↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

5 ほんの少しだけ明日へ

 公園のベンチに落ちた沈黙は、思っていたよりも長かった。


 夕方の湿った風が、遊具の脇に伸びた雑草を頼りなく揺らしている。少し離れた道路からは、アスファルトをタイヤが擦っていく音が断続的に聞こえ、駅の方角では、電車が高架を渡るたびに低い振動音が空気を震わせた。


 昼間に蓄えられた熱が、まだ地面の底に残っている。


 陽は傾き始めているのに、空気はぬるい。首筋に張りつく髪が鬱陶しくて、茉白は片手でそれを払った。


 そのついでのように、隣を見る。

 正確には、凪の横顔を見た。

 いつもの凪なら、こういう時でも何か言う。


 ―――バレた?


 とか。


 ―――茉白、俺のこと見すぎじゃない?


 とか。


 そうやって笑って、何でもないことにしてしまう。


 こちらが少しでも真面目な顔をすれば、「そんな顔しないでよ」とでも言うように目尻を下げて、冗談のひとつでも挟んで、するりと逃げる。


 人との距離を縮めるのが上手いくせに、自分の奥へ他人を入れることだけは妙に上手く避ける男だ。


 少なくとも、今の茉白には、そう見えた。

 けれど今日は、何も言わない。

 膝の上で組まれた凪の両手。その指だけが、いつもより少し強く絡んでいる。


 爪の先が、反対の手の甲へ白く食い込む。

 茉白はそこを見てから、もう一度凪の顔を見た。


「……違う?」


 責めるつもりはなかった。

 ただ、本当にそう見えた。

 笑って誤魔化している。


 何でもないような顔をして、大丈夫だと、先に自分で決めてしまっている。


 そのやり方を、茉白は知っていた。

 少し前まで、自分自身がずっとやっていたことだから。


 進路を聞かれれば「知らん」。

 将来を聞かれれば「まあ何とかなるっしょ」。

 寂しくても「別に」。

 不安でも「だる」。


 何も考えていないふりをしていれば、考えなくて済む。

 欲しくないふりをしていれば、手に入らなくても傷つかない。


 だからこそ、分かってしまったのかもしれない。


 凪はしばらく黙っていた。


 やがて諦めたように肩から力を抜くと、短く息を吐く。


「……似てるかもね」


 ようやく出てきた声は、茉白が知っている凪のそれよりも少し低く、思っていた以上に弱かった。


 茉白は何も言わない。


 続きを急かすこともしなかった。


 凪は制服のポケットからスマホを取り出した。慣れた指でロックを解除し、何度か画面を操作する。差し出された画面には、細かな数字と文字がぎっしり並んでいた。


 模試の結果らしい。


 偏差値だとか順位だとか、茉白には細かいところまではよく分からない。

 けれど、志望校の横に大きく表示されたアルファベットくらいなら読めた。


「……悪いの?」


「だいぶ」


 凪はスマホを持ったまま、乾いた笑みを浮かべた。


「どれくらい」


「第一志望、D」


「Dって」


「現状だと厳しい」


「あー……」


 さすがの茉白でも、それが良い判定でないことくらいは分かる。

 なんとなく気まずくなって、画面から視線を外した。


「前は?」


「B」


「落ちてんじゃん」


「うん」


「かなり?」


「かなり」


 容赦のない確認だった。

 凪は一瞬ぽかんとしてから、ふっと笑った。

 けれど、その笑い方は先ほどまでとは少し違う。

 いつものように相手を安心させるための笑顔ではなく、もう隠しても仕方がないと観念した人間の、力の抜けた笑い方だった。


「最近ちょっと、うまくいかなくて」


「勉強?」


「それも」


「他も?」


「……うん」


 そこで言葉が途切れた。

 凪はスマホの画面を消し、膝の上へ伏せる。


 いつもなら、言葉なんていくらでも出てくる男だ。

 茉白が何を言っても、それより一枚上手い返しをしてくる。無言になったところなど、ほとんど見たことがない。

 そんな凪が、今は言葉を選んでいる。


 茉白は急かさなかった。

 少し前、自分が言ったことを覚えている。


 ―――言いたくなったら言えば。


 ―――ウチ、たぶん聞くし。


 なら、今は聞けばいい。それだけ。


 蝉の声が耳につく。

 茉白は足元の砂をスニーカーの先で軽く蹴った。


 しばらく蝉の声を聞いている。うるさい。


「俺さ」


 凪が口を開いた。


「理学療法士になりたいんだよね」


 思ってもみなかった言葉に、茉白はゆっくり瞬きをした。


「……何する人だっけ」


「そこから?」


 思わず、といったように凪が顔を上げる。


「名前は聞いたことある」


「俺、今かなり勇気出して夢語ったんだけど」


「だから聞いてるじゃん」


「そうだけどさ」


 呆れたように笑いながらも、先ほどよりわずかに凪の肩から力が抜けた。


「怪我とか病気とかで身体を動かしにくくなった人の、リハビリを手伝ったりする人」


「ああ」


「歩く練習したり、筋力戻したり。その人がまた生活しやすくなるように、一緒にやってく感じ」


「へえ」


「真面目に聞いてる?」


「聞いてる」


「顔が薄い」


「元から」


「知ってる」


 凪が小さく吹き出す。

 ほんの少しだけいつもの彼に戻った気がして、茉白も知らず肩の力を抜いていた。

 そのことに自分では気づかないまま、今度はこちらから尋ねる。


「何でそれになりたいの」


 凪はすぐには答えなかった。

 視線の先にあるのは、誰も使っていない滑り台だった。赤い塗装は夕日に照らされ、ところどころ白っぽく褪せている。


「中学の時」


「うん」


「俺、結構ちゃんとスポーツやってて」


「意外」


「また言った」


「何してたの」


「サッカー」


「あー」


 茉白は凪の全身を一度眺めた。


 長い脚。

 細身ではあるが、制服越しにも分かる程度には身体が締まっている。人当たりがよくて、無駄に爽やかで、学校に一人くらいいそうな女子人気の高いサッカー部男子。


 自分の中にある偏見じみた『サッカー部』のイメージを詰め込んだような男だった。


「似合う」


「初めてそれっぽい反応もらった」


「ポジションは」


「フォワード」


「もっと似合う。知らんけど」


「顔で判断してない?」


「してる」


「正直だなあ」


 凪は笑った。

 そのすぐ後に笑顔が消える。正確には、困った顔に張り付いた笑顔になる。


「でも、膝やった」


 右手が、自分の膝へ落ちる。

 無意識なのだろう。

 制服のズボン越しに、そこを確かめるように掌が触れた。

 茉白もつられるように、その手を見る。


「靭帯」


「……結構やばいやつ?」


「結構」


 声は淡々としていた。


「手術して、リハビリして。復帰できなくはなかったんだけど、前みたいには動けなくなって」


「サッカーやめたの?」


「うん」


「自分で?」


「……最終的には」


 その答えだけで、たぶん簡単ではなかったのだろうと分かった。


 医者に言われたのか。

 コーチに言われたのか。

 親と話したのか。

 それとも、実際にボールを蹴って、自分で悟ったのか。


 茉白には分からない。

 凪も詳しくは話さなかった。

 ただ、右膝へ置かれた指先が一度だけ強く布を掴んだのを、茉白は見逃さなかった。


「最初、めちゃくちゃ荒れてた」


「想像つかない」


「でしょ」


「お前、怒るの?」


「怒るよ」


 凪が苦笑する。


「見たい」


「そこ?」


 あまりに真顔で言うものだから、凪は眉尻を下げた。


「レアそう」


「見せない」


「残念」


「人の黒歴史を珍獣みたいに言わないで」


「珍獣とは言ってない」


「目が言ってる」


 そんな軽口を交わすと、一瞬だけいつもの二人に戻る。


 けれど凪は、自分の右膝を一度撫でると、また静かに話し始めた。


「それで、その時担当だった理学療法士の人がさ」


 声が少しだけ柔らかくなる。

 茉白はそれを聞きながら、目元をわずかに緩めた。


「なんか、すげえ普通に接してくれたんだよね」


「普通?」


「俺が『もうサッカーできないかも』って勝手に絶望してても、“そうかもね”って」


「……それ言われたら嫌じゃない?」


「最初はね」


 凪は笑いながら空を仰いだ。


 つられるように、茉白も顔を上げる。


 青は少しずつ薄くなり、雲の端だけが夕日に照らされて淡い橙色に染まり始めていた。


「でもその人、変に“大丈夫、絶対戻れる”とか言わなかったんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、茉白は何となく納得した

 それが凪にはよかったんだ。


「無理なもんは、無理かもしれない。でも、今できることはあるって」


「……うん」

「もし競技に戻れなくても、歩けるとか、走れるとか、普通に生活できるとか。そういうのもちゃんと大事だって」


 凪の声は穏やかだった。

 穏やかに話せるようになるまでに、いったいどれくらい時間がかかったのだろう。


「俺さ、その時、サッカーできなくなるくらいなら全部終わりだって思ってたんだよね」


「……中学生だしね」


「うん」


 それまで夢中になっていたものが、ある日突然できなくなる。

 チームメイトが練習をしている間、自分だけリハビリをする。

 昨日まで当たり前に動いていた身体が、言うことを聞かない。


 凪は細かく語らなかった。

 痛かったとも、悔しかったとも、泣いたとも言わない。

 それでも茉白の頭の中には、知らないはずの中学生の凪がぼんやり浮かんだ。


 自分だけが止まっている。

 周りだけが先へ行く。

 その感覚なら―――少しだけ知っている。


「でも、その人がずっと付き合ってくれて」


 凪は続ける。


「最後に言ったんだよね」


「何て?」


「『サッカー以外にも、お前がまたやりたいって思うこと、そのうち出てくるよ』って」


 そこで初めて、凪の横顔に穏やかな笑みが浮かんだ。

 普段の、人をからかうような笑顔とは違う。

 もっと幼くて、ずっと大切にしてきたものへ触れているような顔だった。


 茉白はその表情を眺めてから、ぽつりと尋ねる。


「出たんだ、やりたいこと」


「うん」


「理学療法士?」


「そう」


 凪は少し照れたように鼻の下を指で擦った。


「今度は俺が、もう一回やりたいって思ってる人を手伝えたらいいなって」


「……」


 茉白は、すぐには何も言えなかった。

 思っていたより、ずっとちゃんとしている。

 いや。

 凪がちゃんとしていること自体は、もう知っていた。


 日菜と颯真を見ている時も。

 茉白に進路の話をした時も。

 ふざけながら、相手が本当に嫌がるところまでは決して踏み込まないことも。


 軽そうに見えて、実際には人の顔をよく見ていることも。


 少しずつ知っていた、でも。


 こんなふうに昔から抱えてきた理由があって、その経験を自分の未来へ繋げて、そのために今も勉強している。


 そこまでは知らなかった。


「……お前」


「何」


「普通に夢あるじゃん」


「普通にって何」


「いや」


 茉白は正面へ顔を戻した。

 妙に真正面から褒めるのは気恥ずかしい。

 だから、ほとんど独り言みたいに落とす。


「……すご」


 凪の気配が止まった。

 横を見ると、本気で驚いたように目を見開いている。


「……褒められた」


「そこだけ拾うな」


「だって嬉しいし」


 すぐにいつもの笑顔へ戻ろうとする。

 それを見た瞬間、茉白の胸に小さな引っかかりが生まれた。


「そういうとこ」


「何?」


「いちいち軽くすんの」


 凪の笑みが止まる。


「別に軽くしなくてよくない?」


「……」


「今、ちゃんと話してたじゃん」


「うん」


「なら、そのままでいいのに」


 口にしてから、少し踏み込みすぎたかと思った。

 けれど、凪は怒らなかった。

 しばらく茉白を見たあと、困ったように笑った。


「……癖なんだよね」


「何が」


「重くしたくない」


「何を」


 ほんの少しだけ間があった。


「自分のこと」


 その答えは短かった。

 だからこそ、茉白は何も返せなかった。


「昔からさ」


 凪は両肘を膝へ置き、少し前屈みになる。


「明るくしてた方が楽だったから」


「周りが?」


「自分も」


 言葉にしてから、凪自身も確かめるように少し考えた。


「周りに心配されると、余計しんどい時あるじゃん」


「あー……」


「大丈夫? って何回も聞かれると、大丈夫って言わなきゃいけなくなるし」


「分かる」


 それだけは、驚くほどよく分かった。

 心配されることが嫌なわけではない。


 でも、大丈夫ではない時に「大丈夫?」と聞かれると、なぜか「大丈夫」と答えなければならない気がする。

 そのうち、自分まで騙せるようになる。


「だから笑うの?」


「たぶん」


 茉白はしばらく凪を見た。

 そして、気づく。


「……ウチと一緒じゃん」


「だから似てるって言った」


 凪が笑った。

 けれど今度の笑顔には、どこか諦めのような色が混じっていた。

 それを見た瞬間、茉白の胸の奥が微かにざらつく。


 いつも余裕そうに見えていた。

 何でも知っていて。

 人のことばかりよく見ていて。

 自分だけは傷つかないような顔で笑っている。


 でも、本当は違う。

 この男も、不安になる。

 怖くなる。

 失敗したらどうしようと思う。


 十八歳なのだ。

 自分と同じ。

 まだ何者でもない、ただの高校生だ。


「で」


 茉白はベンチへ座り直した。


「D判定だけ?」


「だけって言い方酷くない?」


「他にもあるって言ってたじゃん」


「ああ……」


 凪の視線が落ちる。

 今度は先ほどとは違う種類の躊躇いが見えた。


「学費」


「……高いの?」


「まあ、それなりに」


 凪はスマホを操作し、大学の資料を開いた。


「理学療法士になるなら、大学か専門行って、国家試験受けるんだけど」


「うん」


「俺が行きたいところ、私立だから結構かかる」


「奨学金?」


「使うつもり」


 茉白は、以前電車でちらりと見えた画面を思い出した。


 奨学金。

 学費。

 国家資格。


 あの時はただ、意外と真面目なものを見ているなと思っただけだった。

 今になって、それらの文字が全部一本の線で繋がる。


「親、反対してんの?」


「反対ってほどじゃない」


 凪は画面を消した。


「でも、もっと学費かからない道でもいいんじゃないかって」


「そりゃ言うか」


「うん」


「お前んち、金ないの?」


「ストレートに聞くなあ」


「あ」


 さすがに直接的すぎたことに気づき、茉白はわずかに眉を下げた。


「……ごめん」


 その素直な謝罪が意外だったのか、凪は少し目を丸くしてから笑った。


「いや、いいけど。普通だよ。困ってるってほどじゃない。でも、余裕あるわけでもない」


「兄弟は?」


「妹いる」


「水城も妹いるって日菜が言ってた」


「颯真んとこは一個下。俺んとこは中一」


「へえ」


「だから、妹のこともあるし」


 そこで言葉が止まった。

 でも、続きは聞かなくても分かった。

 自分一人に大金を使わせることへの後ろめたさ。

 自分が夢を選ぶことで、家族の誰かに負担がかかるかもしれないという不安。


「親に迷惑かけたくない?」


「……まあ」


「でも行きたい」


「うん」


「だから勉強してる」


「うん」


「それで模試落ちた」


 凪がこちらを見る。


「まとめると最悪だね」


「まーそうじゃん」


 力なく笑う凪を見て。

 茉白はようやく分かった気がした。

 今日、なぜ凪が、自分へ『会える?』と送ってきたのか。


 結果が悪かった。

 家へ帰る前に、誰かに話したかった。


 けれど、頑張れとも、大丈夫とも言われたくなかった。

 ただ、大丈夫ではない自分のまま座っていられる相手が欲しかった。


 それが自分だった。


「……何でウチ」


 確認したくなった。

 同時に、ふくらはぎが妙にかゆい。

 視線を落とす。

 赤い点。

 蚊に刺されている。最悪。


「え?」


「今日」


「何が?」


「会いたいって言ったじゃん」


「うん」


「何で」


 茉白は蚊に刺された箇所を爪で掻きながら聞く。

 凪は少し驚いたような顔をしたあと、正面へ視線を戻した。


「言ったでしょ」


「何を」


「茉白なら、笑わなそうだから」


「それだけ?」


「あと」


 ほんの少しだけ、凪が笑った。


「大丈夫って言わなそう」


「言わんね」


 根拠もないのに、大丈夫だと言う意味が分からない。

 それが茉白の本音だった。


「でしょ」


「だって大丈夫じゃないんでしょ」


 凪の顔から、笑みが消えた。


「……うん」


 その一言が、少しだけ震えて聞こえた。

 そこでようやく、茉白は気づいた。

 たぶん、この男はずっと言いたかったんだ。

『大丈夫じゃない』


 誰かに話せば、励まされる。

 頑張れと言われる。

 お前なら大丈夫だと言われる。


 善意なのだろう。

 今の凪には、それが苦しかったのかもしれない。


「怖い?」


 茉白は聞いた。


 以前、茉白が未来について尋ねられた時、何も答えられなかった。

 今度は凪の番だった。


 凪は俯いた。


 蝉が鳴いている。

 車が一台、公園の向こうを通り過ぎる。

 子どもを呼ぶ母親の声が遠くで聞こえ、それもすぐに消えた。


「……怖いよ」


 やっと、その言葉が出る。


「普通に」


 膝の上で、両手がもう一度組まれる。


「頑張っても受からなかったらどうしようって思うし」


「うん」


「受かっても、学費のことあるし」


「うん」


「そもそも国家試験までちゃんと行けるのかも分かんないし」


「うん」


「なった後、向いてなかったらどうしようとか」


 ひとつ言葉が出るたびに次が続く。

 堰を切った、というほど激しくはない。

 凪らしく、声は静かだった。


 けれど、それまで胸の奥に押し込めていたものを、ひとつずつ外へ置いていくようだった。


「俺さ」


 凪は一度、笑おうとして途中でやめた。


「結構考えてるんだよね」


「知ってる」


「……意外でしょ」


「最初は」


 茉白はさらりと答える。

 凪がこちらを見た。


「今は?」


「……普通」


「普通?」


「お前なら考えてそう」


 ほんの一瞬。

 凪の瞳が揺れた。


「何その顔」


「いや」


「何」


「……ちょっと嬉しかった」


「何が」


 凪はすぐには答えなかった。

 夕日に照らされた横顔は、いつもよりずっと年相応に見える。


「ちゃんと俺を見てもらえてる感じして」


「……」


 また、そういうことを言う。


 いつもなら。

 メロい。

 うざい。

 帰れ。

 それで終わる。


 でも今日は、なぜかそう思えなかった。

 胸の奥が、少しだけ痛んだ。


 凪は人をよく見ている。


 日菜のこと。

 颯真のこと。

 茉白のこと。


 自分はどれくらい、この男を見ていたのだろう。


 メロ男。

 軽い。

 女慣れしてそう。

 余裕がある。

 いつもへらへら笑っている。


 そんな表面ばかりだった。


「……ごめん」


 気づけば、口から出ていた。

 凪が瞬きをする。


「何が?」


「ウチ、お前のこと」


「うん」


「結構適当に見てた」


 真面目に言ったのに、凪が吹き出した。


「そこ謝る?」


「笑うな」


「ごめんごめん」


「一生女口説いてそうとか思ってたし」


「それは酷い」


「毎月彼女変わりそうとか」


「聞いた」


「将来とかも」


 そこで茉白は言葉を探した。


「何となく……全部うまくやる人かと思ってた」


 凪の笑顔が静かになる。


「……そっか」


「でも違うんだね」


「幻滅した?」


「何で」


「格好悪いじゃん」


 その言葉に茉白は眉を寄せた。

 本気で意味が分からなかった。


「どこが」


「え?」


「怖いの普通じゃん」


 凪が黙る。


「やりたいことあって」


 真正面から言うのは照れ臭い。

 茉白は視線を前へ逃がし、指先でベンチの端をいじった。


「そのために勉強して」


「……うん」


「ちゃんと金とか、その先のことも考えて」


「うん」


「それでも怖いんでしょ」


「……うん」


「別に格好悪くないじゃん」


 返事がない。

 気になって横を見る。

 凪は笑っていなかった。

 俯いて、ほんの少しだけ唇を噛んでいる。


 夕方の光が長めの前髪の隙間から入り込み、前髪が頬へ影を落としていた。

 茉白は少し迷う。


「……泣く?」


「泣かない」


 即答だった。


「ならいいけど」


「茉白」


「何」


「そういう時さ」


「うん」


「もうちょい優しいこと言わない?」


 茉白は眉を寄せる。


「言ったじゃん」


「十分優しかったけど」


「じゃいいじゃん」


「そうなんだけど」


 凪が小さく笑った。

 今度のそれは、本当に弱っている人の笑い方だった。

 茉白は、なぜか目を逸らせなかった。


 凪に「かわいい」と何度も言われた。

 人混みではさりげなく背中へ手を添えられた。

 雨の日には傘へ入れられた。

 ぬいぐるみを取ってもらった。

 さらっと好きだと言われた。


 メロい。

 胡散臭い。

 こいつ絶対誰にでもやってる。


 そう思っていた。


 でも、今。

 弱った顔で、それでも笑おうとする凪を見て初めて、茉白はこの男をかっこいいと思った。


 顔じゃない。

 言葉でもない。

 怖いのに、逃げたくなることもあるのに。

 それでも、自分がなりたいものを諦めずに追いかけようとしている、その姿が。


「……なれば?」


 茉白は言った。

 凪が顔を上げる。


「何に」


「理学療法士」


「簡単に言うね」


「だって、なりたいんでしょ」


「……うん」


「じゃ、なればいいじゃん」


 凪は少し困ったように笑った。


「落ちたら?」


「知らん」


「ひど」


「そん時考えればよくね?」


「茉白っぽい」


「悪い?」


「いや」


 凪は首を振った。


「ちょっと救われる」


「ならよかった」


「でも、落ちたら普通に凹むよ」


「そりゃそうでしょ」


「めちゃくちゃ暗くなるかも」


「見てみたい」


「面白がらないで」


「冗談だし」


 茉白はそこで口を閉じた。


 何となく、このまま終わるのは違う気がした。

 だからほとんど独り言のように言う。


「……まあ、落ちたら飯くらい付き合うけど」


 凪の動きが止まった。

 人気の少なくなった公園に、夏の少し乾いた風が抜けていく。額に滲んでいた汗がわずかに冷えた。


 蝉がうるさい。

 ふくらはぎがかゆい。

 やっぱり蚊に刺されている。


 こんなに恥ずかしいことを言ったんだから、何か言え。

 そう思って、茉白は不服そうに凪を睨んだ。


「何」


「今……」


「何」


「慰めてくれる?」


「飯食うだけ」


「隣にいてくれる?」


 ずるい聞き方だった。

 いつもの凪ならきっと笑って言う。

 そうすれば茉白も、「知らん」で逃げられる。


 でも、今の凪は真面目な顔でこちらを見ていた。


 だから茉白も、いつもの言葉では逃げられなかった。


「……多分」


 声が小さくなる。

 目も合わせられない。

 行き場を失った指先で、意味もなくベンチの木目を引っ掻いた。


 凪は数秒、本当に何も言わなかった。


「……そっか」


 やがて憑き物が落ちたように笑った。

 その笑顔を見た瞬間、なぜか茉白の鼓動が少しだけ、速くなった。



 日が沈み始める頃には、公園の街灯がひとつ、またひとつと灯り始めていた。


 蝉の声も少しずつ遠のき、代わりに草むらから細い虫の音が混ざり始める。


「帰る?」


 茉白が立ち上がりながら聞く。


「うん」


 凪も続いた。


 模試の判定は変わっていない。

 学費の問題も消えていない。

 不安がなくなったわけでもない。

 何ひとつ、解決していない。


 それでも来た時より凪の歩幅は少しだけ軽く見えた。

 たぶん抱えていたものを、ほんの少しだけ誰かへ渡せたからだ。茉白に。


 駅へ向かう歩道を、二人並んで歩く。

 昼間より涼しくなった風が、茉白の髪を揺らした。


「そういえば」


「何?」


「水城は知ってんの?」


「進路?」


「全部」


「だいたい」


茉白は首を傾げて凪を見上げる。


「相談しないの」


「するよ」


「じゃ今日あいつでよくない?」


「ひど」


 凪が笑う。茉白は納得しない。


「だって長い付き合いなんでしょ」


「そうだけど」


「じゃ何」


 凪は少し考えるように空を見上げた。


「颯真には、頑張ってるとこ見られすぎてんだよね」


「意味分かんない」


「分かんなくていい」


茉白の温度を愛おしむように凪が目を細める。


「教えろ」


「横暴だなあ」


 少し笑って、歩きながら前を向いた。


「茉白の方が」


 言葉が止まる。

 茉白が横を見る。


「何」


「……弱いとこ見せてもいいかなって思った」


 歩く速度が、ほんの少しだけ遅くなった。


「何で」


「知らない」


「知らんの」


「うん」


 凪の少しすっきりしたような、そんな表情にかかる夕日は、少しずつ色を濃くしている。


「でも最初から、茉白にはちょっとそうだった」


「何が」


「俺がふざけても、必要以上に乗ってこないじゃん」


茉白は前を向いたまま真面目に頷いた。


「面倒だから」


「落ち込んでても、変に励まさないし」


「やり方分かんないから」


「あと」


「まだある?」


「人のこと見てる」


 茉白は黙った。凪の方が見てるじゃないか。思うけど言わない。


「今日も……分かってくれたし」


「……」


「嬉しかった」


 また胸の奥が変な動きをする。

 いつもなら、何とも思わない言葉なのに。


「……そ」


 それしか返せない。

 凪もそれ以上何も言わなかった。

 珍しくからかってこない。

 だから余計に意識してしまう。


「茉白」


「何」


「今日来てくれてありがと」


「別に」


 いつものように答えて数歩進んだところで、茉白は少し考えて付け加える。


「……うん」


 隣の足音が止まりかける。

 見ると、凪が驚いた顔をしていた。


「何」


「いや」


「言えよ」


「素直だなって」


「やっぱ帰る」


「今帰ってるって」


「一人で帰る」


「ごめんって」


 凪が笑う。

 つられて茉白もほんの少しだけ笑った。


 夕闇の中、その顔を見た凪が一瞬だけ何も言えなくなったことには、茉白は気づかなかった。



 その夜。


 自室のベッドに仰向けになった茉白は、ぼんやりと天井を眺めていた。


 風呂には入った。

 髪も乾かした。

 明日の準備はしていない。

 それはいつものことなので問題ない。


 スマホを胸の上へ置いたまま、今日の会話だけが何度も頭の中を巡っていた。


 理学療法士。

 サッカー。

 怪我。

 リハビリ。

 学費。

 奨学金。

 模試。

 不安。


 そして、『怖いよ』と呟いた凪の声。

 普段の軽い調子ではなかった。


「……あいつも怖いんだ」


 ぽつりと呟く。

 考えてみれば当たり前のことだった。


 今まで何となく、凪はそういうものとは無縁なのだと思っていた。


 未来も、恋愛も、友達も、全部上手にやる。

 器用で軽くて余裕があって、どんな状況でも笑っている。


 でも違った。


 凪は余裕があるのではなく、余裕があるように見せるのが上手かっただけなのだ。

 その事実を知ってしまった。


 知る前の自分にはもう戻れない。


 不意に、胸の上でスマホが震える。

 持ち上げてメッセージを確認。


『今日はありがと』


 凪からだった。茉白は少しだけ眉を寄せる。


『二回目』


 送信。

 すぐに既読がついた。


『何が』


『さっきも言ってた』


『何回でも言う』


『いらん』


『でもほんと助かった』


 そこで少し間が空く。


『明日からまた頑張る』


 茉白は、その一文をしばらく見つめた。

 頑張る。

 たった四文字。

 誰でも言える。


 でも、今日、あれだけ不安を聞いたから。

 凪がどれくらい本気でその言葉を打ったのか、今は少しだけ分かる。


 目の前にスマホを持ち上げたまま指を動かす。


『頑張れ』


 ―――違う。


 全部消す。


『無理すんな』


 ―――これも違う。


 また消す。


「……だる」


 茉白は眉間へ皺を寄せた。

 人を励ますのは難しい。


 しばらく画面と睨み合う。


『次悪かったらアイス奢る』


 送信。結局こういうことしか自分は言えない。返事はすぐに来た。


『悪くてもいい気してきた』


『じゃなくて』


『嘘』


『絶対上げる』


 連投に茉白の口元が少しだけ緩む。続いてもうひと言。


『だから受かったらデートして』


「……は?」


 思わず声が出た。

 さっきまでの感傷を返せ。


『何でそうなる』


『ご褒美』


『アイス自分で買え』


『茉白がいい』


『知らん』


『じゃ保留で』


『勝手に決めんな』


『おやすみ』


『逃げた』


 指が痛くなるほどの即レス合戦。既読。

茉白の言葉を最後にぴたりと止まる。

しばらく画面を眺めていると、不意に追撃が入った。


『好きだよ』


「……」


 茉白は無言でスマートフォンを伏せた。天井を見る。


「……こいつほんと」


 メロい。

 いちいち、本当にメロい。


 ただ今日は、その言葉を吐く男が、ただの『メロ男』ではないことを知ってしまった。


 笑っている顔の向こう。

 弱いところと怖がっているところ。

 それでも、ちゃんと先へ進もうとしているところ。


 以前なら、凪から「好き」と送られてきても、はいはいと流せた。


 それだけで終われた。


 今はほんの少し、その言葉の重さが違って聞こえる。

 茉白は胸の上へ手を置いた。


 心臓、普通。

 ―――たぶん、普通。


「……知らんし」


 誰に言うでもなく呟く。

 数秒迷ってもう一度画面を開く。


『おやすみ』


 それだけ送った。


『おやすみ、茉白』


 すぐに返ってくる。


 名前、たったそれだけなのに、何となく画面を閉じられない。

 茉白はしばらくその文字を眺めて、自分でも意識せずほんの少しだけ、口元を緩めていた。



 翌日の昼休み。


 教室にはお弁当やパンなどの混じった香りと、机を寄せて喋る生徒たちの声が溢れていた。


 茉白が菓子パンの袋を開けたところで、向かいから日菜が身を乗り出してくる。


「茉白」


「何」


「昨日、凪くんと会った?」


「会ったけど」


「やっぱり!」


 日菜の顔がぱっと明るくなる。


「颯真くんがね、昨日凪くんちょっと落ちてたって―――」


「日菜」


 思っていたより早く言葉が出た。


「はい」


 日菜が止まる。

 茉白自身も、一瞬遅れて自分が遮ったことに気づいた。自分で戸惑ったが表には出さない。


「……本人いないとこで言わない方がいい」


 日菜が目を丸くした。


「……あ」


「本人から聞いたことならいいけど」


「うん」


「違うなら、まあ」


 茉白は視線を落とし、パンの袋を少しだけ折る。


「本人に任せた方がよくない」


 日菜はしばらく何も言わなかった。

 じっと茉白を見つめて素直に頷く。


「……分かった」


「うん」


「ごめん」


「別に」


 茉白はパンを一口齧る。

 日菜も自分の弁当へ手を伸ばした。


 ―――はずだった。


 視線を感じる。


「何」


「ううん」


「言え」


「いやあ」


 日菜の口元が、みるみる上がっていく。

 嫌な予感しかしない。


「茉白、凪くんのこと結構大事なんだなーって」


「は?」


 茉白の眉間へ皺が寄る。


「いやいや、何でもなーい」


「日菜」


「パン食べよっと」


茉白のパンに手を伸ばす。


「おい」


 日菜は完全に逃げた。

 わざとらしくパンへ齧りつきながら、こちらを見ようともしない。

ムカつくので日菜のお弁当からからあげをふたつ奪う。メインディッシュ。ざまあみろ。


「……大事とか」


 油のついた指をなめながら、茉白は小さく呟く。


 たぶん違う。

 まだ、そういうのではない。


 ただ昨日凪が自分に見せた顔を、勝手に誰かへ話したくなかった。

 あの「怖い」は、凪が自分で誰かへ話すものだと思った。それだけだ。


 その「それだけ」が今までとは違う意味を持ち始めていること。


 茉白はまだ、それに名前をつけられなかった。



 放課後。


 日菜は図書室へ行った。


 受験勉強を始めてからというもの、彼女は本当に変わった。以前なら「図書室とか寝るとこじゃん」と笑っていたのに、今では自分から参考書を抱えて向かう。


 一人になった教室で、茉白は窓際の自分の席へ座っていた。

 机の上にはスマホ。

 画面には、以前から何度か開いては閉じている、写真・映像系の学校のページが表示されていた。


 卒業後の進路。

 授業内容。

 学生作品。


 写真、映像、グラフィック、広告。


 ページを下へ送るたびに、知らない世界が現れる。


 自分には、凪みたいな明確な理由はない。


 怪我をして、救ってくれた人がいて、だから自分も同じ仕事をしたい。

 そんな物語はない。


 日菜みたいに、子どもが好きだから保育の仕事がしたい。

 そう迷わず言えるほどのものもない。


 それでも写真は少し好きなのかもしれない。


 凪が以前言った言葉を思い出す。


 ―――好きかもって思うくらいは自由じゃん。


 その時は簡単に言うなと思った。

 今なら少しだけ分かる。


 夢なんて、最初から『これです』と完成した形で現れるものではないのかもしれない。


 何となく好き。

 ちょっと気になる。

 もう少しやってみたい。


 そんな曖昧なものから始まってもいいのかもしれない。


 茉白は指先で画面を滑らせる。


 オープンキャンパス。


 日程を見る。七月、空いている日がある。


「……」


 親指を予約ボタンへ近づける。

 あと数センチ押せばいいだけ。

 なのに、指が止まる。


 それを押した瞬間、自分が『進路』というものを本当に考え始めてしまう気がした。


「……今日はいいや」


 画面を閉じる。

 逃げた。

 自分でも分かる。


 でも、それでいい気がした。

 少なくとも以前の自分ならこのページに辿り着くことすらなかった。


 興味を持つことも、日程を調べることも、予約ボタンへ指を置くこともなかった。


 なら、今日はここまででも昨日より少し先だ。

 顔を上げる。


 窓の外では、夏の夕暮れが校舎を包み始めていた。

 西へ傾いた太陽が、雲の隙間から細長い光を落としている。


 白かった校舎の壁が橙色に染まり、グラウンドの端に立つ木々の影が長く伸びていた。


「……」


 綺麗。


 そう思った。

 だから。


 茉白は何となくスマホのカメラを開いた。

 椅子へ座ったまま、窓越しに一枚。


 シャッターを切る。


 画面に残った夕焼けを見る。

 完璧かどうかなんて分からない。


 構図とか光とか、写真の専門的なことなど何も知らない。


 でも、自分はこの写真が少し好きだ。

現実の風景とスマホの画像を並べて見ていると、通知が届いた。


『今、勉強してる』


 凪から送られてきたのは、机の写真だった。


 参考書の横に広げたノート、大量の付箋。

 隅には飲みかけのペットボトル。


 昨日怖いと言った男が、今日もちゃんと机へ向かっている。

 茉白は少しだけ笑った。


『偉』


 すぐに既読。


『褒められた』


『調子乗るな』


『茉白は何してる?』


 茉白の指が止まる。

 以前なら、そっけなく別にと返していた。

 何をしているのか説明するほどでもないし。

 わざわざ自分のことを教える意味も分からなかったから。


 でも、今日は。


 メッセージからカメラロールを開いた。

 たった今撮った夕焼けを選ぶ。


『これ』


 送信。既読がつく。


『いいね』


 それだけでも何となく嬉しかった。


『茉白の写真、やっぱ好き』


 指が止まる。

 画面を見つめる。


 自分の写真。

 ただ、何となく撮っているだけのもの。

 誰かに見せるためでもなかった。


 凪は前にも褒めた。

 そして今日も好きだと言う。


 なら自分も、言っていいのかもしれない。


 茉白はゆっくり文字を打つ。


『ウチもちょっと好きかも』


 写真のこと。


 そのつもりだった。


『え』


 一文字。焦った犬のスタンプ。茉白は眉を寄せる。


『何』


『俺?』


「……」


 無言で机へ突っ伏す。

 額を打ちつけて、ゴン、と小さな音がした。


『写真』


単語で返す。一文字より勝ってる。


『ああなるほど。残念』


『死ね』


『でもいつか俺って言わせる』


『無理』


『頑張る』


 その文字を見て、茉白は小さく笑った。


 今日、凪は勉強している。

 また頑張ると言っている。

 怖くなくなったわけではない。

 未来が約束されたわけでもない。


 それでも自分が選んだ方向へ進もうとしている。


 そんな凪を見たことで、茉白もほんの少しだけ自分の未来へ顔を向け始めていた。


 まだ、夢なんて呼べない。

 答えでもない。

 将来やりたい仕事を聞かれたら、きっと今でも「知らん」と答える。


 でもらそれでいい。

 今まで『何もない』と思っていた場所にひとつだけ、小さなものが生まれている。


 好きかも。


 まだそれだけ。

 でも何もなかった昨日より、ほんの少しだけ明日の方へ、茉白は進んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。