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銀河戦国記ノヴァルナ 最終章:ゆめ幻の如くなり  作者: 潮崎 晶
第1話:銀河無双のポジトロンランス
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#04-01-10

 

 大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』は、穂先の刀身も大型で、クァンタムブレード並みの長さがある。横一閃に振られた穂先は、大盾の死角となるポジトロンデュアルランスを握った、右腕脇腹を深く切り裂いた。


「ぐはぁッ!!」


 機体と同じく、右脇腹を深く切り裂かれたパイロットが絶叫する。そのコクピットが炎に包まれた時には、ティガカーツはさらにもう一機の、騎兵団仕様『シラヌイ』を仕留めていた。


「くそっ! バケモノか!!」


 残り一機となった騎兵団仕様『シラヌイ』のパイロットが、表情を強張らせる。するとここでバルバの主隊から発進した、BSIの大部隊が接近して来た。これに気付いたティガカーツの僚機達から連絡が入る。


「ホーンダート。敵の大部隊が現れた!」


「数が多い。こちらでは引き付けきれない!」


 それを聞いてティガカーツは焦る様子もなく、残った一機の『シラヌイ』を『ドラゴンスレイヤー』で、大盾ごと刺し貫いて返答した。


「了解。みんな無理しないで、出来る範囲で頑張って。危なくなったら、後退して立て直せばいいから」


 本当は味方に“逃げていいよ”と言いたいティガカーツだが、自分達は主君イェルサスの撤退を援護する殿軍(しんがり)であり、役目を考えれば今の指示が精一杯のところである。すぐに『カヅノーVC』のセンサーと、サイバーリンクした意識が、大量の敵機の接近を感知する。流石にヤバいかな…と思うティガカーツ。

 敵が幾ら来ようと技量で負ける気はしないが、問題は機体と得物のエネルギー残量だ。以前“アネス・カンヴァー星雲会戦”で一騎打ちを演じ、勝負がつかなかった敵の勇将ネオターク・ジュロス=マガランは、その後エネルギーが尽きるまで戦い抜いて討ち取られたという。


「あまり死にたくはないなぁ…」


 ぼそりと呟いたティガカーツは、エネルギーを節約するため、機体のバックパック内にある二基の小型対消滅反応炉の出力をセーブした。

 そして散々敵の命を奪っておいて、自らの死は恐れるようなティガカーツの独り言だが、その真意は別のところにある。普段から茫洋としており、何を考えているか分からないようなティガカーツではあるが、イェルサスに対する忠義はトクルガル家でも随一と言えるほど厚く、“死にたくない”と思うのも、ここで死んではさらなる忠義を尽くす事が、出来なくなるから…というものなのだ。

 そんなティガカーツの『カヅノーVC』に、接近して来たBSI部隊のASGUL隊が、まず一斉にビーム攻撃を仕掛ける。

 

 小惑星帯の中を潜り抜けて大挙押し寄せた、タ・クェルダ軍のASGUL『アルエラ・ヴェラ』の大群から、飛来する無数のビームの矢。

 しかしティガカーツが操る『カヅノーVC』は、そのビームとビームが交差する僅かな隙間や、時間差による合間を読み、スルリスルリと回避してゆく。


「団体様は、受け付けて、ないんだけど、なぁ」


 言葉を区切る度に、操縦桿を素早く動かすティガカーツ。ここでの『カヅノーVC』の機体機動でとりわけ特徴的なのは、重力子スラスターによる機動制御だけでなく、大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』を振り回し、その遠心力を利用している点だ。さらにフットペダルによる加減速との組み合わせで、通常では有り得ない角度でターンを生み出し、直線機動が多いASGULの攻撃では、捕捉は不可能な状態となった。業を煮やしたパイロット達が、苛立たしげに言う。


「いったいなんだ、あの動きは!!」


「むぅう、当たる気がせんぞ!」


「間合いを詰めて。LCF(四肢戦闘形態:人型)で戦うか!?」


「い…いけるのか?」


 簡易型BSIユニットのASGULは、LCF(Limbs Combatting Form)という、宇宙攻撃艇形態から人型に変型する機能が備わっている。もっとも人型と言っても実際には亀のような姿で、左前腕部の旋回式固定ビーム砲と、ポジトロンランスが武装となるが、格闘性能は高くなく、一機のBSIユニットに複数で襲い掛かる、数頼みが主な戦術となっている。


「やめとけ。相手は名うてのBSHOだぞ!」


 そう言ってASGUL同士の通信に割り込んで来たのは、後続として到着したBSI部隊の指揮官だった。こちらは親衛隊仕様『シラヌイAZ』を指揮官機に、量産型『シラヌイ』が七十機。これに元から戦場にいた、騎兵団仕様『シラヌイ』の生き残りを加えれば、ティガカーツらの敵は一気に、二百機近くにも膨れ上がった事になる。


「我等で接近戦を仕掛ける。ASGUL隊は、残りの敵BSIユニットを頼む」


 増援BSI部隊指揮官は、ASGUL隊にそう指示を出した。ASGUL隊指揮官は安堵したような、不満なそうな複雑な口調で応答する。民間人上がりのASGULパイロットらしく、命は惜しいが有力武将を討ち取れば、出世は思いのままが戦国の世だからだ。


 だがその直後に起きた、『シラヌイ』隊と『カヅノーVC』の戦闘を見て、ASGUL隊指揮官はBSI部隊指揮官に、感謝の念を抱く事となった。『シラヌイ』隊は『カヅノーVC』との戦いで、地獄を見たからである。

 

「だからー、団体様はお断りなんだってば」


 『カヅノーVC』の周囲を十重二重に囲んで来る、量産型『シラヌイ』と親衛隊仕様『シラヌイAZ』に騎兵団仕様『シラヌイ』。それらを見渡し、ティガカーツは嘆息した。しかしそこに怯懦の感情は無い。


 味方の援護射撃を受けながら迫って来る、量産型『シラヌイ』が正面から二機。さらに左上からも別の『シラヌイ』が三機。ティガカーツは敵の射撃を躱しつつ、正面からの二機に向かう。その右方向には小型の小惑星。『ドラゴンスレイヤー』の端をもって大きく一振りしたティガカーツは、二機の敵の眼前で遠心力によって小惑星方向へ針路変更。敵の二機も慌てた様子でその後を追う。するとティガカーツは、『カヅノーVC』の脚で小惑星を蹴り付け、その反動を利用して追って来た二機を正面から迎え撃った。


 突き出した『ドラゴンスレイヤー』の穂先が、一機目の敵を刺し貫く。そのまま後方へ投げ捨てると、次の一機はすでに『カヅノーVC』の眼の前で、ポジトロンパイクを振り下ろしかけている。だがティガカーツは、『ドラゴンスレイヤー』を即座に短く持ち替え機体を半回転、庇護に長く伸びた『ドラゴンスレイヤー』の柄で相手の斬撃を打ち防いだ。そしてさらにもう一振り。石突による打撃で『シラヌイ』の体勢を大きく崩させると、『ドラゴンスレイヤー』をクルリと回し、前に短い状態の鑓の穂先で、袈裟懸けに敵機の胸部を切り裂く。


 そこから素早く相手機のポジトロンパイクを奪い取ったティガカーツは、左上から接近していた三機の『シラヌイ』へ投擲した。その刃先は三機の中で先頭を進んでいた機体の頭部に命中。頭部が縦にザクリと真っ二つになったその機体は、宇宙空間でもんどりうって、後方の二機と激突した。

 そこで空いた一瞬の間に、超電磁ライフルを右手に握った『カヅノーVC』は、流れるような腕の動きで、機体を一回転させながら五回トリガーを引く。すると放たれた五発の弾丸は、すでに“”トランサー能力で同時に動きを把握していた、今まさに襲撃しようとしていた、五機の『シラヌイ』全てを精確に捉えた。五機が爆発するまでに、旋回を終えた『カヅノーVC』は機体を立て直そうとしていた、はじめの三機を仕留めたのは言うまでもない。


「節約、大事だからねー」


 簡単に言ってのけるティガカーツだったが、その技量は常人の域を超え、他の誰かに真似できないのが現実である。そして撃破した『シラヌイ』の持つ。超電磁ライフルの弾倉を見て、ティガカーツは少し嬉しそうに言う。


「あ、皇国標準仕様の弾倉。これなら僕のライフルにも使える。ラッキー」






▶#11につづく

 

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