公演と迷子
前回の割と働き者なマリコさん
新劇場着工。ペットの魚が可愛く見えてくる。
「新劇場、いよいよ完成だね!」
「はい! マリコさん! とても立派な建物が出来ました!」
「ほんとすごいよー。さすがボニーさん。これ歴史的建造物になるよー」
「当然だわ。でもこれは、皆さんの協力あっての作品ね」
新劇場は、着工から竣工までたった三日で終わった。
内装工事も大体終わり、発注済の椅子とかの納品待ち。これも急ピッチで作ってくれている。問題無く納品されそう。
私に手伝えるのはこのくらいかな。後は、カタリナちゃん次第だ。
「カタリナちゃん。私にも手伝えること、あったらいってね」
「大丈夫です。気にしていた散りぢりになった劇団員達も、お父さんが集めてくれました。後は、小道具と衣装がそろえば、直ぐにでも開演できます」
やる気に満ち溢れたカタリナちゃん。この笑顔が見たかった。
「ここからカタリナちゃんの夢が再スタートか……。公演が楽しみだね」
「はい! 舞台も綺麗ですし、今からわくわくしてます」
劇場前で思いふけっていると、アルムさんがカタリナちゃんを呼ぶ。
ちょっと話して、直ぐに私達の元に戻ってくる。
「初公演! 五日後に決まりました!」
「っえ! もう決まったの? お父さん仕事速いね」
「そうね。私のメリアも、昨日修理が終わりましたし。アルムはちゃんと寝ているのかしら?」
ボニーさんが抱っこしている、修理の終わった緑色の人形を、撫でながら言う。
私も少し心配になったけど、カタリナちゃんも「怪我が治るまで診療所で暇だったので、今が楽しくて仕方が無いみたいですよ」って言ってるし、多分平気かな。
***
そして、五日後の初公演。演目は、私達が前に見たのと同じ銀猫姫。
アルムさんが小道具で使う二体の人形を、ギリギリまで作ってたけど、それ以外は特に問題無く準備完了。チケットを作ったり、販売したりと私達もお手伝いした。
夕方になり、劇場が開く。沢山の人達が劇場に吸い込まれる様に入っていく。
領主のシモンさんとベリンダさん筆頭に、お金持ちや、貴族っぽい人も居れば、大工の棟梁やいつも行ってる服屋のおっさんも。身分とか関係なく、水着な人も居るし、多種多様。
座席の場所で、チケットの値段変えたのが良かったのかな。一番高いのはバルコニー席、キノ城下の教会で見たのが、素敵だったので劇場にも採用。これは良い仕事してる。
私とカノンちゃんは、事前に誘っていたメル姉さん、ボニーさん、アンネさん、メリッサさんと一緒にバルコニー席で公演を待つ。
ボルボンボさんは、誘ったけど断られた。
メル姉さんから聞いて驚いたけど、ボルボンボさん、奥さんとちっちゃい娘さんが居るそうで、子供は一人にできないし、一人で劇を見に行くと、奥さんが怒りそうだと困ってたそうだ。ウンバボ族が困るとか、奥さん恐るべし。
劇団員の人が現れ前説を始めると、ざわめいていた観客席が静かになる。
そして、カタリナちゃんが舞台に上がり劇が始まる。
一度見た演劇だけど、ストーリーが進むにつれて、時間が経つのも忘れるほど、物語に夢中になる。好きな映画を、何度も見ちゃう感覚。
初公演は、なんのトラブルも無く無事終了。二回目だったけどジーンときた。
感動の余韻を残しつつ、皆で一緒に楽屋に行く。
私が部屋に入ると、電光石火の勢いで、劇団員が全員集まってくる。っちょ! 囲まれた!? 私がビックっと身構えると、団員達が言う。
「マリコさん! ありがとうございました!」
「貴女のおかげで仲間達と再会できました」
「みんなでまた劇ができるなんて……」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「なんとお礼をいえばいいのか……。っう、う……」
「戦場の白いパンチラのマリコさんに、ご助力頂けるなんて! このご恩一生の忘れません!」
「パンチラの事は忘れろぉぉぉぉ!!」
良い雰囲気だったけど、一番最後にパンチラ呼ばわりした男性団員の、腹の真ん中に、電光石火でグーパンチをお見舞いする。一生忘れないとか困る。次会った時に言ったら、頭を叩いて記憶を消去しよう。
ふぅ、この世界に来て私、突っ込み能力が高くなったかも。
荒ぶった私を見て、カタリナちゃんが膝を付いて言う。
「すみません、マリコさん! この団員にはきつく言い聞かせます。爪とか剥ぎ取りますから、どうかお許しください」
「いや! それはやり過ぎだからね!?」
「冗談ですよ。アハハ」
「もー、ビックリさせないでよー」
おー、カタリナちゃんが声出して笑ってる。初めて見たかも。
新劇場を建て始めた辺りから、笑顔が増えてきたし、こっちが本来のカタリナちゃんなんだろうね。
膝を付いた状態のカタリナちゃんに、手を差し出して立ち上がらせる。
そして、カノンちゃんが一歩前にでて、花束を取り出して手渡す。
「劇団復帰おめでとー。今日の舞台も感動の嵐だったよー」
「お花、いい香りですね。カノンさんも色々お手伝い、ありがとうございました」
「ふふ、カノンさんは先輩従者だからねー。後輩のカタリナちゃんが困ったらなんでも協力しますともー」
「はい、これからも頼りにします」
私の従者か……。一つ悩んでた事あるんだよね。
「あー、このタイミングで言うつもりは無かったんだけどさ。カタリナちゃんのこれからの事……。劇場に団員用が住める部屋も作ったし、お父さんと一緒に暮らして、劇団に専念してもいいよ。勿論これまで通り、一緒に生活してくれるのも、私としては嬉しいんだけど……」
私の発言に、劇団員達も固唾を飲んで、カタリナちゃんの返答を待つ。
「マリコさん、選択するまでもありません。私は、マリコさんの従者になると誓いました。これからも一緒です。断ったって着いていきます」
「では、従者様に命令を。この劇団を世界で一番の劇団にしなさい。それまでは、劇団を優先して、従者の仕事は適当にやること! そもそも私は、適当な冒険者暮らしだしね」
「はい! 畏まりました」
カタリナちゃんの返事に、不安な表情をしていたカノンちゃんが、笑顔になる。
カノンちゃんが私とカタリナちゃんの手を取る。私とカタリナちゃんも手を繋ぎ三角形の形になる。
そして、カノンちゃんが「イエーイ」と言い、手を繋いだままバンザイをする。
他の皆や団員がニヤニヤしながらこっちを見てる。ちょっと恥ずかしい。でもこういうの嫌いじゃないかも。
カノンちゃんが満足したらしく、手を離して言う。
「さー、マリコちゃん。お腹減ったし、我が家でお祝いしよー」
「そうだね。私もお腹減っちゃったよ」
私達が打ち上げの話をすると、アンネさんが食いついてきた。
「マリコ! 私も一緒に行っていいか!?」
「勿論歓迎しますよ。みなさんもどうですか?」
そんな訳で、我が家で宴会開催が決定。
一緒に来るのは、メル姉さん。アンネさん、メリッサさん。
劇団の人達は、これから片付けとかがあるので、それが終わってから別で飲みに行くらしい。
日が落ちて窓から洩れる明かりで、ムーディな感じなになった中央通りを、皆で歩いていると、突然カノンちゃんが、はっとした表情で言う。
「ドルンガーが食べたくなった!! わたし買ってくる! 収納でお持ち帰りするけど、食べたいのあるー?」
「激辛スペシャルお願いします!」
メリッサさんが即答で激辛を注文する。そういえば、戻ってから食べてなかったなぁ。あのスライムの核で作った面料理。
皆が思い思いのトッピングでカノンちゃんに注文する。覚えていられるのだろうか? なんか私だけ、変なトッピングされる未来が予想される。無難にいこう。
「私は、カノンちゃんと同じのでよろしく!」
「了解! 塩こそが至高! それじゃいってくるねー」
カノンちゃんは、ッテッテッテっと張りながら振り向いて「あー、直に戻るから、宴会先に始めててー」っと言って、屋台街の方へと走っていく。カノンちゃんが戻るまで、残ってる材料でなんか一品調理しようかな。
我が家に着くと、早々にアンネさんが暴走する。寝室に入ってベットの香りをクンクンしてる。
「ここ! ここ! マリコのベットでしょ!? 正解!?」
「っちょ! 正解ですけど、匂い嗅がないでください! なんか恥ずかしい!」
ちょっとは隠せ! ガチ百合さんめ! 枕に顔を埋めていたので、そのまま押さえつけて、窒息させる。ふぅ、大人しくなった。
静かになったアンネさんを、リビングに運んで椅子に座らせる。
リビングには、テーブルに椅子四脚と三人掛けのソファーしかない。人数多いからギリギリ。カノンちゃん帰ってきたら、椅子出してもらおう。
私は、調理場をざっと見て食材を確認する。日持ちしない食材は、カノンちゃんが収納してる。
今日は、熟成中の鹿肉が、吊るしてあったのでこれを使おう。
墨のコンロに火を入れる。火が十分に行き渡るまでに、少し時間が掛かるので、下ごしらえをする。鹿肉の筋を削いで、味を染み込み易くするために、包丁で突く、ソースは、粒のマスタードをベースで作った。
そして、鹿肉を直火で焼く、食べ易い大きさにカットしてから、ソースを掛ける。鹿肉のタタキの完成!
鹿肉だけでは寂しいので、置きっぱなしになっていた謎野菜で、野菜炒めも作る。
カノンちゃんが、まだ帰ってきてないけど先食べちゃいますか。
「とりあえずですが、鹿肉のタタキと野菜炒めお持ちしましたー。それでは新劇場、初公演成功の打ち上げをはじめます。 カタリナちゃん、一言お願いいたします」
カタリナちゃんが「っえ!? なんですか!? 私何も考えてないですよ?」っと慌ててる。舞台では見れない、焦ってるカタリナちゃん。可愛い。
「えっと……。一度燃えてしまった劇場が、前よりも綺麗になって、また劇ができたなんて、少し前までは考えられないことでした。まるで夢を見ているみたいです。皆さんのおかげです。ありがとうございました」
おぉ、即興の割りにいい挨拶だ。皆が笑顔でパチパチ拍手すると。照れくさそうな表情で、カタリナちゃんが会釈する。さあ、食べよう。腹ペコちゃんだ。
「んじゃ、食べましょー! っあ! アンネさん、今日は飲みすぎないでくださいね。夜道で酔っ払いは危ないですから」
「酔ったら泊まってくからいいよー」
「ベットに空きがありませんので、床に直で寝てくださいね」
「えぇー、一緒に寝よーぜ」
「ガチ百合さんは、却下です」
私がお断りすると「いいじゃん、ガチ百合」っとついに肯定しだした。この人危険や。
ガチ百合さんはそっとしておいて、鹿肉のタタキを食べる。旨し。
寄生虫とか怖いので、少し長めに焼いたけど、そこそこレアでいい感じ。病気は怖いけど、この世界だと魔法で治るだろうし。多分。
皆で食べると、あっという間に料理が減る。
もう一品作ろうかなっと、私が考えているとメル姉さんが言う。
「マリコ、カノンのやつ、帰りが遅くないか?」
「屋台街ですから、そろそろ帰ってきそうですね」
「カノンさんの事ですから、また何か拾ってるんじゃないですかね」
カノンちゃんは面白いと感じれば、何でも手を出すタイプだから、新しい屋台とか発見して試食してたりしてそう。屋台が混んでるだけかもしれないし。
でも、いつも一緒だっから少し心配になる。
料理が全て食べ終わる。皆、無言になっている。私達は、少し楽観視しすぎたのかもしれない。
そして、この日。
カノンちゃんは、家に、帰えって来なかった。
次回更新予定 5/23(月)
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