第一話「仁義なき宅配便」2
第二章 カチコミ・デリバリー
東帝都・神宿の北エリア。 かつては倉庫街だったこの一角は、今や再開発の波から取り残され、アンダーグラウンドな勢力が巣食う「極彩色の闇」となっていた。 その中でも一際異様な威圧感を放つ、黒塗りの雑居ビル。 窓はすべてマジックミラーで覆われ、入り口には監視カメラと魔術的な結界装置が仰々しく設置されている。
新興武闘派組織『赤蛇会』の本部事務所。
「……ここです」
先導していた霊体のタカシが、ビルの前で立ち止まり、震える指で入り口を指差した。 彼の顔色は、死人であることを差し引いても蒼白だった。生前の恐怖、殺された瞬間の痛み、そして妹・サクラが連れ込まれたという絶望が、彼をその場に縛り付けている。
「サクラは……この地下の倉庫に……」
「わかった。案内ご苦労さん」
ジン(夜刃迅)が、タカシの隣に並び立った。 彼は、愛用のライダースジャケットの襟を正し、首をコキコキと鳴らした。 その瞳には、獲物を前にした肉食獣の愉悦と、理不尽に対する静かな怒りが混在している。
「おい、キリコ。……インターホンは必要か?」
ジンが、背後の相棒に問う。 キリコ(九十九霧狐)は、パーカーのフードの下で呆れたように、しかし口元にはニヒルな笑みを浮かべて肩をすくめた。
「必要ないわ。……どうせ『お断り』されるに決まってるもの」
彼女は、指で作った『狐の窓』越しにビル全体をスキャンしていた。 内部には約30名の生体反応。その全てが武装し、殺気を放っている。 まともな交渉が通じる相手ではない。
「なら、話は早い」
ジンが、右足に力を込めた。アスファルトが軋む。 彼の背中で、不可視の黒い翼がバサリと展開される気配がした。
「開けるぞ」
ドォォォォォン!!
爆発音のような轟音が、路地裏に木霊した。 ジンの一撃――単純な前蹴りが、強化ガラスと鉄板で補強された事務所の自動ドアを、蝶番ごと吹き飛ばしたのだ。 ひしゃげたドアがロビーの奥まで滑っていき、高価そうな壺を粉砕して止まる。
「な、何だァ!?」
「カチコミかッ!?」
ロビーにいた組員たちが、怒号と共に立ち上がる。 紫色のスーツ、金色のネックレス、そして全身に彫られた蛇の刺青。彼らは一斉に懐から得物を取り出した。 ドス、特殊警棒、そして闇ルートで流通している違法な「魔導銃」。
粉塵が舞う入り口から、四つの影が堂々と足を踏み入れる。
「お届け物でーす!」
ジンが、瓦礫を踏みしめながら、よく通る声で叫んだ。
「テメェらに……『地獄行きの切符』をお持ちしました!」
「ふざけやがって……! 殺せッ!」
組長代理らしき男が叫び、魔導銃の引き金を引く。 赤いマズルフラッシュ。 殺意の弾丸が、一直線にジンたちへと殺到する。
「シェン、右翼! ……弾幕を散らして!」
キリコの冷静な指示が飛ぶ。 彼女は戦闘には参加せず、一歩引いた位置から戦場全体を俯瞰していた。その瞳は、すでに敵の配置、弾道、そして数秒後の未来までを見通している。
「へいへい。……人使いが荒い狐ね」
沈 黒燼が、気だるげに前に出た。彼女は、迫りくる魔力弾の雨を見ても、煙草を吸う手を止めない。 ただ、左手が腰の直刀の柄に触れただけだ。
「……邪魔よ」
ザンッ!!
抜刀の動作さえ見えなかった。 ただ、空間に黒い線が走った。
固有能力《断界刃》。
物理的な距離と座標を無視した斬撃が、空間そのものを切り裂く。飛来していた銃弾が、空中で真っ二つに割れ、力を失って床に落ちた。それだけではない。 銃を構えていた組員たちの魔導銃が、一斉に銃身から切断され、バラバラと崩れ落ちたのだ。
「あ、あァ!? 俺のチャカが!?」
「な、何をしたんだコイツ!?」
驚愕に凍りつく組員たち。シェンは、刀を鞘に納めることすらせず、切っ先を彼らに向けた。
「次は、その指を貰うわよ?」
「ひっ……!」
「ルカは後方支援! ……誰も死なせないで!」
キリコの次なる指示。
「はいっ! お任せください!」
ルカ・ノクスが、大きなリュックを背負ったまま、戦場の真ん中へと駆け出した。 彼女は、恐怖で震えているのではない。「誰かが傷つくこと」を恐れて、走っているのだ。
「私は全体の指揮を執る! ……ジン、中央突破! 道を開けなさい!」
「おうよッ!!」
ジンが吼えた。 背中のライダースジャケットが裂け、漆黒の翼が物理的に顕現する。 鋼鉄の羽根が擦れ合う、キィンという鋭利な音。
「どきな、雑魚ども!」
ジンが地面を蹴る。 『堕天の斬撃』。彼は低空を滑空するように突っ込み、翼を回転ノコギリのように振るった。
「ギャアアアアッ!?」
防御陣形を敷こうとしていた組員たちが、まとめて吹き飛ばされる。 骨が砕ける音、壁に叩きつけられる衝撃音。だが、ジンは急所を外している。 あくまで「無力化」するための、精密な暴力。
「ば、化け物だ……!」
「撃て! 撃ちまくれ! 女もガキも関係ねえ!」
パニックに陥った残りの組員たちが、無差別に発砲を始めた。 狙いはジンだけではない。 後方にいるキリコや、無防備に見えるルカにも弾丸が飛ぶ。
「あぶねえ!」
ジンが翼でカバーに入ろうとするが、間に合わない。 数発の魔弾が、ルカの華奢な身体を捉えた。
「当たったぞ!」
組員が歓喜の声を上げる。だが、その声はすぐに驚愕へと変わった。
カァァァァッ……!!
ルカの周囲に、黄金色の光が溢れ出したのだ。 それは、弾丸を弾く障壁ではない。弾丸そのものを、光の粒子へと分解し、無害化する聖なるオーラ。
固有能力《黎明の恩寵》。
「……え?」
組員たちが目を白黒させる。 ルカは無傷だった。それどころか、彼女は光を纏ったまま、流れ弾に当たって呻いていた敵の組員に駆け寄ったのだ。
「あ、あの……! 怪我してますよ!?」
ルカは、敵であるはずのヤクザの腕に手を当てた。
「手当てしますね! ……痛いの、飛んでけ!」
光が、ヤクザの傷口を包み込む。 見る見るうちに傷が塞がり、骨折が治癒していく。 さらには、長年の不摂生による腰痛や肝臓の数値まで改善されていくような、圧倒的なヒーリング。
「な、なんだこの娘……!?」
手当てされたヤクザは、ポカンと口を開けたまま、戦意を喪失してその場にへたり込んだ。 毒気を抜かれた、というレベルではない。聖母のような慈愛を浴びせられ、暴力衝動そのものを「浄化」されてしまったのだ。
「こっちの人も! 大丈夫ですか!?」
ルカは戦場を駆け回り、ジンやシェンが殴り倒した敵を、片っ端から回復させていく。 殴られる→治される→「ごめんなさい」と謝られる。その理不尽なまでの優しさに、凶悪なヤクザたちが次々と戦意を喪失し、武器を捨てていく。
「な、なんなんだコイツら……!」
「勝てねえ……! 殴っても無駄だし、殴られたら治されるし……!」
恐怖と混乱、そして奇妙な感謝の念が入り混じり、赤蛇会の組織統制は完全に崩壊した。
「……ははっ。こりゃ傑作だ」
ジンが、翼を畳んで笑った。 圧倒的な暴力と、規格外の慈愛。そして、それらを完璧にコントロールする頭脳。
「終わりだ。……サクラの居場所を吐け」
ジンが、組長代理の胸倉を掴み上げた。男は、もはや抵抗する気力もなく、震える指で地下への階段を指差した。
新生・黒狐便の初陣。 それは、一方的な蹂躙劇であり、同時に誰一人として死者を出さない、奇跡のような救出劇となった。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




