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十九話




 ここは‥‥どこだ? 確か‥‥闇忍と戦っていた様な‥‥あっ、そうだ。浅野さんが助けに来てくれたんだ。浅野さんが来なかったら、俺‥‥死んでたよな。そうまでして、なんで‥‥なんで戦ってたんだろう。







 来栖は激しい頭痛を感じて目を覚ます。目を開けた先には嬉しそうに微笑む里穂の姿があり、来栖はそれを見ているだけで安心できた。


「浅野さん‥‥」


 あれ? 何て言おうとしたのか忘れちゃった。


「来栖、なんであんな無茶してたのよ!! もう少し、自分を大切にしなさい」


「す、すいません」


 すごい剣幕で怒られ、来栖は身を縮こまらせて謝る。来栖はゆっくりと体を起こすと、第一に自身の体の様子を一通り確認した。


「大体は治したわよ。足を治すのに魔力使っちゃって細かい傷は残ってるけど、魔力が回復したらすぐ治すから我慢してよね」


 里穂の言う通り、来栖の身体中にあった生々しい怪我はほとんどがなくなっており、万全に近い状態まで回復していた。


「あぁ、ありがとな」


 すげぇーな。前にあった時よりもかなり強くなってる気がするけど‥‥気のせいか。あれからたいして時間経ってないしな。


「脚の筋肉がズタズタで元の形に戻すの大変だったんだから。私に感謝しなさいよね」


 里穂は腕を組み眉をひそめる。


 羅刹一閃を二回使ったからか‥‥いや、それ以上にフルパワーで使ったのがまずかったか。これからは気をつけないとな。


 来栖は足に力を入れたり、抜いたりして筋肉の動作に問題がない事を確認すると跳ね上がり立ち上がる。


「浅野さん、俺はどんくらい寝てた?」


 やや明るくなり始めている空。来栖が戦っていたのが夜中だから最低でも二、三時間。下手したら来栖は一日以上寝ていた事になる。


「そうねー、大体四時間くらいかな? それがどうしたのよ」


 来栖は脳裏でルークらを思い浮かべる。


 まだ、なんとか間に合うか。怪我はないものの回復した魔力は僅か、ギリギリ戦えるくらいだな。


 ルーク達の後を追うために太陽探す来栖を里穂が不審そうな目で見ていた。その時、来栖は何気ない事に気がつく。


「浅野さんって、朱莉に頼まれてここに来たのか?」


 知ってるの、って言ったら朱莉くらいしかいないからほぼ確定なんだけど、朱莉は王都にいるって言ってたよな。


「そうだよ。朱莉がわざわざ電話してまで頼んでくるから仕方がなく来たのよ。そうしたら、来栖が倒れていてびっくりよ」


「朱莉とは別行動をしてるのか?」


 仲のいい二人がわざわざ離れる様な理由が見つからないんだよな。


「うん‥‥」


「なんで?」


 来栖は間髪入れずに返すが言い終えてから、落ち込んでいる様に見える里穂に遠慮しなかった事に少し後悔する。


「‥‥探してたのよ」


 里穂はうつむいたままボソッと呟く。


「探してた? 何をだ?」


 里穂は来栖の問いに答えず、来栖に背を向けて歩き出す。


 おいおい、答えてくんねぇのかよ。って言うか‥‥あいつ、死にかけの状態で‥‥俺に、告白してたな。いや、俺に返事を求めていた、って言うより遺言みたいな感じだったか‥‥違う、こんな事考えてる場合じゃないんだ。早く、ルーク達の助けに行かないと。


 来栖は荷物を軽く確認すると、歩き去った里穂を探しに行く。里穂が消えた方へしばらく歩くと樹に体重を預け、たそがれている里穂の姿があった。少し離れた位置でそれを見つけた来栖は里穂の真面目な顔つきを見て足を止める。


 こんな所まで来てたのかよ‥‥浅野さんのあんな顔、初めて見たな。何、考えてるんだろう?


 何て声をかければいいのか、わからなくなった来栖はただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。数分が経過した頃、里穂が元の場所に戻ろうとして振り返った際に来栖を発見する。


「えっ、来栖? いつから、いたの?」


「‥‥少し前からいた」


「そんな所で私の事盗み見ちゃって〜、何で声かけなかったのよー」


 いつもと変わりない里穂の態度に来栖は安堵する。


「そりゃー、あんな真剣な顔されてたら声もかけにくわな」


 来栖がさりげなく里穂に何を考えていたか言うように促すが、返事は返ってこなかった。


「で? わざわざ、ここまで来たのは何でなのよ?」


 あぁ、本題を忘れかけてた。


「俺は今、ある人の護衛をしているんだけど、まだ追っ手が来るかもしれないから早めに合流しようと思う。浅野さんも来るか?」


 連れて行きたくない、これが来栖の本音だった。だが、このままここに放って置くわけにもいかず、来栖は里穂がノーと言うのを期待しながら答えを待つ。


「追っ手、ってさっき来栖が戦ってたのもそうなの?」


 やっぱり、闇忍は怖いか。あんな化け物と戦おうとか思える奴、いねえよ。まぁ、俺はまた戦いに行くんだけどな。


「あぁ、そうだ。もうかれこれ‥‥五回、襲われてる。全快の状態なら普通に戦えるけど、連戦になったら浅野さんの命の保証は出来ない」


 恐らく、自分の事で手一杯になるだろうからな。


 来栖はそう付け足そうとしたが、これ以上里穂に不安を与える事恐れて思い留まる。


「そう‥‥で? 危ないから私が逃げるとでも思った? 一緒にいる私にまで危険が及ぶって事は、それ以上に来栖が危険、って事でしょ? もし私がいなかったら誰が来栖の回復をやるのよ」


「っう‥‥」


 来栖は自分を想って命懸けで助けてくれる里穂に胸を打たれた。それと同時に、もし里穂の事を守れなかったら‥‥そう考えてしまい、自然と握っていた拳に力が入る。


「どうしたのよ? 仲間が危ないんでしょ? 早く行こうよ」


 晴れやかな顔をした里穂がいざなう様に来栖の先を歩く。その場に置いていかれた来栖は誰に言うわけでもなく、自分自身への誓いを口にする。


「浅野さんは絶対に守ろうっと」


 たったそれだけで来栖の心は軽くなり、笑顔を浮かべた来栖が急いで里穂の後を追う。




 来栖と里穂が出発してから五時間程が経ち、ようやく二人は長く続いた森を抜けた。来栖も病み上がりで体力が落ちていたが、里穂とのレベル差があるからかそこまで疲れてはいなかった。


 ‥‥浅野さんのペースに合わせているけど、この分ならそのうち追いつきそうだ。ただ、問題は‥‥どうやって合流するか、だな。地図もフレイに渡しちまったし、今どこにいるかすらわかってねえ。


「ねぇ、本当に合流出来るの? こんな当てずっぽうじゃ、追い抜かしちゃうんじゃないの?」


 後ろを歩いていた里穂が来栖の横に並び、顔を覗き込む。元気そうに装ってはいるが、その額からは汗がとめどなく流れていた。


 そろそろ浅野さんも限界か。そう言えば、途中で廃村に寄ろうって話してたな‥‥場所は、森を抜けてすぐの所だったはず。行く価値はあるな。


「近くに廃村があるからそこで一度休もうか」


 里穂は一瞬、口を開けて喜ぶがすぐに閉じてうつむく。


「どうした?」


「いや‥‥私は、まだまだ歩けるからね」


 俺に気を使われてると思ったのか。まぁ、半分は正解か。


「その廃村に寄ろうって仲間と話してたから、うまくいけば合流できるかもな」


「そういう事はもっと早く言いなさいよ」


 自分の強がりがバレている、と思った里穂は少し怒り気味に言う。来栖はいきなり里穂の声のトーンが変わった事に驚く。


 えっ? なんでそんなに怒るんだ?


 あまりゆっくりしているわけにもいかず、来栖はブリュッセルで見た地図を懸命に思い出す。


 ここは多分、真っ直ぐ森を抜けた所。だとすると‥‥


「森の外側を沿って北上する。そうすれば、平野に見えるはずだ」


「そう。なら、早く行き──」


 森の中から何かが近づいて来る。来栖はすぐにククリナイフを抜くとかばう様に里穂の前に立つ。森の中から一体の虎が姿を現わす。


 ただの魔物か。だけど、雑魚ではなさそうだな。


閲覧リサーチ




 ベラーレタイガー レベル61


 種族・・・・獣族ビースト

 属性・・・・無




 少し苦戦しそうだな。逃げるか? いや、浅野さんを連れて逃げるのはは無理そうだ。


「六十? 大丈夫‥‥なの?」


 来栖の後ろにいた里穂は後ろから表示されているベラーレタイガーのステータスプレートを覗き込むと、予想以上のレベルの高さに息を呑む。


「余裕だ」


 ベラーレタイガーが二人に向かって走り出すと、来栖も同じ様にベラーレタイガーに向かって走り出す。衝突直前で来栖は右に大きく跳んでベラーレタイガーの爪を躱すと、がら空きになった腹にナイフを突き立てる。痛みに我を忘れて暴れるベラーレタイガーの攻撃を来栖は難なく避けると、腹に刺さっていたナイフを一気に引き抜き、距離をとった。


 ビーストとの戦いには慣れてるし問題はなさそうだな。に、しても異様に体が軽いな。ナイフも簡単に刺さったし、闇忍との戦いでレベルが上がってたか。後で確認しなきゃな。


 再びベラーレタイガーが来栖に向かって来る。


「一気に終わらせますか」


 手に持っていたククリナイフをベラーレタイガーに向かって全力で投げると、ベラーレタイガーの右目に深々と刺さる。ベラーレタイガーの動きの止まってる間に、四本のナイフを取り出すとそのうち二本を手に持ち、飛び込む。


「四連流舞!!」


 来栖は里穂の目ではわからないほどの早さでベラーレタイガーに四本のナイフを腹に喰らわせる。重要器官を潰されたベラーレタイガーは悶えながらも次第に弱って息絶えた。


 以前とは比べものにならないくらい、速くなってる。どんだけレベルが上がってるんだろうか。


 来栖が自分のステータスプレートを開こうとすると、里穂の視線に気づく。


「来栖‥‥強くない?」


「まぁ、な」


 里穂にステータスプレートを見せたら面倒な事になりそうだな。廃村に行ってから一人で見た方が賢明か。


 来栖は体の前に出していた右手を下ろすと、消費したナイフを回収すると、付着していた血や油を拭き取る。


「じゃあ、廃村に行こっか」


 二人は廃村目指して再び歩き始める。





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