火の章 1 始まりの灯火
火の魔法使いなのに、攻撃魔法は一切使えない!!
それでも並外れた回復魔法の力を活かし、世界一の魔法学園で活躍していくルミナ。青春の葛藤、世界の謎、自身の使命…。様々なものを抱えながら、孤児院から広い世界の冒険へと足を踏み出す。
「だから、ハルモニア魔法学園には行きたくないんだ!」
ルミナは古びた机を大きく揺らして立ち上がる。机の上のナイフが、カチャリと音を立てた。
ルミナの視線の先には、光の粒の塊のような不思議な封筒が一つ置かれていた。それは、ルミナの悩みの種であるハルモニア魔法学園への入学許可証である。
「あなたの力は世界に役立てるべきなの。あなたはこの世界一の学園に行って、魔法を学ばないといけない。それがあなたの使命だと思うわ。」
ルミナの育ての親、もといこの孤児院の管理人であるリーベは、紫色の長い髪から覗く、夜空のような色の片目に強い意思を光らせていた。
年齢不詳の美しくも穏やかな普段の姿とは打って変わった様子のリーベ。それでもルミナは身を乗り出し、平和主義の彼らしからぬ反論を続ける。
「オレ、攻撃魔法が一切使えないんだよ?すぐに魔物に殺されるような弱いヤツ、世界一の学園に入ったらやっていけないよ。」
ルミナは俯き自嘲ぎみに笑った。彼の金色の髪が顔にかかり、端正なその顔に影を落とす。
リーベはルミナの髪を優しく持ち上げ、彼の耳にかけた。ルミナの存在を確かめるように、優しく執拗に頬を触りながら。
「でも、そんなすごい学園から入学許可証が届いた。これはあなたに、並外れた能力があるからなの。あなたは攻撃魔法が一切使えないわ。それでも…」
そう言ってリーベはルミナの顔から名残惜しそうに手を離し、そのまま机の上のナイフを滑らかに握る。
そして、まるでおもちゃで遊ぶ子供のように、楽しそうに、机の上のナイフで自身の腹を突き刺した。
「っは…!?何してるの!?」
ルミナは慌ててリーベの手からナイフを抜き取る。燃え盛る炎のように鮮やかな血が彼女の腹から流れて止まらない。
ルミナは慌てて彼女の体を両手で抱きしめた。すると暖かな、心地の良い優しい熱がリーベの中に流れていった。
「暖かい…。ルミナの魔法が私の体を流れているのがわかる。」
「リーベさん、本当に何をしてるの!?そんなこと言ってる場合じゃないよ!」
優しく笑うリーベをよそに、吊り目の瞳を一層険しくするルミナ。リーベを強く抱きしめて、彼女の体へ精一杯の魔法を流す。優しく暖かい、陽だまりのような魔法を。
少しして、ルミナは彼女を強く抱きしめていた手を優しく解いた。すると破れた服の中から覗くリーベの腹は、傷ひとつない、滑らかな陶器のような肌に戻っていたのだ。
「こんなことできる魔法使い、世界に両手で数えられる程度しかいないもの。」
リーベは自身の腹を優しく撫でながらぽつりと呟く。
「魔法は万物の力。火はものを燃やし、水は世界を覆い、草は繁茂し何かを隠す。魔法を使って何かを破壊することは、癒すことよりよっぽど容易いわ。
こんな大きなキズをなかったことにできる魔法使いが、名門魔法学園にふさわしくないなんて、ありえない。あなたは並外れた回復魔法の才能があるのよ。」
機械的なリーベの声色。ルミナは耳の裏まで冷えるような感覚がした。
(リーベさんは何でこんなことをしてまで、オレに学園に行って欲しいんだろう。)
育ての親としての使命感か、それとも何か別の理由か。肉親ほど甘えられずとも、いつも慕っていた管理人の豹変っぷりに、ルミナは何も言えなかった。
「ルミナ。あなたの才能を私は誰よりも知ってるの。それでもその実力を認めないって言うなら…、次は腕を切り落とせばいいかしら?」
「わかったから!もう学園に通うから!いつものリーベさんに戻ってよ!」
ルミナの入学は、こうして脅しともいえる形で決まったのだった。
壮大なファンタジー学園物語を書こうと思い執筆致しました。人それぞれの本当に大切なものにフォーカスした青春人間ドラマと、緻密なファンタジー世界、豊かなキャラクターを楽しんで頂けたら幸いです。
定期的に更新するので、どうぞお楽しみください。




