おまけ
二人のその後のお話です。
ナナのイメージが少し変わっていますのであしからず。
「ふざけんなっ!!今のは俺の勝ちだ!」
「僕だよ!僕のがちょっと早かったもん!」
「俺のがぜーってー早かったって!!な?ロック?」
「どうでしょう?鼻の差でランス参謀のが早かったような・・・」
「ふざけんなよっ?!」
俺はダンっとテーブルに手をついた。
グラスに入った水が少々こぼれる。
「今のは俺の勝ちだ」
「んっふっふっふ。甘いね、ジェイドくん。僕の勝ちだって」
ランスも負けじとにらみ返す。
審判のロックは盛大なため息をついた。
「指揮官。大人げないのでやめてください。負けを認めて――――――」
「負けてねぇ!!」
カッと頭に血が上った。
めまいが一瞬訪れる。
まずい・・・と思った時には俺はオオカミの姿になっていた。
思わず自分の両手を見つめる。
肉球があった。
「あっはっはっは。ジェイド、キレちゃダメだって~。これくらいでキレないでよ。ガキだな~」
「・・・指揮官。まだナナさんは買い物から帰ってませんよ?どうするんですか?今日一日、それでいる気ですか?」
大爆笑するランスと呆れるロック。
あの一件以来、俺はキレたらオオカミの姿になる体質に変わっていた。
ただ、満月のときと違うのはキレた場合はナナの口づけで戻れるということなのだが・・・。
ランスのやつ、笑いすぎだっての・・・
「もうジェイドからかうのおもしろすぎ!」
「・・・てめぇ!・・・殺すっ!!」
ダンっと地を蹴り、ランスに飛びかかる。
「うわっ!ちょ・・・マジで、ジェイド!たんまーーー!!」
「指揮官、お止めください!ランス参謀が死んでしまいます!」
「一回死ね!」
部屋の中で3人の取っ組み合いが始った。
何かが壊れる音、割れる音、ランスの悲鳴、様々なものが混じり合い――――――
「たっだいま~。何か変わったことは無かっ・・・ゲッ?!」
ナナの声に俺たちはぴたりと動きを止めた。
俺は咥えていたランスの足を放す。
ランスも俺の耳から手を放し、ロックもランスの腕から手を放した。
ひきつった笑みでナナを見つめる。
「お・・・おかえり・・・。早かった、な・・・」
「ジェイド、ランス、ロックさん。・・・何してるの?!」
ナナの黒髪が風に舞った。
やばい。果てしなくやばい。
俺はおろおろしながらも説明する。
「ただ、じゃれてただけだって。ケンカじゃねーよな?な?ランス?」
「そ。そうだよ。ナナちゃん。遊んでただけ。ほら、見てよ」
ランスはテーブルの上を指差した。
そこには<へクス>という昆虫が2匹。
魔女はそれをじっと見つめる。
「・・・これで何してたの?」
「レースだよ。レース。俺、勝ったし」
言うと、ランスがため息をこぼした。
今、抗議するとあの女にばれる。
それが分かっての諦めだろう。
「ふぅ~ん・・・」
魔女は手に持っていた籠をソファーに置いた。
俺たちをゆっくりと睨みつける。
「・・・それで?どうしてジェイドが勝ったのにオオカミの姿になってるの?」
「えっ?!いや・・・ランスが負けを認めなくて・・・な?ロック?」
「そ・・そうですよ、ナナさん。ほら、笑ってください」
ロックの笑顔もひきつっていた。
魔女は大きく息を吸い込むと、にっこりと笑った。
「で?私のお気に入りのコップを割ったのはだぁれ?」
そっちか?!
俺はギギギと首を回した。
ランスもロックも「知らない」と首を振っている。
俺だって知らない。
「そこのテーブルに置いといたのよ?なんで落ちて割れてるの?」
再び部屋の中に風が吹きこんできた。
・・・ここって3階だったよなぁ・・・。落ちたら死ぬなぁ・・・。
俺たちは顔を見合わせた。
「ごめん!ナナちゃん!」
「すみませんでした!」
「すまん!暴れてたらテーブルに当たっちまって、落ちたのかも・・・」
3人で土下座する。
俺は<伏せ>の態勢になった。
・・・大の男が情けない・・・
「やっぱり暴れてたんじゃない」
ナナはため息を漏らした。
風が幾分落ち着いてくる。
「どうせ、ジェイドがまたキレたんでしょ?・・・ほんとに短気なんだから」
「おまっ・・!俺が謝っむぐぐっ・・」
ランスとロックに口を塞がれた。
「何よ?」と振り向くナナに2人は笑顔で「何でもないです」と答えている。
「ちゃんと片付けておいてよね。それからジェイドはもう少し反省しなさい」
ぴしゃりと言い放つと、魔女は部屋から出て行った。
ほっと胸を撫で下ろす男たち。
「・・・やばかったね」
「・・・はい。ナナさん、お早いお帰りでしたね」
「飛んで帰って来たんじゃねーの?この頃、あいつ<風>の使い方上手くなってるし・・・」
そう。ナナの方もあの一件以来<回復の力>と<風>が使えるようになってしまった。
このアホもキレると風の力を発動させる。
以前、大喧嘩した時は嵐が来たかと思うほど、城中が揺れた。
しかも、俺の部屋の窓は全壊。
俺は吹っ飛ばされ、中庭の木にぶち当たり、三日三晩うなされた。四日目にしてやっと機嫌を直したナナが回復してくれたのだが・・・
あれ以来、こいつを怒らせてはいけないと固く心に誓ってもいた。
「まったく・・・。困った能力だぜ」
「本当。本当」
割れたコップの破片を拾いながら、ランスは頷いている。
俺は自分の服を咥えるとそれを背中にかけた。
「ちょっと、機嫌とりにいってくる」
「よろしくお願いしますよ、指揮官」
「ああ」
頷くとナナの匂いを辿った。
いつもと同じ、バルコニーへ辿りつく。
「・・・ナナ」
「・・・なぁに?反省した?」
「した」
バルコニーのベンチに座る魔女の横に飛び乗る。
ナナは俺の頬を撫でた。
「キレちゃダメよ?・・・私はこの姿も好きだけど」
「・・・分かってるよ」
頷くとナナの顔が近づいてきた。唇を重ねる。
「ん・・・ジェイド・・・」
元に戻った途端、ナナの唇を激しく吸ってやった。
こいつのご機嫌をとる一番の方法、それは激しく口づけすること。抱きしめること。これに限る。
「ナナ・・・愛してる」
「私も・・んんっ・・」
口づけの合間に漏れる声が艶めかしい。
まだ陽は高いが・・・午後からは特に大事な仕事は無かったはずだし・・・。
「・・・ナナ」
ドレス越しに胸を触った。
びくりと彼女の身体が震える。
本当にこいつは感じやすい。
「・・・いいか?」
こくんとナナは頷くと、彼女のほうから口づけてきた。
ベンチの上に落ちている俺のシャツを拾う。
「じゃあ、早く着て、部屋に帰ろう?」
「ああ、分かった」
口の端を上げ、シャツとズボンを身に付けた。ナナの手を握る。
「早く早く」
「待てって」
急かす魔女が愛おしい。
以前よりもだいぶエロくなった。
・・・俺のせいかもしれないが・・・
「もう!早く~!」
言うとふわりと身体が浮いた。
・・・ナナ、<風>使ってるし・・・
あっという間に部屋に戻ると、片づけをしていたランスとロックを<風>で追い出した。
廊下で二人の悲鳴が聞こえる。
・・・頭でもぶつけたか?後で謝っておこう。
「ジェイド」
ベッドの上にちょこんと座っている魔女。
苦笑すると俺はさっき身に付けたばっかりのシャツを脱いだ。
いそいそと嬉しそうに魔女もドレスを脱いでいく。
「・・・本当に、いつからこんなに大胆になったんだ?」
「ジェイドのせいだもん」
俺に抱きつきながら魔女は答えた。
「ジェイドがイロイロ教えてくれるから・・・エロくなっちゃったんだもん」
「そ~かそ~か」
魔女を組み伏せながら俺は笑った。
「んじゃ、もっとエロくしてやろうかな」
「えっ・・・ちょ・・・ジェイド?!だっ・・・あ・・・あーーー!!」
かわいい声を聞きながら、穏やかな午後の陽はゆっくりと傾いていった。
Fin
これで「魔女の涙」はおしまいです。
最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。
ご感想やメッセージなどをくださった方、評価をくださった方、ほんとうに感謝感謝でいっぱいです。
また次回作でお会いできることを願っております。
merry christmas & a happy new year
中原 やや