#04-01-00
皇国暦1566年1月30日、オウ・ルミル宙域アーザイル領・ノーザ恒星群/GY-3577093星系―――
「警戒プローブに艦隊反応! 星系外縁部セクター439…ウォーダ軍です!」
第四惑星に設置されたアーザイル軍補給基地の指令室に、オペレーターの緊張した声が響く。その報告に顔面を引き攣らせ、基地司令官の男は椅子から跳ねるように立ち上がった。
「ウォーダ艦隊だと!? なぜこんな所へ!?」
補給基地と言ってもこのGY-3577093星系は、アーザイル家と長年同盟関係にあるアザン・グラン家領近くに位置し、戦略的重要度はかなり低い。事実、基地司令の男は今日も退屈な一日を恙なく過ごし、定時で自室に引き上げようとしていたところだった。
「副司令、これは!?」
そう言って基地司令官が視線を遣ったその先で、副司令官はハッ!…と眼を見開いて思い当たった考えを述べる。
「これはもしや、近頃領域辺境を荒らし回っているという情報があった、“キノッサ遊撃隊”ではないでしょうか!?」
「輸送船や補給基地や修理工廠を、あちこちで襲っているという、海賊まがいの連中か。だがこの辺りに現れたという話は聞かんぞ」
「と、とにかく、どう致しますか? ここは後方基地ですので、迎撃できるような戦力は、ほとんどありませんが―――」
「敵の補給基地から、降伏する旨の連絡がありました」
やがて十分後、旗艦『ヴェルセイド』の艦橋で通信参謀が報告すると、司令官のトゥ・キーツ=キノッサはうんうんと頷き、笑顔を見せた。
「話が早くて助かるッス。この前みたいに、余計な血は流したくないッスから」
「はい。司令官が聡明な方で幸いです」
参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックが穏やかに言う。それにキノッサの義弟のヴェルナックが、苦笑いしながら応じた。
「単に臆病風に吹かれただけ、かも知れませんが」
これを聞いてキノッサは、自分の家紋である“銀河に千成り瓢箪”を描いたタペストリーを背後にして、ヴェルナックを見上げると、諭すふうでもなくさらりと明るく告げる。
「それでいいんスよ。命を惜しんで臆病なのは、悪いことじゃないッス」
“ノヴァルナ包囲網”の一翼を担う、アーザイル家とアザン・グラン家に対する牽制を、ノヴァルナから任されたキノッサは、麾下に加えられた五個艦隊を二十四の小艦隊に分け、“キノッサ遊撃隊”の名と共に、今日もノーザ恒星群とエテューゼ宙域で、後方攪乱作戦を展開中であった………
▶#01につづく




