005
記録者:ゼフィルカイザー改(仮称)
スッパ島に封印されているという鬼の退治を請け負った我々は、ムー、レルガリア、ケレルトの協力を取り付け、装備を整えるために三つの忍びの里を巡った。
そこで起こった数々の出来事については、整理がついた折に改めて記録したい――
「おいゼフィルカイザー、また現実逃避になんかやってるだろ」
『貴様はなんでそこまでわかる!?』
「いや、なんとなくとしか。ていうか、前に見たお前の部屋? なんだけどさ。お前、あそこで寝泊まりしてんの?」
『み、見たのか?』
「おうよ。魔動機の模型が置いてあったけど、あれもお前が作ったのか? 色や細部の加工がかなりすごかったんだけど」
『ふ、ふふふ……なに、私の超AIを持ってすればあの程度は容易い――』
「なら現実を直視しろ」
『嫌だぁあああああっ!!』
ケース1.賀ンマの里・空手道場編
「我が里に伝わる賀ンマ兵法G零型はまず肉体を極限まで鍛えることを旨とする。
まずは手始めに早駆けだ! 里で栽培された一反木綿を括り付けて地面に擦らないように走りたまえ!」
「いやー、こういう条件つけて体動かすってのも面白いわねー。
で、アウェルの友達二号、あんたも結構やるじゃない」
「父に課された地獄の修練を思えばこの程度……! シングさんもなかなかで!」
「母に課された地獄の修練を思えばこの程度……! 君もやるな、ムー!」
「セルシア殿はともかくとして、あの剣士と武闘家の二人もやりますね。私も騎士として精進せねば――で、大丈夫ですか、君」
「凄い顔色だねー」
「ぜっ、ぜっ、ぜっ……じ、ジンガーサマーの、男が、この程度で……!!」
「無理すんなってレリー。ほら水」
「君は、情けなく、ない、のか……!?」
「逆に聞く。お前はあんなヌールゼックも千切れそうなスピードで走れると思うのか」
「ぐっ……!」
「それが終わったらジャイアント麻を飛び越す訓練だ! ジャイアントとつくだけあってでかく、この瞬間にも成長していくが、飛び越しているうちに病み付きになること必至だ!」
「あれってもはや木ですよねえ、トロちゃん」
「……その呼称の、説明を求める、紫燭院」
「やー、せっかく賢者どうしなんですから仲良くしましょうよ。
というかなんでしょうか、近くにいると頭がふわっとするというか――」
『麻薬成分を検知した。あの大木、消滅させるぞ』
ケース2.シグ魔の里・仙道部編
「あらぁ、いらっしゃい。ここは忍法の中でも女性のみが使える術を伝えているところよぉ」
「ここはやめといたほうが……」
「あらぁ……八重の姫様じゃない。シグ魔の血を引く癖に、オメ賀に鞍替えするとか……」
「その、それは悪かったって。で、ここはやめときましょう、ね、ね?」
「知識欲的には結構気になるんですけどねえ」
「同意。故に、所望する」
「女の武器いうたら、ボン・キュ・ボンの使い方と相場が決まっとるわ。ゼッフィーを食うたるためにも外せんて」
『ぐっ……この金物……!! ゼフ様をお守りするためにも、クオルが……すぴー……はっ、ま、負けないですの……!』
「これが勇者の聖剣なんてねえ。リリエラ様やイル君が知ったらどう思うやら」
――――五分後
「「「「「ぎゃあああああああっ!!!!」」」」」
『なっ、何があった、どうしたんだ血相変えて!?』
「ひっ、ひひ、人が、人が……!!」
「……人体、すごい」
「ありえへん、何をどうしたらああなるんや」
「あんなの形質で説明つかないです……!!」
「ま、魔族よ、魔族に違いないわ!」
『――――すぴー』
「本気で何があったんだよ。セルシアが一番腰くだけてるし」
「だ、だだ、だってあれ、人、人の頭が、こう、女の、その、なんていうの? 入って……こ、これ以上言わせんな……!!」
「構造的にはわかるんやけどな。あれで張り付くとか、どういうこっちゃ」
「両性具有と擬態能力の形質の同時発現? いや、そんなのじゃ説明できませんってあんなの!」
「魔族よ、魔族に違いないわ!」
「マルテア嬢、しっかりしてください、何があったのですか、何が――いえ、言わなくていいですはい」
「魔族に失礼なような……い、いや、なんでもない。本当に大丈夫かセルシア?」
「だからやめとけって言ったのに」
「で、ござるなあ。ここ、房中術の中でも特に異質なのがそろっておるところでござるし」
(R18-Gか)
ケース3.オメ賀の里・工房編
「――で、ミュースリルを編み込むことによって、瞬発力や持続力を調整することができるんだ」
「ほほぅ、なるほど……!」
「まあオレは影鯱丸の整備やってたから知ってるけど。やっぱり制作現場だと違うよなー。
それにこのツヤや輝き、新品だと別物だなあ。オレが見たときでも、大分と癒着が進んじまってたし。
この構造だと、損傷時の癒着率が高くなるから大変だろ?」
「つくづく魔動機のこととなると顔色が変わるな」
「アウェル殿は魔動機使いとしては一流と言っていいですからね。魔力が少ないのを含めても、陛下が取り立てようとしたくらいですし」
「本当かケレルト殿。もし仮に、奴の魔力でも動かせる魔動機があれば……」
「いいって。ていうかレリーとケレルト、なんか仲良くなった?」
「トメルギア公王の近習ともなれば、それなりの礼は取る、当然だろう」
「ジンガーサマーと言えば代々ベーレハイテンの近衛を務めた家柄ですからね。それに現在アーモニアを治めているとも聞きますし。
とんだところに流れ着いたと頭を抱えていましたが、結果を見ればこれでよかったと言えましょう」
「急がば一夜にして石橋を築けと言うでござるからなあ」
『変なことわざをほざくな、私の言語回路に響く……!!』
「しかしハッスル丸、随分な旅をしてきたようだな」
「わかるでござるか、O慶どの」
「わからいでか。頑張といい影鯱丸といい、修繕・改修部位を見て取れば貴様がどのような戦いを経てきたか手に取るようにわかる。
それをここまで破壊するとは、よほどの手合いを相手にしたと見える。加え、この銀肉――」
「ん? これ、ミュースリルが……あれ? ひょっとしてこれ、芯の方から爆ぜてる?」
「何か違うのか? 僕には他と変わらないように見えるが」
「ほう、この破損の特異さがわかるとは、いい目をしておるな、小僧。
これは銀肉が気に耐えられずに内部から爆ぜたのよ。機忍装の銀肉は外のそれと違い、力を生むのに特化した配合をしておるゆえ、気を通す容量は島の外のそれに劣る部分があるがの。
それでもそうそうありうることではないぞ、これは」
「皇帝機相手に防御を張ったゆえ、拙者も底力を尽くしたでござるからなあ」
「ほう、土の大公の獅龍鳳を相手取ったと!」
「いやいや、拙者は後詰めにござる。相手取ったのはこっちの若武者にござる」
「ほほう! あの大明神を駆って!」
『違う、違うからな……!? しかし……』
「どうかしたのか、ゼフィルカイザー殿?」
『今までの魔境っぷりに比べればはるかにマシなんでな』
「まあわからなくもないか。パティが寝込んでしまったしな」
「賢者殿がか? どうしたのだシング殿」
『知恵熱ならぬ知恵冷えを起こして凍えている。どうも脳が拒絶反応を起こしたらしくてな』
「本当に大丈夫なんですか」
「ま、大丈夫だろ。それでミュースリルの編み上げはいったいどうやるんだ?」
「ふむ、里の秘伝ではあるが、しかし外の世界でも事務作業のごとき新たな風が生まれておる様子、なれば出し惜しみをして置き去りにされるのも癪よの。
では実演してみせようか。このように銀肉を並べての」
「ふんふん」
「で――はちゃ~! みっちょーみっちょーもんぎゃーもんぎゃー、喝ッ―――!!」
「な、O慶さんが突然妙な踊りを――何っ!?」
「みゅ、ミュースリルが複雑精緻に動いて編みあがっていく!?」
「あーやっぱり。人力でやるには明らかに無茶な編み方してると思ったら、やっぱり忍法か」
『まあ忍者のやることだしなあ』
「お前ら、あのけったいな踊りに言うことはないのか!?」
「『別に」』
ケース4.女子会inにんじゃむら
「男どもは機械いじりに夢中になっちゃってるしさあ。
とりあえず滞在中のあれこれは払ってくれるって話だし、まあ悪い話じゃないでしょ。もぎょむぺもぎょむぺ」
「なあセッちゃん、何をどう食うたらそんな音が出るん?」
「あたしが聞きたいわよ。見た目串焼きなのに、なんかむにょっとしてべちゃっとしてのど越し爽やかな感じがする」
「この島の食べ物は大陸で見たことないもんばっかやけぇの。アテの畑でも育つかね」
「どうかしらね。あたしの生まれた大陸でも見たことないもんばっかだし。ぐるぬっちょぐるぬっちょ」
「本当になにをどうしたらそんな音がするのかしら、この……何かを包んであるのかしら? おひとつ失礼――ぐるぬっちょぐるぬっちょ」
「ルテやんからも同じようなクチャ音がするとか、もう訳わからんなぁ、のぽぺぇ~んのぽぺぇ~ん」
「そういうあなたも何をどう食べたらそんな音がするの?」
「や、島の民芸品のからくり細工とかいう奴なんやけどな、この大明神人形が宙返りするとかいうのなんやけど」
「ていうかあんた、木も食べれたの?」
「機械やったら基本なんでも食えるで?」
「うぅ……なんなんですかこの島、なんなんですかこの島……!! ああ、寒い、凍えてしまいます……!!」
「同意……帝国ありし日には、この島と断交するか否かで、紛糾したと、聞く」
「トロちゃん……!」
「……紫燭の」
「なんか仲良くなりつつガタガタいってんだけど、賢者ってのはみんなあんなんなのかしら。ちるりるちるりる」
「なんですするだけでそんな音が……でも二人とも本気で凍えてるわねー。ほーら、ふかふかの毛皮ですよー」
「あったまるでー」
「うう……すみません、マルテアさん、アゼリさん」
「感謝」
ケース5.同窓会
「ごめん、あなたとはもう、これきりにしたいの」
「なんでだ!? この騒ぎを乗り切ったら祝言を上げようと……はっ、貴様はハッスル丸!? なんでここにいる!?」
「何故も何も……そういうことでござるよ」
「そ、そういうことなの」
「貴様、俺の雪ウィンドに何をした!?」
「何もなにも……ナニというか、なぁ?」
「うっ、嘘だ! 大体お前、性技実習でジ・インセクトたち三馬鹿ともども女どもに拒否られてただろうが! ついたあだ名がドウテイ4!」
「男児三日会わざれば、と言うでござるしなあ。拙者を誘ったこやつの海豚の背ビレがいかんのでござるよ、クエックエックエッグエッ!!」
「なにやってんの、あんたは」
「お、俺より速くハッスル丸を串刺しに……!? き、君は八重垣の――」
「オクテットだって。あと貴女――こいつは私のだから」
「はぁ? お嬢様だからって頭に乗ったこと言わないでよね!」
「あのー、もしもーし、その、俺はー?」
ケース6.慶の庵
「君ほどの腕の持ち主が、が彫る手に惑いがある……君は本当に彫りたいものを既に見出しているはずだ、少年」
「というわけで約束だ、いいから脱げ、セルシア……!」
「ノミと材木片手に言うことか……!」
「そ、そうだぞアウェル、はしたないことを女性に向かって……!」
「……あんたはあんたで情けなくないの、この鼻血ブー助」
ケース7.機内
『すぴー』
「ガクガクブルブル……うう……寒い……私は、いつまでここに……」
『お前ら本当に大丈夫か』
「うう、ご迷惑をかけますねえ、ゼフさん」
(こいつらもこうしてれば可愛いもんなのになあ……いやいや、オイル迷うな私――ッ!? 金属反応!?)
「往生せいやぁあああ!!」
『うおっ!? な、何をするツトリン!?』
「ふっふっふ、ウチは、ウチはやったで! これを見ぃ!」
『それは……反応からして私の破片――に、かじった痕、だと!?』
「せや、ついにウチはゼッフィーを受け入れれるようになったんや! これが年貢の納め時っちゅー話や……!」
『ま、待て! アウェル、おいアウェル!?』
『こうなったら目測で彫ってやる……!』
『やめなさいよ! くっそ、あたしの力を振り切るとか!? シング、あんたも手伝って――』
『ぶほっ!』
『彫りあがってもいないの見て鼻血吹くな、それでいてガン見するな……!』
『――――孤立無援、か』
「エルやんセッちゃんグーやんもトライアングルっとる最中や。せやけどウチは手段は選ばんでぇ。横やりも恋敵もおらん、今夜、キメたる……!」
『――――自由への逃走!』
「待てやぁああああ!」
『すぴー』
「寒い……うう……」
『……なぁ、アウェル?』
「うん」
『後半、身内の被害のほうが大きくなってないか?』
「気のせいだろ」
『ところでその腕に染みついた手の痕は。なんか怨霊にやられたみたいになってるが』
「セルシアに掴みかかられてさ」
『で、出来たのか、1/6セルシアフィギュア』
「トラブルで完成せずじまい」
『具体的には』
「アニキの血に染まってな。でも慶の人たちになんかウケたんであげた。なんかゼンがどうのとか言ってて」
『エル兄、割とモテモテでしたしねえ』
通信機越しに聞き捨てならない情報が入ってきた。ちなみにパトラネリゼはどうにか復調した。ニンジャ真実を受け入れたらしく、以降は割と平静にしていた。
今は離れた丘の上から、こちらの様子をうかがっている。
『む、パティ、どういうことだ?』
『慶の一門、普通に女の子もいたんですけど、結構人気になってたんですよ』
「つってもオレ、工房でひたすら彫刻やってただけだぞ? そりゃ、ご神木彫らせてくれるって言うから気合入れてやってたけどさ」
『慶の一門的にはストイックな職人さんの方がモテるんですよ。J慶さんとか結構うっとりしてましたよ? 健康的にエロい感じのお姉さんでしたけど』
「ごめん、誰それ」
『それ以前にパティ、エロい感じとかおっさん臭い言い回しをするな』
『忍者のみなさんの中では割とまともというか――』
パトラネリゼの声が途切れる。何を見て何を思っているのかはまあわかる。
忍界山の麓、忍者古戦場。
ゼフィルカイザーたちの周りに居並ぶ魔動機たち。それを魁として、スッパ島三里の忍軍総勢が集結していた。




