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銀河戦国記ノヴァルナ 最終章:ゆめ幻の如くなり  作者: 潮崎 晶
第1話:銀河無双のポジトロンランス
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18/19

#04-01-14

 

 やがて一週間が過ぎ、家督継承の儀式と必要な手続きを終えたイェルサスは、イマーガラ家への出発準備に入っていた。


 対するティガカーツは、早くもイェルサスに対する興味を再び無くして、オルガザルキ城内にある、BSIユニットのシミュレーターエリアに入り浸っている。


 この頃のトクルガル軍では、イマーガラ家から供与された旧型のBSIユニットである、『サミダレ』を主力機として配備しており、ティガカーツはその親衛隊仕様機の『サミダレSS』のシミュレーターで、十二歳ながら大人のパイロット相手に、一対一はもちろん多対一でも無敗を誇っていた。


 そしてこの日もまた、六人のトクルガル軍正規パイロットを一人で打ち負かし、シミュレーターから出て来たティガカーツは、レストエリアでグレープジュースの紙パックに挿したストローを吸い上げている。


「ティガカーツ。やはりここにいたか」


 背後から叔父の声が聞こえ、振り向くティガカーツ。視線の先に立つタルーザの姿を認め、自分を探していた表情に、「なに? 叔父上」と応じる。するとタルーザは、ティガカーツにとっては訳の分からない事を言い出した。


「おまえ。すぐ帰って、荷物をまとめろ」


「は?…なんで?」


 この頃からすでに、“変人”呼ばわりされ始めていたティガカーツだが、それでも疑問に思う事は他所様と同じである。


「夜逃げ? 心当たりはないんだけど…叔父上、何かしたの?」」


「しとらんわ!」


 強めのツッコミを返したタルーザは、どこか嬉しそうにその理由を知らせた。


「若殿…イェルサス様がイマーガラ家に行かれるのに、同年代の家臣が何名か同行する事になってな。その中の一人に、おまえが選ばれたのだ!」


 対照的にティガカーツの返す言葉は面倒臭げだ。


「えー。いいよそんなのー。僕、パーーース!」


 この反応にタルーザは、こめかみに血管を浮かせて言い放つ。


「たわけ! これはイェルサス様の方からのご指名なのだ。“ホーンダート家の跡取りも連れて行かせて欲しい”とのなぁ。名誉なことだぞ!」


「………」


 その言葉にティガカーツは無言のまま、手指で側頭部をガシガシと大きく掻く。出迎えの時の余計なひと言で、イェルサスに眼をつけられたと思ったのだろう。


「今度はどうした?」とタルーザ。


「いやぁ。“口はわざわざのもと”って、こういう事かと思って…」


「“わざわざ”ではなく“わざわい”だ。また何を訳の分からん事を言っとるか。ほら帰るぞ、ティガカーツ!」




 イェルサスがイマーガラ家の本拠地、惑星シズハルダへ向けて出発したのは、その三日後の事である。


 タルーザがティガカーツに告げた、イェルサスと共にイマーガラ家へ赴く同年代の家臣は六人。ターダル・ツェーグ=サークルツ、オークボラン家のヨランダとスクェルダの姉弟、コーゼス=キルバラッサ、ズーマ=イシカー、これにティガカーツ=ホーンダートが加わる。皆、トクルガル家譜代の重臣の嫡子であり、将来的にイェルサスの政権の中枢を担う人材、と目されている若者達だ。


 六人の中で最年長は二十三歳のターダル。最年少はティガカーツとスクェルダの十二歳と、十五歳のイェルサスを真ん中に置いて、同年代と言いながらも十歳の開きがあった。彼等は皆、イェルサスがウォーダ家の人質として不在であった二年間を跨いで、両親からトクルガル家への忠義を骨の髄まで叩き込まれており、シズハルダに向かうトクルガル家の戦艦『マウラー』の中でも、若き主君に常時付き従って、何かと世話を焼いている。ティガカーツを除いて、だが。



「ホーンダート。こんなところで何をやってる!? 若殿のBSIユニットの操縦訓練を、手伝っているじゃなかったのか!?」


 戦艦『マウラー』内の自販機エリアに置かれた、ベンチに寝そべるティガカーツを見つけ、詰問したのはイェルサスに同行する若手家臣達のリーダー、ターダル・ツェーグ=サークルツだった。今日の予定ではこの時間、イェルサスはシミュレーターでBSIパイロットの訓練をしているはずで、ティガカーツはそれに“指導教官”として付き合う事になっていたのだ。つまりここに居てはいけない状況、ということである。


「あー、訓練。終わったよ」


 仰向けに寝そべったティガカーツは、眼の前に浮かべたホログラムのパズルゲームを、指先で操作しながら事も無げに答えた。


「なに? こんなに早くか?」と、怪訝そうなターダル。


「うん。彼、パイロットの才能ゼロだったから、もうやめた方がいいって言った」


「なっ!…なにぃッ!!」


 生真面目なターダルは、ティガカーツの返答に顔を強張らせて叫ぶ。主君に対する不敬の極みに思わず、めまいを起こしそうになった。込み上げてくる怒りに、寝そべっているティガカーツの胸ぐらを掴んで、無理矢理に立たせる。「なにすんだよ…」と不満を口にするティガカーツに、激高するターダル。


「どういうつもりだ、ティガカーツ!!」


「どういうつもり…って、言ったじゃない。パイロットの才能は無いって」


「おまえ!…ちょっと来い! 若殿に詫びを入れに行く!」






▶#15につづく

 

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