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銀河戦国記ノヴァルナ 最終章:ゆめ幻の如くなり  作者: 潮崎 晶
第1話:銀河無双のポジトロンランス
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7/20

#04-01-03

 

 マーディンとの模擬戦を終えてギーフィー城へ戻ったノヴァルナは、執務室に入るなり、待ち受けていた副官のラン・マリュウ=フォレスタから、タ・クェルダ家上洛軍に関して、良くはない報告を受けた。


「そうか…イェルサスの奴は、撤退したか」


「はい。派遣部隊のザクバー様のお話では、トクルガル軍は本拠地ハーマット星系まで撤退。おそらく防衛戦力を集中しての、星系籠城戦となるであろう…と」


 ランの報告を聞き、ノヴァルナは「そうか」と応じる。同盟軍の敗北の報でありながら、その表情に驚きや動揺は無い。タ・クェルダ家上洛軍に対する、トクルガル家の迎撃計画を聞いた時から、トクルガル家には勝ち目の薄い戦いとなる事が、予測されていたからである。味方に対しての冷徹な判断だが、双方の戦力状況を鑑みれば、仕方のない話であった。



 戦闘自体は一日前にトクルガル領トーミ宙域の、ヒゴット・ザッカー星系で行われた。タ・クェルダ家当主である、シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダ直卒の上洛軍本隊が、トーミ宙域当地の要衝フッターマット星系の攻略に動いている事が確実となり、その迎撃にイェルサス=トクルガル自らが出動したというものだ。


 しかしながらこの時、トクルガル家が統治するもう一つの宙域、ミ・ガーワにもタ・クェルダ軍のアルトモス=ヴェガータ率いる第二部隊が侵攻しており、トクルガル軍はこちらにも戦力を割かなければならなかった。

 元から総戦力的に劣勢だったトクルガル家だが、さらに当初から恐れていた通りに、侵攻して来たタ・クェルダ軍に対し、抵抗せずに寝返る独立管領が続出。逆にタ・クェルダ側の先鋒となって、トクルガル軍に攻撃を仕掛けて来る事態となったのである。


 それならばなぜ劣勢でありながらトクルガル軍は、積極的な迎撃に出たのか、それはやはり、タ・クェルダ軍をこれ以上野放しにし、さらなる独立管領の離反や、領民の動揺が広がる事は、避けなければならなかったからだ。

 以前にも述べた通りトーミ宙域は、かつてはイマーガラ家の支配領域であった。そのイマーガラ家が“フォルクェ=ザマの戦い”でウォーダ家に大敗し、没落して以降はトクルガル家が台頭して来たわけだが、イマーガラ家に忠義を示していた独立管領の多くが、先日まで自分達と同格であったトクルガル家に従う事に、不服を抱いていたのは否めない。そういった勢力に対する、トクルガル家の統治者たらんとする決意を示すためにも、ここは多少の無理筋は通して迎撃戦を仕掛ける必要が、イェルサスにはあったのである。

 

「ま。星大名にゃあ、時には面子も大事(でぇじ)だからな。因果な商売さ」


 椅子の背もたれに上体を沈ませながら言い放つノヴァルナ。ただぶっきらぼうな物言いとは裏腹に、内心ではイェルサスの統治者としての苦労を慮る。かつてのイマーガラ家に代わり戦国最強と呼ばれるようになった、タ・クェルダ軍相手に意地を見せるのはいいが、あまり盛大に負けると、不満を抱く独立管領達には逆効果でしかないからだ。


 ノヴァルナは上体を背もたれに預けたまま、長い脚を組んでランに問い掛けた。


「それで? イェルサスの奴の、負けっぷりは分かるか?」


 これにランは「はい」と応じ、手にしたデータパッドの画面に視線を落とすと、ウォーダ家派遣部隊司令シンモール=ザクバーからの、報告の続きを読み上げる。


 それによると当初のトクルガル軍は、トーミ宙域フッターマット星系攻略を目論む、タ・クェルダ家上洛軍の先鋒部隊に対しての、威力偵察を主目的とした迎撃行動であったという。

 BSHO『カヅノーVC』を操る天才パイロット、ティガカーツ=ホーンダートを含む威力偵察部隊だったが、タ・クェルダ軍先鋒部隊の侵攻速度は。トクルガル軍司令部の想定以上であり、約240光年―――統制DFドライヴ二回分も早く、遭遇してしまったようだ。


 威力偵察部隊と先鋒部隊の戦場となった、ヒゴット・ザッカー星系にイェルサスの直卒部隊が到着した時には、タ・クェルダ軍はすでにシーゲン・ハローヴ=タ・クェルダ率いる、主力部隊全軍が加わって戦闘しており、威力偵察部隊は圧倒的に不利な状況となっていた。まさに“疾(はや)きこと風の如し”である。


 衆寡敵ならず、戦線の立て直しは不可能と判断したイェルサスは、自軍の損害が拡大する可能性ばかりが高い事から、早々に撤退を決断した。これに対しタ・クェルダ軍は空母戦力中心の機動部隊で、大規模な追撃戦を仕掛けて来たらしい。

 するとこれを聞いたノヴァルナは、眉間に皺を刻んだ。タ・クェルダ軍の空母機動部隊と言えば、周辺宙域にその名を知らぬ者はいない、『騎兵団』の搭載艦を主力に据える、高い戦闘力を備えた部隊であり、トクルガル軍は撤退中に、相当な損害を出したのではないかと思ったのだ。



 ところがランの述べる報告の続きは違っていた。殿軍(しんがり)を務めた天才パイロット、ティガカーツ=ホーンダートと彼が所属するBSIユニット部隊による、無双の防御戦闘である。





▶#04につづく

 

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