夫を凝らした最新のからくりを仕込まねばならんのでござる。そうしてより精巧な似姿を造ることこそが、佐助大明神への何よりの奉納である、とか」
「ほう、抜け忍の分際でよう覚えておったわ」
バレット・正が毒を吐くが当のペンギンはどこ吹く風だ。そして白の機体、加えてシングも、今の話は聞き逃せなかった。
「ハッスル丸、つまりこう言いたいのか? 左上の者、こちらでいう佐助大明神というのは――機械でできた神だった、と」
「少なくとも、我ら忍びの間に伝わる忍者伝説にはそう伝わっておるでござるな――どうしたんでござるかゼフ殿?」
通信機に、ゼフィルカイザーの気配を感じない。アウェル以外の面々も、そうしたことは何となく感じられるようになっていた。
で。
「うがああああああ!!」
神剣を取り込んだ影響か、01データの中に結晶状の構造が乱立する中、
「明らかに番外編くさい展開で、核心に関わる案件持ち出してくるんじゃねええええ!!」
電子の海に、メタい絶叫がとどろいた。




