#04-01-04
時は遡り、皇国暦1566年1月29日トーミ宙域―――
ヒゴット・ザッカー星系は、第七惑星と第八惑星の間に広がる、広大な小惑星帯がこの星系の特徴である。これを構成する小惑星の密度には、場所によってかなりのバラツキがあり、希薄な場所はほぼ何もない空間。逆に濃密な場所は、小惑星同士が衝突を繰り返すほどの、偏り方を見せている。これは太古の昔、この星系を公転する二つの惑星が、外宇宙から来た自由浮遊惑星と衝突し、三つともが砕け散った結果だと言われていた。
トクルガル軍の天才パイロット、ティガカーツ=ホーンダートが乗る『カヅノーVC』は、中隊の僚機と共にその濃密な小惑星群の一つにいる。
青灰色の小惑星の一つに背中からもたれかかるような姿勢で、敵を待ち受けている『カヅノーVC』のコクピットでティガカーツは、いつものように地元のアイドルグループの唄をBGMに、自分達の母艦部隊であるトクルガル軍第8艦隊と、BSI部隊長機との通話をぼんやりと聞いていた。
「こちら“ジェリーフィッシュ0100”。“マスター・ワン”はどうか? 状況知らせ」
「“エイト・ザ・ナイト”より“ジェリーフィッシュ0100”。“マスター・ワン”は星系最外縁部に間もなく到達。即時統制DFドライヴに入る予定」
“そっかぁ。もう少しかぁ、イェルサス様―――”
リズムに合わせて操縦桿を指先で軽く叩きながら、ティガカーツは緊張感もなくそう考えた。戦闘中以外はいつも茫洋としているように見えるティガカーツだが、主君イェルサスへの忠義には揺るぎないものがある。ティガカーツが今ここにいるのも、タ・クェルダ軍との遭遇戦に不利な状況となり、撤退を決めたイェルサスの主力部隊を逃がす、殿軍の役割を果たすためだ。しかし―――
“でもなんでウチの部隊ってコールネームが、ジェリーフィッシュ(くらげ)なんだろう…”
…などと、同時に考えてしまうのもまた、ティガカーツである。
とその時、味方の親衛隊仕様『リュウビRC』の一機から、声が上がる。
「敵BSI部隊発見! 正面から来るぞ!」
トクルガル側は小惑星帯内にBSI部隊二段、その後方の小惑星帯外に第8艦隊という、三段構えの防御陣を引いていた。これに対してタ・クェルダ軍の先鋒部隊は、艦隊を突破させるにあたり宇宙艦のみの突撃ではなく、BSI部隊を前面に先行させて来たようだ。
「うん。なかなかやるね」
そう呟くティガカーツが今回所属している第8艦隊の司令官、ダルケス=オークボランはタ・クェルダ軍追撃部隊が、イェルサスの主力部隊を追撃するためにこの小惑星帯を、艦隊だけで強行突破すると予想。対艦装備したBSI部隊を小惑星帯に潜ませて、待ち伏せする作戦をとった。
しかし敵の先鋒部隊司令官はそれを見抜き、BSI部隊を先行させて来たようである。BSI部隊同士の戦いとなれば、対艦装備のトクルガル側が不利だ。敵は自軍のBSI部隊を置き去りにしても、小惑星帯を突破しようというのだろう。そこに部隊長のベルナルス=ナイトが命令を下す。
「全機、迎え撃て!」
接近するタ・クェルダ軍BSI部隊に、三段の防御陣の一段目が、小惑星帯から一斉に飛び出した。たちまち混戦模様となる両軍の人型機動兵器。しかしこの状況でティガカーツが指揮を執る、二段目の第2部隊は待機したままである。これに気付いた部隊長のベルナルスが、通信を入れて来る。
「“ジェリーフィッシュ0200”、どうしたティガカーツ。全機攻撃開始の命令が聞こえなかったのか!?」
ベルナルス=ナイトはティガカーツと同期にあたり、トクルガル家一のパイロットと認められるようになったティガカーツにも、遠慮はない。対するティガカーツは、普段ののんびりとした口調の中にも、真剣さを交えて応じる。
「いや。まだだよ、0100。次が…本命が来る」
「本命が?…!?」
次の瞬間、近付いて来るタ・クェルダ軍宇宙艦隊の先鋒部隊から、超高速で飛来する物体が多数現れた。長さは約40メートル、直径は約20メートルでラグビーボールのような形状だ。それらは百基以上はあり、両軍BSI部隊の戦場を貫いて一直線に向かって来る。
「タ・クェルダの『騎兵団』だ!」
隊内通信で誰かが叫ぶ声がする。重装甲突撃艇で戦闘空域まで一気に突っ込んで来る、タ・クェルダ軍『騎兵団』は敵において、常に恐怖と共に語られる存在だ。
第二部隊のBSIユニット『リュウビ』が数機、小惑星帯の入り口から超電磁ライフルで狙撃するが、びくともしない。そのまま突入して来た重装甲艇は、激突した小惑星すら粉々に砕き、次々に所定の位置に到達。重装甲の外殻をパージする。そして突撃艇の中から姿を現したのは、背中合わせに格納されていた、まるで中世の騎士を思わせる姿をした、三機のBSIユニットだった。
タ・クェルダ軍BSIユニット、騎兵団仕様『シラヌイ』である。
▶#05につづく




