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銀河戦国記ノヴァルナ 最終章:ゆめ幻の如くなり  作者: 潮崎 晶
第1話:銀河無双のポジトロンランス
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6/20

#04-01-02

 

「でやぁあああっ!!」


「おおおおおっ!!」


 模擬戦であっても実戦と寸分違わぬ気迫で、ノヴァルナとマーディンは、得物を幾度となく打ち合う。刃が重なる度に鮮烈な火花が散る。そのあまりの激しさに、互いは得物を振るう手が止められない。止めて機体を引かせた瞬間に、実戦なら致命的な一撃を喰らうのが、分かるからであった。上級者同士の千日手といったとこであろうか。


 すると二人の機体は、刃を交えるうちに移動し、バサラナルムの氷のリングに再び近付いた。二機に迫る白い氷塊、ノヴァルナはフットペダルを操作し、マーディンの刺突を躱しながらも絶妙の機体制御、接近して来た氷塊の表面ギリギリを、寝そべるようにしてやり過ごす。

 それに対し、マーディンは氷塊との相対位置から、刺突を放ったところで機体を上昇させた。ノヴァルナはすかさず鑓を宇宙空間に手放し、超電磁ライフルを掴み取って、トリガーを引く。ただマーディンも直線的な上昇はしていない。旋回を加えた機体機動に、ノヴァルナが放ったペイント弾四発は、虚しく宇宙空間を貫くだけだ。


 しかしノヴァルナもこの程度で、マーディンを仕留められるとは思っていない。銃弾を放ってすぐに、今度はライフルを宇宙空間に放り出して、宇宙空間を漂うに任せていたポジトロンランスを引っ掴むと、すでに『テンライGT』へ向け、矢のように吶喊していた。



 ノヴァルナが乗っている試作機は、RRD-46F-X2。昨年の秋口にプロトモデルとして開発されていた、RRD-45F-X1をさらに改良した機体だ。

 前モデルX1はBSIユニットのメーカーである、オ・ワーリ宙域のガルワニーシャ重工と、ミノネリラ宙域のルモ・イル・インダストリアルが共同で開発したものであった。そして昨年冬に入り、この次期ノヴァルナ専用機開発計画に加わったのが、皇都惑星キヨウに本社を置く、ミッド・ビスタ航宙工業である。


 ミッド・ビスタ航宙工業は、銀河皇国軍やヤヴァルト宙域とその周辺星大名家向けに、BSIユニットのベストセラー機である、『ミツルギ』シリーズを開発・製造販売している、銀河皇国最大手のBSIメーカーだった。さらに『ミツルギ』のような量産型BSIユニットだけでなく、ノヴァルナとの戦いで『センクウFX』を圧倒した、あの前星帥皇テルーザの専用機『ライオウXX』や、『ヴァンドルデン・フォース』のベグン・ドフ専用機、『リュウガDC』も開発した実績がある。

 

 そんなミッド・ビスタ航宙工業が、次期ノヴァルナ専用機開発計画の存在を知って、参加を申し入れて来たのだが、これは実は亡きテルーザ・シスラウェラ=アスルーガの遺志であった。


 シグシーマ銀河系に秩序と安寧を取り戻したいという、共通の志によってノヴァルナと友人関係になったテルーザは生前、自分に万が一の事態が起こった場合、二人が友人となったきっかけである専用BSHO、『ライオウXX』の機体データをウォーダ家に供与するよう、ミッド・ビスタ航宙工業に働きかけていたのだ。

 ただミッド・ビスタ航宙工業は、巨大コングロマリット企業のミッド・ビスタグループの一部であり、グループ全体の日和見主義的方針が、ウォーダ家へのデータ供与を引き止めさせていたのである。


 これに対して『ライオウXX』の開発スタッフは昨年秋、テオドールの遺志を尊重、実行するため、機体データごと亡命同然に、ウォーダ家が支配するオウ・ルミル宙域へ移り住んだのであった。

 かなり思い切ったスタッフの決断だったが、その決意の裏には、とある忸怩たる思いが込められていた。それは会社上層部の判断により、『ライオウXX』のデータが『アクレイド傭兵団』へ供与され、その結果テルーザのバイオノイドである、エルヴィスの専用機『メイオウSX-1』が誕生。テルーザの命を奪う事となったというものだ。


 彼等『ライオウXX』開発スタッフが加わった、次期ノヴァルナ専用機開発チームは、ミッド・ビスタ航宙工業の技術特性である、重力子スラスターとサイバーリンク効率の向上させた、改良型試作機を再開発。それが今回マーディンの『テンライGT』と模擬戦を行っている、RRD-46F-X2だ。

 ただし外装は仮のものであって、頭部についてはセンサー類は新型機用のものだが、親衛隊仕様特型の『シデン・カイXS-TF』の頭部が付けられていた。



「はあああッ!!!!」


 間合いを詰めて来た、ノヴァルナの試作機が繰り出すポジトロンランスを、自らの鑓の穂先であえて軽く弾き、カウンター気味に刺突を返すマーディン。その鋭さに脅威を感じたノヴァルナは、柄を握る手を放して機体を翻した。この動きにすかさず打撃を加えようと、マーディンは鑓を下方から薙ぎ払う。

 だがノヴァルナの試作機は、宇宙空間を円舞するような動きで打擲を回避した途端、急角度で突進し、クァンタムブレードで斬り掛かる。ミッド・ビスタ航宙工業自慢の重力子スラスター技術が、如何なく発揮されたのだろう。これまでの『センクウ・カイFX』より俊敏な動きだ。

 

「手強い。鑓の鍛錬を積まれましたな!」


 主君の腕前を評価しながらもマーディンは、試作機が繰り出す連続突きを、眼にも留まらぬ鑓捌きで悉く打ち払い、負けじとばかりに逆撃を放つ。全力をマーディンが出すと経験の差から、ポジトロンランスでの戦いは、ノヴァルナの方が押され気味となる。


「流石に強ぇな、マーディン!」


 防戦の割合が増える中で、独り言ちるノヴァルナ。ただその表情には、複雑なものがある。実は試作機RRD-46F-X2にはまだ、反応炉出力に余裕が残されているのだが、機体の方が完全版ではないために、百パーセントの機体性能を発揮できない状態なのだ。しかし、試作機がそのような状態でありながら、あえてマーディンが得意な、ポジトロンランスでの格闘戦を選択するあたりが、ノヴァルナのノヴァルナたる所以だろう。


 とその時、鑓を打ち合う二機の横から、バサラナルムのリングを構成する氷塊の中でも、ひときわ大きなものが接近して来た。ゆっくりと縦回転しながら迫るそれは、ノヴァルナとマーディンの戦いを妨げるように近付く。すると次の瞬間、回転を続ける氷塊は恒星ミノミリアの太陽光を反射し、眩く輝いた。


「む!…」


 反射した光は、コクピットの全周囲モニターが光度調整を行う僅かな間、ノヴァルナとマーディンの視界を白く染め尽くす。これを好機と捉えた二人は、同時に勝負手の刺突を放った。宇宙空間で掠め合ったポジトロンランスは、互いに相手機の首の付け根を激しく突く。模擬戦であるから当然、ポジトロンランスの穂先には、陽電子フィールドを発生させていない。しかし鋭い先端部が表面装甲を抉り、金属片を飛び散らせた。


 モニターの幾つかが赤く点滅し、機体に重大なダメージを受けた判定結果を示し始める。だが決着はまだだ。そこからさらに“踏み込んで”『テンライGT』の脇腹目掛け、クァンタムブレードを薙ぎ払うノヴァルナの試作BSHO。


“手応えありだ!”


 瞬時に確信するノヴァルナ。ところが次の刹那、試作機のコクピットは激しく揺さぶられた。ヘルメット内にピーーーッ!…と、けたたましく鳴り響く被撃破判定音。モニターに眼を遣れば、『テンライGT』のブレードに脇腹を切り裂かれた判定が表示されていた。


「チッ!…結局相討ちかよ」


 脱いだヘルメットの中から、苦笑いを浮かべたノヴァルナの端正な顔が現れる。自分もマーディンもやはり最後は、“肉を切らせて骨を断つ”一手しか残っていなかったわけだ。ノヴァルナは『テンライGT』に通信を入れる。



「ここまでにしようぜ、マーディン。ありがとよ」




▶#03につづく

 

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