#04-01-09
今の状況でバルバが選択したのは、イェルサスの本陣追撃を諦めて、艦隊に温存していたBSI部隊全機をもって、ティガカーツ=ホーンダートを討ち取るというものであった。今やトクルガル家にその名ありと知られるようになった、天才パイロットを討ち取る事は、トクルガル側の精神的損失も含めて、基幹艦隊複数個分の戦果になると踏んだのだ。
そのバルバは、宇宙空母の一隻に直接通信を入れて、BSI格納庫にいる一人のパイロットを呼び出した。
「サーゴン」
ヘルメットを片手に画面の前に現れたのは、黒褐色の肌のヒト族の男性だった。タ・クェルダ軍第14BSI大隊指揮官で、名をサーゴン=コワルスキーという。有能とされるBSI部隊指揮官の一人である。
「お呼びでありますか」
直立不動のサーゴンに、司令官席のバルバは僅かに身を乗り出し、肘掛けに拳を置いて指示を出した。
「貴様は部隊を率いてBSIの戦場を迂回し、ホーンダートの退路を断て。トクルガル家自慢の天才パイロットとやらを、ここで討ち取るのだ」
「かしこまりました」
一礼したサーゴンは、駆け足で自分の機体に向かって行く。機体は親衛隊仕様機のさらに性能向上型である『シラヌイAZⅡ型』。タ・クェルダ軍の中で、エース級の腕を持ちながら、BSHOに乗れるだけのサイバーリンク深度に達する事が、無いパイロットのために用意された機体である。BSHOと互角とはいかないまでも、通常の親衛隊仕様機よりは遥かに戦える。サーゴンの大隊には、この『シラヌイAZⅡ型』が十二機も配備されていた。バルバは彼等を使って、ティガカーツ隊の撤収路を塞ぎ、包囲殲滅しようというのである。
さらにバルバは簡易BSIユニットのASGUL隊も、全て出撃させるように命じた。BSHO…しかもあのティガカーツ相手に敵うはずは無いが、銃弾やポジトロンランスとクァンタムブレードの、エネルギーを消耗させる事ぐらいは出来るはずだ。
「第14大隊、全機発艦完了」
正規空母五隻から発艦したBSIユニットと、ASGULの合計126機は最大加速をもって、ティガカーツと仲間が戦っているエリアの外側を回り込んでゆく。その間にも他のBSIユニットが、ティガカーツ達に次々と挑んでいた。
「ひゅう。忙しいね」
そんな中でも、淡々とした口調で『ドラゴンスレイヤー』を鋭く振り捌き、超電磁ライフルの銃弾を的確に放つティガカーツ。
「押し包め、押し包んで倒せ!」
『騎兵団』のパイロットの言葉に、四機の騎兵団仕様『シラヌイ』が、四方向からポジトロンデュアルランスを構え、『カヅノーVC』に突撃を仕掛ける。しかしその四本の穂先が交差した位置に、『カヅノーVC』の姿は無い。
「上だ!」
一人のタ・クェルダ軍パイロットが叫び、あとの三人が上を向く。視線の先に跳躍していた『カヅノーVC』に、さらに二機の『シラヌイ』が時間差を置いて斬り掛かった。だがそれより先に突き出された『ドラゴンスレイヤー』が、まず一機を刺し貫く。『カヅノーVC』か突き刺した敵機を支点に、機体を瞬時に捻り込ませて、もう一機の斬撃を回避。すれ違いざまに超電磁ライフルを放つ。その銃弾を大盾で弾き飛ばす、騎兵団仕様『シラヌイ』。すると次の瞬間、その『シラヌイ』は大盾ごと、『ドラゴンスレイヤー』の穂先に貫通された。
「だよね。癖になってるよね」とティガカーツ。
今のティガカーツの戦法は、『騎兵団』の戦い方を逆手に取ったものだ。彼等は銃撃を受けそうになると、反射的に大盾で身を護る特性が身についている。それは秒速の世界で戦う彼等BSIパイロットでは、必然的なものであった。ティガカーツはその特性を突いたのである。
ただその僅かな時間の間に、先に仕掛けた四機は再攻撃の態勢に入っている。
「連続で行く! 間合いを詰めろ。見え見えでも構わん!」
タ・クェルダ軍パイロット達の意図は、ティガカーツの長大なポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』の、内懐に飛び込む事であった。騎兵団仕様『シラヌイ』が装備するポジトロンデュアルランスは、双刃の剣としても使用出来るよう、通常のポジトロンランスよりも短い。そのため『ドラゴンスレイヤー』の内懐の間合いなら、有利に戦えると考えたのだ。
一斉に迫って来る四機の騎兵団仕様『シラヌイ』。それでもティガカーツに焦りはない。『ドラゴンスレイヤー』をやや先端寄りに持ち替えて、宇宙空間で身構える。
「だから、僕のターンのままなんだって」
そう言ってティガカーツが狙ったのは、前方から来る『シラヌイ』ではなく、後方から襲い掛かろうとしていた一機だ。前を向いたまま『カヅノーVC』が、『ドラゴンスレイヤー』を後方へ突き出した。その石突き部が、後方から突っ込んで来ていた『シラヌイ』の頭部へ、カウンターを喰らわせる。グシャッ!と頭部が潰れ、突撃角度がズレた『シラヌイ』をやり過ごすと、『カヅノーVC』はそのまま機体を横回転させ、前から突っ込んで来た別の『シラヌイ』に、槍の穂先で斬撃を浴びせた。先端寄りに持ち替えていた理由はこのためのものだ。
▶#10につづく




