3 運命の引火
「これが、ハルモニア学園…。」
ルミナは言葉を失っていた。
膨大な魔力が込められているであろう水晶の上に円形の島が浮いている。学園というより、1つの都市ほどの大きさだった。中心にある空まで突き抜けるほど高い塔から放射線状に建物が広がっている。そしてその島全体を7つの美しい塔が囲んでいた。
学園はどんどんこちらに近づいてきて、ついにルミナたちの頭上に水晶がやってきた。
そして、新入生たちのローブの海に水晶から光線が降ってくる。
「え、アレクこれ大丈夫なやつ!?」
「これがハルモニア流の移動手段って聞いた。多分これから入学式だな。」
新入生たちが水晶から溢れ出す光に包まれる。ルミナとアレクは、入学許可証の魔法陣と同じように自身が光の粒になったようなあの感覚になった。
恐る恐るルミナがぎゅっと瞑っていた目を開けると、そこは神聖で厳かな広間が広がっていた。一面のガラスからは空が見え、天井は驚くほど高い。おそらく中心にある塔の最上階だろう。
新入生たちは荘厳な雰囲気に呑まれてしまったのか、みなヒソヒソと声を潜めている。
「すご…!本当に空に来たんだ…っとわっ!」
思わず窓の外を眺めていると、ルミナはローブ姿の小柄な人物にぶつかってしまった。
「ちょっとアンタ、入学式前からずっと騒がしいのよ!レディにぶつかるとか何考えてるのかしら。」
その人物がローブのフードを脱ぐと、くるりと巻かれたピンク色のツインテールがふわりと溢れてきた。
「アタシはあの世界屈指のポーション商会、ベルフルールの跡取り娘であるルル様なのよ!?指でも折らせたらどうするつもり!?」
まつ毛の上がったアーモンド型の紅い瞳がルミナを睨みつける。
「ごめん!ちょっとよそ見してた。」
申し訳なさそうに眉毛をハの字に曲げ、吊り目を柔らかくするルミナ。孤児院という特殊な環境で育ったせいか人当たりの良さには自信があったが、流石にここまで強気な女の子を相手にしたことはない。ベルフルール商会というのもほんの少し耳にしたことがある程度だったが、口にはできなかった。
「まあまあルル、落ち着いて!せっかくイケメン2人も見つけられたんだもん、今のうちに仲良くなっとかないと損だって!」
ルミナが困っていると、別の少女が割り込んできてルルの腕を掴んだ。肩の上でぱつっと切られた深い青色のボブを揺らしながら、ぱっちりとした目でルミナとアレクを交互に見る。
「あ、わたしはメーア・フェアリープテ。メーアって呼んでね♡このいかにもお嬢様な女の子はルル・アントス。あのすっごいポーション商会のベルフルールのご令嬢様だから、気が強いんだよねぇ。でも良い子だから仲良くしてあげて!」
「余計なお世話よ、メーア。だいたいアタシたちだってさっき祭壇で会ったばっかりじゃない。」
ツンとすましたルルをよそに、茶目っ気たっぷりにぐいぐいと挨拶するメーア。ルミナとアレクは逆に少し気後れしてしまった。
「ていうか、2人の名前は?遠くからかっこいい人たちいるなぁと思って見てたんだよね。」
「あ、オレはルミナ。孤児だからファミリーネームは無いんだよね。さっきはぶつかっちゃってごめん!生まれ育った島から今日初めて出たから、少し浮かれてた。」
「俺の名前はアレク・エールデ。俺も随分人里離れた村からきたんだ。ハルモニア学園のこととか、色々教えてもらえると助かる。」
ルミナもアレクも少し世間と距離のある場所で育ってきていた。2人ともそういう意味では、どことなく余裕がありそうなルルとメーアとの接点は大切だと考えていた。
「なんだ、世間知らずコンビってことね。まあせいぜいハルモニアで上手くやっていけるといいわね。」
「今のは多分、『遠いところからきたなんて大変だね、学園生活一緒に頑張ろうね♡』って意味だよ。」
「うるさいわよメーア!全然ちがうわ!」
気が合うのか合わないのか、ルルとメーアは厳かな雰囲気の広間で言い合いのような馴れ合いを始めてしまった。
すると、4人の頭上すれすれに何かがびゅんと通った。急なことで驚いたのか、ルルとメーアは目を丸くしてぴたっと静かになった。上から4人に向かって美しくも冷たい、弦楽器の低音を奏でるような声が響く。
「そこの4人、神聖なる入学式がまもなく始まります。何を騒いでいるのですか。」
どうやら上から魔法を撃たれたらしい。声のする方を見ると、深くローブを被った肌の白い男が塔の上部に突き出たテラスに立っていた。




