大脱出
前回の平穏から不穏が訪れたマリコさん
新劇場の初公演を見に行く。仲間が行方不明になる。
カノンちゃんが帰って来ない、心配になった私は、カタリナちゃんを連れて、屋台街に向かった。
丁度、屋台を片付けようとしていた、屋台のおばちゃんを見つける。
確認すると、カノンちゃんが、注文した品物を持って帰ったのは、大分前らしい。
私達は、急いで家に戻って、皆にその事を話す。
「屋台に行ってきました。カノンちゃん、注文した品を持って帰ったって……」
「もしかして、カノンのやつ攫われたんじゃないか……?」
メル姉さんが心配そうな表情で言った。
改めて考えると、カノンちゃんが狙われる理由は山ほどある。無限収納は物凄く便利だから狙われるし。私達の現金だって大半は預けたまま。この大陸では珍しいエルフってだけでも狙われそう。
いや! 今は、狙われる理由を考えてる場合じゃない! カノンちゃんを探さなきゃ!
「皆さんすみません! 私、カノンちゃん探しに行きます! 今日は、宴会中止にさせてください」
「当たり前だ! マリコ! 私も探しに行くぞ!」
「屋台街には居ませんでした……。何処に探しに行こう……」
悩んでいると。考えてるとアンネさんが私の肩に手を置く。
「情報を集めるならギルドだ。捜索の依頼も一緒にできる」
「アンネの言う通りだな。ギルドに行くぞ!」
「メル姉さん待ってください! カノンちゃん、もしかしたら帰って来るかも知れません。念のため書置きします」
ギルドに行く旨を、カタリナちゃんにメモしてもらう。玄関の扉に貼り付けて、ギルドに向かう。
ギルドに入ると、一人の男が涙を流しながら、受付のお姉さんに詰め寄って、何か話をしている。受付のお姉さんは、夜勤担当らしく知らない人だ。
メル姉さんが「どけ!」っと男を腕で払いのける。力加減が出来なかったらしく、男がはじき飛ばされて壁にぶち当たる。
「仲間が攫われたらしい、何か情報は無いか? あと捜索の依頼を頼む。緊急だ」
「メル様、今弾き飛ばした、その方も捜索の依頼です。今夜は、人攫いが出没しているみたいです」
受付のお姉さんが、壁にへたり込んでいる男を指差す。
男は「っうぅ、ぐぅ」っとうめき声を上げながら、虚ろな目で私達を見る。
だが、アンネさんに視線を合わせると豹変し、怒気を放ち襲い掛かる。
「お前! あいつ等の仲間かぁぁ!!」
アンネさんは、拳を振り上げ殴りかかる男の腕を右手で取る。
そのまま、腕を捻りながら、回転して左手で裏拳で頭を殴り倒す。
倒れた男の腕を掴んだまま、アンネさんは、しゃがんで男の首に膝を乗せて言う。
「アンタ、何を見た? 攫ったヤツを見たのか? 私と同じ緑のスカーフか? 私はアイツを追ってるんだ」
「っう、う……。僕の目の前で……。マリエッタは攫われたんだ」
「私はそんな事聞いてないぞ。質問に答えろ」
険しい表情になったアンネさんを、受付さんが「ギルド内での乱暴は止めてください!」と言って止めに入る。
今は少しでも情報が欲しい、でも被害者を乱暴するのはちょっと違う。
私は、回復魔法で怪我をした男を治癒する。
怪我が治り、落ち着きを取り戻した男が言う。
「マリエッタを攫ったのは……。その人と同じ、スカーフをした、三人組だ」
それを聞いたアンネさんがふーっと息を出して呟く。
「アルバンか……」
「アンネさん知ってるんですね。教えてください。カノンちゃんも、その人に攫われたかもしれません」
「私の身につけてる緑のスカーフは、新緑の盗賊団の物だ。新緑の幹部は、私がほぼ皆殺しにした。もう六年も前の話だ。その時、殺せなかった弟のアルバンと、生き残りが、新たに盗賊団を結成したんだ」
「アンネさんの弟……。劇団を襲った人ですね」
カタリナちゃんが言うと、アンネさんは頷いて話を続ける。
「そうだ、ちゃんと始末できなかった、私の過ちだ。状況は最悪だ。私は盗賊団の再結成を知ってから、アイツ等をずっと追ってる。でも碌な情報も集まらない!」
アンネさんの話だと、犯人を何年も探してるっぽい。このままだとカノンちゃんを探しようが無い。
私達が途方にくれていると、ベリンダさんが、扉から入って来る。
「ん? お前たちも居たのか? 今、人攫いが出没してるから、帰りは気を付けろよ」
「カノンちゃんが、攫われたみたいなんです!」
「カノンも被害にあったのか!?」
「ベリンダ! 頼む! 力を貸してくれ!」
アンネさんが頭を下げてお願いし、ベリンダさんが困った表情で言う。
「衛兵に通報が有った時点で、市街に警備巡回をさせている。女神教の信者も被害にあって、教会の者も捜索している。私も、新しい情報を得るために、ここに来たんだ」
「カノンちゃん以外にも、沢山の人が攫われてるんですか?」
「そうだな、少なくとも十数人、劇場の帰りに襲われてる」
ベリンダさんとの会話を聞いて、メル姉さんが壁にもたれかかったまま言う。
「まだ次の獲物を狙って、隠れてるかもしれないな。探しに行く。犯人を殴って、カノンの居場所を吐かせる」
「私も捜索に向かうわ。人形を飛ばせば、夜間でも広範囲を探せるわ」
メル姉さんとボニーさんが、外に出ようとするとメリッサさんが止める。
「待ってください。カノンさんだって冒険者です。そのカノンさんが捕まったの。何か罠を仕掛けているかも。一人行動は、危ないです」
メリッサさんがそう言い、複数に分かれて捜索することにする。
ベリンダさんとボニーさん、メル姉さんとメリッサさんで、外に捜索に行った。
私とカタリナちゃんとアンネさんは、ギルドで新しい情報を待つ事になった。
数時間が経つ、その間にも二人の女性が攫われたと、ギルドに人が駆け込んできた。でも、新しい情報はない。
そして、私達がやきもきしていると、入り口から「マリコちゃーん」っと、私を呼ぶ声が聞こえた。
「カノンちゃん!?」
「あー、居た居たー。よかったー、我が家帰ったら、誰も居なくてビックリしたよー」
「ビックリしたのはこっちだよ! 一体何処にいってたの!? もう、本当に心配したんだから……」
「マリコちゃん泣かないでー。わたしは大丈夫だよー」
安心したら涙が出てきた。とにかく、無事で良かった。
こんなに大騒ぎしてたのに、あっさり帰ってきた。ある意味カノンちゃんらしい。
「もー、カノンちゃんが攫われたんじゃないかって、皆で大騒ぎして探したんだよ」
「ごめんよー。買い物の帰りに後ろから襲われて、気がついたら体は麻痺してるし、手枷は付いてるし、檻の中だしー」
「え!? やっぱり攫われてたの? 麻痺で檻の中? どうやってここまで来たの?」
「麻痺は、噛むと楽になる草をはみはみしてー。檻はこれだよ」
そう言ってドン! っと檻を収納から出す。
「閉じ込められてた檻を、収納しちゃったの!?」
「うんうん。部屋の扉も鍵が掛かってたけど、扉を収納しちゃえば問題無しー」
「見張りとか居なかったの?」
「見張りは寝てたよー、夜だし」
「そもそも誰に攫われたの? 緑のスカーフ付けてた?」
「誰かなんか分からないよー。スカーフは付けてたけど、おっさんの名前なんて知りませーん」
カノンちゃんがそう言うと、アンネさんが声を出して笑う。
「アハハハハ! もー、カノン! お前最高! アイツ等も、まさかこんな逃げ方するヤツが居るとは、思いもしなかっただろうさ!」
「ふっふっふ! カノン様は、逃げるのは大得意なのさー」
「んじゃカノン様、いっちょお願いだ。閉じ込められた所まで、案内してくれ」
「ちょっと待ってください、アンネさん! 危ないですよ!」
「これはチャンスなんだ! ずっと探してたんだ! アイツ等が逃げる前に行かせてくれ!」
真剣な目で、私を見つめるアンネさん。いつものガチ百合の目じゃない。これはもう止りそうにないや。
「カノンちゃん案内、お願いしても大丈夫?」
「ん? いいよー」
「受付のお姉さん、他の人達に伝言お願いします。私達、犯人捕まえに行ってきます。っあ、カノンちゃん、犯人の居る場所の地図書いて」
「はいなー」
カノンちゃんが、収納からメモを取り出して、地図を書く。
それを見てアンネさんが「あー、これは、見つからない訳だ」っと呟く。
これダンジョンの10階層だ。しかも、ボス部屋から離れた所に、隠し扉があるらしい。
地図を書置きして、私、カノンちゃん、カタリナちゃん、アンネさんでダンジョンに走る。
ダンジョンに10階層に着く。少し薄暗い洞窟。前に来た時と変わりない。
奥に進むと時折、このフロアのモンス、でっかいスライムが居る。 邪魔なヤツだけ倒して進む。
こんな時でも、うちの小銭拾いはマイペース。ドロップアイテムをちゃっかり拾ってます。
進んで行くと、カノンちゃんの教えてくれた隠し扉の近くに、盗賊と思われる人影を発見。天然の隠し扉があるのに、なんで前で見張りしちゃってるの!? アホか!
私は花を食べて、ファイヤーマリコになる。これで遠距離攻撃もできる。準備万端。
そして、岩陰から様子を伺い、アンネさんが「私がやる」っと言いタイミングを見計らっていると、もう一人盗賊が隠し扉から出くる。間が悪いなー。
盗賊は別の岩陰に行き、うんこ座りのポーズになる。隠れてるのか? 私達には丸見えなんだけど。
そして盗賊は、ズボンの紐を緩めて……って、うんこか!! 乙女の前にでうんこさせる訳には行かない!
「アンネさん、強行突破です! 奥のヤツお願いします!」
「分かった!」
高速でダッシュする、盗賊は、ズボンに手を掛けている。ヤヴァイ!
昨日、劇団員の男に、パンチラ呼ばわりしされた時に習得した、必殺の一撃を盗賊のボディにいれる。
「電光石火突っ込み!」
私の鋭い一撃で、盗賊が沈む様に倒れる。っく、異臭が、間に合わなかった……。
「カノンちゃん! コイツ縄で縛って!」
きっと直視したくない姿、捕まえるのは従者様にお願いしよう。
カノンちゃんは「えーー」っと嫌がりながらも盗賊を縛ってくれた。
アンネさんを見ると、あちらも速攻で倒したらしく、盗賊がくたんっとしてる。殺してないよね?
近づいて確認すると「必要が無い殺しはしない」っと、気絶させただけだったので、こちらも縛って拘束する。
拘束した人達を引きずって、隠し扉を抜けた所に転がしておく。モンスに襲われるかもしれないけど。そこまで面等見れない。
カノンちゃんが先頭になって、盗賊達のアジトを目指す。
ダンジョンの通路と違い少し狭い。人気はない。体感で深夜の三時位だろうし寝てるのか?
誰とも会うことなく、カノンちゃんが閉じ込められてた部屋に到着。誰も居ない。
「他に攫われた人達がいないね」
「んー、わたしが閉じ込めらたのは、この部屋だよー。最初から一人だったよー」
「この部屋に来るまで、分かれ道が幾つかありました。全て廻ってみましょう」
来た通路を戻り、別の通路に進むとあっさり盗賊のアジトを発見。
結構広いフロアに、檻に閉じ込められた女性と、二十人位の盗賊。
アンネさんが、曲がり角から様子を伺う。
「あそこのソファーで寝てるのがアルバンだ。やっと見つけた……」
今までに見た事の無い、鬼気迫る表情で言うアンネさん……。殺す気まんまんだ。
アンネさんに、どんな過去があったのかは知らないけど、姉弟で殺し合うなんてなんか嫌だ。
私は、後ろからアンネさんを抱きしめながら言う。
「できるだけでいいですから。殺さないでください、姉弟で殺し合うなんて、良くないです」
「分かった……。だから生かして捕まえたら……。またこうやって、背中におっぱい押し当ててくれよ」
っちょ! こんな時でも、そんな事考えてたの!? そうだ! この人高ランクのガチ百合だった!
私がッバ! っと手を離っとアンネさんが振り向く。その表情は、落ち着いている。いつものアンネさん。これなら大丈夫そう。
「ただマリコ、一つだけ言っておくぞ。私は危なかったら躊躇わずに殺す。お前達もだぞ、相手は殺しにくる。身の危険を感じたら躊躇うな。仲間が死ぬ」
覚悟が足りないのは、むしろ私の方か……。モンスは倒してるけど、人殺しなんてできない。
んー、でもチートだし。っま、多分何とかなるでしょ。変に気張る方がやらかしちゃいそうだ。
いつものノリで、私は普通に言う。
「作戦! いのちは大事に!」
そう言うと皆がコクリっと頷く。
「んじゃ、ちゃちゃっと片付けちゃいましょう」
そして私達は、盗賊のアジトに奇襲を掛けた。
ブックマーク登録・評価いただけると励みになります!




