#04-01-11
これは以前にも述べられた事だが、今の戦国の世はいわゆるシグシーマ銀河系の大半を版図とした、ヤヴァルト銀河皇国の“大規模内戦”であり、宙域は違っても軍の装備品には、皇国の共通規格を使用しているものも少なくない。
タ・クェルダ軍の『シラヌイ』の超電磁ライフルも、銀河皇国の標準弾と標準仕様の弾倉を使っており、これはティガカーツのBSHO『カヅノーVC』のライフルも同じだった。弾倉の形状自体には相違があるが、ライフルへの給弾部の構造は同じで互換性がある。
眼の前の宇宙空間を漂っている、撃破した『シラヌイ』から放出された弾倉を、ティガカーツの『カヅノーVC』は早速、手に取って自分の超電磁ライフルに装着しようとする。と、そこへ猛スピードで突っ込んで来る、タ・クェルダ軍の親衛隊仕様『シラヌイAZ』。ティガカーツの見せた、一瞬の隙を突いた…つもりであったのだろう。親衛隊仕様機を与えられているだけに、腕に自信もあるに違いない。
しかしこの程度で、ティガカーツに動揺は無かった。
「ほいっ…と」
どこか間の抜けた声と共にティガカーツは、敵の予備弾倉を宇宙空間に軽く投げ上げると、機体を後方へ引く。その元いた位置を『シラヌイAZ』の、ポジトロンパイクが薙ぎ払った。さらに第二の斬撃を放って来る『シラヌイAZ』に、ティガカーツは宇宙に浮かせていた『ドラゴンスレイヤー』を、左手に素早く掴んで一振りし打ち防ぐ。
先手を取る事に成功して、いける!…と考えたのか、『シラヌイAZ』はさらに踏み込んで、ポジトロンパイクを突き出した。これを上昇して回避する『カヅノーVC』。ここで追い打ちを!…と、上を見上げる『シラヌイAZ』のパイロット。だがここで驚愕の光景を眼にする。
上昇して機体を半回転させた『カヅノーVC』の、右手に握ったライフルの給弾部に、今しがた緩く放り投げた弾倉が、ピタリと装着されたのだ。回避・上昇・機体半回転の未来位置を、ティガカーツは一連の動作の前に予測し、タイミングを合わせて、予備弾倉を緩く投げ上げていたのだ。予備弾倉が固定されると、即座に銃口を向けてトリガーを引く。
この銃撃を紙一重で躱す『シラヌイAZ』。やはり腕のいいパイロットだ。しかしそれも牽制射撃に過ぎなかった。
次の刹那、最大加速で間合いを詰めて来た『カヅノーVC』の、『ドラゴンスレイヤー』の穂先が機体を刺し貫いたからである。
「ごめん。きみ…僕がいなかったら、エースパイロットになれたよね」
良き敵への自分流の称賛を呟きにし、ティガカーツは爆発する『シラヌイAZ』の閃光を、冥福を祈りながら眺めた。
そこからの戦いは、まさにタ・クェルダ軍BSIパイロットにとって、地獄だった。『シラヌイ』や『シラヌイAZ』が複数掛かりでいくらライフルを放っても、目まぐるしく動く『カヅノーVC』には掠りもしない。深々度サイバーリンクが、機体の全てのセンサーとティガカーツの精神を結び付け、“トランサー”状態にあるティガカーツの心眼に、戦場の敵味方の動きの全てを送り込む。その“情報”をどのように“処理”できるかが、パイロットの“才能と技量”という事である。
そしてティガカーツの最も優れた点は、機体が送り込む情報の全てを把握して、全てに対応する事が可能だというところだ。
“左2、上に1と2、右に遅れて2、後方から3…1機は親衛隊仕様…それと…”
ティガカーツは頭の中に描いた、自分の機体を中心に置いた天球の中に、把握できる敵機の全てを配置し、全ての動きを読んだ。機体の動きだけでなく、それが仕掛けて来る銃撃や斬撃の軌道予測までも…である。
“これで、こうして…こうでいいかな?”
のんびりとした胸の内の呟きに反し、ティガカーツの操縦には一分の隙も無い。無意味と思えた機体の旋回やスイングの一瞬後、その位置をタ・クェルダ軍の銃弾やポジトロンパイク、クァンタムブレードの切っ先が通過する。そして『カヅノーVC』が、無造作に放ったように見えたライフルの銃弾が、『シラヌイ』への回避不能の一弾となった。
さらにその銃撃を躱し、間合いを詰めたように思えた『シラヌイAZ』も、実際にはティガカーツに誘い込まれる形となり、『ドラゴンスレイヤー』の一撃を受けて爆散する。
「よし。行こうか」
ティガカーツは『カヅノーVC』に呼び掛けて、フットペダルを踏み込む。ただしエネルギーは節約状態を継続し、対消滅反応炉の出力を調整するスロットルは、抑えたままであった。機体反応は万全とは言えないが、この程度の相手なら充分だ。超電磁ライフルを一連射し、向かって来る敵機の連携を乱すと軽く加速。『ドラゴンスレイヤー』の刀身の斬撃や刺突ではなく、太長い柄による打撃をメインに、敵機を次々と破壊してゆく。
「くそぉッ! なんだコイツはーー!!」
「駄目だぁっ!!!!」
絶叫と共に命を散らせてゆく、タ・クェルダ軍のパイロット達。ティガカーツの過度なまでに淡々とした性格は、むしろ敵とはいえ多数の命を奪っているという事実を、自分自身への緩衝材としているようでもあった。
「なんでみんな、死に急ぐのかなぁー」
▶#12につづく




