2.出会いの余熱
「はあ…。本当に入学式になっちゃったよ…。」
ルミナは深い溜め息を吐きながら、最低限の荷物と少しばかりの金貨が入った大きなトランクケースを持ち上げた。
リーベの説得から数ヶ月たった9月1日。それはルミナが孤児院を旅立つ日であり、そして生まれ育ったこのケージ島から初めて外に出る日であった。
トランクを抱えながら一階の食堂へ降りる。リーベと孤児院の仲間たちがルミナを今か今かと待っていた。
「ルミナお兄ちゃん、本当にでてっちゃうの?アンリ泣いちゃいそうだよ…。」
「オレは別に悲しくないけどさ、うるさくするやつがいなくなって静かすぎるのもなんかさ。」
三つ編みおさげの穏やかなアンリと仏頂面でガキ大将のトミリ。ルミナが特に可愛がっていた2人が今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。
「お別れは悲しい顔しないんでしょ!ルミナはこれからすごい学園に行くの。喜ばしいことなのよ。」
リーベが2人を優しく諭す。そしてまたあの日のように、ルミナの頬に優しく触れた。
「本当に、本当に…。ここまで無事に育ってくれて良かった。」
まるで本物の母のように優しい瞳でルミナを見つめる。とても愛おしそうな顔。しかし触れた手は、驚くほど冷たかった。
「…リーベさん、今まで本当にありがとう。アンリとトミリ、それから他のみんなも。まだ怖いけど…、少しだけ、自分の力を信じてみることにするよ。」
ルミナは別れの挨拶を告げて、光り輝く入学許可証が入っていた封筒を開ける。そこには小さな魔法陣の書かれた紙がもう一枚入っていた。学園の魔法陣と繋がる転移魔法の一つだろう。
「万物の調和、古の因果を紡ぐ場所。己の魔法を汝に示さん。7賢者の加護の元に…。」
ルミナが入学許可証に記された呪文を唱えると、辺り一面が光で包まれる。まるで自分も光になってしまったような不思議な感覚に包まれた。
徐々に光の霧が晴れると、そこには漆黒のローブに身を纏った大勢の人々の姿があった。おそらくルミナと同じ新入生たちだ。ローブには7つの円環をモチーフにした紋章が、暗く輝く黄金の糸で刺繍されている。
「ここはどこ…、ってわぁ!!」
転移の際に体を包んだ光が姿を変えたようだ。気づかぬうちにルミナも丈の長いローブを身につけていたようで、思わず裾を踏んでしまった。
「っと…!大丈夫か?」
近くにいた生徒がルミナを受け止める。ルミナより少し背の高い彼の、フードから覗いた深い緑の瞳がルミナをとらえた。
「ごめん、助かった。小さい島から来たからさ。こういう魔法使いっぽい格好するの初めてで慣れてないんだ。…あ、オレはルミナって言います。キミの名前は?」
「ルミナ。素敵な名前だな。僕の名前はアレク・エールデだ。僕もずいぶん辺鄙なところから来たからな。由緒正しいハルモニア学園で、気のあいそうな奴がいて良かったよ。」
涼しげな目元を細めて控えめにアレクは笑う。サラサラとした黒髪がフードの中で風に揺れていた。ふわりとした金髪で人懐っこいルミナとは外見も内面も正反対な彼。しかし、ルミナはアレクとは上手くやっていけるように思えた。
「アレク、よろしくね。ところでなんだけどさ…、ハルモニア学園ってどこにあるの?見渡す限り新入生の姿しか見えないけど。」
ルミナが飛ばされたのは魔法陣の描かれた大きな祭壇のような場所だった。ルミナの育ったケージ島にはないほど広いこの場所には、これから入学するであろう新品のローブに身を包んだ新入生の姿しか見えない。
「えっ…?あはは。ルミナ、お前そんなことも知らないでよく入学を決めたな。ハルモニア学園は、世界一の魔法学園であり、そして…。」
アレクの指が上へと上げられる。彼の指先は大空を指して、止まった。
そしてそこには、巨大な水晶を下部に抱えた城のような建築物が浮いていた。
「ハルモニア学園は、『空を飛び回る学園』でもある。」




